第25話 夏休み特別活動② 創作料理対決
朝の山の空気は、都会よりひんやりしていて澄んでいる。
けれど炊事場の前には、やる気とわくわくが入り混じった空気が満ちていた。
「今日はチームごとに――“創作料理対決”だ」
顧問の一言に、部員たちの目が一斉に輝く。
「条件は簡単。昨日の残り食材と、これから配る追加素材だけを使うこと。調理法は自由だ」
テーブルにはカゴに詰められた色とりどりの野菜、卵、ちょっと変わった調味料まで揃っている。
杏子がすかさず手を挙げる。
「優勝チームには…ご褒美とか、あります?」
期待に満ちた目。周囲もつられてざわつく。
顧問はニヤリと笑い、背後のクーラーボックスを指差した。
「デザートのスイカを――独り占めできる、とか?」
「スイカ!?」杏子の目がさらに丸くなる。
実花は腕を組み、真剣な顔で頷いた。
「…地味だけど、本気出す」
朝日を背に、それぞれの“勝負の火”が静かに灯った。
朝の山の空気は、都会よりひんやりしていて澄んでいる。
けれど炊事場の前には、やる気とわくわくが入り混じった空気が満ちていた。
「今日はチームごとに――“創作料理対決”だ」
顧問の一言に、部員たちの目が一斉に輝く。
「条件は簡単。昨日の残り食材と、これから配る追加素材だけを使うこと。調理法は自由だ」
テーブルにはカゴに詰められた色とりどりの野菜、卵、ちょっと変わった調味料まで揃っている。
杏子がすかさず手を挙げる。
「優勝チームには…ご褒美とか、あります?」
期待に満ちた目。周囲もつられてざわつく。
顧問はニヤリと笑い、背後のクーラーボックスを指差した。
「デザートのスイカを――独り占めできる、とか?」
「スイカ!?」杏子の目がさらに丸くなる。
実花は腕を組み、真剣な顔で頷いた。
「…地味だけど、本気出す」
朝日を背に、それぞれの“勝負の火”が静かに灯った。
顧問が持ってきたくじ引き箱を、部員たちが順番に引いていく。
小さな紙片には、AかBの文字。
「よし、Aだ!」杏子が勢いよく掲げたくじを見て、翔子が隣でため息。
「よりによって…見た目全振りになる予感しかしない」
「大丈夫大丈夫、映えは正義だよ!」と胸を張る杏子。
一方、実花は自分のくじを確認し、静かに頷いた。
「Bだね」
「となると…俺と組むことになるな」佐伯先輩が軽く笑う。
「うん。味とバランスで勝ちに行こう」実花の声は落ち着いているが、目は本気だ。
顧問は二組を見比べ、手帳を閉じる。
「俺は審査員として待機する。採点は“見た目”“味”“独創性”の三本立てだ」
翔子はちらっと杏子を見やり、「見た目は任せた」と半ば諦めたように笑った。
杏子はにっこり返し、「任せとけ、インパクト重視で!」と宣言。
こうして、Aチーム“映え重視”VS Bチーム“味の完成度派”の勝負が、静かに幕を開けた。
木陰のベンチで、両チームはそれぞれ頭を突き合わせ、作戦会議を始めた。
Aチーム――杏子はメモ帳をぱたぱたと開きながら、勢いよく提案する。
「夏といえばカラフル! カラフルといえば野菜! つまり…夏野菜ロール寿司!」
「……巻物って、映えるのはわかるけど、屋外で巻くのは結構難しいぞ」翔子は現実的に眉をひそめる。
「だからこそ挑戦だよ! 映え写真が勝利を呼び込む!」
「勝負が写真コンテストじゃないのは覚えてるな?」と釘を刺しながらも、翔子は心のどこかで面白そうだと思っていた。
一方Bチーム――実花はスパイス瓶を手に取り、涼しい顔で言う。
「昨日のカレー粉、まだ残ってるよね。それを使って…スパイス風味焼きそばはどう?」
「なるほど。野外の鉄板なら、香ばしさも出しやすい」佐伯先輩は口元を緩める。
「麺を炒めるときに、香りがふわっと立つようにしたいな」
「任せろ。火加減は俺が見る」
こうして、Aチームは映え全振りのロール寿司、Bチームは香り攻めのスパイス焼きそば――方針は真逆だが、どちらも譲らぬ勝負が動き出した。
Aチームの調理テーブルには、真っ白なまな板とカラフルな夏野菜がずらりと並んでいた。
翔子は炊き立てのご飯を木桶に移し、すかさず寿司酢を混ぜる。手元には氷を入れたボウル――夏の暑さで酢飯がぬるくならないよう、冷気でしっかり温度管理だ。
その隣では杏子がピーラーと格闘中。
「ほら見て! ズッキーニのリボンカット、かわいくない!?」
確かに見た目は鮮やかだが、厚さも長さもバラバラだ。
翔子は野菜の山をちらりと見て、ため息まじりに一言。
「これは……巻きにくい」
「大丈夫、勢いでカバーするから!」杏子は胸を張るが――
いざ巻き始めると、予想通りの展開に。
「……あっ」
ロールの端から、パプリカとキュウリがぽろぽろと脱走。海苔の上で野菜が小さな雪崩を起こす。
「勢いでどうにかなる問題じゃないな…」翔子は具を押し戻しながら、心の中で苦笑するのだった。
Bチームの調理エリアからは、じゅわっと油が弾ける音と香ばしい香りが立ちのぼっていた。
佐伯先輩は大きな鉄板の前で、トングを巧みに操りながら麺をほぐしていく。鉄板の熱で麺が軽く焦げ目を帯び、食欲をそそる色に変わっていった。
「この香ばしさが野外鉄板の醍醐味だな」
低く落ち着いた声に、隣で野菜を切っていた実花が小さく頷く。
「じゃあ、そろそろスパイス投入しますね」
実花はカレー粉にクミン、そして香り付けに唐辛子を少し――その瞬間、キャンプ場を抜ける風がふわりと吹き抜けた。
「……っ! 目がっ……!」
目頭を押さえて悶絶する実花。唐辛子の刺激成分が見事に風下へと舞ってきたのだ。
鉄板の上で麺を返しながら、佐伯先輩は苦笑い。
「だから風下に立つなって、さっき言ったろ」
「言われる前にもう目がしみてたんですっ!」
そんなやり取りをしつつも、鉄板の上ではスパイス香る焼きそばが順調に仕上がっていくのだった。
炊事場前に二つの皿が並んだ。
片方はチームAの「夏野菜ロール寿司」。赤、黄、緑と色鮮やかな野菜が巻き込まれ、まるで雑誌のグルメ特集から抜け出したような華やかさ。
もう片方はチームBの「スパイス風味焼きそば」。鉄板で焼かれた香ばしい麺から、スパイスと野菜の香りが湯気とともに漂ってくる。
顧問はまずロール寿司に箸を伸ばし、一口。
「うん、見た目通り爽やかでいいな。ただ…ちょっとご飯が多めかな」
続いて焼きそばを口に運ぶ。噛んだ瞬間、香ばしい麺と複雑なスパイスの香りが広がり、顧問の目が細くなる。
「香りがいい。味も安定してるな。具と麺のバランスも良い」
しばし唸ったあと、顧問は結論を告げた。
「どちらも良いが……総合力でBチームの勝利だ」
「やった!」と実花と佐伯先輩が軽くハイタッチ。
対して杏子は両手を腰に当てて、ため息混じりに言う。
「映えだけじゃダメかー……」
「まあ、経験ってやつだな」
翔子の一言に、杏子は「次は味も映えも両方勝つ!」と拳を握るのだった。
Bチームの前に、ご褒美の大玉スイカがどん、と置かれた。
実花が包丁を構えた瞬間、杏子が勢いよく手を挙げる。
「待った! ハーフ&ハーフにしよ!」
「またそれか…」と翔子が額に手を当てる。
佐伯先輩が苦笑しながら顧問を見ると、顧問は肩をすくめて言った。
「まあ、みんなで食べたほうが美味いだろ」
包丁が入り、真っ赤な果肉が顔を見せる。冷えたスイカの甘い香りが漂い、全員が自然と笑顔になった。
輪になってスイカをかじりながら、川のせせらぎと虫の声が静かに耳に届く。
杏子がぽつりと呟いた。
「なんか、夏の終わりって感じだね」
誰も反論せず、ただ口の中の甘さを噛みしめる。
夜風が頬を撫で、遠くで花火が上がった。
【創作料理対決・レシピ掛け合い】
翔子「巻き寿司は酢飯の温度管理が命。氷で冷やしながら…」
杏子「はいはい、じゃあ氷ご飯にすれば一瞬で冷えるじゃん!」
翔子「それただの冷ご飯!寿司じゃなくて“氷飯”になるわ」
杏子「夏限定メニューでワンチャンあるかもよ?」
翔子「いや、顎に負担かける新感覚いらない」
実花「焼きそばは最初に麺をカリッと焼いて水分飛ばすのがコツ」
佐伯先輩「野菜は後入れでシャキッと感を残す」
杏子「じゃあ野菜先に入れてしんなりさせたら?」
実花「それ普通の焼きそば」
佐伯先輩「今日のは“創作”だぞ、普通じゃ負ける」
杏子「じゃあ、シャキッとさせた後、さらにしんなりさせる二段構え!」
翔子「意味不明な二段落ち作るな」
翔子「あと巻き寿司は具の大きさを揃えるのが大事」
杏子「えー、見た目カラフルなら多少バラバラでもいいじゃん」
佐伯先輩「それ、食べる時に崩れて“手巻き寿司(事故)”になる」
杏子「そんな事故あっていいの!?」
実花「ない方がいいから揃えてって言ってるの」
翔子「映えも大事だけど、まずは形を保ってほしい」
杏子「……わかった。じゃあ形も映えも味も全部欲しい!」
全員「欲張りすぎ!」




