第22話 部活外イベント
放課後…ではなく、今日は真昼の部室。
夏休み中なのに全員集合というだけで、空気がちょっと特別だ。
扇風機がカラカラ回る中、佐伯先輩が一枚の書類をテーブルに置いた。
「商店街組合から、夏祭り屋台の依頼が来た」
その一言で、部室の空気がピシッと変わる。
いや、正確には一人だけテンションが爆上がりしていた。
「屋台!? しかも夏祭り!? 浴衣で接客OKですか!」
杏子が身を乗り出し、机に手をつく。目はもうキラキラ、というかギラギラしている。
「服より先に熱中症対策だろ」
翔子が呆れ半分で返すと、杏子は「わかってますって!」と笑う。
「でもさ、部活で外部イベントって新鮮だね」
実花が感心したように書類を覗き込む。
そこには『簡単&回転率重視』という条件がはっきり書かれていた。
冷房はない。太陽は全力。条件はハード。
それでも、なんだかワクワクしてしまうのは――きっと夏の魔力だ。
放課後の部室。窓の外からは、蝉の声と夏の湿った空気が入り込んでくる。
テーブルの上には候補メニューの試作品がずらりと並び、部員たちはうちわ片手に試食会の真っ最中だった。
「うーん、やっぱり夏祭りって言ったら冷たいの欲しくなるよね」
瑠衣がストローをくわえながら、フローズンフルーツジュースをぐびり。
「でも塩レモンおにぎりも捨てがたいよ? 夏バテ対策ばっちりだし」
颯真は片手でおにぎりを持ち、もう片手でメモを取っている。見た目は真面目だが、もう二個目に突入していた。
「問題は、屋外でどれだけスムーズに出せるかね」
翔子は冷静に、調理時間と材料リストを見比べる。
杏子はというと、すでにスマホでカメラアングルを確認しながら――
「ミニクレープ、これ光の角度でめっちゃ映える! 映え写真で集客だ!」
「はいはい、衛生面もしっかりね」
実花が冷ややかにツッコミを入れる。手にはアルコールスプレーとビニール手袋。彼女の目は衛生管理担当そのものだ。
最終的に、全員一致で決まったのは――
「ミニクレープ+ドリンクセット」。
甘さと冷たさ、そして見た目の華やかさで勝負することになった。
「よし、これで夏祭りはバッチリ!」
瑠衣が拳を突き上げると、部室の空気は一気にお祭りモードへと切り替わった
放課後の部室は、いつもより騒がしく熱気に包まれていた。
机の上には大きなボウルや計量カップ、生地用の粉袋が並び、みんながそれぞれの持ち場で作業中だ。
「明日は本番だから、今夜のうちに生地は仕込んでおくぞ」
佐伯先輩が淡々と指示を飛ばす。
翔子は真剣な表情でメモを確認しながら、冷凍庫の前へ向かった。
「……氷、もうひと回り多めに手配する。炎天下でドリンクやるなら、ここが命だ」
その口調はまるで戦場の司令官だ。
一方、杏子は色とりどりのマーカーと画用紙を広げ、夢中でPOPを描いていた。
「ふふふ……『ミニクレープは可愛いは正義!』っと……あっ、ハートマークも追加!」
完全にテンションはお祭りモードである。
「杏子、可愛いのも大事だけど、値段も入れないとお客さん困るぞ」
佐伯先輩が現実的なツッコミを入れると、
「はっ! 現実……!」と杏子は一瞬固まり、それでもハートマークは削らなかった。
準備の音と笑い声が交じる中、夏祭り前夜のワクワク感が、部室いっぱいに満ちていた。
夕方の部室は、粉と甘い香りに満ちていた。
大きなボウルで生地を混ぜる音、包丁が具材を刻む軽快なリズム、そして梱包資材がガサガサと擦れる音が同時に響く。
「明日、炎天下だし氷の確保が命だからな」
翔子はスマホで配送業者に連絡を取りながら、クーラーボックスを二台追加手配している。
その真剣さは、まるで冷却作戦の司令官だ。
一方で、杏子は机いっぱいに画用紙とカラーペンを広げ、POP作りに没頭中。
「ふふふ……“ミニクレープは可愛いは正義!”……よし、これで客足倍増!」
キラキラシールまで貼る徹底ぶりだ。
「杏子、気持ちはわかるが、値段も書かないと通行人が困るぞ」
佐伯先輩が現実的な声をかけると、杏子はハッとしつつも、
「……じゃあ、値段もハートで囲もう!」と、方向性は一切ブレなかった。
生地の甘い香りと笑い声が、夏祭り前夜の空気をさらに熱くしていった。
商店街の通りに提灯の赤い光が揺れ、真夏の夕暮れがじわじわと夜に変わっていく。
簡易テントの下、杏子と実花は浴衣姿で並び、にこやかに「いらっしゃいませ〜!」と声を張り上げた。
その奥では、翔子と佐伯先輩が慣れた手つきでクレープを焼き、ドリンクを注いでいる。
まだ開店直後ということもあり、お客はちらほら。氷の入ったドリンクが涼しげな音を立てても、通り過ぎる人は「後で寄ろうかな」といった表情だ。
しかし——。
「アップ完了!」
杏子がスマホで撮ったミニクレープの写真をSNSに投稿すると、じわじわと変化が起こる。
浴衣姿の店員とカラフルなクレープの写真がタイムラインで拡散され、数分後には若い子たちが「あ、ここだ!」と笑顔で足を運びはじめた。
「ほら、映え効果発動!」
杏子が得意げにウインクすると、翔子は生地を返しながら短く返す。
「……手が止まらない…!」
熱気と甘い香り、そして人の列が、夏の夜を一気に賑やかにしていった。
屋台前の行列が最高潮に達し、注文の声が四方八方から飛んでくる。
「ミニクレープ二つ!」「ドリンクはレモンで!」
そんな中、翔子がドリンク用のクーラーボックスを開けた瞬間、表情がぴしっと固まった。
「……氷、ほぼ液体だ」
氷が溶けかけ、ドリンクの温度がじわじわ上がっている。
翔子は即座に判断し、ヘラを杏子に押しつけた。
「私、氷補給班に行く! これ、任せた」
「お、おう! 任せろ!」
勢いだけは一人前の杏子、調理ゾーンに飛び込む。
しかし、いざ鉄板の前に立つと——
「……あれ? こんがり……いや、真っ黒!?」
香ばしさを通り越した焦げの匂いが立ちのぼる。
「杏子、裏返すタイミングはこれ!」
実花が手を伸ばし、絶妙な瞬間でヘラを入れてくれる。
「おお〜、黄金色! やっぱ実花、神!」
「褒めてる場合じゃないから!」
そんなドタバタの中でも、屋台の列は途切れることなく続いていた。
夕暮れの商店街、紙提灯の灯りがぽつぽつと点り始めるころ。
最後のミニクレープを手渡した瞬間、佐伯先輩が「完売!」と宣言した。
「やったー! 売り切れ御礼〜!」
杏子が両手を上げてはしゃぎ、実花もほっと息をつく。
翔子は火を落としながら「……もう腕が限界」とぼやきつつも、口元は笑っていた。
片付けを終えて、四人は屋台の裏で簡易机を囲む。
佐伯先輩が計算機を叩き、数字を見せると——
「えっ、こんなに!?」
予想以上の売上に、全員の目が一気に輝く。
「文化祭の資金、これで少し余裕ができたな」
佐伯先輩が満足そうに頷くと、杏子が勢いよく前のめりに。
「次はもっと衣装映えさせたい! 浴衣にエプロンとか絶対可愛い!」
翔子は冷ややかに、しかし笑いを堪えながら言い返す。
「まずは中身のクオリティだ。見た目はその次」
夕風が汗を冷ます中、笑い声と反省が入り混じる夏の夜だった。
屋台のテントを畳み終え、荷物をまとめていると、杏子がぱっと顔を上げた。
「ねぇねぇ、まだ具材ちょっと残ってるよね? 打ち上げクレープ作ろう!」
その一言で、疲れた空気が一気に甘い香りに変わる。
即席でホットプレートを再稼働。
生地を広げると、バターの香りが夜風に混じり、屋台の裏で小さなパーティーが始まった。
一口かじった瞬間、遠くで「ドーン!」と花火の音。
夜空に大輪が咲き、照らされた皆の顔が一斉にほころぶ。
「……夏っていいな」
誰からともなく漏れた言葉に、全員が静かに頷いた。
甘さと涼しさ、そして火薬の匂いが混じる夏祭りの夜だった。
【22話 レシピ掛け合い】
杏子「ミニクレープは可愛いは正義!」
翔子「そのPOP、かわいさで売る気しかないな」
佐伯先輩「売り上げ計算も正義だぞ」
実花「衛生管理もね。夏場は特に」
杏子「映え写真で集客成功!」
翔子「その分こっちは手が止まらないんだが」
佐伯先輩「回転率こそ屋台の命」
実花「氷が溶けそう! 翔子、急いで!」
杏子「焦げた…」
実花「だからタイミングはこれって言ったでしょ」
翔子「ほら、こうやってひっくり返す」
佐伯先輩「文化祭本番までに練習増やすぞ」
杏子「打ち上げクレープ、夏の夜空に乾杯!」
翔子「飲み物は? ぬるいけど」
実花「花火見ながら食べるの、悪くないね」
佐伯先輩「……夏っていいな」




