第13話 お菓子班体験「マドレーヌ」
放課後の調理室は、まだ昼間の温もりを残していた。
扉を開けた瞬間、ふわっと漂う甘い香り――いや、まだ焼いていないのに、この空気はお菓子班特有のものかもしれない。
「春のお茶会用に、マドレーヌを作るんだけど……一緒にやらない?」
エプロン姿の美香先輩が、柔らかく微笑む。その声も雰囲気も、まるで焼き菓子みたいにほんわかしている。
「マドレーヌって、あの貝殻の形のアレですよね?」
実花が目を輝かせると、美香先輩は嬉しそうにうなずいた。
「焼きたては外カリ、中ふわで最高なんだよ〜」
杏子はもう想像だけで幸せそうな顔をしている。たぶん、脳内にはすでにバターの香りと紅茶の湯気が立ち上っているに違いない。
「甘い香りの部室……悪くない」
翔子は小さく呟きながら、調理台の上の材料に目をやった。
小麦粉、砂糖、バター、卵――シンプルだからこそ、作り方ひとつで味も形も変わる。そういう勝負、嫌いじゃない。
この瞬間、今日の放課後はほんのり甘くなることが確定した。
シーン2:材料計量&下準備
バターを湯せんで溶かす工程。
美香先輩「焦がさないように、ほんのり黄金色で止めるのがポイント」
実花は正確に計量して褒められる。
杏子は粉ふるい係だが、ふわっと粉を舞わせて翔子に「雪じゃない」と突っ込まれる。
翔子は卵を溶きながら「砂糖を一気に入れると混ざりにくいぞ」とアドバイス。
ラノベ化
ChatGPT:
湯せんにかけられたボウルの中で、バターがゆっくりと溶けていく。
ほのかな甘い香りが、じわじわと空間を満たし始めていた。
「焦がさないように、ほんのり黄金色で止めるのがポイントよ」
美香先輩が、湯気越しに優しく微笑む。
湯せんの湯の揺れと、溶けていくバターの艶――見ているだけで、なんだか落ち着く。
「えっと、小麦粉は……きっかり100グラム」
実花は真剣な顔で計量器とにらめっこ。ピタリと数字を合わせた瞬間、美香先輩に「すごく正確ね」と褒められ、少し頬を赤らめた。
その横で、杏子が粉ふるいをシャカシャカ――ふわっ。
粉が舞い上がって、陽の光を受けてきらきらと散る。
「おい、これは雪じゃないぞ」
翔子が眉をひそめると、杏子は「演出だよ、演出!」と全く悪びれない。
翔子はそんな杏子を横目に、卵を溶きほぐす。
「砂糖を一気に入れると混ざりにくいぞ」
静かな口調でアドバイスを送ると、美香先輩が「頼もしいわね」と微笑んだ。
こうして下準備は、少しの笑いと甘い香りに包まれながら進んでいくのだった。
卵液の入ったボウルに、小麦粉をふわりと落とす。
泡立て器でゆっくりと混ぜていくと、粉の白が少しずつ消えていき、やわらかなクリーム色へと変わった。
そこへ、湯せんで溶かした黄金色のバターが、とろり。
「――おお、混ぜると香りが一気に変わる…!」
実花が思わず顔を近づける。甘さの奥に、バター特有のコクのある香りがふわっと広がり、空気まで美味しそうだ。
一方その横で、杏子は貝殻型に紙カップをセット中。
「……あれ?」
微妙に端が浮いてしまい、首をかしげる。
「ズレたら焼き上がりが歪むぞ」
翔子に指摘され、むっとしながらも「もう一回!」と再挑戦。二度目はきっちり収めて得意げな笑みを浮かべた。
「じゃ、入れるぞ」
翔子が生地をお玉ですくい、迷いのない動きで各型に流し込む。
その均一な量と手際に、美香先輩が「すごい、プロっぽい」と感嘆の声を上げる。
翔子はほんのり照れたように口元をゆるめつつも、「当たり前だ」と小声で返す。
調理室の中には、すでに焼き上がりを待つ甘い期待感が漂い始めていた。
オーブンの前に三人と美香先輩が並び、ガラス越しに焼き色を見守る。
ほどなくして、ふんわりと甘い香りが調理室いっぱいに広がった。バターの香ばしさと、焼きたて生地のやさしい甘さが混ざり合い、胸の奥までくすぐってくる。
「――見て、真ん中がこんもりしてきた」
美香先輩が指差す先で、貝殻型の中央がふくらみ、可愛らしい“おへそ”がぽこっと姿を現していた。
「これができたら成功のサインよ」
焼き上がったマドレーヌは、黄金色の表面がほんのり輝いている。皿に並べられた瞬間、思わず手を伸ばしたくなる可愛らしさだ。
「いただきます…」
実花がひと口かじると、外は軽やかにサクッ、中は驚くほどしっとりしていて、口いっぱいに優しい甘みが広がった。
「外はサクッ、中はしっとり…」と、思わずつぶやく。
翔子も一口食べて、「これは紅茶が欲しくなるな」と呟き、杏子はというと――
「映えるし、10個くらい食べられる!」と、もう次の一個に手を伸ばしていた。
美香先輩はそんな様子に微笑みながら、「焼きたては特別だからね」と、さらに一皿差し出した。
調理室は、甘い香りと笑い声で満たされていった。
洗い物を終えた調理室に、まだほんのりとバターと砂糖の甘い香りが残っている。
シンクの横でタオルを手にした杏子が、ふと思いついたように声を上げた。
「ねぇ、今度はチョコ味にしよう!」
目を輝かせるその様子に、実花は苦笑しながらも「それも美味しそう…」と同意する。
しかしすぐに、眉をひそめて付け足した。
「…でも、カロリー爆弾かも」
「じゃあ、その時は部活後にマラソンな」
翔子が真顔で言い放ち、二人の間に一瞬の沈黙が落ちる。
次の瞬間、三人とも同時に吹き出した。
その笑い声は、甘い香りと一緒に、夕暮れの校舎の廊下へと溶けていった。
第13話:マドレーヌ
実花:「材料は、薄力粉、ベーキングパウダー、無塩バター、卵、砂糖、レモンの皮ですね」
杏子:「あと“愛情”も忘れずに!」
翔子:「分量が書いてない愛情はレシピに混乱を招くぞ」
実花:「まずバターを湯せんで溶かします。焦がさないように、ほんのり黄金色で止めます」
杏子:「えー、もうちょっと色付けたほうが香ばしくて好きなんだけど」
翔子:「それは焦がしバター。別レシピだ」
実花:「卵を溶きほぐし、砂糖を少しずつ入れて混ぜます」
杏子:「全部入れちゃえー!」
翔子:「おい、ダマになるぞ」
実花:「粉類をふるい入れ、さっくり混ぜます」
杏子:「ふわっと舞った粉が雪みたい〜」
翔子:「雪じゃない、食材だ」
実花:「溶かしバターを加えて香りを出します」
杏子:「おお…一気にマドレーヌの匂いになる!」
翔子:「ほら、型に均等に流せ。膨らみ方が変わるぞ」
実花:「オーブンで焼いて、真ん中に“おへそ”ができたら成功」
杏子:「外サク中ふわ…やば、10個食べられる」
翔子:「その後走るなら好きにしろ」




