初めての敗戦
「[トランプル]!」
アグネスとビアンカが先陣を切ってアリッサ・グリッタ二か国連合の円陣へと突撃を開始する。
「ぐっ....あああぁ!」
ビアンカもアグネス同様にスキルを使用して円陣へ突撃する。敵の長槍に刺されようとも強引にパワーで押し切るビアンカ。
「[グランドウォール・強]」
1つ目2つ目の敵円陣に突撃し、3つ目の円陣に突撃しようとした所で、突如足元の地面が天高く隆起し、2人とその他の兵士も体制を崩してしまった。
「[フレイムストーム][サンダーストーム][アクアストーム][3連ライトレーザー]」
「散開しろ!早く!」
アグネスとビアンカがすぐに立ち上がったが、それと同時に敵の宮廷魔法使いが広範囲魔法を多く使ってくる。保護人形達が必死に[魔素障壁]を使用するが、それが持ったのも数分であり、すぐに一点集中の強力な魔法でガラスのように砕かれてしまった。
「アグネスさん!無事ですの!」
「大丈夫だ!ビア…」
「[フレイムボム・極大]」
ビアンカがアグネスの生存を確認していると、彼女達の頭上に空を覆い尽くすほど絶望的な大きさの火球が出現した。
「[魔素...]」
すぐに反応したアグネスとビアンカが[魔素障壁]を発動させようとしたが、保護人形達は先ほどの広範囲魔法を防いだ時に、出力限界を突破して全員壊れてしまったので、自分の身を守る小さな物しか出現しなかった。
「ど、どうすれば」
暴力的な数と規模の強力な魔法、どれだけ兵士が強かろうと、数が多かろうと、魔力にものを言わせた魔法一つで今までの辛い訓練は全て無駄ではなかったとアグネスが思い始めた。
「アグネス!逃げるわよ!」
頭上からゆっくり落ちてくる、空を覆うほどの巨大な火球にもビアンカは諦めず、自分の愛馬に乗ったまま地面にへたりこむアグネスを掴み上げ、全力で臨時指令室へ向かった。そんな彼女達の後ろでは、空を飛ぶ[針雨]部隊の人形達がその身を焼かれながらも必死に水魔法で火球を相殺しようとしている。地上にいる人形達も、2人を逃がそうと一騎当千の奮闘を見せているが、頭上の火球が近づくにつれ、その高温によって、彼らもその身を燃え上がらせながら、最期までの抵抗を続けていた。
「貴方だけでもッ!」
背中を焼かれながらも、ビアンカは必死に遠くへとアグネスを放り投げた。
「おっと」
気の抜けたような、しかし後方の絶望的な状況にも動じなさそうな、この2年間で聞きなれた男の声がした
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絶対絶命の最中、急いで戦場に駆け付けたクロウはビアンカに放り投げられたアグネスをふわっと抱き留めた。
「2人共大丈夫?」
「ご、ご主人...」
抱きしめられたアグネスが至近距離からクロウの顔を見て少し頬を赤らめる。ビアンカはクロウを見つけると、急いで自分の馬から降りて2人の元へ駆け寄った。
「いやぁ今回はしょうがなかったね。俺もまさか相手の宮廷級の魔法使いがここまで強いとは思ってなかった」
「ご主人、すまない....」
「大丈夫だよ、確かに人形達を失ったのは辛いかもしれないけど、次に生かそうな」
クロウは2人に優しく声をかけながら、空に浮かぶ巨大な火球に向かって黒い球を発射した。2つの球体が触れた瞬間、火球は一瞬でその黒い球体に吸収された。
「え?」
「あっ、そういえば魔法はあんまり見せてなかったね、ていうか魔法はほぼ教えてないね」
「えっ、あっ、え?」
「まあ話は後にしよう、小宵」
「はい」
「2人を連れて臨時指令室に戻ってくれ、そうだな、カリウスと反省会だな。スクリーンはそのままで良いよ、2人に少し魔法を見せよう」
「了解しました」
小宵はアグネスとビアンカ、それから彼女達の愛馬を連れて後方へ転移した。
「さてさて」
以前のトロット王国を滅ぼした紫色の服装に着替える。そうして空を飛んでゆっくりと二か国連合軍の上空へとやってきた。
「誰が魔王の手先だって?そこまで言うなら見せようじゃないか、あぁん?!」
【濃縮魔素融合炉及び極限魔素分裂炉を通常稼働モードへ移行します】
クロウの背後に二種類の惑星級魔素反応炉が出現する。一つは膨大な数の魔素を生み出す物、もう一つは微小な数の魔素を膨大な数に分裂させる物。そんな基本的であり、最も魔法使いにとって理想的な物をクロウは敵の宮廷魔法使いにも見えるように露わにした。
「あれは?魔力吸収アイテム?いや魔法か?」
「あっちは...魔力分裂?なんだあれは?」
「分からない、魔力で出来ているような?いや何かの魔法アイテムの効果か?それともスキル?」
前進を続ける相手も突如出現したクロウと、その背後に出現する巨大な惑星のような不思議な光景に足を止めてしまっている。
「[元素魔法][多重詠唱][補助魔法]」
【【魔素の支配者】の称号所持を確認。使用魔法全てAランク以上である事を確認。バトルスタイル【元素魔導士】を習得しました】
【元素魔導士】:あらゆる元素魔法を自由自在に行使できる。
早速バトルスタイルを使用してみる。すると、クロウの背後には7つの色の魔法陣が出現した。
「七属性の魔法使いの実力を見せてやろう」
足元の魔法使いが大きな声で「[トリプルフレイムランス]![クアトログランドランス]![ファイアブラスター]![ハイドロレーザー]![ダブルホーリーレーザー]!」などと言う声が聞こえてくるが、全てクロウの後方の魔法陣が光るたびに同威力の真逆の属性で全て相殺される。
「うがあああああ!」
「うわぁああああ!」
今まではあくまで一般人を装うためにわざわざ発動する魔法を口に出していたが、相手が宮廷級の魔法使いと言う事で、クロウは問答無用で無詠唱・瞬間発動で次々と大規模破壊魔法を発動した。クロウの背中の魔法陣が光るたびに、足元の戦場では半径数十メートルの炎の嵐が複数出現し、問答無用で敵兵士を巻き上げて嵐の中で焼死させるか、空高くから地面に叩き落され落下しするかの2択しかなかった。他にも地面がばっくりと左右に割れ、空を飛べない敵兵士達がそのまま再び閉じられた地面によって圧死したり、アグネスとビアンカ達に使用したものより更に巨大で吸引力のある火球を生み出し、そのまま敵兵を焼き殺したりと、はたから見たらむしろ魔王の手先と言うより魔王そのものにしか見えないような戦い方だった。
「小宵」
「はい旦那様」
「アリッサグリッタ二か国の討伐状は?」
「イリアス教会とマクベル王両方から届いております」
「よし、じゃあ2か国全て焼こう」
「イリアス教会の方から許可は出ています。恐らく明日には二か国に存在するイリアス教会も撤収を終えるかと」
「ちなみに本当に悪魔崇拝者なの?」
「ホンモノでしたね」
「そうなんだ....」
その日は一旦撤退し、死屍累々の戦場をそのままにして、クロウは翌日のための準備を始めた




