アグネス・ビアンカの初陣
【アリッサ・グリッタ陣営】
以前の南部辺境伯とトロット王国を巻き込んだ戦争の際、狂い踊る緑の火の柱を目撃したせいで多くの領民が発狂してしまい、それをクロウ伯爵のせいにして、彼ら2国で陣営を創設し、今や我々を魔王の手先だと言って討伐しようとしている。もちろんこのゲームにはきちんとした魔王が存在しており、魔法の王として世界各国でそれぞれ派閥を効かせている。幸いここマクベル王国には存在しないが、マクベル王国からずっと北西に行った大きな蛮族の住まう平原に魔王が居るんだとか。
(平原…フレデリカのいる方だよな)
今度様子を見てみるかと思いつつ、クロウは作戦室でアグネスとビアンカの作戦について改めて吟味し始めた。
【電撃的カタフラクト作戦】
要するに品種改良した重装騎兵と飛行魔法使い達を使って敵の戦線を一瞬で破壊し、そのまま敵王国領へ電撃的な速度を持って侵攻・占領するというものだ。
「ちなみに飛行魔法使い達は?」
「【殺戮人形・飛行太陽】に頼もうかと」
「オーバーキル過ぎるね、【針雨】で充分だよ」
「分かりました」
「ちなみに今回二か国同時に相手する事になるけど」
「アグネスがアリッサ、私がグリッタと戦います」
「同時開戦?」
「はい、そのつもりです」
「うんうん、問題ないと思う。それで行こう。でも大義名分は?」
「実は去年から既に裏で手を回してるんですけど、既にあの二か国には悪魔崇拝者である証拠を植え付けました」
「よし!大義名分も完璧だね、やろう!」
【アリッサ・グリッタ陣営に宣戦布告されました。開戦事由:人類の敵】
「開戦事由の規模がでかすぎるだろ....」
旧トロット王国跡地にアグネス軍とビアンカ軍が整列している。そのさらに後方、旧フェンデル領跡地にクロウとカリウスは臨時指令室を設立し、その周囲を【堡塁姉妹】と小宵に守らせながら、ゴエティアシステムで2人の具体的な作戦操作を後方から観察する事にした。
「ふむふむ、敵の編成は...」
「以前よりも更に良い装備になっていますね、複数の傭兵団に、ん?宮廷魔法使いもいますね...恐らくアリッサとグリッタの」
「あー、大丈夫かな」
「レベル100を超える敵と戦うのは今回が初めてですね」
「そうだね...一応同格くらいの強さを想定しているから、良い戦いになると良いんだけど、一辺倒だと作戦自体が崩壊するからな」
「【禁足地・魔獣の森】でのサバイバル訓練を生き延びた2人です。問題ないと思われます。実際に見てみましょう」
「いや今でも疑ってるんだけど、魔獣の森って別に【禁足地】じゃないでしょ?違うよね?カリウス?小宵?どこ見てるの?」
クロウの空しい抵抗を2人は無視しつつ、スクリーンに映し出された実際の戦場を小宵は再び指さした。実際にアグネス達も動き出したようなので、クロウもカリウスと共に彼女達の戦いを見届ける事にした。
-------------------------------------------------------------------------------------
「方円の陣....いわゆる円陣か、しかも複数」
「よくよく見ると円陣同士で道を作っているわね、しかも中から大量の槍も出ているわ」
「円形のファランクスと見た方が良いか?」
「それが良いと思う、しかも円陣同士で絶妙な距離を保っているわ、隙間に沿って馬を走らせると一瞬で左右の長槍から串刺しにされる」
遠くから携帯式望遠鏡で敵の連合軍の陣形を観察するアグネスとビアンカ。
「円陣の中にはとんでもない魔力量を持つ異世界人もいるわ、もしかしなくても宮廷魔法使いね」
「厳しい戦いになるかもしれないな」
「そうね、騎兵との闘いには慣れてるみたい」
巨大な大盾を持つ兵士を大外に配置し、前後左右隙間の無い円陣を複数編成し、じりじりと移動するトロット・アリッサ二か国連合軍。盾で守られた内部から2mを超える長槍をハリネズミのように外側に向かって構えており、円陣同士も絶妙に騎兵が1体ずつしか通れない隙間を開けている。隙間に兵士や騎兵を突撃させれば近くの円陣から伸びる長槍に左右から串刺しにされるし、正面から突撃させようにも後方から迂回しようにも円形のファランクス陣形は、全く隙の無い編成であった。
「しかも中には宮廷魔法使い級の魔法使いもいる。どうするビアンカ?」
「そうね、全軍に突撃準備をさせるわ」
「え?」
「圧倒的力をもってすれば陣形なんて関係ありませんわ」
「ありますわよ!?」
ビアンカの余りに脳筋すぎる発言になぜかアグネスもお嬢様言葉になってしまう。アグネスは少々自分達の主人の訓練が厳しすぎたのではないかと思い始めた。卒業半年くらい前だったか、【禁足地・魔獣の森】でのサバイバル訓練でビアンカが変異種と思われる【岩ゴリラ】を瀕死になりながらも打ち倒し、その肉を喰らった時からかなり思考のIQが下がっている気がする。実際のIQテストやその後のテストでも問題なし、むしろ知力や判断力は上昇しているが、なんだか全体的に問題の解決方法を筋肉とパワーで考えるようになっている。
「魔法砲撃だ![魔素障壁]を発動しろ!」
アグネスがすぐに飛んできた魔法に反応する。同時に2人が引き連れてきた保護人形達がクロウの新しく編み出した物理魔法双方から身を守る障壁魔法を発動させる。かなりの上級魔法が飛んできているようで、保護人形達全員が全力でその魔法を発動し、降りかかる嵐のような魔法を食い止めているが、魔素障壁自体もかなりぎりぎりと所で食い止めているように見える。
「思ったよりもまずいな、ビアンカ、ここは私達が先陣を切ろう」
「それが良いですわね、相手は宮廷魔法使い、お気をつけて」
「お前もな」
パワーのある返事をすると思いきや、壊れそうな魔素障壁を見て、ビアンカも真面目な雰囲気に切り替わった。
「アグネス!まいる!征くぞお前ら!」
アグネスは自分の愛馬の両脇に装着していた2つの薄刀を取り出す。
「行きますわよ!ドーブル!」
ビアンカは移動用の軍馬から降り、近くの人形が引いてきた巨大な軍馬に乗りなおした。シャイヤー種を思わせる重種の馬を更に品種改良し、体重が20t、高さが3mを超える巨大な品種だ。現在繁殖に成功したのはビアンカの乗る【ドーブル】と言われる超重馬だけで、そんな重馬にも工房特製の重厚な物理魔法の双方を防ぐ防具を着けていたり、ドーブルに乗るビアンカ本人も大盾を思わせるほどの幅広で重厚なグレートアクスを担いで突撃を開始した。




