元冒険者のアグネス
【アグネス】
短い茶髪で黒目の23歳の女性である彼女は、クロウが購入した7人の奴隷の中で一番年齢の高い人物だ。両親が早くに流行り病で死んでしまい、祖父祖母の元で育ち、冒険者として少し頑張っていたようだがそれも上手く行かず、ダンジョン攻略の際に四肢を失うほどの大怪我をしてしまって、教会所属の治癒院でなんとか一命を取り留めたものの、高価な四肢の蘇生に多額の借金をしていまい、残念ながら左腕を蘇生する前に、借金奴隷に身を落としてしまった。
「とりあえずまずは食事にしよう。えと、君の名前は?」
「私の名前はアグネスです」
「アグネス君ね、よろしく。俺はクロウだ」
「今後ともよろしくお願いします。ご主人様」
「いきなりご主人様は恥ずかしいな、クロウでいいよ」
「分かりました。クロウ様」
「小宵、とりあえず残り全員を近くにある寮に入れてやってくれ。まずは全員風呂に入れて、それから飯だ」
「1号寮で構いませんか」
「大丈夫だよ。今後俺が購入した奴隷達は全員1号寮に住まわせてくれ」
「了解しました」
小宵は残りのメンバーを連れて一足先にクロウの執務室から退出する。アグネスもその姿を見て、一瞬顔を顰めた後、なぜか自分の服に手をかけ始めた。
「お?何をして....?」
「そういう事をするんだろう?奴隷として買われた時に既に覚悟はしている。私も初めてだから、できれば優しくしてくれ」
「やめんか」
急いで奴隷魔法を使用して、動きを止める。
「しないのか?」
「しないよ、そういう目的で君達を買ったわけじゃないし」
「そうなのか、じゃあ何のために」
「......」
領民を増やすために特に考えずに買いましたとは言えない。
「そうだね、まあ私兵団編成のためかな」
「私兵団か、パーティの経験はあるが、私に大量の兵士を指揮した経験はないぞ」
「大丈夫だ、それを一から教える場所がある」
「私塾の事か?」
「随分と古い言い方だな...軍事学校だよ」
「軍事学校か」
「全員2年ほど通ってもらうけど、まあようは傭兵団の団長や私兵団の団長を育て上げたいんだよね」
「なるほど」
「そこで冒険者経験のあるアグネスにいわゆる班長を任せようかなって」
「分かった....と言いたい所だが、この腕ではな...」
「そうか左腕か」
彼女は右手で自分の左腕の袖を握りしめる。
「じゃあ義手、ならぬ義腕を着けよう、どうする?一応俺が金を出せば腕はまた生やせるけど」
「いや、残念ながら既に教会の面々からは既に絶交されていてな、できれば義腕を着けてくれると助かる」
「了解、じゃあまずは飯にしよう、飯食いながら義腕について少し考えるか」
「ありがとう、恩に着る」
「小宵」
「いかがなさいました」
「以前作った義腕どこ行ったっけ」
「こちらに」
小宵は小さなアイテムバッグを取り出した。
「そうだ全部しまったんだった。他には?」
「全てこちらにまとめおきました」
「ありがとう、助かった」
クロウは早速アグネスの目の前で小さなアイテムバッグに腕ごと入れた。
「え?え?それってもしかしてマジックバッグ?魔法のカバン」
「えっ、ああ、うん、そうだけど」
「御見逸れしました伯爵様。まさかそれほど高価なアイテムをお持ちだとは...」
「あはは、それで義腕なんだけど、とりあえず一般人と同じくらいに出力の機械腕で慣れてもらおうかな。軍事学校を卒業するころにはもっと強い物を作り上げるからね」
「わかった。よろしく頼む」
「あっ、いいんだ。了解、じゃあまずは飯にしよう。その後少し手術するから、そのつもりで」
「了解した」
そう長い手術にもならないので、軽い食事を取った後、クロウは小宵と共にアグネスを連れて屋敷の裏の工房にやってきた。
「そういえば小宵、他の面々は?」
「既に全員を個室に案内しました。とりあえず今日は全員に歯ブラシや校服などの必需品を配り、1号寮の案内は済ませてあります」
「助かる、アグネスに義腕を取りつけたら俺もすぐ行くよ」
「承知いたしました。お手伝いします」
「ありがとう。さてアグネス君、これからの手術はとても痛く、常人では耐えられないので君を寝かせるつもりなんだけど、どうする?寝たい派?それとも見てたい派?」
「良かったら見せてくれ。自分の新しい腕になるんだ、ぜひ見てみたい」
「物凄い痛いぞ?なんら感覚も気持ち悪いけど」
「構わない」
「分かった」
1号寮には食堂も浴場も併設しているので、放っておいても大丈夫だろう。早速アグネスを少し硬い簡易手術台の上に寝かせる。そうしてクロウは近くにある大型医療用アイテムボックスから特殊な軟膏の入った小さなケースを取り出した。同時に小宵から受け取ったアイテムバッグから【汎用型腕ソケット・左】と【汎用型義腕・左】を取り出すクロウ。念のため[闇魔法]と[火魔法]で殺菌消毒し、小宵に部屋全体を消毒してもらい、簡易的な手術室の環境を整えた。
「よし、じゃあやるぞ、といってもすぐ終わる。まずはこのナノマシン入り軟膏をその左腕に塗って神経露出させる。同然皮膚や筋肉を切り開く必要があるから死ぬほど痛い。はいこれタオル。噛んでおいて」
彼女はしっかりとタオルを口に含み、頷いた。
「準備できたらこのソケットを付ける。これも滅茶苦茶痛いし、神経がむき出しになる感覚に数日はなれないかもしれない。でもこのナノマシンがソケットと体の拒絶反応をできるだけ防いでくれるから、これも慣れだな。腕の方は基本的な事しかできない汎用型だけど、少なくとも物を掴む、投げる、字を書く、武器を振うくらいは問題ないから安心してな、じゃあ、始めるぞ」
早速クロウが専用の手袋を着けて、軟膏をケースから掬いだし、袖を切ってむき出しになったアグネスの腕の断面に塗りたくる。
「!!んんん!んんん----!!!」
「どうどう、小宵、抑えて」
「了解」
痛さのあまり身体が跳ね上がるアグネスの身体を魔法で抑える小宵。クロウはその間に軟膏を塗った腕をじっと見つめる。ゆっくりと軟膏が皮膚に溶けていき、ぺりぺりと皮膚が剥がれ、じんわりと皮膚の下の組織がむき出しになってくる。
「もう少しだぞ、もう少しだからな」
ソケットの設置部分を開き、ゆっくりとアグネスのむき出しの左腕に近づけていく。しばらく接着させずに、ぎりぎり腕に付着しそうな距離で待っていると、双方のナノマシンがくっつこうとして、ソケットがクロウの手からヒュンとむき出しになった左腕にくっついた。
「んんん!!んんん!!!!」
痛みのあまり、一際大きく小宵の身体が跳ね上がりそうになる。それと同時にソケットも青い光を発し始めた。
「成功した。もう少しだ。後は腕をくっつけるだけだからな」
クロウはそのまま丁寧に汎用型の義腕をそのソケットに近づけると、こちらもナノマシン同士がくっつこうと自動でヒュンと装着できた。
「よし、もう大丈夫だ」
タオルをアグネスの口から話すと、彼女は大汗をかいて口で大きく呼吸をしている。
「はは、ははは、分かるぞ、左腕が、動く。指の感覚がある。肘から先が動く。凄いな、これ、ホンモノの腕みたいだ」
「おうとも、とりあえずここで少し休憩しておいて構わない。15分もすれば完全に癒着する。そうすれば風呂にも入れるし、重い荷物も運べるし、武器も振れるようになる」
「ありがとう、ありがとう、この恩は....命を持って....」
最後まで言い切る前に、彼女はばたりと意識を失ってしまった。
「ふむ、まあちょうどいいだろう。小宵、目が覚めたら彼女も1号寮に入れてやれ」
「了解しました」
「うし、じゃあ俺は仕事に戻る。アグネスが目を覚まして準備できたら教えてくれ、午後は早速全員と手合わせする」
「旦那様が直々にですか?」
「そのつもりだ」
「承知いたしました」




