南部辺境戦争Ⅵ
「老師、全域の占領が完了、現在南部辺境伯がいると思わしき中央の大屋敷へ侵攻中です」
「抵抗する奴は全て殺せ、捕虜は認める。ある程度捕虜を確保したら全員自領へ送っておけ。新しい労働力としてこき使ってやる。辺境伯も生かす必要はない。抵抗が激しいなら容赦なく殺せ。首さえあれば十分だ」
「了解しました」
カリウスとの通信を終了し、足元に転がるプレイヤー達が全てポリゴンキューブになって教会の方へ消えていった事を確認し、クロウは再び飛び上がって前進を開始した。約20分後、最後まで抵抗した南部辺境伯の首と印璽と共に、捕虜を全てワームホールで自領に転送した。
「小宵」
「はい」
クロウ領からかなり離れた場所にいるはずなのに、声を出しただけで一瞬ですぐそばに現れた小宵。
「捕虜を送っておいた。労働力として適当に使ってくれ。使えなくなったら奴隷にしても構わない。それと南部辺境伯の首と印璽もあるから、最後まで激しく抵抗して、やむなく殺したていう文と共にクロエに持って行ってくれ」
「了解しました」
再び転移してクロウ領へ戻る小宵。残りは任せて、クロウはカリウスやモーリス、シュメリーと共に次の戦場であるトロット三か国連合についてどうするか話し始めた。
「やはり以前と同じ、ここ南部辺境伯領を主戦場にし、ひたすら攻め来る相手を殲滅していくべきかと」
「だが既にかなりの数殲滅したはずでは?これ以上相手が送ってくるか?」
「老師、私はまずは相手の三か国連合を瓦解させるべきかと、離間計などで」
「そうだね、俺はカリウスの意見に賛成かな、でもそんなめんどくさい事しなくていいよ」
「え?」
「あまり時間をかけたくないし、優しい手段だと他の国にも同じように喧嘩を吹っ掛けられる可能性があるからなぁ」
「老師、新型アイオーンですか?」
「いや、俺が派手にやろう」
「おお、流石老師、敵の中央都市を破壊する方法が」
「いんや?地図から抹消する」
「「「え?」」」
数時間後、クロウ1人で空を飛んでトロット王国の中心部にやってきた。
「誰だ貴様!」
高度を下げて、地上にいるプレイヤーやNPC達に見えるようにその姿を現すと、数十人のプレイヤーはスキルや魔法で空高く飛び上がり、クロウを指さした。当の本人であるクロウはそんな彼らを無視して、両手を大きく掲げて巨大な魔法陣をいくつも出現させた。
「内緒」
ふふっといたずらな笑みを浮かべながら、クロウはさらに多くの魔法陣を出現させた。
「[多重詠唱][補助魔法][元素魔法][多重混合魔法][火魔法][水魔法][闇魔法][魔素支配][物質変換][属性付与]」
無数の魔法陣が虹のように重なりあり、空を埋めるほどの魔法陣が上空に出現した。相手クロウは自分のMPを使用せず、周囲の存在から無理矢理MPを徴収して魔法を使用している。おかげで一番近くにいたプレイヤーや周囲にいたNPCはMPを一瞬で吸い尽くされ、そのまま息絶えるか教会に死に戻りしていた。
「火魔法、闇魔法、圧縮、ん?しま」
事態を聞きつけたトロット王国の宮廷魔法使いは、特殊な魔法陣解析モノクルで空に浮かぶ無数の魔法陣が発動する魔法を急いで看破しようとする。そうして解析し終えた頃に、その人物が発動する魔法の存在に気が付いたが、時すでに遅く、一瞬トロット王国全域を覆うほどの無数の魔法陣が全て重なり、空の色を塗り替えるほど黒緑色の光を放ったと思うと、空からヘドロのような黒緑の液体がバケツをひっくり返したように溢れ出した。
「国王!す、すぐに!すぐにお逃げください!」
「ああああああ!」
「焼け!し!死!」
「だずげえええ!」
「きゃああああああ!」
ぼとりとへどろのような液体が地面に落ちた後、近くにいたNPCはまるで魅了されたようにそのヘドロに笑い声を上げながら身を投げ出した。男はへどろに触れた瞬間、全身から緑色の炎を上げて燃え始めた。それに呼応するように、地面で広がっていくヘドロも突如として大きな緑色の火柱を天高く燃え上がらせている。男は狂乱的な、興奮した笑い声を上げながら、ヘドロの中を踊り出した。死の踊りと言うべきが、全身緑色の炎に燃え盛る男は、身体が燃え尽きてヘドロと同じ色になるまでその狂った踊る事をやめなかった。
「あはははははは!」
「うひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「うひょー!」
緑色の火柱はどんどんと際限なく広がっていき、建物も道も何もかも飲み込みながらどんどんと広がる。そして同時に緑色のガスを噴出しており、遠くにいても、そのガスに触れた瞬間、先程の男と同じように、狂気的な興奮の笑い声を上げながら、全身緑色の火に包まれる。そうしてその火がまるで至福の喜びのように、火柱の近くにいる者はその火柱の中に身を投げ、火柱の遠くにいる者は、緑色の火に包まれる喜びを分かち合おうと、近くにいる者に襲い掛かった。
【トゥールスチャの死の祝祭】
惑星外に存在する異教の神の一柱であり、死と腐敗を取り込みながら力を増す踊り狂う緑の火球の邪神。本来は燃える緑の火球として存在しているが、残念ながら本体を召喚する事は出来なかったので、残滓の一部をトロット王国に出現させるしかできなかった。
「それで十分だな」
まだ数分しか経っていないが、既に数千人を超えるトロット王国民が緑色の炎に包まれながら死ぬまで踊り始めている。どんどんと、止められない山火事のように、数千人が数万人になり、数万人が数十万人に増えていた。
「開けて!開けてぇええ!」
「開けろぉおお!うわぁああああ!」
「あはははははは!」
トロット王国に隣接しているアリッサ、グリッタ王国の城門はぴしゃりと占められており、トロット王国から他国へ逃げようとした王国民達は無慈悲に他の同盟国に締め出されていた。
「終わりか」
数時間後、トロット王国内の建物、人間、生物すべて緑色の炎い包まれ、何もかも燃えカスになってしまった。緑色の火柱もかなり満足したように、嬉しそうに身体をくねって踊り出したと思うと、ふっと消えた。
「カリウス、数日後にはアリッサとグリッタから使者がくるかもしれないから、思いっきり吹っ掛けておいてくれ」
「了解しました」
「それじゃ、俺は戻る」
「お、お疲れさまでした老師」
跡地と化したトロット王国を横目に、クロウは自分の領地に戻った。数時間後、アリッサとグリッタ両国から停戦の文を持った使者が、逃亡したトロット国王一家の首を持ってやってきた。内容的には無期限の停戦と両国から謝罪、そして数百金貨の賠償金が確約されている。直接的に彼らから宣戦布告されたわけではないので、クロウも停戦条約に問題がない事を確認して、彼らの捕虜を返還し、彼らから賠償金を受け取った。




