南部辺境戦争Ⅱ
【[濃縮魔素融合炉][極限魔素分裂炉]初期起動成功....低稼働モードに移行します】
自分の体内に意識を向けてみると、自分の心臓の横に、2つの白い惑星リングを持つ真っ黒なブラックホールのような球体が生成されていた。これが恐らく[濃縮魔素融合炉]だろう。その黒い球体は今でも以前のように周囲から魔素を吸収しており、クロウの意識一つで吸収する範囲と量を調節できるようだ。規則正しく、自分の鼓動と同調するように、クロウの体内で魔素同士が融合し、惑星級の莫大なMPが生み出されていく。魔法の粒子である事を現すように、質量保存もなにもかも無視した理外の法則を持って、無限にクロウの体内で魔素粒子を生み出し、クロウのMPを補填していく。相変わらず魔素粒子と魔素粒子を超高圧力で衝突させると、新しく複数の同質量の魔素粒子が生み出されるという意味の分からない結果が生まれているが、このゲームの世界ではそうなっているようなのでクロウもそういうものだと認めるしかない。
分裂炉は逆に黒い惑星リングを持つ真っ白な球体であり、こちらは心臓の横ではなく、クロウの鳩尾の位置で稼働していた。どうやらこちらもクロウの意思に応じて放出する魔素量を調節する事ができるようだ。試しに魔法行使に込めるMP量を魔素分裂炉を経由させてみる。[水魔法・ウォーターウェーブ]と言う初級魔法に必要なMP量は30。つまり魔素粒子30個分。それを[極限魔素分裂炉]に経由させてから魔法自体を発動させる。
小さな波で敵の視線を遮ったり、弓矢の受け止めたりするときに使用する魔法だが、そんな魔法は、アポカリプスを引き起こしそうなほどの大津波となって敵陣形の後方へ襲い掛かった。
「すっげ自然災害級の威力になってる」
これには思わずクロウも驚く。どうやら[極限魔素分裂炉]に通過させた魔素粒子は300万個を超える量になり、MP30を消費したウォーターウェーブは、実質MP300万を消費して発動した時と同じ効果になってしまった。
「あぼぼ!」
クロウの左側では、既に魔法機関銃が火を噴く音が響いており、予定通りキルゾーンに敵の大部隊が入ったのだろう。クロウの右側では逃げ遅れた敵兵士が津波に流され、重たい鎧でまともに泳げるはずもなく、敵の指揮官もろとも数時間後には陸上で多くの兵士が溺死してしまった。
「じゃあカリウス、後任せた」
「はい、お疲れさまでした。恐らく数日後に敵軍は再び現れると思います」
「そうね、とりあえず今日は今回の戦闘データを確認しよう。臨時指令室に先に戻っているね」
「はい、待っています」
[エアロマニューバ]の出力も相当増えており、来る時は数分かかったが、戻る時は気持ち数秒で遥か後方にあるはずの臨時指令室に到着した。小さなテントの中に入り、背凭れ付きパイプにドカッと座って早速戦闘データの統計を開始する。人造英雄達の動き、戦闘方法、勝率、死亡率、使用した魔法や上がったLvなどなど、様々なデータを早速ゴエティアシステムにアップデートし、ゴエティアシステムが統計し終えたデータをそれぞれの空中大公領に送る。そうして大公領内にあるクロウが自ら作り上げたスーパーコンピューターに新モデルのドール案や次世代の人造英雄の演算を早速始めさせる。数日かかりそうなので、クロウはそれを待ちながら、奉仕人形に車いすを引かれてテントに入ってきたカリウスに次の戦いの編成等を聞いてみた。
2日後、再び規則正しく南部辺境軍がやってくる。もう南部辺境伯の兵士はいなくなっているものだと思っていたが、まだちらほら残っており、もうほとんど多数の兵士が明らかにトロット王国やアリッサ王国、グリッタ王国の紋章が入った鎧を着ているので、もはや南部辺境軍を謳っているだけのトロット王国軍では?クロウは訝しんだ。
「偃月の陣....これ絶対相手に異世界人いるだろ」
先の戦いよりも更に練度の良い兵士達が、指揮官らしきプレイヤーを先頭に、両翼を緩やかに後方に下げた半月のような、偃月のような陣形を保ってこちらに進撃を開始している。
「よほどの自信か、それとも無知か」
指揮官を先頭に置くというとても危険な陣形でもある偃月の陣。これ普通は絶対絶命の突撃の時とかに使う陣形では???なんか格好良い装備を持って「突撃ー!」とかがっつり日本語で言ってる。
「[極魔砲・小]」
虚無砲の進化版スキルである極魔砲。より破壊的で壊滅的なビームを放つ。虚無砲は触れた物質を飲み込むビームだが、こっちは過密とも言える魔素粒子を暴力的な速度で飛ばすだけという極めて簡単な仕組みだ。
「ぴぎゅ」
なんとも空しい断末魔と共に、極魔砲に微粒子レベルで吹き飛ばされ、消滅した敵プレイヤー。それに巻き込まれるように後方のトロット王国兵も同じように消滅した。
「全員突撃」
カリウスの一言により、クロウの後方から大量の斧を持った人造英雄とドール達が突撃を開始する。予定通り、今回は人造英雄...ホムンクルス達を小隊長に任命し、殺戮人形達を率いて突撃をさせてみる。前回の戦闘データから、やはりドール達の臨機応変と指揮力は人造英雄には及ばないし、人造英雄達は逆に自分より強い人にしか基本従わないので、今回はこういう形の編成を試してみた。
「ん? これ正解だろ」
あっという間にクロウの開けた敵陣の隙間から人造英雄達が突撃していく。敵兵は半数以上吹き飛ばしたとは言え、まだ数万人いたが、先陣を切って突撃する人造英雄達が藁人形のように敵をその手に持つ斧や武器に真っ二つにしていく。再び【戦恐】のバッドステータスが敵兵士全体に広がり、逃げ出す敵兵や【パニック】【テラー】【パラライズ】のバッドステータスも併発し、数時間後に敵兵は一人残らず死体になってしまった。
「よしこれで行こう。カリウス、そっちに戻る」
「はい、今日は早かったですね」
「そうだな、この人造英雄+ドールの部隊が一番安定するし、一番双方の利点が生かされる。今後はこれで良いと思うよ」
「同意します老師」
数秒後にはカリウスのいるテントに戻り、早速以前のように戦闘データをゴエティアシステムに送信する。今回で既に敵軍6万人以上を損失させているため、そろそろ向こうから停戦の交渉が来てもおかしくないと思うが....クロウとカリウスは再び数日待って相手の出方を見てみる事にした。




