限定的介入Ⅰ
「攻撃開始!深追いはするな!」
クロエは今日も第一王子派閥として第三王子派閥と小さな戦闘を始める。ベレンツァ領より補給された軍馬の上に乗り、慣れ親しんだ方法でいつも通り軍隊を指揮するクロエ。対する相手も、以前と変わらずこちらが攻めれば相手は引きつつ我々を押し返し、我々が引けば彼らは戦線を維持するだけでこちらに攻める事もない。相変わらず綱引きのような戦闘をかれこれ数か月繰り返しており、どちらも相手を死ぬ気で追い込んだりはしてこなかったが、今日はいつもとは状況が少し違っていた。
以前より南部辺境伯領内で【反第一王子】の声明が大きく掲げ挙げられており、それに加え南部辺境伯内でもより戦争支持率が大きく上昇している。おかげで彼らと綱引き戦を強いられているクロエも、日に日に相手の攻勢が激しくなってきている事をうすうす感じていた。
「あっ」
周囲を見渡していたせいで、つい死角からの攻撃に対応が一秒送れる。何とか飛んでくる矢を躱そうとしたが、それが間に合わず、全力で物理攻撃を防ぐ[魔力防壁]を重ね掛けしまくる。そのままクロエは防壁を展開した場所に大きなバリスタから放たれた矢が命中し、着ていた鎧ごと吹き飛ばされ、派手に落馬してしまった。
「クロエ殿!しまった!総員撤退!指揮官殿が負傷した!」
クロエの護衛が急いで駆けつける。彼らも別方向からクロエへの攻撃を防いでいたため、クロエが落馬してから彼女の負傷に気が付いた。彼女の護衛が素早く彼女を抱き上げ、彼女の馬に乗せて自ら手綱を取り急いで撤退を開始する。第三王子の部隊も突如の事に驚いたが、矢が飛んできた方を見ると、最近雇われたらしい小さな傭兵団達が和気藹々と喜んでいた。
「........」
クロエの由来を知っている第三王子の兵士達は、思わず冷や汗が流れ出る。詳しい事は分からないが、まるで地図から消しゴムで擦られたようにフェンデル伯爵の領地が消滅しているし、南部辺境伯領内で生きているはずのフェンデル伯爵の家族や友人もまるで神隠しにあったように消えていた。噂話に聞くライネル領のせいか分からないが、それでもフェンデル伯爵と言うその存在が一切抹消されているという事実が、彼らに余計大きな恐怖を与えた。
その日の戦闘はそこまでで終了したが、その日の午後から南部辺境伯領の大きな街や都市から【ライネル】の名を持つ企業が即時撤退を宣言した。急な行動に第三王子や南部辺境伯も驚いたが、流石の彼らも権力を利用して無理矢理引き留める事は出来なかった。【ライネル企業】の撤退はそれだけで大きな経済打撃を南部辺境領に与え、同時に多くの人間を南部辺境領から撤退させた。そこから数日、第一王子派閥と第三王子派閥の間で目立った戦闘はあまり起こらなかったものの、戦場にはなんとも言えない恐怖感と、何者かに空からずっと睨まれている不快感がその日から南部辺境領のあらゆる戦場で発生するようになった。
数週間後、戦場に復帰したクロエ、そんな彼女の横には、見た事のない背の高いクラシカルメイドが立っていた。身長170cmを優に超えるそのクラシカルメイドは、健康的な褐色の肌に赤いショートカットヘアに赤い瞳、そして頭上には星が4つ付いたティアラを身につけていた。言葉や仕草は人間と大差ないが、どこか人間ではなく 人形のような印象を与える彼女だが、特筆すべきは、彼女がメイド服の上から身に着けている白黒の軽鎧のようなパワースーツ、そして彼女のパワースーツの背後に収納された、4枚の折り畳み可能なタワーシールドだ。同時に彼女はナックルダスターの付いた手袋を常につけており、見た目から分かるように、間接や指などの手の大事な部分には動きを阻害しないような形で非常に硬い金属が仕込まれており、大剣を悠々に受け止められ、攻撃すれば恐らく岩を砕けるほどの威力を出せるだろう。
「総員!戦闘準備!」
戦場に復帰したクロエの声が再び響き渡る。彼女の護衛も今回は近くにおらず、代わりに彼女の傍に立っているような大盾持ちのメイドが護衛になったようだ。
「戦闘開始!以前と同じ!深追いはするな!」
その声と共に、彼女のすぐそばにいたティアラを装備したメイドはパワースーツを起動する。[飛行]魔法を使用したのか、馬に乗っている彼女と同じくらいの高さまで浮遊し、メイドの背後の大きな盾4枚が自動的に射出・展開し、彼女達の頭上で高速回転しながら、[風魔法・矢除けの障壁][魔力障壁][無魔法・力学障壁]を発動させた。透明なドーム状の障壁に頭の上から地面の下まで守られたクロエと後ろで浮いているメイド。同時に少し離れた場所で護衛もメイド達も、背後に装備していた2枚の盾を展開し、クロエを中心にに四角い防壁を作り上げた。一方通行性の[魔力障壁][魔力防壁]も展開しており、第三王子の弓使い達が放ってくる弓矢も、クロエのすぐそばにいるメイドが展開した防壁にぶつかる前に、周囲の盾持ちティアラなしのメイド達が作り上げた壁に塞がれていた。
「標的発見、総員、【ブラスト・ランス】準備、位置情報を共有します」
「受信完了、【ブラスト・ランス】装填開始」
クロエの傍で浮いている護衛隊長のメイドがその周囲にいるメイドにそういうと、彼女達は一歩下がって、護衛隊長と似たような手袋を装備した。そのまま全員右手の拳を握りしめ、槍投げのようなポーズを取る。左腕は前方にピンと伸ばし、隊長から共有された方向を指しており、右腕はいつの間にか[土魔法]で出来た大槍、[土魔法・ロックランス]を生成していた。
「装填完了、射出準備開始」
右腕の拳の前に生成されたロックランスの先端に3つの魔法陣が出現する。1つ目の魔法陣がロックランスの先端から後方まで通過すると、ランスはより綺麗で流線形の大槍になり、2つ目の魔法陣が通過すると、茶色のロックランスが光沢のある鉄の大槍に変化した。3つ目の魔法陣が鉄の大槍を通過すると、大槍が高速回転を開始する。
「ブラスト・ランス、射出」
以前にクロエ目掛けて矢を放ったと思わしき高い丘の上に設置された大型バリスタ目掛けてメイド達は自ら作り上げた鉄の大槍の後方を思いっきり殴りつけた。常人離れした速度で常人離れした質量の大きな鉄の槍が空気を切り裂きながら大型バリスタのある丘に飛んでいく。数秒後、尋常じゃない着弾音と共に、丘の上に設置してあったバリスタが、地面ごと吹き飛んだ。
「確認中....バリスタ全機破壊完了...後方隊員は再度装填開始、前方横方の隊員は再度防御態勢へ」
「了解」
護衛達の2/3が再び大盾の前に立ち、防御態勢を取る。後方防御を担当していたメイド護衛達は再び先ほどと同じ鉄の大槍を生成し始めた。
「......新興傭兵団【赤犬の傭兵団】を確認。今回の目標です。後方隊員は【ブラスト・ランス】に【爆裂】の効果を付与、そのまま共有された座標と人物目掛けて射出せよ」
「了解」
回転して鉄の大槍を4つ目の魔法陣が通過する。今後は鉄の大槍が赤く加熱され、それと同時に周囲に緑色の風刃らしき魔法が纏わりついた。
「射出」
再びドゴンと言う発砲音のような音と共に鉄の大槍が発射される。今度は丘ではなく、敵軍の後方にいた傭兵団らしき集団に飛んでいった。まるで落雷のような大きな音と共に次々と着弾し、そのまま轟音と共に大槍が爆裂する。周囲に鉄の破片等をまき散らしながら爆裂するその鉄の大槍は、クロエにバリスタの矢を当てた傭兵団全員を死体に変えるのには十分だった。
【堡塁姉妹】
クロウの作り上げた戦闘用魔素人形群、【保護人形】の堡塁担当。戦闘能力は一般的だが、特筆すべきはその高い拠点防衛能力と要人護衛能力。クロウの【虚無砲・中】すら受け止められる防御力を誇っており、彼女達の持つ遠距離砲撃能力も看過できない。同時に全員が高い[近接格闘]スキルと[長槍]スキルを所持しており、必要に応じて全員ファランクス陣形で攻撃に転じる事も可能。




