第一次ライネル・フェンデル戦争Ⅱ
「オリアス、所定の位置に到着、フェンデル軍の位置情報の取得を開始.....完了しました。タグ付け完了。データをゴエティアシステムに送信....送信完了、撤退します」
「はい、お疲れさまでした。ではコカトリス、訓練通りまずは警告を、3度の警告を向こうが無視した場合、精神干渉を開始してください。強さは強で構いません。それと同時に、こちらから【第五重装飛行師団】が出発します」
「了解」
小宵1人に指揮を任せるのは少し申し訳ないが、[使い魔]スキルを通して彼女の指示は全てこちらにも共有される。文句なしの指示だ。例え俺が代わりに指示を出しても彼女とほぼ変わらない内容になると思う。
「コカトリス隊、フェンデル軍を発見、警告を開始します。【ここより先はライネル領となる。即刻進軍を停止し、来た道を引き返すように。これ以上の進軍は侵略とみなし、我々は対抗措置を取らせてもらう。繰り返す、ここより先はライネル領となる.....】3度の警告を無視、以前進軍止まらず、これより精神干渉・強を開始します」
[石化][麻痺][不調][頭痛]等の強力なバッドステータスを引き起こす特定の対人間用魔素波形をコカトリス隊は下にいるフェンデル軍に対して一斉に使用する。かなり有効的なようで、馬に乗っていた騎士の半数は口から泡を吹きながら落馬。後ろにいた重歩兵や軽歩兵も堪らずその場に蹲り、吐しゃ物をまき散らしていたり、頭を抱えてのたうち回っていたり、ほぼ全軍が動けなくなっていた。
後方にいたプレイヤー8人も一瞬彼らと同じように荷馬車から数名転がり落ちたが、ヒーラーと思わしき人物が転がり落ちた彼らに向かって何かの魔法を使うと、すぐに彼らは調子を取り戻したようだ。それだけではなく、魔法使いらしき人物は手にした杖を空中で滞空しているコカトリス達に向け、[火魔法・ファイアーランス]を使用したようだが、残念ながら当たりそうなぎりぎりの距離で魔素レベルに分解され、コカトリスの燃料タンクを補充するだけになった。
引き続きコカトリス達が干渉を続けているが、一向に引く気はないようで、むしろ苦しみながらも、少しずつ前進をしている。
「【第五重装飛行師団】の皆さん、出陣です。旦那様の言う通り、まずはフェンデル兵達を相手してください。後方でタグ付けされた異世界人達は、旦那様直々に相手をします」
「こちら第五重装飛行師団長了解。すぐに出発する」
第五飛行兵営から巨大な翼が付いた外骨格装甲を装備した兵士達6500人が次々と重火器を持って空へ飛んでいく。幸いフェンデル兵達に強力な遠距離攻撃をする兵士はいないので、普段から高負荷な[エアロマニューバ]の訓練をしている彼らは重火器を持っていても繊細で高度な空中回避行動が出来るだろう。
「さて、俺はもう少ししたら行こうかな」
小宵の指揮を聞きつつ、クロウは自分の思考AIモデルについての提案を資料にまとめる。キリの良い所まで書いたら、そのまま戦闘用の装備を着て自らも参戦する予定だ。
一方、先に到着した第五重装飛行師団は.....
「コカトリス隊、お疲れ様です。これより先は我々第五重装飛行師団が」
「了解、撤退します」
オリアスもコカトリスも撤退した今、空に浮かんでいたのは白い翼の生えた黒い近未来的な外骨格を身に着けた、黒い仮面の戦闘兵団が現れた。
「な、なんだあれは」
「総員!機関魔法銃構え!射撃開始!」
空に浮かぶ白黒の兵士は、両手に装備した重機関銃を地上にいる兵士目掛けて射撃を開始した。彼らが手にした機関銃は魔力を通すだけで銃砲身に刻まれた複雑な魔法陣が自ら[土魔法]で銃弾を作り出し、[物質変換]でそれを鋼鉄弾に変換させ、最後に[爆発魔法]でその鋼鉄弾を発射する魔法式重機関銃。永久凍土から採掘された特殊な鉱石を使用しているおかげが、長時間連射しても銃砲身がオーバーヒートする事もない。
先頭の重装騎兵からどんどん奥にいるフェンデル兵目掛けて容赦なく銃弾を撃ち込む重装飛行師団の面々。まるで命を刈る死神のように、彼らはゆっくりと奥へ飛行しながら足元の重装鎧の兵士達を易々と貫いて、そしてそんなフェンデル兵は剣を一度も振るう事も無く、二度と帰らぬ者になっていった。部隊の中盤にいる軽装兵士達は、諦めずに弓を構えて大量の矢を放つが、空飛ぶ兵士達は装備した外骨格の、常時展開されている[魔力障壁]に守られているため、弓矢は空飛ぶ兵士に当たる直前、彼らの周囲にある透明な壁に激突し、そのまま地面にぽとりぽとりと落ちていくしかなかった。
「団長!豪華絢爛な馬車を発見、どうしますか?」
「どうしますか小宵さん」
「そのまま破壊を」
クロウは念のため[龍眼]で馬車の内部を確認してみたが、フェンデル卿と思わしき人物が乗っているだけだった。
「了解」
先頭の重装騎兵は既に全滅、中団の重歩兵への射撃も既に開始しており、彼らも武器を抜いて空に放り投げているが、こちらも同じく[魔力障壁]にはじかれて地面に落ちるだけだった。すぐ後ろにいる軽歩兵達は既に戦意喪失、なりふり構わず逃走をしているが、銃弾から人間が走って逃げられるわけもなく、あっという間に無数の銃弾が彼らの身体を貫き、悲惨な肉片に彼らを変えていった。
「皆さん!早く!荷馬車の後ろに!遮蔽に隠れてください!」
「おいおいおい!それはずるだろ!文化レベルがおかしいだろ!設定は中世じゃなかったのか?」
「[水魔法・ウォーターシールド][土魔法・ストーンウォール][木魔法・ツリーウォール]」
中団のフェンデル兵の殲滅も終え、ついに軍隊の後方、荷馬車がある後方までたどり着いたが、どうやら魔法使いのプレイヤーが水魔法、土魔法、そして木魔法で作り上げた壁で前後左右、更には上方まで塞ぎ、とりあえず他のフェンデル兵を見殺しにして、まずは自分達8人を3重の壁で守るつもりのようだ。
「師団長、全方向からその壁目掛けて制圧射撃を開始、他の兵士達は引き続きフェンデル兵への攻撃を続けろ。1人たりとも逃すな」
「元帥!了解しました」
クロウも先ほど、第五重装飛行師団が射撃を開始した頃から既に戦場へ移動を開始していた。今までの様子は相も変わらずゴエティアシステムを利用して全て空から[龍眼]で見ていたのだ。外接式視界拡張衛星、いわゆる第三の眼としてゴエティアシステムを利用しているクロウ。いずれは機能を増やそうと、空を飛びながら思った。
「元帥、タグ情報によりますと、残ったのはその壁の中の8名だけです」
「了解、あの荷馬車の資源を全て回収し、全員撤退せよ」
「はっ!」
制圧射撃をしていた第五重装飛行師団の面々は、クロウの指示通り射撃を停止、その後師団長に命令されるがまま、大量の荷馬車の馬に乗ってたずなを取り、そのままライネル領へ向かって走らせ始めた。
「ふん!」
ステータスの暴力。何のスキルも使用せず、プレイヤー達の作り上げた壁に拳をたたきつけ、大きな穴をあける。
「どうも~」
「あばばばばば!おい見ろよあれ」
「く、黒髑髏.....なんでこんな場所にレイドボスががががががが」
「慌てるな、全員俺の後ろへ、[タウント]!」
クッキーで出来た壁を破壊するように、両手で魔法使い達が作り上げた3重の壁を破壊して内部へ侵入するクロウ。リーダー格の騎士が他のメンバー達の前に立ち、左手に大きな盾と右手に持った槍をしっかりと構え直し、何を思った事かクロウに対して挑発スキルである[タウント]を使用した。
【[処刑]スキルが発動可能です】
脳内でそんなアナウンスが響くと同時に、8人の頭上のカーソルが髑髏に赤いバッテンが書かれたアイコンに変化している。ついクロウも【発動】してしまったので、そこからは特に意識せずにクロウの身体が自動で動き始めた。
「うぐっ」
目にも留まらない速度で一瞬で距離を詰め、クロウは左腕ごと[タウント]を使用してきた騎士プレイヤーの持つ盾を奪い取り、奪い取った盾をすぐ横にいる戦士プレイヤーの頭部目掛けて全力で放り投げる。あまりに力が強すぎて、戦士プレイヤーの肉体を問答無用で真っ二つにし、そのままその後方で[隠蔽]スキルを使用しようとしていた盗賊プレイヤーの頭部も真っ二つにし、更に魔法使いプレイヤーの作り出した壁すら貫通してどこかへ飛んで行ってしまった。ついでにクロウは左腕をもがれた痛みのあまり膝をついた騎士プレイヤーの頭部目掛けて全力で蹴りを入れる。ボールのように飛んでいくという形容を超え、むしろ叩き潰されたトマトのように騎士プレイヤーの頭が粉微塵に弾け飛んだ。ヒーラー役のプレイヤーと魔法使いのプレイヤー達がそれぞれ魔力を練って何か魔法を使用しようとしていたので、[パラライズ]と[ブラインド]を使用して彼女達の魔法スキル使用を強制的に中断する。その隙に残った弓使いプレイヤーが構えていた矢を奪い、そのまま彼の心臓目掛けてを奪った矢を突き入れる。最後に残ったのは魔法使い2名とヒーラー2名なので、[魔力支配]で残った彼女達のMPを死ぬまでドレインし続ける。行き過ぎたMPドレインはHPすら奪うので、彼らは湯水のごとく失っていくMPとHPを真っ暗な視界で何が起きているか理解できないまま命を奪われた。




