嵐の前の静けさ
【イリアス正教】とは、ここ【イリアス戦記】における一大宗教派閥であり、その唯一性と正当性を持ってゲーム内でも屈指の信徒を持つ強大な宗教派閥でもある。そんな万民に慕われるイリアス正教の教会の鐘が、7度鳴らされる。高位の人物の死以外ほとんど鳴らされる事のないラスト・チャペルが、7度その音を信徒と教会の周囲にいた人々に知らせる。
「こ、国王様が!国王様がぁあああ!」
教会内から豪華絢爛な服装を着た中年の信者が飛び出してきた。どうやら、マクベル王が今日未明、しずかに天国に逝ったそうだ。その言葉を裏付けるように7度の鐘の音が各地の【イリアス教会】で響き渡る。西南北の辺境に位置するイリアス教会も、7度鐘を鳴らす。それと同時に、多くの信徒は涙を流し、一大賢王の訃報を嘆いた。そんな領民を片目に、四方を守護する辺境伯達は、王国中央である、王宮の元へと全軍を上げて進軍を開始する。彼らの名目は、【新王の保護】。北と西の辺境伯は、第二王子を、南の辺境伯は第三王子を、そして西の辺境伯ことベレンツァ卿は、第一王子を。彼らは自らの信じた王子を次期国王にするため、他の王子の魔の手から自分の君主を守るため、そのために、このマクベル王国の内戦の火を付けたのだ。
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「それじゃあ、クララ、後はよろしくね」
「ええ、お姉さま、お父様、お母さま、行ってらっしゃい」
「クロウ君、どうか!娘を、頼む」
「はい、お気をつけて」
表向きは既に関係を断っているので、深夜の誰もいない時間帯に、こっそりクロウと小宵が馬車に乗り込む彼らを見送る。既にライネル領のほぼ全軍である約5万人の軍隊がベレンツァ領へ向かっており、今晩ついにクロエと前ライネル伯爵、そして伯爵夫人も一緒に出立する事になった。クロエはライネル領を代表して、マクダンとその奥さんはどうやら人質としてベレンツァ領に一時的に【保護】と言う名目で監禁されるらしい。元々はクララがベレンツァ領へ人質としていくはずだったが、マクダンが無理を言って代わりに行く事になったようだ。
「それじゃあ、3人共、元気でね」
「ああ、お前達も、気をつけてな」
戦場に絶対はない。5万の兵士を率いていようと、どれだけ魔獣の森で生き抜いた猛者であろうと、異世界人と遭遇すればあっという間に死ぬ。それまで彼らは原住民にとって無慈悲であり、恐ろしい存在である。
「......」
月明りもない夜道を、大量の兵士と共にクロエ達3人を乗せた馬車は進んでいく。まずはベレンツァ領へ行き、その後第一王子のいるマクベル中央王国領へ向かうようだ。クララは姉達3人を見送り、少し怯えたような、将来について心配するような表情を浮かべながら、自分の寝室へと戻った。そんな彼女を見送り、クロウも自分の屋敷に戻って、明かり一つ無い自分の庭の噴水の前で立ち止まる。
「小宵、始めろ」
「はっ」
闇夜に輝くのは小宵の黄金色の瞳、そして彼女が指をぱちんと鳴らすと、夜行服を身に着けた女性が数えきれない程クロウの屋敷の庭内に突如現れた。彼女らは小宵とは違い、メルティのような赤い瞳を煌々と輝かせている。
「まずは領内に潜むフェンデルとその他のスパイを洗い出し一人残らずその口を永遠に封じさせろ。その我々の工作員で彼らに偽装し、逆浸透を開始」
「承知いたしました」
「人造英雄と自立型歩行戦車の生産はどうなっている?」
「自立型歩行戦車は既に量産化が開始。来週までには現行モデルで1万両を超える予定です。人造英雄達の第二第三世代は既に最終調整段階に入っています。第一世代の10人はいつでも戦闘投入可能で、第二世代の200人と第三世代の3000人は来週までに実戦投入できるかと」
「第四世代は」
「繭の中に」
「そうか、焦る事は無い」
「承知いたしました」
「ゴエティアシステムの準備は?」
「完璧です。永久凍土に設置された地対地超遠距離ミサイル群に地対空ミサイル群、その他高高度飛行要塞は現在もステルス状態で飛行中、並びに【アマイモン】【コルソン】【ジミマイ】【ゴアプ】の【空中大公領】は四基共にステルス状態で問題なく稼働しております」
「汎用型魔法小銃等の軍備の生産はどうなっている?」
「既に第四世代の開発が開始しております。より高い貫通性と持続性、そして軽負担が見込めるかと」
「分かった、完成次第私の元へ、すぐに[軍備補充]のスキルを使用する」
その晩、ベッドで一人、不安に押しつぶされそうになりながら眠るクララとは対照的に、着々と準備を進めるクロウと小宵。ライネル領では既に幾人の間者やスパイが小宵の部下である【デモンメイド】達に命を刈り取られている。
それと同じくしてフェンデル領では、以前に苦渋を舐めさせられたフェンデル卿が、ベッドの上でクロエの弟の母親である元ライネル伯爵夫人を抱いていた。
「クソ!クソ!クロエ!クララ!クソ!クソ!」
伯爵は、生娘とは程遠い女性をベッドに抑え込んで、乱雑に腰を振う。年のせいか、それとも女性のせいか、何度も何度も腰を振っても、一向に自分の欲望が満たされる事は無かった。
「貴方....最高だったわ♡」
数時間後、疲れてベッドで仰向けに寝転がったフェンデル伯爵。横には先ほどまで自分の下にいた女性が歳に似つかわしくない猫なで声を出して彼の機嫌を損ねないようにしていた。
「ちっ」
なんだか急に腹立たしくなって、乱雑にベッドから身体を起こし、近くにいた若々しいメイドを捕まえて浴場へ向かった。
「フェンデル様、来週までは準備が完了すると思われます」
「おお、そうか」
荒々しくそのメイドの胸を掴み、痛みのあまり涙を流す彼女を気にもせず浴場へと向かう最中、軽鎧を着た男性がフェンデル伯爵の元へやってきて、何かを報告した。
「ふふふ、ふははははは、以前のような雑魚共とは違う!今回は王家の兵士と、異世界人もいるんだ!徹底的に!容赦なく!蹂躙する!クロエも!クララも!全て踏みにじって!俺の足元で傅かせて、ふふふふふ、ふははははは」
復讐と欲望に塗れた自らの使える伯爵と、その彼の元で乱雑にいたぶられているメイドを見ていられなくなって、青年は必要事項を簡素に報告した後、速やかにその場から立ち去った。胸を捕まれ、乱雑に服も破られたメイドはフェンデル伯爵と共に彼の浴場へと連れていかれる。月明りの無い彼の屋敷では、浴場からすするような女性の涙声と、水の流れる音、そして打撃音と男性の笑い声だけだった。




