新ライネル領Ⅹ-クロエの決断
「3…2…1…発射」
氷の暴風をものともせず、氷山の一角から巨大なロケットが打ち出される。実に72機目の【衛星兵器】を、クロウとその研究者達は、宇宙に打ち上げた。
「宇宙空間到達。システム起動…オールグリーン…成功です。【ゴエティア】システム、起動します」
観測官のその知らせを受けて、クロウを含めた全研究員が歓喜の声を上げた。
【低軌道通信用魔素交流システム】通称LMSと【高軌道通信用魔素交流システム】通称HMSの2つを組み合わせた【相互魔素交流式通信システム】通称【ゴエティア】の実現に成功した。それにより、クロウとその他研究者の目の前の画面には【イリアス戦記】の世界地図が写し出されている。悪魔技能である[幻術]も駆使した結果、水蒸気や霧を媒介にする【ミスト・ホログラム】システムが完成した。
「位置情報の取得はどうだ?全ミサイル照準システムとの相互性は?」
「問題ありません。全ミサイルの照準システムと合致、システムオールグリーン」
「ふふ、ふふふふ、ふはははははは、完成した!全世界へのミサイル発射を可能にしたぞ!これで、いつでもフェンデル領を、消し炭にできる」
もちろん、これだけはなく、クロウと研究者達の努力により、彼らは魔素を完全に操る機械の作成に成功した。同時に疑似核弾頭ともいえる、【魔素分裂反応】を用いたミサイル兵器や、【魔素融合反応】を用いた恒久的なエネルギーシステムの作成にも成功した。おかげで今の研究所は更にアップデートされた。それだけではなく、現代兵器の開発も既に済ませており、巨大な野戦砲や異様な硬度を持つ戦車、さらには中央管制システムで一括操作し、自立行動も可能な無人戦闘機やステルス爆撃機などなど、明らかにこのゲームにおいて想定外の超兵器を既に量産しはじめているクロウ。これも全てフェンデル伯爵との戦争のためなどと言っているが、誰が見ても明らかに火力オーバーである。
「っと、そろそろか」
「旦那様、クロエ様がお待ちです」
「おう、今行く」
クロウは左腕に付けたブレスレットに軽く触れる。そうすると、クロウの目の前にはまだ登録していないはずの、クロウの執務室がワームホールの向こう側に映し出されていた。
「よいしょっと」
右足から目の前に出現したワームホールに踏み入れる。クロウも初めて試すが、どうやらゴエティアシステムはしっかりと機能していた。クロウの左腕についていたのは携帯式ワームホール生成機で、これ単品だと機能しないが、ゴエティアシステムと交互通信させる事で、世界中どこでも行きたい場所を指定して一瞬でワームホールを生成できる。
「さて、小宵、クロエは?」
「一階でお待ちです」
「よし、行こうか」
小宵もきちんといるので、ちゃんと自分の屋敷の執務室にたどり着けたのだろう。
一階に降りていくと、クロエとクララが立っていた。
「久しぶり、いや、お久しぶりです伯爵様」
「や、やめてくれクロウ殿、そんな風に君に畏れては私も気まずい」
「そうですよ」
「冗談だ」
2人の姿を見たのは以前の伯爵就任式以来だったか、双方ともに大忙しで、あまり話す機会もなかった。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「午後の予定は?」
「急ぎの用事は特にないな」
既に今後の兵器開発書は仕上げているので、研究所にいる彼らに任せれば問題ないだろう
「では、よろしければご一緒にご夕食でも」
「おっ、いいねいいね、久しぶりに一緒に食べよう。どうする?俺んちにする?」
「うん、その方が助かるかな」
「了解、まだ少し時間あるな、小宵に任せて、少し街をぶらつかない?」
「構わないよ」
「私も~」
「よし、小宵!今晩クロエとクララがうちで一緒にご飯食べるから夜ご飯多めに!よろしくね!」
「了解いたしました」
「よし、じゃあちょっと行くか」
「馬車で来ましたので、このままいきましょう」
「おう」
クロエ達と共に外へ行くと、入口に馬車が止めてあった。きちんと御者も3人を待っていたようで、クロウの方を見ると一度席から降りて丁寧にお辞儀をした。そして御者が3人の為にキャビンの扉を開けてくれたので、クロウは最後にキャビンに乗り込んだ。ことこととゆっくり走る馬車に揺られ、クロウが何か話を切り出そうと思っていると、クロエが一足先に[防音]魔法をキャビン全体に使用した。
「ん?どうしたんだ」
「お姉ちゃんが大事な話をすると思ってね、ね、お姉ちゃん」
「ああ、恐らく来年、丁度フェンデル伯爵との8年の停戦協定の期限切れの年、我らの偉大なるマクベル王が死ぬ。その情報が入ってきました」
「あっ、王様マクベルって言うんだ」
「そこからなの?」
クロウの無知っぷりに思わずクララが呆れる。
「ていうか、そんな情報一体どこから?」
「ベレンツァ卿です」
「え、なんでそんな事あの人が知ってるの?」
「ベレンツァ卿は第一王子派閥です。他の第一王子派閥から聞いたのでしょう。かの第一王子は清廉潔白で素晴らしい方ですが、少し頭が固く、派閥争いを最も嫌うお方です。その点、第二王子と第三王子はとても狡猾であり搦手を得意としています。事実、そろそろ義母が帰って来そうな頃合いですが、私の【目】からの情報によりますと、既に第二王子に取り込まれているんだとか」
「義母って、あの弟君連れて実家帰りした?」
「はい、ちょくちょく帰宅するという手紙を出してきていましたが、父が顔を見たくないと言って手紙を破り捨てているので、実質的な絶縁状態ですね」
「せいせいするわ」
クララも横でぷんすか怒っている。まあライネル領が一番大変な時に逃げ出したもんな、そりゃそうだ。
「それで、俺に何かしてほしいの?」
「あんまりこういう事は言いたくないんだけど、良かったら、私達に協力してくれない?」
「....第一王子派閥に入れと?」
「ええ、そうなるわね」
「政治闘争はなぁ....」
「私の【目】と、第一王子派閥からの情報なんだけど、現王の死はほぼ確定よ、現在はまだ病で床に臥せている程度だけど、回復の見込みは皆無。宮廷医師による延命措置も来年までが限界。遅くても来年の中期までに....既に次期国王は第一王子と決まっているけど、勢力と支持者で言ったら第二王子と第三王子の方が有利、彼らがそんな現状に甘えるわけがなく、後継者争いと言う内戦によって、この国は戦火に染まるでしょう」
「誰か治療薬の研究とか」
「もちろんそれはあると思うけど、既に第二王子や第三王子の手の者がそれらを潰して回っているわ。王権と言う誘惑は、何物にも代えがたいのでしょう」
「そっかぁ...」
「ベレンツァ卿も今年は大幅な資金を軍備に費やしているわ。どうやら王の死と共に中央王国領へ第一王子派として、内戦に参戦する予定よ」
「それって」
「ええ、貴方の予想通り、フェンデル卿は第三王子派。彼もベレンツァ卿の不在を機に、私達に再侵攻をするでしょう。しかも第三王子のバックアップも受けた、前回以上の軍勢で」
「おうふ」
「私も父上も、君達にはとても恩義を感じている。だからこんな派閥争いには巻き込みたくない。だから君達は私に無理に力を貸す必要はない。その代わり、今後何が起こるか分からないから、できれば、父上や、妹を守ってほしい。この通りだ」
クロエはそこまで言って、頭を下げた。なんだか彼女の言い分が凄く変で、クロウは思わず聞き返す
「何?どゆこと?クロエお前?」
「いつになるか分からないが、近い将来私もベレンツァ卿と共に内戦に加わる事になるだろう。幸い、私達には【魔獣狩り】と言う素晴らしい部隊のお陰で魔獣の森も氾濫を起こしていないし、君達の開発したライネルクロスのお陰で莫大な富を得たと言える。だからベレンツァ卿も、そんなこの新生ライネル領に目を付けたのだ。兵を出せないならせめて金をと。だがいずれは私達にも出兵を要請してくるだろう。もう以前のようにはいかない」
「そうか、苦渋の決断だな」
「本当はこんな争いごとから一生離れて、ここで一生家族で楽しく生きていたんだが、これも貴族として致し方ない事だ、そういうわけだ、今日は君に別れを告げに来た」
「え!?」
「君を追い出すわけではない。だが、私がベレンツァ卿と共に第一王子派閥に下るのはもう避けられないからな。君を巻き込みたくはない。だから、表向きは君と決別する」
「.....」
「そんな顔をするな。何度も言うが、君達には感謝しているよ。それに、まだ一年の時間があるんだ、今夜くらいは、楽しい食事にしよう」
馬車は来た道を引き返しているようで、ライネル領内の楽しい領民や景色とは裏腹に、キャビンの中は静寂に包まれていた。




