新ライネル領Ⅷ-百獣之旅団
フレデリカ視点です
ばあちゃん、もといアルルさんに救われてから、私の人生はがらりと変わったと言える。もちろんクロウさんが私を見つけくれなかったら、私はきっとあのまま裏路地で飢え死にするか、【治安維持部隊】に保護されて、どこか別の街の教会に孤児として預けられたのかもしれない。だからクロウさんにはとても感謝しているし、そんな未来も悪くないと思う。だが、私は今の選択を後悔はしない。一生瞼と頭に焦げ付いた地獄の景色に付きまとわれ、永遠の悪夢を見続けていたあの頃よりも、きっと今の方が私に合っているから。
「ボス!いました!前方に小さなサイス族の集落のようです!」
「羊は?」
「大量に」
「なら征こう、地の果てまででも追いかけろ!」
ライネルの街で招集した兵士達は、魔獣の森での1年間の生活を終え、今では私に及ばないものの、最低でもヌシ級の魔獣を1体は倒せるほどに強くなっていた。もちろん彼ら全員森で身に着けた技能がそれぞれ違っていたので、1人ずつ役割分担をして、最低3人の異なる役割を持つ兵士を1パックとして行動させている。偵察と斬首作戦を行える力を持つ【鷹】もしくは【豹】所属の兵士1人と、主戦力である【虎】【熊】所属の兵士1人と、魔法攻撃に後方支援や回復の【木】もしくは【花】の1人からなる1パック。状況に応じて高機動力の【馬】や高防御力【犀】を組み込むこともあるが、この1パックを3つそろえて分隊にしたり、分隊3つそろえて小隊にしたりなど、私にとっても編成しやすいうえこの上ない部隊構成だ。ちなみにこのアイデアもばあちゃんとクロウさんから得た考えだ。
「イーグル達が帰還しました。犬は少ないようです」
「【ゼクス】連隊に行かせろ、犬と羊は一匹たりとも逃すな」
「はっ!」
副官に指示をだし、彼はすぐに指揮を出しに行く。数分も経たずに、私の後方に連なる部隊の一部が空をかける鷹のような鳴き声と共に馬を走らせ、目の前にある集落へと馬を走らせて行った。イーグル所属兵士は全員が[飛行]スキルを所持しているので、既に馬から飛び上がって空中偵察を開始している。タイガー所属の兵士は既に集落を囲むように分散し、身を潜めて機会を待っている。ツリー所属の兵士もタイガーと共に潜伏しており、タイガーの兵士達にステータス向上やその他恩恵をもたらす魔法効果やバフスキルを使用していた。
空中偵察を終えたイーグルの部隊が、潜伏している味方の兵士に[以心伝心]スキルで詳細な集落の地形や敵兵士である犬の配置、臨時食糧庫や敵の馬、羊の保管場所等をスキルで脳内に直接情報として送る。タイガーやツリーの兵士達も以心伝心で上空を旋回するイーグルの兵士達に【了解】と伝えたようで、それを合図にイーグルの兵士達は空中で自らの足に猛禽類の爪を思わせるかぎ爪のような武器を装備し、同時に両手には山鎌のような大きな武器を装備した。そうしてそれぞれ見張りの犬や伝令の犬と思わしき人物に狙いを定めると、一際大きな声で嘶き、急降下を開始した。イーグルの兵士が急降下を始めると同時に、タイガーの兵士達も虎のような大きな[威嚇][萎縮][パニック][威圧][戦恐]等の状態異常を確率で引き起こす[咆哮]スキルを犬達相手に使用した後、軍馬と共にその集落へ突撃を開始した。ツリーの兵士達はタイガーの兵士が全員集落へ入ったのを確認すると同時に[木魔法・ウォールオブプラント]を使用して自分達ごと集落を囲み、誰一人戦闘が終わるまで逃げられないようにした後、自らも戦闘に加わったようだ。
「まあ、及第点だろ」
遠くから大部隊と共にゼクス連隊の狩りを見守るフレデリカの他の連隊指揮官達。イーグルの兵が敵の犬をかぎ爪で空中まで引き上げ、そのまま空中でバラバラにしたり、時折タイガーの兵士がその手に持つ斧や大剣、もしくはハンマーで敵の頭や身体を吹き飛ばしたり、ツリーの兵士が木魔法や火魔法、水魔法で敵を遠距離から倒したり、最近編成されたとはいえ、悪くない戦いだと言える。
数分後、集落を覆っていた木魔法の効果が切れると同じくらいの時に、戦いも終了したようで、彼らは犬の死体を一か所に集めあ後、後始末の為に火魔法で火葬をしていた。同時に他の人は周囲への偵察を行いつつ、残った面々で戦利品である食料や羊、馬や武器などなど、全てを一か所に集めていた。
「ボス!狩りが終了したようです」
「よし、戦利品を分配した後、再び前進するぞ」
「分かりました!」
既にライネルの街を発ってから半年が過ぎようとしていた頃、最初は100人くらいしかなかった私の群れも、今では5000人を超える大きな群れになった。もちろん私がカデンリーナや、その他の街で兵士を招集した分もあるが、多くは私達、【百獣之旅団】の名声を聞いて自らついてきた者も多くいる。我々もただ狩りをするわけではなく、ばあちゃんに言われた通り、通りすがった村や街では貧しい人に食料を分け与えたり、村々を襲う害獣や魔獣を討伐したり、時には壊れた村の家を再建したり、迷子の猫を探したり、【善い行いはいずれ善い結果となって戻ってくる】と言うアルルばあちゃんの教えに従って活動をしている。そのおかげか、今でもどんどんと加入希望者が後を絶えず、連隊は数を増やす一方だった。かなり厳しい訓練や鍛錬を乗り越えた者だけが我々の群れに入る事を許しており、残念ながら訓練を乗り越えられなかった者は、路銀を持たせて街に帰らせているのだが、どうやらそんな彼らも我々の話や行いを広めているようで、それも相まってどんどんと群れに加わる人数が増えている。
「続けるぞ、全部隊このまま直進、同時に西へ偵察を送れ、東は確か山々だったはず、羊達は西に行ったはずだ。そろそろ犬の大軍と遭遇するかもしれない。全員しっかりと休み、しっかりと準備するように」
「イエス!ボス!」
遠くから見た時より数倍増えている気がする戦利品を、それぞれの対応するアイテムバッグに入れつつ、フレデリカは生き残って捕虜になっていた数人の犬の捕虜を尋問部隊に引き渡し、彼らの口を割らせて本拠地の居場所を聞き出すように指示を出した。
残念ながら既に半年経っているが、未だにサイス族の本拠地は見つかっておらず、大型集落は既にいくつも陥落させたが、サイス族の王がいると思わしき集落や場所は未だ見つかっていない。途中で似たような蛮族であるテュルク族は既にいくつも襲撃しており、彼らの馬、特によく走り、赤い汗を流す馬は大量に鹵獲しているし、今の我々の主な軍馬でもある。
「ボス!見つけました!犬の大部隊です!総勢2万頭!」
「羊は!」
「か、数えきれません!」
「よし、後をつけろ、全部隊で夜襲をかける。総員!狩りの準備をしろ!」
百獣之王が率いる大きな群れは、今日も草原をかけていく。傍若無人な百獣之旅団は、まるで台風のように通り過ぎた蛮族達の集落を徹底的に破壊し、そのまま草原の奥へと消えていく。その群れは留まる事を知らず、どんどんと群れを大きくし、まるで草原を飲み込むように、どんどんと成長していった。




