新ライネル領Ⅱ
「ふむ、他国や他領のスパイではなさそうですね」
「そりゃそうだろう、子供のスパイは見たことあるが、それはお前のスキルで看破できるだろう」
「もちろんです」
小宵の悪魔技能である[罪と罰]は、対象の欺瞞と本性を見抜き、それに見合った処罰を繰り出せると言う便利なスキルだ。もちろん善人には発動しないし、自分の事を正義だと思い込んでいるサイコパスにもきちんと罰が与えられる。
「パパお腹がすいてるのかな?」
「そうかもしれない」
「旦那様、こちらを」
5歳か6歳くらいの、小さなナイフを持った少女に3人は近づき、クロウが膝を曲げて少女に話しかけた。
「お前、腹、減ってないか?」
小宵から今朝焼いたおやつ用の塩パンを少女の前に突き出す。
「ほれ、食え」
「.....ッ」
まだ少女は警戒しているようだが、その視線は既に焼きたての塩パンに釘付けになっている。
「[龍眼]」
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名前:未定
職業:なし
出自:戦災孤児
家系:古フリードリヒ兵団の末裔
種族:人間
Lv:1
才能:【戦いのための戦い】
好物:肉
嫌いな物:野菜、嘘吐き
スキル:【隠れるE】【近接格闘E】【野外生存D】
筋力:E
知力:D
俊敏:D
体力:E
魔力:E
幸運:E
説明:南方の貴族と蛮族の戦いの最前線の街にいた少女。蛮族に貴族軍が負けたせいで、街を焼かれ、家族を全員殺された。蛮族に奴隷として攫われたが、命からがら最近ライネル領への馬車に紛れ込んでやってきた。推定6歳。
【戦いのための戦い】の効果:戦えば戦うほど強くなる。あらゆる軍備鹵獲品が数倍になる。
【古フリードリヒ兵団の末裔】:古代の有名な傭兵団の末裔、軍団統治と軍団指揮、兵士育成等のスキルを獲得しやすくなる。戦闘及び戦争における獲得経験値がそれなりに増える。
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「腹減ってるんだろ、お前、うち来いよ」
「?」
クロウはすっかりしゃがみこんで、目の前の少女と視線が同じ高さになるように向き直る。
「ほら、食え」
不器用に少女の身体にパンを押し付け、ついでに少女が握っていた鉄のナイフをちょいっと取り上げる。
「ほれ、水」
水魔法で飲料水を作り出し、パンをガシガシ食べる少女に近づける。予想通りパンを喉に詰まらせた彼女は、目の前に浮いている飲料水を慌てて飲もうとして、思わず顔ごと突っ込んだ。
「ぶはっ!」
急いで水から顔を出そうとして、思わず後ろに尻餅をついてしまう。
「お前、家来るか?毎日そのパン食えるぞ」
「......」
クロウは少女に手を差し出す。少女は目の前のしゃがんでいる男と、その両横にいる、黄金の瞳のメイドと、深紅の瞳の令嬢を見て、手を差し出した男の指を力いっぱい掴んだ。
「行く」
「よし、じゃあ行こうか」
クロウは塩パン1つで拾った少女を抱え上げ、そのまま屋敷へ歩いて戻った。
屋敷に戻った後、クロウは小宵にずっと抱きかかえていたボロボロの服を着た少女を渡す。そのまま小宵に彼女を風呂に入れる事と、軽い食事を取らせた後、適当な空き部屋に寝かせつけるように言った。抱きかかえて帰る最中に、色々と彼女とお話をしていたから、なんか少し懐かれたのか、少女を下ろす時に、彼女は少し悲しそうな顔をしていた。
「メルティ、名前どうするよ?」
「ん?あっ、あの子の?」
「うん、何にしようかな」
「パパの[龍眼]で名前とか分からなかった?」
「名前は未定だったけど、出自はなんか古代フリードリヒ兵団の末裔らしい」
「フリードリヒ....じゃあフレデリカで」
「ああ、女性の、よし、それで行こう」
「それで、なんでパパあの子を連れて帰ってきたの?」
「いやぁ去年にほら、自分の私兵団を作りたいって言ってたじゃん」
「行ってたね、でももうあるんじゃないの?」
「あー、今の奴らは既存の傭兵団を吸収合併しただけだからね、あんまり信じてない」
「と言う事は、彼女を筆頭に、一から作り上げたいって事?」
「そゆこと」
「それはそれは、またなんかすごい大きな事を考えてるね」
「どうせなら騎士団としても活動できるようにしたいから、きちんと子供の頃から騎士になる修業もさせよう」
「なるほどね、そこらへんはどうしようか、あたし騎士の事知らないし」
「アルルに聞いてみるか、むしろアルルの場所に送り付けるか?それともアルルを連れてくるか?」
「旦那様、そういう事ならお任せください」
「え?ああ、小宵?え?騎士の教育とかできるの?」
「できますよ」
「そうなの!?」
「言い方は悪いですけど、基本私達メイドや執事の内容と大差ないですよ、ただその中にいわゆる【武芸】や【騎乗】みたいな、戦いに重きを置く事があるのと、成人したら旦那様が叙任式をしないといけないくらいで」
「あっそうなんだ....そうなのか?」
「お任せください」
「分かった、彼女、フレデリカはもう寝た?」
「はい、今は小部屋ですやすやと眠っています」
「分かった。もう夜も遅いし、翌朝アルルの所へ行って、新しく少女を拾ったて言う事と、ついでに騎士について何を教えればいいかも聞いてみてくれ」
「分かりました」
「よし、俺らも風呂入ってそろそろ寝るか」
「そうしましょう」
「私もそろそろ眠いから先に寝ちゃうね、お休み小宵、パパ」
「おう、お休みメルティ」
「おやすみなさい」
メルティは欠伸をしながら一足先に自分の部屋に戻る。クロウも小宵に翌日の朝食のリクエストをしてから、きちんと風呂に入ってから自室に戻って眠った。
翌日、目を覚ましたフレデリカは空腹で自分の部屋からダイニングまでとてとてと歩いてきたので、早速クロウが彼女に挨拶をして、彼女に色々と話し始めた。
「おはようフレデリカ、あっ、そうそう、君の名前、フレデリカ、どう?」
少女は頷く。どうやら気に入ったようだ。
「よしフレデリカ、はいこれ、君の御椀とお皿、箸とコップね、自分で覚えられそう?名前書く?あっ書けないか、まずはそこからか」
あまり上手に箸とかスプーンが作れないようで、ぼろぼろと周りにご飯を零してしまっている。
「あらら、まあいいや、フレデリカ聞いてくれ、先に言うけど、私は君を騎士にしたいんだ、そうそう、おっきくて、ごっつい鎧を着た人ね、そそ、見た事あるんだ。そう、騎士になるといろんな人に尊敬されるようになるし、それにすっごい強くなるんだ、幸いここにも騎士育成学校もあるんだけど、まだ君は小さいから、まずは小宵お姉ちゃんに教えてもらわない?」
「お任せください。食事マナー等を教えます」
「うんうん、フレデリカ、それでいい?」
まだ小さいと思うけど、一応彼女の意思も確認する。きちんと頷いたので、小宵にもクロウは合図を出した。
「分かりました。ではフレデリカ、今日から早速始めましょう」
そう言いながら、小宵は椅子を引いて少女の傍に座り、まずは彼女にフォークとナイフの使い方を教え始めた。




