ライネル領変革Ⅰ
ブラッキーが魔法陣に飲み込まれてしまったので、新しく使い魔を召喚しようかと思ったが、それはそれでブラッキーを裏切ったような気持ちなるので、暫くは新しい使い魔を召喚しないでおこうと思った。
「ん?クロウ殿、ここにいたか」
「ああ、紅茶を飲んでいたんだ」
「ご一緒しても?」
「どうぞ」
「マーノ!」
クロエの呼び声と共に、マーノもやってくる。彼女はクロエの為に紅茶を入れ、ワゴンに置かれたイチゴのスコーンの皿を見つけて、おかわりを取りに行った。
「そうそう、ベレンツァ卿への手紙はもう出したよ。早馬で2日かかるだろうが、すぐに承諾し、大量の難民が流れてくるだろう」
「了解、とりあえず住民票の発行とか準備を始めるよ」
「ちなみに聞くけど、その住民票は何に使うんだ?」
「う~ん、長い話になるけどいい?」
「大丈夫だ、聞かせてくれ」
「魔道具で少し特殊な住民票、というか身分証明書を作ろうと思ってね、木と鉄でできた小さなカードに魔道具で名前と住所と、DNA、まあ要するに髪の毛か血の情報登録する予定なんだ。特殊な機械を通さないと読み取れないけど、名前だけは誰でも見えるようにする予定。それを元にそれぞれ仕事や家を割り振る予定。それでここからが狙いなんだけど、ここからさらにいわゆる貢献ポイント機能を追加する予定。ライネル領の為に仕事をしたらそれに応じて貢献ポイントが溜まり、それに応じてより良い家に引っ越す事に割引が手に入ったり、納める税金が減ったりとかね。もちろん逆に悪い事したら貢献ポイントは減るし、0を下回ったりしたら最悪投獄する。そこらへんはバランスが必要だけど、まあそれはライネル領の領法を改める時に一緒に発表しようと思ってるよ」
「それはもしや、古代のギルドカードでは?」
「そんな立派な物じゃないけど、似てるかな」
「もし本当にそんなものが発行できるなら、画期的過ぎるぞ」
「出来る出来る、明日までにプロトタイプを作っておくよ」
「分かった、楽しみにしておく」
「次に大事なのは仕事の割り振りと税金についてだな。一応聞くけどライネル領ではどんな税金システムだったんだ?」
「人頭税だ」
「あー、それ撤廃ね。これからは累進課税にしよう」
「るいしんかぜい?」
「累進課税は、一年の収入が多ければ多いほど税金が多くなるけど、少ない人は少しで良いよって事。あんまり厳しくし過ぎると、仕事に対する意欲が減るから、それを貢献ポイントで、この累進課税の税率を減らせるようにする。そうすると商人や豪商がやる気を出すと思う。同時に墾田私財法に似た法律もだそう」
「な、なんだその名前の法律とは?」
「これもライネル領内できちんとしておこうと思うけど、俺は貴族出身じゃないから、貴族特有の選民意識もない。だから法律の元では貴族も平民も平等に裁かれるべきだと思ってる。それは大丈夫?」
「大丈夫じゃないな、絶対他人にそれ言ったらダメだぞクロウ殿」
「分かった。クロエだけにしておく。それでこの法律の話なんだけど、要するに【自分で開拓した土地は自分のモノ】って事。これから新しい領民をどんどんと取り入れる予定だからね。最低限度の土地は与えるけど、それ以外は自力で開拓してもらうためにこの法律を成立する予定だ。もちろん豪商が大量の土地を手に入れるかもしれないけど、それもさっき言った累進課税制度でごっそり貰う予定。領内に巨大な荘園を持つ人もでてくるかもしれないけど、税金払えなかったら結局押収するから特に気にしない」
「なるほどな」
「他にも色々整備しないといけない法律はあるけど、まずはいろんな場所から人を呼びたいからね、ついでに商業組合とか色々な細かい法律もあるけど、全部順序立てて発表する予定だから、そこらへんはまた今度一緒に突き詰めよう」
「分かった」
「話を戻すと、次に色々な福祉についてだね」
「福祉とは?」
「領民が安心して暮らせるようにする色々な事、かな?要は領民の幸福度を上げたいのよ、幸福度と出生率はある程度までは比例してるから」
「なるほど」
「そそ、だから税金の一部をそれこそお年寄りの為に使ったり、家事や治安維持部隊に使ったり、みたいにね」
「ふむふむ」
「そうする事によって、商人は安心して商売できるし、領民は火事や犯罪に怯える事も減るから、これは領民を増やすなら必須だと思う。それでそれらの福祉に関わる仕事なんだけど、【消火】【治安維持】【魔獣狩り】みたいなのから始めようと思う。【消火】は水魔法スキルを使える人、もしくは覚えるつもりがある人、【治安維持】はまあ治安維持部隊だよ。そのまんまだね。【魔獣狩り】はライネル領内の食用肉の流通を安定させるために、騎士団や戦闘が出来る人達で構成して、周辺で獣狩りをしてもらおうと思っているよ。もちろん酪農家もいると思うけど、たまに病気や魔獣の森の大氾濫みたいな事が起きると危ないからね。【治安維持】【魔獣狩り】の部隊はいざっていうときに戦闘力にもなるし。後そうだ、初期の内は【治安維持】や【魔獣狩り】の部隊に戦闘を行ってもらうけど、税収が安定してきたり、金庫も埋まってきたら、職業兵士、ないしは職業軍人をきちんと作る予定だから」
「傭兵のようなやつらの事か?」
「そうそう、でも傭兵って金と引き換えに仕事するから、あんまりライネル領とかにかける思いとかないじゃん?でも墾田私財法があるから、自分の土地を守るための人々が自ら戦うのが一番士気が高くなると思う」
「確かに、傭兵達は失う物が自分の命しかないからな、たまにすぐに命が惜しくて逃げ出す者も多い」
「そういうの損だから、いっそ自分達で編成した方が良いよね。これは俺が直々に指導するからまあ安心してくれ。世界で最強の兵士達にしてやる」
「それは頼もしい」
「そういうわけだ、まずは身分証明書の発行と、まずは領地の大改築だな、どうしよう、屋敷も改築したいんだけど、やめた方が良い?」
「う~ん、増築だけなら」
「じゃあまずは領内の空き部屋からにしようかな。そうそう、それで相談なんだけど、領内を区画分けしようと思ってるんだ。悪手かもしれないけど、ある程度の向上心を焚きつけらるかなって」
「具体的に言うと?」
「ここの屋敷を中心に、ここに近ければ近いほど良い家や便利な施設にしようかなって、それからどんどんと外に行くにつれて少しボロい家にしようかなって。もちろん最低限度の家として機能はしてるけど、冷蔵庫とかサスペンション付き馬車はここまで来れない、みたいなね」
「それは良いのか?また暴動の火種に」
「そこはまあいくつか方法を用意するから、大丈夫大丈夫」
「ならいいけど」
「よし、じゃあ時間もそろそろ出し、そろそろ屋敷に戻ろう」
クロウが外を差すと、既に日が沈んでいた。
「何、もうこんなに時間が」
「夕食にしよう、メルティもそろそろ起きる時間だろうし」
「分かった、マーノ、用意を頼む」
「分かりました」
クロウ達3人はそろって屋敷へ戻った。一旦部屋に戻ったクロウ。流石のメルティも目を覚ましていたようで、ベッドでう~んと可愛い声で身体を伸ばしていた。
「夕飯食べる?」
「食べる!」
ぴょんとベッドから飛び降り、普段着に着替えるために彼女はクローゼットへ入った。クロウも少し服を着替えたかったので、メルティが出てきた後、自分ももっとラフな格好に着替えた。




