ライネル伯爵領XIX-フェンデル軍殲滅戦
「おはようございます、メルティ様」
「んあ?ふぁ~、おはようアンネ、私眠ってたの?」
「はい、数時間だけですが、眠っていました」
「ん、流石に私も疲れてたのかな?まあいいや」
メルティはアイテムバッグから携帯食料を取り出し、ボリボリとそのカロリーと栄養を圧縮したクッキー状の固形食をかじりなら早速自分のドーベルマンとジークを呼びつけた。
「ドーベルマン、報告お願い」
「まずはおはようございます、メルティさん、まずはですが、昨晩の内に森林地帯から残存しているライネル騎士団の団員達と合流し、既にフェナード・ファイーム領内の資源と共にライネル領へ戻る馬車に乗って帰還させています。残念ながら全員かなりの怪我と衰弱ぶりで、戦力になりそうな人は1人もいませんでした」
「そうか、だが生存者を確保できて良かった。彼らには早く領内で休息を取ってほしい所だ」
「同時に、グイーリの部隊は既にゲリラ戦の準備を始めております」
「偵察は?」
「はい、現在フェンデル軍は森林地帯の手前約1kmの場所で集合中、まだ集合が終わっていないようで、後方から続々と軽装備の兵士がやってきています」
「現在の相手の軍編成は?」
「騎兵が約5000、残りは全て軽装歩兵です」
「ジークの部隊のような重装騎兵?」
「いえ、馬はそのままで、騎兵だけが軽鎧を身に着けていました」
「良かった、ならまだ倒せそうね、ジーク、準備は出来てる?」
「はい、騎兵隊は既に森を通過中、合図さえ出せばいつでも森を突破して相手の後方に突撃可能です、重装歩兵隊は少し鎧を外して、森林での戦闘のために備えてあります。こちらも既に森林内で現在潜伏中、残りの半分は鎧はそのまま、騎兵隊と共に迂回中。弓兵隊も鎧を外し、森林地帯の各所で潜伏しております」
「よし、ならドーベルマン、相手が移動を開始したら作戦準備を開始して、相手の騎兵部隊が全員森に侵入したら攻撃を開始して、相手の歩兵部隊は森の外で騎兵隊の突撃と重装歩兵で十分よ、騎兵隊はなるべく森の中で、できるなら上の騎士だけを殺して、無理なら馬ごとでも構わないわ、1人たりとも森林地帯を抜けさせないで、辛い戦いになるけど、幸運を祈るわ」
「「はっ」」
メルティの指示を受け取ったドーベルマンとジークは一礼すると、すぐさま行動を開始した。メルティもフェナード卿の執務室で大量の書類を処理つつ、アンネの入れてくれた紅茶を飲みながら、自分の仕事を再開した。
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「出発」
森林地帯を抜けるために、まずは周囲の警戒もかねて数名の偵察を森の中へ送る。フェンデル伯に言われるがまま、こうして卿の私欲の為に日に日に衰えるライネル領へ進軍を開始している。私も元は誇り高き騎士だったはずだが、一体どこで歯車が狂ってしまったのかはもう覚えていない。ただ、名誉ある戦いはいつしか金銭と欲に塗れた人々による遊戯になり、私達はしょせん彼らにとっての、道具に過ぎないのだと思う。
「隊長、森が見えてきました。偵察の話によると、特に異常はないそうです」
馬に乗って報告に来た私の部下の報告を聞く。横にも偵察兵の姿があり、どうやら先行して偵察をした所、森林地帯に問題はなさそうだ。格別非常に大きいと言うわけではないが、5000の騎兵をすっぽりを覆い隠せる程には深い森林、念には念を込めた方が良いだろう。
「よし、行くぞ、まずは我々騎兵隊が素早く通過する」
私は後方の騎兵達に合図を出し、少し速足で森へ入る事にした。もうかれこれ数十年は手入れされていない森林だ、当然舗装された道も、人によって踏み均された道もなく、どうにか器用に、ゆっくりとだが馬に通れる道を探して、あちらこちらへと進行方向を変えながら行かせて進むしかなかった。中には馬に降りて進む者もおり、先頭を行く渡しの後に続いてぞろぞろと長い列ができてしまっていた。
「もうすぐ森を抜けるぞ!」
大きな声を出して後方にいる仲間達に知らせる。私の目の前には森の鬱蒼とした木々の幹の隙間から、開けた平原が既に見えていたからだ。ようやく森を抜けられると思い、私も乗っている馬に合図を出して少しペースを上げようと思った矢先、がくんと突如馬ごと地面に叩きつけられる。
「いだだ、なんだ?」
兜をかぶっているせいで、少し状況把握が遅れたが、どうやら誰かが掘った落とし穴に馬が落ち、その衝撃で私も前方の地面に投げ出されたようだ。
「!?しまっ...」
立ち上がり、落とし穴に引っかかったと言う事実に気が付き、すぐさま大声を出そうと思ったが、油断した私の後方から何者かが私を物凄い力で突き飛ばした。
「ぐはっ!」
「わりぃな騎士様、あんたにここで声を出されるわけにはいかないんだ、恨むんならフェンデル卿を恨むんだな」
革鎧の男が突き飛ばした私の頭を両手でつかむ。少し私の頭を持ち上げ、首関節の下に少し大きな石を置いたと思うと、私の頭には大きな衝撃が加えられ、意識を失った。
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森林地帯にぞろぞろと入ってきた騎兵達を見下ろせるほど高い木の上に立っているドーベルマンは、騎兵の最後尾もきちんと森に入った事を確認すると、合図の代わりに弓をつがえて騎兵の内の1人の馬の腹部に矢を放った。
「わっ!なんだ!敵襲か!?」
大きな音で驚き、嘶く馬をコントロールしようとしたその騎兵は、森の中で上手く制御できず、思わず前後の仲間の馬にぶつかってしまう
「おい!落ち着けって!」
「バカ!こっちに来るな!」
ぶつけらえた馬も同じく動揺して、その動揺が並みのように伝播し、騎兵の列はあっとまに崩れてしまった。
「ピロロロロ!」
特別な高音の笛の音が森中に響き渡る。人間には特に害はないが、馬がその音を聞いた瞬間、物凄い勢いで暴れ出し、上に乗っている人間を振り落として逃げ出そうとしていた。
「【魔笛】か!」
誰かがそう叫んだが、時すでに遅く、森の中では暴れ出す馬に振り落とされる騎士と、逃げ出す馬を掴めようとする騎士と、もうぐちゃぐちゃの大混乱になっていた。
「攻撃開始」
「グイーリ!やれ!」
ドーベルマンとジークの合図により、森の中には突如として大量の兵士が出現した。革の装備を身に着けた兵士は手慣れた動作で馬ごと騎士をひっくり返し、そのまま地面に叩きつけられた騎士の鎧の隙間から手と足の筋を短剣で斬る。致命傷ではないものの、短期間の間に適切な処置を受けないと、今後は以前のように歩いたり物を持ったりするのは難しそうだ。
もちろん反撃に出ようとした騎兵もいたが、鬱蒼とする森の中では上手く馬も扱えず、少し脱いだとは言え、重たい鎧も森の中では逆に不利になり、あっという間に5000人の騎士はグイーリの部隊とジークの歩兵隊によって森の中で戦闘能力を失ってしまった。それと同時刻、森の中に入ろうとしていたフェンデル卿の歩兵部隊も突如として森の中から現れたジークの騎兵の突撃を受けてしまい、陣形はバラバラに破壊され、さらにはそんな騎兵の後続である重装歩兵に襲いかかられ、人数は圧倒的に上のはずなのに、指揮官も最初の騎兵の突撃で串刺しにされ、壊滅した歩兵部隊はただただ騎兵部隊にひき殺されるか、襲い掛かる重装歩兵に切り殺されるかの2択しかなかった




