ライネル伯爵領XVII-メルティの策略
暫くメルティ視点です
クロウが屋敷で今後のライネル領の策略を書き記している間、メルティは慎重に進軍していた。
「ドーベルマン!ジーク!集合!」
行軍の最前線で黒豹に乗り、全軍を先導していたメルティは、大きな声でそれぞれの指揮官に集合をかけた。
「はっ!」
「来たよ」
ドーベルマンは走って、ジークは馬に乗って先頭にいるメルティの傍にやってきた。
「2人に聞きたい事があるんだけど」
「はい」
「どうぞ」
「まずはドーベルマン、もとい貴方の部隊についてなんだけど、もしかしなくてもあんまり正面戦闘には向いてないよね?」
「ぐっ、その通りです」
「あなたの部隊の脚運びや、装備から大体予想してみるんだけど、もしかして貴方込みで本当に得意なのは...敵軍偵察、もしくは威力偵察?それから...諜報?」
「.....ご慧眼、恐れ入ります。その通りです。私、ドーベルマンの本職は護衛と偵察、1対1の戦闘、狭い場所ではそこそこ戦えますが、平原での集団戦闘は、非常に残念ながらそこのジークに勝てた試しがありません」
「お見事です、彼女の言う通り、私は偵察や護衛はあまり得意ではありませんが、小さい部隊から大きな軍集団まで難なく指揮できます。それだけではなく、練兵もよく任されていました」
「やっぱりね、初めて会った時から貴方の部隊の統一性には驚いていたわ」
「お褒めに預かり光栄です」
「私の説明も必要かしら?」
「いえ、クロエさんが貴方に我々の指揮を任せたのです。我々は無条件で貴方に従います」
「同じく」
ジークもドーベルマンも、自分の武器を抜いて刃先を上に向け、自分の左胸に武器を柄を添えてメルティに敬礼した。
「なるほどね、貴方達、本当はライネル伯爵から離れたくなかったんじゃない?」
「その通りです」
「同じく」
「もしかしなくても、ベレンツァ卿がライネル伯爵、それと日々成長するライネル領に恐れをなして、貴方達の指揮官、ヒューズマン卿やギード卿を無理矢理叙勲して土地も与え、ライネル伯爵の力を割いた、と言う所かしら....」
メルティの鋭い指摘に図星を疲れた2人は何も言えずにただ目を丸くするしかなかった。
「大当たりね....ちなみに聞くけど、貴方達を連れてきたあの魔法使いについてはどう思う?」
「そうですね、恐ろしい人としか」
「ああ、ヒューズマン卿と一緒にやってきた時、つい癖で彼の動きや癖から彼の内面や性格を探ろうとしたが、何もかも分からなかった。まるでそこの見えない井戸...いや深淵を覗いているみたいだった」
「よかった、ちなみにあの人は私以上の能力と知性を持つ人だから、絶対に怒らせない事を推奨するわ」
「わかった」
「私もまだ死にたくないので、そうします」
「うんうん、じゃあ、これからの作戦の話をしたいんだけど」
「はい」
「ご指示を」
「少し速度を上げて、フェナード領から少し離れた場所で隠れながら少し休みましょう。夜遅くに移動を始めたし、まずはこの先の丘陵の下、フェナード領からこちらが見えない場所で一度全軍に休憩を入れましょう。同時に作戦の話を始めます」
「「了解」」
おおよそ本家領とフェナード領の中央地点の丘陵に着いた辺りで、メルティは全軍停止の挨拶を出し、全部隊に休息の命令を出した。
「さて、作戦会議を始めましょうか」
丘陵の影、フェナード領からすっぽり隠れた小さな起伏の下で、ドーベルマン、メルティ、ジークは全員向かい合って簡易椅子に座って作戦会議を始めた。
「さて、ここまでの来る道の最中、作戦を立てましたので、早速お伝えします」
「はい」
「聞きましょう」
「まずはドーベルマン、貴方の部下達の最も得意とする作戦行動を教えてください」
「はっ、まずは【ブルーリ】の部隊、約1200人程になりますが、全員が諜報出身であり、あらゆるスパイ行動、その中でも特に、[情報窃取]、[流言]と[要人暗殺]を最も得意としています。次に【イエーリ】部隊は約1000人程であり、[敵情偵察][装備鹵獲][威力偵察]などの、偵察を中心とした作戦に最も優れています。最後に【グイーリ】部隊は1500人で構成され、全員が[破壊工作]と[ゲリラ戦]を最も得意としています」
「ありがとう、ジーク、貴方は?」
「私は今回、特にこれと言った部隊はありませんが、正規訓練と蛮族狩りの経験がある騎兵が1000騎と、2000人の重歩兵、それから1000人の弓兵遊撃部隊を用意してあります」
「ふむふむ、じゃあまずはドーベルマン、イエーリの部隊をなるべく軽装で、まずはフェナード領とその近くにあるファイーム領の偵察をお願い、安全第一で、出来るなら相手の家族構成、現在の軍隊の場所、装備保管庫などの戦略的に重要な施設の場所、それから敵の指揮官の居場所、貴重な資源や重要な資料などの居場所をの偵察をお願い。大まかな場所で良いわ、絶対に無理しないで、危険だと思ったらすぐに撤退させてね」
「分かりました」
「1日で足りるかしら?」
「全部隊を派遣するなら、数時間で達成できます」
「流石ね、ならイエーリの部隊が帰って着次第、ブルーリの部隊の半数とグイーリの部隊の三分の一もそれぞれフェナード領とファイーム領の領内に侵入させて、ブルーリの部隊には可能なら相手の指揮官の暗殺、それと同時に「フェナード卿はファイーム卿に嫉妬しているとか」「ファイーム卿はフェナード卿を殺して成り代わろうとしている」みたいな彼らの仲違いを誘発させて。かなり難しいと思うけど、フェンデル・ファイーム・フェナードの三貴族連合軍を相手するわけにはいかないから、まずはフェナード卿とファイーム卿の心の中に猜疑心を[流言]で植え付けて、その猜疑心を大きくするために、適度にお互いの指揮官や重要な副官の暗殺をお願い。最重要任務はそれだけだわ、残りはもちろん、金庫や資源保管庫の居場所なんて見つかれば、後々私達が乗り込んだ時に全て奪い取る助けにもなるわ」
「承知した」
「同時にグイーリの部隊は城門や防御施設にあらかじめ工作をお願い。扉が閉まらないようにしたり、見張り台を乗っ取ったり破壊したり、相手の警鐘の破壊などなど、とにかく相手に素早く対応されないように、相手の通信手段をことごとく破壊して。防御装置、バリスタ等は破壊しなくても良いわ、あくまで今回は彼らをこの平原で迎え撃つつもりだから、それにすぐさま私達が占領し、フェンデル卿の軍と戦う時の最終防御線にもするつもりだからね」
「了解」
「じゃあ、よろしく、イエーリの部隊には少し休憩をした後、すぐに動いてもらいたいわ。明日の明朝までに情報を持ち帰ってこれる?」
現在の時間は朝、数時間休憩したのちならば、遅くても昼前にはイエーリの部隊が動き出せるはず
「問題ありません、日が沈む前にかなり情報を持ち帰ってきます」
「分かったわ、じゃあよろしくね」
「はっ」
ドーベルマンはいつもの敬礼を素早くメルティにした後、すぐに自分の部隊の元へと向かった。
「さてジーク、次はあなたの軍の事なんだけど」
「はい」
「事前情報からおおよその相手の軍隊の数は知っているわ。フェンデル卿は領内の常備軍のおよそ半数、約1万人を動員したみたい、多分だけどフェナード卿も1万人、ファイーム卿は5000人ね、もしドーベルマン達の作戦が上手く行かず、相手が完璧な連携でこちらと正面から戦う事になったら、平原での2万5千人対こちらのドーベルマンのゲリラ部隊込みで約8000人未満くらいかしら、相手の兵力はこちらの2倍以上と言えるけど、勝算はある?」
「そうですね、正直ドーベルマンの持ち帰る情報次第ですが、正直言って全く負ける気がしないですね」
「え?」
「相手も同じ騎士団となると骨が折れますが、フェナード卿とファイーム卿の軍は恐らく民兵、それもドーベルマンの部隊のような軽装ばかり、メルティさんの言う通り、相手を平原に誘き出せれば、弓矢の餌食になるか、私の騎兵隊に突撃させるか、私の重装歩兵に喰われるか、並みの民兵にはその3つの結末しかありません」
「頼もしいわ、私も似たような作戦を考えていたの、まずはドーベルマンの部隊にフェナードとファイームを仲違いさせ、どちらか一方、もしくは双方の部隊をこの平原におびき寄せた後、弓兵で相手を消耗させたのち、騎兵を突撃させて相手の陣形を徹底破壊、その後捕虜にするなり降伏させるなりしたのち、すぐに相手の領地を占拠、速度を持ってもう一方の相手も叩き潰したのち、できればファイーム卿の街中にフェンデル卿の軍を出来るだけおびき寄せ、そのまま門を閉じて建物ごと丸焼きにするつもりよ」
「結構えげつないですが、最適ですね」
「クロエと約束したからね、これだけじゃまだ足りないわ、捕虜はライネル領に自ら行くか、その場で殺されるかの2択しか与えないわ」
「最適です」
「本当は全員皆殺しにしたいんだけど、ライネル領には今現在人がいないからね、パパ、もといクロウさんなら捕虜もきっと上手に使ってくれるでしょ」
「良いですね」
「先に言っておくけど、私には騎士道精神も正々堂々と戦うつもりも毛頭ないわ。ただ勝つ、そのためなら相手の井戸に毒を投げ入れる事も厭わないわ。もちろん、平民に手をあげるつもりはないし、平民や子供が逃げ出す勧告も猶予も与えるわ、ただ、一度たりとも武器を手に取り、戦闘の意思を見せた時点でなんの容赦も躊躇もなく殺すわ。それでも貴方は良いの?」
メルティは真っ赤な瞳でジークにそうきつく言い放つ。
「構いません、私も職業軍人。敵を、人を殺す事で生きているので、相手が何者であろうとそれくらいの覚悟はできています」
「そう、良い覚悟ね」
メルティはポンとジークの肩に手を置いた。
「じゃあ、任せたわよ、一番の大手柄は、貴方に譲ってあげる」
「ありがとうございます」
「じゃあ、私は暫く休んでくるわ」
「私も、部隊に大まかな作戦概要と指示を出してきます」
「ええ、よろしく」
メルティは握りこぶしをジークに突き出す。ジークも彼女の拳に自分の拳を軽くぶつけ、それを合図にお互いそれぞれ今回の作戦について動き出した。




