ライネル伯爵領XIV
「あい、と言う事でクロエさん後はお願いします」
驚きとか色々な感情で一周回って悲しい顔をしているクロエと、久しぶりにクロエに会って嬉しさと全速行軍で数時間かかる移動を一瞬で行った驚きで、2人共形容しがたい顔をしていた。
「えっ?えっ?えぇ??」
「はい次はギード卿の場所に行くので、メルティ!クロエ!後はよろしく!では!」
眠気はないけどそろそろ眠たい時間なので、クロウも[エアロマニューバ]で空に飛び上がり、本家領から西の方へ飛んでいった。
「うおぉ、でかいな」
ヒューズマン領へ行く時より数分の時間がかかったが、ギード領は以外にも大きい。あまり駐屯地や詰所は見えなかったが、その代わりに巨大な農地や牧場がかなり多く存在していた。
「伝令!ライネル伯爵様より伝令!フェナード卿の裏切りによりクララ様はフェンデル卿に囚われた!それに加え現在フェンデル軍が侵攻中、大至急増援の用意を!」
巨大な農地を奥へと飛んでいき、居住区らしきエリアにやってきたクロウ。同じく地面に降り立ち、大きな声でそういうと、ぞろぞろと居住区の奥から馬に乗ったフルプレートの騎士達が集まってきた。
「こんばんは伝令殿、私はギード男爵の配下、【ジーク】と申します。階級は中佐、こちらは私の率いる第一、第二連隊です、敬礼!」
「はっ!」
非常に品格のある、鋭いナイフのような黒髪褐色の青年が現れた。仕立ての良いライネル紋章の入った軍服を着ており、先ほどまで乗っていた白馬も非常に大きく、筋肉質な品種だ。ジークの第一連隊は全員軽鎧を着せた戦馬に乗っており、馬に乗った騎士達もみんな薄くて丈夫なフルプレートアーマーを着ている。同時に右手には分厚いランスが握られている。第二連隊は馬には乗っておらず、全員が急所をしっかりと守る軽鎧を着ており、左手には長方形の大盾、右手には長い槍を装備している。そして第一第二連隊共に腰にも約60cmほどの分厚い剣を所持していた。
「すごい洗練されているな」
ヒューズマン領で何度も見た敬礼をされるクロウ。やはりライネル伯爵の元副官だけあって、一般的な兵士や軍隊なら一瞬で壊滅させられるだろうと言う気迫があった。
「我々は元より全てライネル伯爵に育てられた身分です。ベレンツァ卿は我々に恐れをなし、私達をライネル伯爵より引きはがしましたが、この身は死んでもライネル伯爵のために尽くす所存です」
「我らライネル伯爵の為に!」「我らライネル伯爵の為に!」
士気も非常に高い。兵士の多くは新兵のようだが、大隊長なども兵士上がりのようで、隊長クラスの兵士殺気や剣の使い込みから、盗賊狩りや野獣狩り、もしくは小規模な戦闘もこなしたことがあるのかもしれない。
「よし、では早速いくぞ」
「分かりました、すぐに出立を」
「[軍団転移]」
ジークが合図を出す前に、こちらも同じく悪魔技能でクロエの元へ全員転移させる。
「うおっ、驚きました。お久しぶりですお嬢様、そしてドーベルさん」
「なんだジークか、何をしに来た」
「クララお嬢様を助けに来たんですよ、貴方は何をしに?」
「見てわかるだろ、救出だよ」
「はっ、必要ありません、我々だけで十分です!」
「く、クロエ様!騎士団が帰ってきました!けれど、けれど....」
「マーノ、落ち着いて」
「カデンリーナからの流民に化けたフェンデル伯爵の兵士達にみんな殺されてしまいました...伝令さんも命からがら戻ってきて...今は街の療養所で生死を彷徨っています」
「それは本当なんだなマーノ!」
「は、はい...こ、これ」
「これは...団長の...」
ライネルの紋章が刻まれた、槍と獅子を模した血まみれのブローチ。純金で出来たアイテムであり、使い込まれた一品ではあるが、大切にされてきた事は誰が見てもわかる。
「ライネル騎士団団長の証である【獅子心】が...」
「黙祷!」
クロエは真夜中なのにもかかわらず、寝間着なのにも関わらず、体中をなわなわ振るわせて、苦痛と悲痛に顔をゆがめて、溢れ出る涙も止められず、自分の感情を吹き飛ばすように大きな声でそう言った。
「.....」
【ドーベルマン】も【ジーク】もマーノも、何も言わずに山賊に殲滅させられたライネル騎士団に追悼の意を示した。
「メルティ殿...私にはジークやドーベルマンような兵を率いる才能がない、クロウ殿のような魔法の腕も、貴方のような戦闘力もない...だから頼む、どうかクララを助け出し、フェンデル軍を徹底的に壊滅させてください」
「分かった、クロエ、約束する。一人残らず血祭りにあげると」
クロエはメルティにだけ見えるように泣き顔を見せ、そのまま彼女の胸元へ抱き着いた。ジークもドーベルマンもマーノも非常に険しい顔をしているので、近くにいたマーノに聞いてみると
「団長は....ライネル騎士団団長はクロエ様の幼馴染でした。小さい頃からペイジとしてクロエ様と一緒に育ったんです。私もよく知っている人物でした。若くて非常に優秀な人で、過去に魔獣の森大氾濫でも最前線で戦っていた人物でした....」
「そうだったんだ...」
彼女の悲しみの中に恋慕の感情が入り混じっているかは分からないが、そんな人が命を落としたのはとっても悲しいはずだ。クロウも黙祷する。
「メルティ殿、後は頼んだ。私は....もう休む」
「はい、おやすみなさい」
マーノに悲しさで引き攣る肩を抱かれ、とぼとぼと悲しい背中を全員に見られながら屋敷へと帰っていく。
「ごめんねパパ、本当は適度に押し返そうと思ってたんだけど、パパがジークさん達を呼びに行ってる間に、クロエちゃんの昔話とかみんなで話してて、その中にも団長の...【グラン】君の話も聞いちゃったから、手加減できないかも」
「いや、俺も気が変わった。いいよ今回は、全力でやっても、ライネル伯爵が倒れてから、フェンデル伯爵もだいぶ舐めてるみたいだし、いけるところまで行っても良いよ、それこそフェンデル伯爵領まででも」
「分かった、見ててねパパ」
メルティもだいぶ戦意が高まっているようで、彼女の深紅の瞳には見る人を、見られた人を高揚させるような、そんな熱意が煌々と発せられていた。
「それじゃあ【ジーク】【ドーベルマン】、2人共メルティの指揮下に加わる事になるけど、それに異論はある?」
「いえ、ありません、クロエ様が信じた相手を私も信じます」
「同じくです」
【新ライネル軍が形成されました。総指揮官・メルティも元へ加わります。[軍備補充]が使用できるようになりました】
「[軍備補充]」
クロウが少し開けた場所でそういうと、大量の軍馬や日持ちする食料、槍や武器など、数えられなくらいの装備が出現した。
「メルティ、今回の戦闘に必要な物はだいたいこれで足りるはずだ、検収したのちに適切に配分してくれ、そしてそのまま南部戦線へ移動を開始してくれ、俺は一足先にクララを救出してくる」
「分かった、任せたよ、ジークさん、ドーベルマンさん、装備の分配をお願い、それが終わり次第、街の南部で待ち合わせね」
「[使い魔召喚・ブラックパンサー]」
クロウの足元から大きな黒豹が現れる。クロウは近づいてそれをなでなでしながら魔獣の肉を喰わせる。
「よしよし、これからは彼女言う事を聞くんだぞ、それから、彼女に危険が及んだら、迷わず助けてやってくれ」
猫に近い声で鳴きながら、黒豹はクロウの腹に自分の頭を数回擦りつけると、メルティの方へと向かった。そしてそのまま頭で背中に乗れとメルティに合図をすると、メルティはすんなりと黒豹に乗る事ができた。
「メルティ、手加減しないでね」
「分かった。見ててね、とびっきりの衝撃を相手に与えてくる!」




