基礎スキル習得タイムⅡ
「飯だ、ちっ」
再び一週間が経った頃の夜、[魔力感知]と[魔力吸収]は少しずつだが確実に熟練度を増していた。[魔力探知]はMPの持つ限りずっと使用している。脳への負担も少しずつ慣れてきた。もっとランクが上がれば取捨選択もできるようになるが、それももう少し高ランクになってから。[魔力吸収]は飯を持ってくる時間になるたび、あの男から直接受け取るようにしている。その時に軽く触れ、一瞬だけ吸収する。[魔力吸収]は非常に伸びが悪いが、[魔力感知]の方はメキメキと伸びていく。
「あー」
「はいはい」
いつもの様子で104番の少女に餌付けをし、57番の少年にも渡し食事を分ける。食べ終わた少女をいつものように寝かし、少年にお休みを告げ、再び全力で[魔力感知]を使用する。少しずつ、少しずつだが、脳に入る魔力の源、魔力の塊を少しずつ広げて、増やしていく。最初は半径2mだったが、少しずつ、1cmずつでもいいので感知範囲を広げる。一週間かけてようやく半径3mになったが、ランクは上がらない。
気が付けば朝になり、再び朝食が渡される。だが、今回はいつもと違い、今回はクロウではなく少女の方に渡された。
「104番、行くぞ」
いつもクロウを連れて行く男は、今回は少女の首元の鎖を引っ張っていく。
「あー!あー!」
「随分と元気になったな、その調子なら大丈夫そうだ」
「待て!」
クロウは男に掴みかかろうとしたが、一瞬で腹部に蹴りを入れられ、飛ぶように壁に激突した。
「あー!」
「がはっ....」
何とか起き上がろうとしたが、遠のく意識を繋ぎ止める事はできず、そのまま気を失った。
「....!........!........あ!」
身体を揺する感覚と、幼いながらも懸命な声が聞こえてきて意識が戻る。
「起きたか」
ズキズキする腹部を抑えつつ、身体を起こしてみると、104番の少女が涙になってこちらを見つめていた。
「あ!あああああああ!」
無事に目が覚めた彼女はまだ少しだけ痛い胸元へ顔を埋め、我慢もできないような声で泣き出した。
「気を、失ってたか」
「ああ、起きてこれて良かったよ」
57番の少年を見ると、思わず絶句してしまった。
「おま、その、頭が」
「ついさっきだけど、ああああ頭をいいい、弄られた」
少年は右目だけではなく、その頭にも新しく包帯を巻かれていた。なぜ絶句したかと言えば、その右頭に数本の大きな釘が打ち込まれていたからだ。
「わ、悪い、言葉が、時々上手く話せなくなってるんだ」
「大丈夫だ」
少年は少しだけバツが悪そうに笑うと、少女の方を見るように視線で促した。
「ん?その目?」
どんな実験をされた分からないが、彼女の右目がかなり充血している気がする。それになぜか自分の[魔力感知]が少女の中に魔力がある事を感知している。彼女は今は落ち着いているが、自分のお腹を苦しそうに抑えていた。
「よしよし」
痛がる彼女の腹部に手を当てて[魔力吸収]を発動する。成功した。それと同時に彼女も少しだけ痛みが引いたようで、苦しそうな表情が少し緩んだ気がする。だが、再び[魔力感知]に引っかかる。それと同時に彼女も再び苦しみだした。
「ああ、そういう事か」
再び[魔力吸収]を彼女に使用する。恐らく少女には無理矢理魔族の魔力生成器官を移植されたのだろう。彼女の腹部を手で触ると、新しく包帯が巻かれていた。
「いつもは貰ってばかりだからな、ほら、今日は思いっきりたたたたたたたべてくれ」
57番の少年はスープとパンを半分クロウに差し出す。少女も苦しみながらだが、服の下に隠したパンを差し出した。
数日後、[魔力探知]がBランクになると同時に、周りの魔力源だけではなく、自身の魔力源も感知する事ができるようになった。[魔力吸収]もずっと少女に使用していたおかげで、同じくBランクに上昇した。
[魔力感知B]:半径5m内の魔力を感知する
[魔力吸収B]:触れた対象の魔力を吸収する
[魔力感知]は今では長時間半径5mの魔力源を感知する事ができ、更には簡易的な取捨選択もできるようになった。[魔力吸収]も触れていればずっと吸収する事ができる。
[魔力感知B]になり、自身の魔力源を感知できるようになった今、クロウは再び新しい魔法スキルの習得を始めた。
「.........」
こればかりはクロウでも少し困難を極める魔法スキルだが、絶対に習得しなくてはいけないスキル。自身の魔力塊を感知し、脳内でその塊をごろんと動かすイメージをする。[瞑想A]のお陰もあって、自身の最奥にある魔力源をすんなり感知する事ができる。自力で習得するのは非常に困難だが、自身のタレントと他のスキルの手助けもあって、2時間ほどで[魔力操作D]を習得できた。
[魔力操作D]:自身の魔力を少しだけ動かす
一般的には死にスキルと言われる、本当に使い所が分からないスキルだと言われている。だがこの後習得するもう一つの魔法スキルと同時に使用する事で、無属性魔法最強の攻撃が完成する。流石に今日は死ぬ気で[魔力操作]を習得したせいか、もう疲労感にも抗えず、胸元で眠る少女を抱きしめたまま、ばたりと眠ってしまった。
翌朝、ゴンと頭に激痛が走ると同時に目が覚める。
「起きろ!飯だ!今日はお前だ!」
いつもの小太りの男がどうやら自分の頭を蹴り飛ばしたようで、鼻から地面へと垂れた血を手で乱雑にふき取り、鼻を手で押さえつつ、朝食に手を伸ばした。
「おおお、おはよう」
「おはよう、今日の調子はどうだ?」
「まあまあだよ」
どうやら自分の分しかないようなので、手早く食事を三等分し、後から入ってきたいつも男に鎖を引っ張られ、数日ぶりの注射を打たれた。もうどれくらい注射をされたか分からないが、あまり強い副作用が出る事は少なくなってきた。
「あらら~、もっと強力な血が必要みたいですねぇ」
「分かりました」
「頑張ってドラゴンの血を持ってきてください」
「は!全ては我らが主の為に!」
「は~い、またねぇ72番君」
クロウは再び乱雑に牢屋に戻された。
「え?なんで床舐めてるの?」
「ああ、彼女は」
牢屋に戻ると、なぜか少女が恍惚とした顔で舌を出して床をぺろぺろとしていた。そして戻ってきたクロウを見つけると、荒い息遣いと共に首元に頭をぐりぐりと擦りつけている。
「なんか、力強いな」
数日前の気弱さは苦しさはなく、今ではぴょんとジャンプして両手両足を使ってしがみついている。
「先ほど地面に垂れた君の血を舐めていたようだ」
「血を....あっ」
抱き着いた彼女の背中に手を回したに違和感を感じた。何か腰の少し上から、何かを突き破りそうな突起がある。
「いー」
「いー!」
少女に歯を見せるようにすると、自分を真似して上下の歯を見せるようにした彼女の犬歯が鋭く伸びてきていた。そして彼女の長い前髪を捲り上げると、充血した両目はいつの間にかすっかり良くなっており、代わりにその瞳が深紅の赤色に変化していていた。
「この様子、吸血鬼か」
「みたいだね」
腹部の包帯もすっかり取れており、痛々しい傷跡も少しずつだが治ってきているようだ。
血への衝動、高い自己治癒力、伸びる犬歯、背中の羽、深紅の瞳
そうやら104番の少女は、あの日ヴァンパイアの魔力製造器官を移植されたようだ。