ライネル伯爵領Ⅸ
「さて、では早速、金策を始めていきましょう」
[使い魔召喚]で数十体の【ノーム】を召喚したクロウは、ブラッキーに召喚したノーム達を引き連れて屋敷の全体の修繕を任せる。その間にクロウはクロエと屋敷の庭の少し広い場所で、アイテムバッグから以前に魔獣の森で編み出した自作の布を取り出す。
「これが私が新たな【ライネルクロス】として売り出そうとしている生地の元になる布です」
「む?思ったより普通だな、なるほど、軽くて丈夫、肌触りも悪くないな」
「そうですね、私もよく肌着や部屋着にしている生地です。特殊な方法で品種改良した[魔蚕]が吐き出したシルクと、こちらも特殊な交配を繰り返した【魔綿】を元に作り出しました。それぞれの糸に魔力が籠っており、ある程度の防刃、防火性能があります、ですが着用者の魔力を吸ってその効果を発動する衣類なので、ある意味では言えばこれは【呪いの装備】になりますね」
「えっ…」
「もちろんそんな物を売り出すわけにはいかないので、ここ、ライネル領で栽培出来て、かつ着用者の魔力を吸わないような、普通の生地にしましょう」
「えっ、どうやって」
「魔法の力ですよ、それも禁忌のね」
クロウはそう言ってにやりと悪い顔する。
「ですが今から品種改良が終わるなんて都合よく行くわけもないので、まずは口コミを広める所から始めましょう」
「口コミ?」
「ようは噂ですよ、【ライネル領に定住すれば3年免税】とか、【ライネル領から新しい生地が出来たぞ】と言う。しかも【格安の】」
「なるほど…」
「そう言うわけです、まずは残っている領民にそれぞれ路銀を渡して、噂を広めてもらいましょう」
「しかしそんな事をしたら労働力が…」
「手痛いですが、どちらにしろ養蚕場や綿畑を作らないといけないので、構いません。資金はまだありますか?」
「私のへそくりなら」
「充分です、最初は隣町くらいで大丈夫ですので、クロエさんはまずそのお仕事からお願いします」
「分かった」
「そう言えば北部へ向かった騎士団の帰還はいつごとになりそうですか?」
「早くて今晩か明朝だろう」
「まあ彼らが戻ってくる頃には試験場も完成するでしょう」
「彼らには農民の真似をさせるのか?」
「ええ、そのつもりです」
「従うかどうか…」
「でも領主隷下の騎士団ですよね?」
「正確には父上の…だが」
「最悪武力で言う事聞かせましょう。もしくは騎士称号の剥奪」
「分かった…今はなりふり構っていられないからな」
「ご理解感謝致します。では、私は先に綿と蚕の実験場を作りますので、クロエさんは裁縫師、裁縫が出来る方を正午までに召集してください。彼ら彼女らには早速新しい【ライネルクロス】で服等を作ってもらいましょう」
「承知した、では私は」
「いってらっしゃい」
クロエは早速屋敷に戻る。恐らくへそくりを取りにいったのだろう。クロウも空高くスキルで飛び上がって、領内を見渡しつつ、実験場になれそうな場所を探し始めた。
「ここか」
ライネル領西部、魔獣の森とライネル領の間に、小さな川が流れている平原エリアがある。陽当たりもかなり良い広々とした場所だ。綿畑や養蚕場を建てるのにもってこいだ。
「[元素魔法][多重思考][多重詠唱]」
【[二重混合魔法][三重混合魔法][四重混合魔法][五重混合魔法]を覚えました。[魔力支配EX][魔神の芽EX][多重詠唱A][多重思考A]の習得を確認。[二重混合魔法][三重混合魔法][四重混合魔法][五重混合魔法]を統合、[多重混合魔法EX]を習得しました。新しい称号[混沌の魔法使い]を獲得しました】
[多重詠唱]:一度に複数の魔法を発動できる
[多重思考]:一度に複数の物事を考えられる
[多重混合魔法EX]:2つ以上の魔法を自由自在に組み合わせて発動できる
【混沌の魔法使い】:数多くの魔法を混ぜ合わせた魔法使いの称号。魔法混合時のデメリットと制限を無視する
「ぶへっ!」
早速新しく魔法スキルを混合して発動するクロウ。あまりに合わせすぎて脳の処理が追い付かず、[エアロマニューバ]も強制的に解除され、地面に激突した。
「[元素魔法・広域化]と[HPドレイン]と[闇魔法・消滅]と[木魔法・滋養強壮]と[水魔法・降雨]と[土魔法・隆起]と[土魔法・土砂反転]と[火魔法・焼畑]と[土魔法・沈下]と[岩魔法・堅牢化]と[火魔法・蒸発]を全部混ぜて使おうと思ったら頭の処理が追い付かなかった。一個ずつ発動しよ」
まずは[元素魔法・広域化]でこれから発動する魔法を全て広域化する。具体的に言うとまずは1aほどの広さに魔法の効果が及ぶようにする。その1aの平原を全て土魔法で掘り起こし、[HPドレイン]と[闇魔法・消滅]と[木魔法・滋養強壮]を魔獣の森の山脈から持ってきた魔法石に[魔道具製作]で魔法陣を刻んで畑の真ん中に埋めておく。これも効果範囲を1aに設定しておこう。有害生物や有害な植物が近づくと自動で魔法が発動して、[木魔法・滋養強壮]が連鎖的に引き起こされるような順番に魔法陣を刻んでおく。そのあとは、中央の魔法石を隠す意味でも、近くの土砂と綿畑予定地の土を混ぜて水はけをよくさせ、綿の種を植えられるように畝を魔法で作っておく。そして後は少し降雨させて土に適度な水気を含めさせ、畑の周囲を軽く岩魔法で補強すれば、実験的な綿畑の完成だ。
「よし、ひとまずはこれに【魔綿】を大量に植えておこう、次は【魔蚕】だな」
綿畑から少し離れた場所に、今度は小さな建物と大きなマルベリー、つまり桑の苗木を植えていく。これも品種改良が必要なので、まずは【魔蚕】の餌となる桑を量産するために、先程と同じような桑の木のための実験畑を作る。次に先ほど作った小さな建物の中に、【魔蚕】のための住処を作っていく。非道的だが、極力飼育している蚕の幼虫が無駄な事に体力を使わないような小さな住処と、産卵用の成虫のための環境の2つを整えておく。
「おーい、親方!手伝いに来たぜ!」
養蚕場の建築していると、ブラッキーが小さなノーム達を引き連れてクロウの元までやってきた。
「親方、屋敷の修理は終わりましたんで、こっちの手伝いに来ました」
「おお、助かるよ」
クロウは道具を担いで作業の手伝いをしてくれるノーム達に小さくした魔鉱石を渡していく。どうやらノームは地中資源を食事にしているようで、試しに魔鉱石を渡したら大層おいしそうにバリボリと食べていた。
「じゃあもうひと頑張り、よろしくな」
「おう!」
全長20cmも無い小さなノーム達だが、人一倍の働き者であり、人を超えるはるかに強い力に器用な手先もしているので、こうして建築を任せるのに持って来いだ。
「ブラッキー、今作ってる建物の事なんだけど」
ブラッキーに養蚕場の大まかな構想を伝えておく。彼女はうんうんと頷くと、何かしらの方法でノーム達に同じように説明し、作業を開始した。ノーム達はなぜブラッキーの事をアネゴと呼んでいるか分からないが、ビシバシとブラッキーの元で無駄なく働いてくれているので、後で多めに報酬である魔鉱石を彼ら一人一人に配る事にした。
「さて、じゃあ俺は、ガチャの時間だ!」
まずは綿の品種改良をするために、クロウは一人で【魔綿】の実験畑に戻った




