ライネル伯爵領Ⅴ
「そういう事で、早速君達の意見を参考に、前線へ伝令の者を送り、ライネル騎士団達を召還する事にした。北部カデンリーナ領の騎士団は既に出立しているが、あまり遠くには行っていないため、すぐに戻ってくれるだろうが、南部前線に向かった騎士団はすぐには戻れない」
「それが賢明かと」
大きなダイニングテーブルを3人、クロエ、クロウ、メルティが囲んで食事をしている。出てくる料理は質素でありながらも、綺麗に見える工夫がされており、簡単な食材だと考えられない程の豪華な仕上げになっている。
「それでなのだが、騎士団達が帰ってきたら、具体的に言うと、北部へ向かっていた騎士団が帰ってきたら、彼等と入れ替わるように今いる傭兵団を北部に送る予定だ」
「はい」
「だが、正直に言うと少し心配でな。今の傭兵団達のやる気のなさを考慮すると、彼等が北部の反乱鎮圧に向かう途中で逃げたりしないかなと…」
「いや、そこらへんは大丈夫じゃないですか?彼等も彼等なりに傭兵団と言う仕事の関係上、名声がとても大事ですから、「金貰って契約もしたのに仕事を完遂しなかった」となっては今後の仕事もなくなるでしょう」
「なるほどな」
「それに傭「兵」団ですから、治安維持よりも戦場に出る方がきっとやる気が出ると思いますよ?もちろん治安維持も「兵」の仕事のウチではあるんですけど」
「そうだな、私は彼等と報酬を引き換えに「私の手下で働くと言う」と言う契約をしたのだが」
「いやー、それは良くないですね、次からは契約書の内容ははっきりと明記しましょう。不明瞭にしておくとこちらも色々と便宜が出来ますが、向こうも従ってくれるとは思いませんからね」
「ぐぐ…それもそうだな」
「今は一歩ずつ、確実に行いましょう」
「それもそうか…急いては事を仕損じる。ひとまずは傭兵の問題をどうにかしよう」
「この後は何か予定が?」
「そうだな、後で傭兵団の団長にこの件を伝えるよ、彼等には早めに北部カデンリーナ領へ行く支度を始めてもらいたい」
「いいと思います、ただ団長の人となりはどうですか?」
「あまり良いとは言えないな…」
「む、まあ現にこうして呑んだくれていますからねぇ…どうしようかな…」
「どう、と言うのは」
クロウは[龍眼]を発動し、クロエをジッと見つめる。ものの数十秒だったが、クロエからしたら気が気ではなかった。
「このままだと夜の団長とのお話は非常に上手くいきませんね…何なら…貴女を殺す算段もしているようです」
「なに…!?」
「なるほど、領内にまだこれだけ…大変ですね」
「何の話だ?」
「賊の話ですよ。それも南からの」
「紛れ込んでいるのか?」
「ええ、私達が引き渡した黒フードの男達がいたでしょう?」
「黒フード??一体..」
突如としてクロウの瞳が[龍眼]になる。クロウも何が起きたか分からないが、10秒後、ダイニングルームの窓ガラスから無数の[火魔法]が飛んでくる様子が見えた。それと同時に屋敷への入口の扉も破壊さ、マーノが傭兵団らしき人物達と、黒フードの男達に捕まる未来が見えた。
「([龍眼]スキルが危機を察知して強制的に未来に起こる危険をいち早く見せたのか...いや今はそんな事を考えている場合ではない、まずは)メルティ!戦闘態勢に入れ!今すぐクロエを連れて2階当主のいる部屋の前で侵入者からそいつらを守れ!(次にマーノは今はキッチンにいるから)[魔力支配][土魔法・岩山の大壁](未来予知で見えたのは)」
【多重思考及び多重魔法の起動を確認。[二重詠唱D][二重思考D]を獲得。[魔神の芽EX]及び[魔力支配EX]を確認。[二重詠唱D]は[多重詠唱D]に、[二重思考D]は[多重思考D]に進化しました】
「(良いタイミングだ、これなら)話は後だクロエ![龍化・喉]【戦闘用意!】」
早速先ほど覚えた[多重思考]と[多重詠唱]を使い、[魔力支配]で今現在キッチンで何も知らないでデザートの準備をしているマーノの安全を確認しつつ、屋敷の入口で松明や鎌、数多くの武器を持つ荒くれ者達がドアを攻撃しているのを確認しつつ、同時に[魔力支配]でダイニングルーム、つまり今クロウ達が食事を取っている部屋の窓目掛けて飛んでくる火魔法を打ち消しつつ、こちら側から脆い窓ガラス部分に土魔法を使用して頑強に固めつつ、自身の喉を[龍化]し、龍種が使えるあらゆる生物への絶対命令である【龍言】を用いてメルティとクロエを強制的に戦闘状態にする。それと同時に素早く立ち上がり、装飾として壁に掛けられていたグレートソードを手に取るクロウ、装飾品としての価値を高めるために、ツヴァイヘンダーのような見た目をしているので、手にした瞬間[大剣A]のスキルが発動した。
【[大剣A]のスキル発動、Aランク以上の近接格闘スキルを確認....バトルスタイル開放.....最適解を検索中.....称号[魔獣の狩人]、[龍殺し]を確認。バトルスタイル【龍殺し】【魔獣狩り】を開放しました。同時に[龍化]が所持武器に使用可能。[鍛冶A][裁縫A]が[龍の鍛冶EX][龍の裁縫EX]に進化、[龍武器][龍防具][龍衣]のレシピが解放されました】
【バトルスタイル】、どうやら戦闘補助のようなシステムで、特定のスタイルに切り替える事で様々なステータスの恩恵を受けたり、新スキルが新しいムーヴが出来るようになるみたいだ。
「【龍殺し】は強すぎるから、【魔獣狩り】が一番か」
【スタイル[魔獣狩り]を確認。【魔狼】【魔犬】の討伐を完了済み...[闇夜の猟犬達]モードへ移行します】
戦闘状態に入ったメルティは既に両眼を煌々を赤く光らせており、自らの右手の平を左手の爪で切り、そこから滴り落ちる血で曲線状の鍔がついているレイピアを作り上げ、それを握りしめた。クロエも自らの長剣を構えつつ、2人はダイニングルームの扉を蹴破って2階へと向かっていった。
「がるるるるるる、アォオオオオオン!」
クロウも同時期に扉を突き破って屋敷の玄関へと向かっている。スタイルを使用してからは、かなり身体が軽くなり、大剣を構える方法も変わった。右手の片手で大剣を持ち、体制と体の重心を低く保つように走る。右手の武器を地面に当てながら、低体制のまま[夜目]の効果が発動し、瞳が赤く変化しているのも気づかず、クロウは屋敷の正門へと全速力で駆けていた。
「いたぞ!あの女だ!領主代行だ!殺せ!」
「昼の男の連れもいるぞ!」
「かまわん!まとめて殺してフェンデル卿に渡せばいい!」
「[ライトアウト]!」
誰かが光源を破壊する魔法を唱えたのだろう。屋敷の光が消えると同時に、あまり手入れされてない、汚いチェーンメイルを着た傭兵らしき人物達と、昼間に屋敷の周りで騒ぎ立てていた人物達、それから黒フードの男達も約2名を除いて全員破壊した扉から入ってきた。
「へへ、俺達には[夜目]のポーションとたいまつがあるんだ、効果が切れる前でさっさと済ませるぞ」
屋敷の光源が破壊されてから、彼らは用意したたいまつに火を付ける。すると、髪の毛を後ろになびかせた、大きな赤い目の猟犬のような人物が、青白く発光する無数の狼と共に、彼らの方を見てがるるると威嚇をしていた。
「か、構わねぇ!どうせ良い所のお坊ちゃんだ!それにこっちの方が数が多いし傭兵もいる!とっとと殺して2階へ行くぞ!やれ!お前ら!」
代表的な黒フードの男の合図と共に、傭兵や松明を持った領民が赤い猟犬に襲い掛かる。それが何を意味するとも知らず...




