ライネル伯爵領Ⅳ
「[使い魔召喚]ブラッキー」
地面に魔法陣が出現し、中から以前、クロウを押し倒したブラッキーが出てきた。なぜかクロウを一目見た瞬間ぽっと顔を赤らめたが、屋敷の中を見渡すと、目に見えて唖然とした表情を浮かべた。
「暫くここで泊まる事にすることになったから」
「...ッ!?」
「えと、家主にはここを自由にしてくれていいって言われたから、大変だと思うけど、よろしく」
ブラッキーはなわなわと震えた後、全身からモップやバケツ、箒やちりとりをどこからか取り出し、物凄い形相と共に掃除を開始した。
「大丈夫そうだな」
ブラッキーは凄い険相だが、でもそれ以上に楽しそうなので、クロウは折角だからメルティと共に屋敷内を散策する事にした。どうやらライネル邸は2階建てで、2階の奥に先程クロエ言っていたライネル伯爵の部屋があるようだ。その部屋からはなんだか禍々しい雰囲気がするし、そんな部屋から育ちの良さそうな妙齢の女性が水を張ったバケツとタオルを持って扉から出てきたと思うと、そそくさとどこかへ行き、再び水を汲んで先ほどの部屋へ戻っていった。邪魔するのも悪いし、2階の探索も程々にして、クロウとメルティは1階へ戻った。そのまま自室には行かず、一旦外へ出る2人。荒れた庭先だが、こじんまりとした小さなガゼボ、いわゆる東屋があった。クロウは魔法でガゼボの中を軽く掃除し、蔦なども丁寧に取り払ってメルティと共に中に入る。赤いレンガを基調にした円形のガゼボの中には高級な木材でできたラウンドテーブルと、それを囲う様な椅子も設置されていた。
「それで、メルティはどう思う?」
「どうって?」
「ライネル領の話」
「そうだね、さっきパパが言った通りの解決策で当面は大丈夫だと思うよ。まずは各地に派遣された騎士団を召還して、それと入れ替わるようにクロエが家財を売り払ってでも雇った領地内の傭兵を南部戦線や北部増援に組み込むのが1番いいと思う。治安維持も騎士団達が帰ってくれさえすれば、それが本職だからすぐにライネル領民の暴動は収まると思うし、北部の増援も別にベレンツァ侯爵は「今すぐ送れ!」なんて無茶言ってないと思う」
「そうだな、領民の暴動も門番達が見張っているあの黒フードの男達の口を割らせれば首謀者がすぐに見つかりそうだし、あまり難しい問題ではないだろ」
「うん、ただ問題があるとすれば」
「なんでこんな事になっているか…だよね」
「パパとの会話を聞いた感じだと、あのクロエちゃんはまだ未熟だけど結構領主の才能あるんじゃないかな?少なくともパパを部外者だって邪険にしたりせず、有用な意見ならすぐに受け入れられるし、実行にも移せる」
メルティがそう言っていると、馬に乗った男が2人、ライネル伯爵の紋章が入った旗を背中に巻きつけ、手には手紙のような物を持って大急ぎでそれぞれ屋敷から飛び出していった。どうやら1人は北へ、もう1人は南へ分かれて向かっていったようだ。
「うん、行動力も咄嗟の判断力もある。まだ他の人物にあった事ないけど、今の所彼女は次代伯爵に向いている存在だと思うよ」
「彼女の妹さんがどんな人物かあまり知らないからなぁ、気になる所ではある」
「ね、1つ心配な事といえば、私達はあくまでクロエちゃんの妹の食客、あんまりお姉さんを助け過ぎたら、それはどうなのって感じもあるし」
「そうねぇ、俺もそこが割と心配なんだよねぇ…立場ってのがね」
「難しいねパパ」
「ふふ、まあひとまずは俺達に助けを求めたクララ本人に会わないとな」
「そうだね」
「ところでメルティ、お前その観察眼とかどこで養ったの?」
「え?ばぁば」
「あいつそんなに凄いんだ」
「ばぁば何回か傭兵団率いたり、国を興したり潰したりもしてるみたい。宰相になったり宮廷魔法使いにもなったり」
「いやホント何者…?」
「あたしも最初は冗談混じりに聞いてたんだけど、よくよく考え直してみると妙に現実的だったりする部分が多すぎるんだよね。だからばぁばにいっその事頼み込んだの、「私が女王様に成れるくらい特訓してください!」って、そうしたら色々な事教えてくれたよ」
我が娘(のような存在)ながら野望がデカい。
「スキルとして身につくほどじゃないけど、結構あたしも鍛えられてるから」
手でピースしながら可愛いポーズを取るメルティ、そんな彼女の愛らしさに笑みを溢しつつ、これからどうしようか考えていると、彼女が「あっ」と言いながらクロウが彼女のために作った小型アイテムバッグからスクロールを1つ取り出した。
「はいこれ、ばぁばからパパに」
「何これ?」
「えと、[鑑定]のスクロールって言ってた。魔力を通すとそのスキルが覚えられるんだって」
「へー、どうやって手に入れたんだ?」
「昔にここからずっと北の、今は滅んだ国で手に入れたんだ」
「へー、何だか古代の超凄い魔法の国みたいな?」
「いや、逆に物凄い機械が空飛んだり、ろぼっと?て言う人間の見た目した機械が戦争したり、なんだっけ?エインヘリアル?みたいなそんな鉄の鎧をみんな着て戦っていたみたい」
「なんだと!?」
思わず大きな声を出してがばりと立ち上がるクロウ。らしくないクロウの形相に、メルティはびっくりしながら、「え?えっ!?えっ!?」と半泣きの顔であたふたしていた。
「あっ、いやごめん、ちょっと驚いただけ」
「な、なんか変な事言った?」
「いや、大丈夫、気にしないで、うん」
メルティに[木魔法・沈静化]を使用しつつ、クロウは内心驚いていた。なぜならまさかここで別ゲームの話が出てくるとは思っていなかった。許諾とか色々大丈夫なのかと思いつつ、それも別世界の話だと思って、改めて自分に渡された[鑑定]のスクロールを見直した。
「これが魔法のスクロールか」
[龍眼]で描かれた魔法陣を解析できないか見てみる。ふむふむ、この魔法陣のこの部分が魔力を吸って、流し込まれた魔力と同時に、一定以上の経験値を流し込まじまじむ者に送り込むと。つまりは魔力を引き換えに特定の経験値を使用者は得ているわけだ。
【魔法のスクロールの構成の理解が100%になりました。[魔道具製作]に[魔法のスクロール]が追加されます】
ふむふむ...実際に流し込んでみよっと
【[鑑定D]を習得しました。[龍眼A]を確認。[鑑定D]は[龍眼A]に統合され、[龍眼EX]になりました】
[龍眼EX]:あらゆる事象・物事が見えるようになる。訓練により、未来視も可能
一瞬だけクロウの視界が赤く染まったが、瞬きをするとすぐにいつもの視界に戻った。どうやらまじまじと魔法のスクロールを観察したおかげで、自分でも魔法のスクロールが作れるようになったようだ。それと同時に[鑑定]を習得したおかげで、[龍眼]がEXランクに、どうやらより詳細に対象のステータスなどを見抜けるようになったと同時に、相手の潜在能力や才能なども見抜けるようになったあげく、未来予知も出来るらしい。だいぶチートだな。今更だけど。
「[龍眼]」
早速新しくなった[龍眼]でメルティを見てみる。
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名前:メルティ
職業:なし
出自:愛憎の転生者
家系:転生者のため不明
種族:半吸血鬼・半悪魔
Lv:144
才能:【彼も彼女も私のモノ】【???】
血の覚醒値:吸血鬼31%/大悪魔1%
好物:クロウ
嫌いな物:恋敵
スキル:[吸血C][血魔法C][飛行C][料理B][細剣D][弱点看破D][加速D][魅了D+][魔力吸収D][騎乗D]
説明:被検体番号104番の少女。吸血鬼の女王の一人である【鮮紅の女王の左心】を無理矢理移植され、【大悪魔の右心房】の血を打ちこまれた事がある。身長は171cmで体重は63kg。B88-W58-H86。クロウにぞっこんである
【彼も彼女も私のモノ】の効果:性別問わずに相手に[魅了]を使用する事が可能。チャームされた相手に[服従]の効果を追加し、チャームされた相手の性欲に起因する物事を自由に塗り替える事ができる。
【???】の効果:不明
愛憎の転生者:愛とも憎しみともいえる感情を糧に何度も転生を繰り返している者。
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他にも項目をいくつか注視すれば確認できるようだが、あまり人を注視し過ぎてもよくない。メルティの色々な秘密を知れたみたいし、彼女の出自も気になる所ではあるが、
「そろそろ食事に行こう。結構話し込んでしまったし、後2分程でマーノが探しにくるはずだ」
「え?ああ、わかった」
彼女はなんでそんなピンポイントに?と思っていたが、ガゼボから屋敷の入口に戻るまで約2分、クロウがドアを開けると、ちょうどそこには例のどたばたメイド、マーノが立っていた。
「あ!、お、御二人とも、ここにいたんですね、えと、晩餐ができましたので、ど、どうぞこちらへ」
長々とメルティと話し込んでいたり、魔法のスクロールをまじまじと眺めていたり、新しくなった[龍眼]で視界内に見えたメルティの情報をみたりなんなりしているせいで、どうやらとっくに晩餐の時間になっていたようだ。2人は少しだけ期待しながらマーノを後についていくように、ライネル邸のダイニングルームへ向かった。




