魔獣の森XVI
「そんなわけで、おめでとうメルティ君、今日から君は立派な【半吸血鬼】だ」
騒動から翌日。クロウがキッチンでブラッキー達と朝食の後片付けをしていると、食後の紅茶を飲みながらアルルがカフェラテを飲むメルティにそう言った。
「あっ、そうだね、あんまり自覚ないけど、そうなったみたい」
クロウも後片付けをほどほどに、残りはブラッキー達に任せて2人の元へ自作のマグカップになみなみとコーヒー注いでから持って向かった。
「そうか、もうメルティもヴァンパイアになったんだな」
「うむ、先日の吸血で、恐らくブラッキーと言う悪魔種と、わしの血を吸ったおかげで、半とは言え純血よりも強力な力を手に入れたであろう」
「確かに....そうかも」
今のメルティの姿は、確かに生物として上位にいる事は間違いないだろう。彼女の腰まで流れる長い銀髪、白い磁器のような肌、深紅の瞳と豊満な身体、赤い緩めのワンピースを着ている今の彼女は、街行く男達の視線を釘付けにするに違いない。
「[龍眼]」
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名前:メルティ
種族:半吸血鬼・半悪魔
Lv:144
被検体番号104番の少女。吸血鬼の臓器を無理矢理移植され、悪魔の血も打たれた事がある。
身長は171cmで体重は63kg。B88-W58-H86。クロウにぞっこんである
好物:クロウ
嫌いな物:恋敵
スキル:[吸血C][血魔法C][飛行C][料理B][細剣D][弱点看破D][加速D][魅了D][魔力吸収D]
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「子供の成長って早いんだなぁ」
「何パパ?おっさんくさいよ?」
「やめろ、俺はまだ18だ」
「あれ、パパそんな若いんだ。初めて会った時はあの子とあんまり変わりないと思ったけど」
「多分俺は龍血を打たれた時に身体が成長したんだろう。後先日のあれ、龍王の肉食べた時」
「そっか、パパってまだ18か」
「ん?」
「な~んでもない!おかわり入れてくる!」
小さい声で何か呟いたかと思うと、カフェオレを飲み干し、自分の可愛いマグカップを持って、とたとたとスリッパを鳴らしてキッチンへ向かうメルティ。コーヒーポットにまだ残りあったかな?と思いつつ、自分のマグカップに口をつけると、向かい合っているアルルがはぁと言う溜息と共にクロウの方をまじまじと見ていた。
「なんだよ...」
「いいや?メルティの恋路は大変そうだなぁ~って」
「なんか腹立つなその言い方」
「べっつにぃ~?」
アルルの言い方に腹が立ったので、アイアンクローでもしてやろうかと腕を上げた時
「アルル!いるか!アルル!」
窓ガラスを割れないようにつつく、いつぞやの【鷲王アクィラ】がいた。
「おや?アクィラじゃないか、どうしたんだそんな切羽詰まって」
「ら、ライネル伯爵に!ライネル領に異変が起きている!」
それを聞いたアルルは急いで窓を開ける。アクィラも手下の伝書鷲を翼で器用にしばき、火急の文を急いでアルルの手元に置いた。
「アルル」
「少し待て、今読み上げる」
どうやら【ライネル伯爵】は【ベレンツァ侯爵】と言われる東部辺境伯の元で魔獣の森とそれに隣接する都市、所謂【ライネル伯爵領】の統治を任されていたのだが、ベレンツァ侯爵の領地の北部【カデンリーナ領】で民衆による反乱が発生したようだ。そのせいでベレンツァ侯爵は自分の騎士団と軍隊のほとんどをカデンリーナ領へ向かわせ、反乱の鎮圧を行っているのだという。そしてその隙を狙ったようにライネル伯爵領に隣接する南、魔獣の森の南部にある【フェンデル伯爵】のフェンデル領から大量の騎士団と軍隊の移動を確認したらしい。北部カデンリーナ領への最短ルートである、中央の【ベレンツァ侯爵統治領】を通過せず、直接ライネル領に向かっている事、それと同時に、ライネル領内でも民衆による暴動が発生しており、さらには現当主である四代目ライネル伯爵も病気の悪化で床に伏している。まさに猫の手も借りたいとの状況らしい。
「ふむ、南部のフェンデル伯爵とライネル伯爵の第二令嬢の婚約は破棄と聞いたが、まさかこんな事態になるとは」
「あっそうなの?」
クロウも昔にちらりと第二令嬢を見たことあるな~くらいの印象しかなかったため、アルルがそれを言わなければ、婚約の件とかすっかり忘れていた。
「さて、どうしたものか」
「どうする?俺が全部焼き払ってくるか?」
今のクロウからすれば全くもって簡単な解決方法である。1人で南部へ向かい、[龍魔法・炎龍の咆哮]で南部フェンデル領を全て焼き払う事もできるが...
「いや、それはやり過ぎだ。あくまでそれは最終手段にしよう」
アルルは少し考えこむと、ひらめいたと言って両手をポンと合わせた。
「クロウ、メルティ、お主ら直々にライネル領に行って解決してこい」
「丸投げかよ」
あまりに横暴なその解決策に、流石にツッコミを入れるクロウ。メルティはなんだかウキウキしているが、クロウは少し考えこんでいた。
「う~ん、そうだな、メルティも成長したし、そろそろ俺も外へ行きたかったんだよなぁ」
「えっ、じゃあパパ、これって良い機会じゃない?」
「言われてみればそうなんだよなぁ」
「うむ、じゃあそういう事でよろしく頼むぞ、わしは今から返事を書く」
アルルはうむを言わさず、アイテムバッグから紙と羽根つきペンを取り出すと、すらすらと返事を書き始めた。
「アクィラ、南部フェンデル領の騎士団達がライネル領にたどり着くのにどれほど時間がかかると思う?」
「民兵も含めてだが相当の人数だ、恐らく2週間はかかるだろう」
「よし、ならば1週間以内にライネル領に行けば問題ないな。クロウ、メルティ、そのつもりで」
「分かった、早速だが準備を開始しよう。ブラッキー、地下武具倉庫を開けてくれ、【傑作級】をいくつか持ち出す」
ブラッキーは了解したと言わんばかりに一礼すると、ふよふよと地下倉庫への入口へと向かった。
「メルティ、最悪の事態に備えて、お前も細剣と装備を見繕ってこい。レイピアは最低でも【傑作級】のレイピアを1つ、後は適当に手ごろな武器と装備を選んで来い」
「クロウ、お主は」
「俺はそうだな、念のためにいくつか持っていくか」
今回はメルティと一緒にいるつもりなので、クロウも後で手ごろな盾と剣、それから大剣を数本持っていくつもりだ。
「それからアルル、念のためにブラッキー2体はお前の元に置いていく。あの1体は連れていくぞ」
「うむ、かまわないよ、別に全員連れて行っても構わないが」
「いや、少し心配だ」
出会った当初のように、また帰ってきたら重傷を負っていたでは非常に困る。それなりの戦闘力があるブラッキーが2体もいれば、多少なりともアルルと共闘できるだろう。
「分かった」
クロウの気遣いに軽く礼を言いながら、アルルは返事を書き終えたようで、アクィラの手下の鷲に丸めた返事の紙を入れた筒を持たせると、そのままその大鷲を空に解き放った。
「よし、これで返事は行き届くだろう。さて、私も荷造りの手伝いをしようかな?」




