魔獣の森Ⅹ
ライネル伯爵達と文通を始めてから早半年が経とうとしていた頃、クロウは色々な根回しもあって、ようやく【ドリルモグラ】達の住まう北の山脈の片隅に、自分の小さな工房を構える事に成功した。
「よし、早速武器を作ろう」
この半年、クロウはアルルを殺そうとする数多くのヌシ級の魔獣をいくつも打ち倒し、自身のスキル熟練度を大幅に向上させ、同時にライネル伯爵との取引や、日々成長する少女の為に肉ではなく野菜も食べさせねばと思い、家の改築や畑の拡大など、かなり充実した時間を過ごしていた。友好的な魔獣は流石に食べていないが、魔獣の森で捕獲できるほぼ全ての魔獣は食べたし、覚えられるスキルもほぼ全て覚えた。それに加え、【魔獣を5000体討伐した】と言う実績を解除したらしく、それと同時に初めての称号【魔獣の狩人】を手に入れた。
【魔獣の狩人】:あらゆる魔獣を狩り尽くした者への称号。全ての魔獣を圧倒する
この称号を手に入れた事は、アルルに真っ先に気づかれた。曰く、「君は【ヌシの中のヌシ、王の中の王】になったのだ」だそうだ。そう言い終えて突如として彼女は家の床に寝転がり、仰向けになって自らの服をたくし上げその腹部を少し恥ずかしそうに見せた。流石にクロウもこれには非常に驚いたが、彼女が言うにはこれは格上の存在の庇護を望む【服従の儀】だと言う。その腹部をクロウが数回撫でればクロウがアルルの服従を受け入れた事になるという。
「い、いつもは受け入れる側だから、こうしているのは、す、少し恥ずかしいな...」
「す、数回でいいんだな」
ささっとアルルの腹部を撫でるクロウ。贅肉一つ無い彼女の腹部に少しどきっとしたのは内緒だ。
「こ、こほん、さ、さて、勉強を続けよう」
不思議そうに2人を見つめる少女を引っ張ってアルルは勉強部屋へ行く。クロウも少し顔が熱くなっていたようなので、家の外で少し落ち着こうと思ったら、大きな鷲、【アクィラ】がアルル同様に大きな翼を広げて地面に寝転がっており、
「私も頼む」
とその老年な良い声で言っていたので、クロウはなんかスッと冷静になれた。
そんな事が約4か月前、今ではすっかりいつもの調子に戻っており、クロウはようやく落ち着いて自分の工房での仕事を始める事が出来た。ついでに言うと、あの実験体104番のヴァンパイア少女、【メルティ】にヴァンパイアの特性が発現し始めたからだ。ちなみに【メルティ】の名前はアルルと共に付けた名前だ。いつまでも【少女】だとか、【あの娘】は呼びづらいから。ふっと脳内に某ナビゲーターサキュバスが思い浮かんだが、それも奇妙な縁なのかもしれない。以前のクロウと同じ黒い長い髪は、根元から少しずつ銀白色に、身長も以前とは見違えるほど大きくなり、体つきも少しずつ女性らしさを増していた。
「パ~パ!」
「うおっ、なんだメルティか、少し考え事をしていただけだ。後パパって言うな」
「えへへ、まー良いじゃん」
工房の設備を点検し終え、椅子に座って少し休んでいると、突如として誰かが背中から抱き着いてた。もう16か17歳に近い見た目の彼女。早く親離れ、もとい独り立ちしてほしいが
「何してるの?」
「[鍛冶]スキルを上げようと思ってな、暫くはここで武器や装備を作ろうかなって」
「え!いいじゃん、あたしの武器も作ってよ」
「作ってって、まだ何使うか決めてないだろ」
「えー、あー、それは....そうかも」
「ったく、まあ練習がてら一通り作るから、なんかアルルから学んだらまた取りに来い」
「はーい」
またねと言ってクロウに投げキッスをするメルティ、そのまま工房の扉を開けて、着ていた服の背中部分を少しまくり上げ、バサッと黒い翼を広げて飛び立つ彼女。てっきり彼女は【悪魔の翼】、所謂蝙蝠のような翼を生やすものだと思ったが、初めて彼女が翼を広げた時から、その鳥類のような大きなふわふわの黒い翼にはいつも驚いている。
「あっ、今日はばあb....アルルさんが夕食を作るそうですよ」
「了解、昼には一度帰るよ」
「はーい」
彼女が飛び立った後、工房の中の鉱石倉庫区画から、【ドリルモグラ】達がのそのそとやってくる
「アニキ、オツカレ、サマデス」
「おう、お疲れ」
「アニキ、イシ、トッテキタ、イツモノバショ、オイテオク」
「ありがと、肉焼いたぞ」
「ヤッター!サスガ!アニキ!」
称号を手に入れてから、魔獣達からの呼び方が変わった。【アクィラ】も【ドリルモグラ】も、【我が君】とか【アニキ】とか言うようになった。ドリルモグラ達が低いテーブルに置かれた焼肉をもぐもぐと食べている姿を他所に、クロウは鍛工炉に火を付けた。
「ひとまずは簡単な短剣とか包丁から作るか」
[鍛冶D]の現在、作れるのは【鉄の短剣】とか【鉄の包丁】など、簡単な物のみ、幸い【ドリルモグラ】達の協力もあり、ほぼ無尽蔵の【石炭】や【鉄鉱原石】や【銅原石】があるので素材に困る事は無い。
「ぐぬぬ、なかなか難しい」
【鉄の包丁】は調理器具なので[道具作成]のスキル補助のお陰で少しだけ上手くできたが、流石に【鉄の短剣】はそもそも火入れが上手く行かなかったり、鉄床で叩く際に折れてしまったりと、前途多難だった。
「よし、気合入れるか」
[裁縫A]で作り上げた使い心地の良い手拭いで汗を拭き、クロウは再び短剣作りを再開する。
最終的に残念ながら昼食までには一本も短剣を仕上げる事ができず、いつもより気持ちぐったりで家に帰ったクロウであった。
「武器の方はどうだねクロウ君」
「全然ダメだったね」
「あはは!まあしょうがないよパパ、今日初めてやるんでしょ?」
「そうなんだ、そうなんだけど」
「まあ気長にやればよい」
食事を終えたアルルは、大きめのブランケットを身体にかけ、お気に入りの大きなロッキングチェアに座ってメルティのセーター編みを再開した。
「じゃあ俺は工房に戻るわ、夕食はどうする?」
「今日はうちが作るよ」
「お前がぁ~?作れんの?」
「はぁ!?作れるし!夜の時間待ってな!パパの舌唸らせるくらい美味しいの作るから」
「了解、楽しみにしてるわ、後パパ言うな」
べろべろべーと舌を出してキッチンに戻るメルティを生意気になったもんだと、吹っ掛けたのはクロウなのに嬉しい気持ちになりつつ、再び工房に戻る事にした。
「よし、続きをするか」
再び【鉄の短剣】の制作を続けるクロウ。幸い午前の努力もあり、夕食前には一本、【鉄の短剣D】と言う最低ランクの装備が出来上がった。
「よし、一本はできたぞ」
窓から外を見てみると、時間も丁度もうすぐ夕食と言う頃合いになったので、軽く片付けをした後、メルティの夕食を食べるためいつもより出力強めに[エアロマニューバ]で家に帰る事にした。
「パパおかえり!できたよ!ほらほら!座って座って」
「お、できたんだ、すぐに手洗ってくるわ」
洗面所に向かう途中、ちらりとアルルが何やら苦い顔をしていたのが見えた。パパっと丁寧に洗い、ダイニングに向かうと
「あー、あー」
真っ黒なオムライスに真っ赤なケチャップがかかった皿が用意されていた。
「えへへ、食べて食べてパパ」
「うん、いただきます。後パパ言うな」
一口、うむ、大失敗しているなこれは。だがメルティを悲しませるわけにはいかない
「初めてにしては物凄く上手に出来てるな!美味しいよ!」
「ホント!?」
「本当本当、だけどもっと美味しくなる方法やテクニックがあるから、今度一緒に料理しよう」
「うん!する!」




