魔獣の森Ⅸ
ライネル伯爵から返事が返ってくるまで実に一週間、クロウがちょくちょく遊びに来るアクィラ達の為に作った止まり木にバサバサと大きな音と共に手紙を持ってきた。
「おや、返事か」
丁寧に足元に返事が括り付けられている。アルルが足元から小さな包みを外し、クロウが持ってきた鷲に肉を数切れ渡す。
「[解除]」
小さな包みにかかっている魔法をアルルが解除すると、ボンと言う音と共にゴロゴロとその包みの大きさにそぐわない量のアイテムが出てきた。
「お、おうおう、どうしたこの量」
「いや何、少し家の利便性を上げようと、色々おねだりしたら想像の2倍以上送ってきてくれたようだ。ふむ、これは私も何か返礼せねばな」
「そうだな、魔獣の肉か毛皮なら」
「うむ、森で採れるものなら相手も喜ぶだろう」
そう言いながらアルルは同封されていた手紙を開ける。差出人は当代のライネル伯爵
「アルル、先に色々家に入れておくぞ」
「あ、ああ....」
彼女は近くの切り株に座って、その手紙をじっくりと読み始めた。時々ふっと笑ったり、少し心配そうな表情を浮かべたり、顔を顰めたり緩めたり、かなり枚数があるようで、クロウが届いた荷物の仕分けを全て終えると、ようやく最後の1ページを読み終えたようだ。
「うーむ、どうやらかなり色々あったようだな」
「そうなの?」
「かなり話が長くなるからな、食事の時でも話そう」
「分かった」
「そうだアルル、いくつか使いたい物があるんだが、一緒に見てくれないか」
「良いよ」
「パパー!」
「パパじゃないですよ~」
既に3日ほどずっと言っているのだが、どうやら少女の中でクロウをパパ呼びするのを気に入ってしまったようだ。
「実の親父に聞かれたらこじれるぞこれ」
「まあいいではないか」
「ばぁば?」
「うむ、なぜ私はママではないかの」
「ばぁば!」
「ふふ、今日の宿題を倍にしよう」
「やだぁああああ」
あまりに悲惨な鳴き声を2人で聞きつつ、3人は家に戻った。
「アルル、この布とか紙とか」
「うん、使っても構わないよ」
「助かる、アイテムバッグ欲しかったんだよな」
「持ち主の魔力量に比例して大きくなるタイプ作るべきだろう、君ならもはやブラックホールのような内容量になるはずだ」
「へー、そういうタイプもあるんだ」
「うむ、具体的には....」
「パパー!遊んでー!」
「あっ、そうだ、これ」
「おお、彼女には丁度良いだろう」
一緒に入っていたいくつかの本、中には分厚い絵本も入っており、【賢者アルルの冒険譚】と表紙に書かれていた。
「あっ、これモチーフ」
「私だろう、恐らく私が人間領で生きていた時の話を大方、吟遊詩人達が広め、それがその絵本になったのだろう」
「しかし随分と分厚いな」
数百ページある絵本を見た事がないクロウ
「それは絵本だからな、以前見た私の本は300ページを超えていた」
「流石に重そう」
「護身用に丁度良いと言って皆持っていたな」
少女はすっかりと絵本に引き込まれてしまったようで、毛皮と綿で作ったソファに座って、食い入るように絵本を静かに読んでいた。
「じゃあ俺はアイテムバッグから作るか」
「うむ、それが良いだろう、ついでに[恒温]や[時停]などの高級付与効果も付与すると良い」
「ぐぐぐ、それAランクにならないと駄目なやつでは」
「では練習がてら私達やアクィラの分も作ってくれ」
「わーったよ、でもその前に」
まずは届いた調味料や食材と[料理A]を用いて、夕食を作る事にした。
[料理A]:あらゆる食材を用いて上等な料理を作る事が出来る
宮廷料理人も顔負けの美味しい料理を伯爵に貰った綺麗な更に盛り付け、3人で夕食を囲むことにした。
「それで話って」
「うむ、どこから話そうか」
そう言ってアルルは脳内を少し整理して、話を始めた。
彼女曰く、あの日クロウが出会ったのは当代のライネル伯爵の第二令嬢。南の貴族と政略結婚をする予定だったので、一足先にその相手を見に行った帰りだったという。魔獣の森と呼ばれるこの森を通過するあの道を通ったのは、帰り道に襲い掛かってきた暗殺者と盗賊から逃げるため、あの道に入った。暗殺者と盗賊は森に入らず逃げ帰ったが、代わりにあそこで【魔犀】に襲われて死にそうだった時に、クロウが助けに来たという。それからあのアイテムポケットを受け取り、家に持って帰って父に見せると、父が以前国王に卸すための生地だったという。国王のための生地も全て戻ってきたが、時間短縮の為に無理に魔獣の森を通過しようとしたせいで、残念ながら国王の命は達成できず、現在ライネル伯爵家は緩やかに衰退してきているという。
「そうだったのか」
アルルのおわかりのスープを鍋から彼女の皿へ掬う。
「うむ、それからだが」
アルルはスープの皿を受け取り、再び話始める。
手紙の返事が遅れたのは、ライネル伯爵が初代の残した手記をもとに、こちらから返信を送る方法を模索していたから。当代は既に四代目ライネル伯爵であり、初代の話はもう家族の言い伝えと、幼少期のおとぎ話になっていたので、当代もまさか小さいころの曽祖父のしきたりを再び使う事になるとは思っていなかったらしい。
「もう4代も経ってたのか」
「ああ、全くこれだから短命種は...」
小さく文句を言ったアルルの顔は、どこまでも悲しかった。
「そういうわけだ、どうやらこれらのアイテムは以前の生地を返してくれたお礼、そして曾祖父が世話になった礼と、これからも交友をしたいとの事だろう」
「ふ~ん」
「私も以前に教師の真似事をした身、彼の子孫の頼みとあらば、断るつもりもない」
「俺も構わないよ」
「うむ、じゃあこれからも彼らとは文通を続けよう」
「それでいいと思う、調味料とか足りなくなったらまた頼めるしな」
「あの雷熊の毛皮、大層な大金になったようだ、そういうわけだから、暇さえあればちょくちょく狩りに行ってくれクロウ」
「了解」
残った自分の分をパパっと食べ終えたクロウ、最後に食べ終え、既にこくりこくりと眠りへの船を漕いでいる少女をアルルが風呂に入れる様を見届け、クロウは食器を片付ける事にした。
「最初に行くならやっぱりライネル領か、何があるか分からないし、俺もしっかりと強くなってから行こう」
食後の運動がてら、クロウは夜の森で狩りをする事にした。一つは肉類の食材の補充。子供成長と言うのは早く、少女の食欲は日に日に増している。ライネル領に売って調味料や衣服にもしたいので、多めに狩っておく事にした。今日の狙いは【魔豹】と【魔獅子】、それから【魔羊】や【魔猪】もだ。あれよあれよと増えていく魔獣達は、定期的に間引きしておかないとあっという間に大きな群れになって再びヌシ級の存在が生まれかねない。
「少し気合を入れるか」
新しいアイテムバッグもある事だ。気合を入れて今日はかなり多めに狩る事にした。アイテムバッグの底を知りたいのもあるし、魔力を抜いて冷凍しておけばライネル領でも高く売れるだろう。
「[夜間看破][エアロマニューバ」]」
スキルを起動し、夜空を高速で飛行するクロウ、適当な魔獣の群れを見つけるたびに急速降下する様は、地面を走る魔獣達にとって恐怖の存在でしかないだろう




