魔獣の森Ⅶ
「ただいま」
「お帰り、魔鉱石は見つかったかい」
「大量に貰ったよ」
「ふむ、じゃあやろうか」
なぜ突如魔鉱石の話をしたかと言うと、簡易的なシャワーやコンロ、それから冷蔵庫を作るためのコアになるからだ。
「魔法陣等は必要ない、膨大な属性の魔力で魔鉱石の属性を決めてしまえば、後はただ魔力を込めるだけでその魔法の特性が発現するはずだよ」
「やってみよう」
アイテムボックスに手を突っ込み、手ごろな魔鉱石を取り出す。まずはコンロを作ろうと思い、右手に握りしめた魔鉱石に膨大は火属性の魔力をつぎ込むと、ボン!と言う大きな音と共に魔鉱石が大きく燃え上がった。
「お、できた」
灰色だった魔鉱石は真っ赤に変色しており、アルル曰く今後は魔力を注ぎ込む魔力の量で火の大きさを調節できるようだ。
「じゃあ次は」
再び似たようなサイズの魔鉱石を握りしめ、今度は膨大な氷属性の魔力を込める。一瞬で透明になり、思わず手放してしまうほど冷たい冷気を発しだした。もう2つほど魔鉱石を取り出し、今度は膨大な水属性の魔力を込めて、大量の水が出るようにする。
「ふむ、[魔力吸収]と[魔道具製作]スキルは持っているかな?」
「両方あるよ」
「なら[魔道具製作]のスキルを使ってまずは氷属性の魔法石に[魔力吸収]の魔法陣を刻印してみてくれ」
「分かった」
確かに[魔道具製作]スキルの中には[魔法陣刻印]と言う機能がある。この機能を使用して先ほど作り出した氷の魔鉱石に[魔法陣刻印]を発動し、[魔力吸収]の魔法陣を【24時間稼働】の機能付きで刻印すると
「できたな」
アルルがそういうと、クロウはスキルで氷の魔鉱石が自動的に空気中の微細な魔力を吸収して延々と冷気を出すようになった。
「家中に[魔力吸収]を刻印した魔鉱石を配置すれば、コバエや小さな虫も家に入ってきた瞬間に魔力を吸い尽くされて息絶えるから、そういう対策にもなるぞ」
「滅茶苦茶便利じゃん、でも魔力を持たない奴は」
「どちらかと言うと魔力を持たない存在の方が少ない。基本的に魔力を持つ魔獣は持たない獣より強いから、そういった無魔力の獣はすぐに他の魔獣の餌になってしまうよ。これは人間にも言える事だね」
「ふーん、だけど」
考えるより先に[CMMA]が発動する。アルルの首元の空気を掴むと、そのまま[怪力]で地面にたたきつける。
「【ステルスパンサー】....豹王の手下のはずだが」
頭を叩き潰され、透明化していた何かが姿を現す。ヒョウ柄の四足獣は、アルルに【ステルスパンサー】と呼ばれていた。
「油断していたよ。まあこのように、魔力を持たなくてもそれ以外の特性でこうして生き残る存在もいる。人間の国にも魔力を持たない暗殺者組織がいたかな?そういうわけだ、気を付けてくれ」
「分かった、だがそれはそれとして、手を出してきたのは許せん」
「そうだね、私もいきなり襲い掛かられるのは気に入らないかな」
豹王は魔力を持つが、自身と自身の魔力を完全に[隠蔽]する事が出来るので、決まった生息圏は無い。だが夜になると寝ているので、アルル曰く夜間が狙い目だという。夜までする事もないので、早速[魔道具製作]と[道具製作]を作り、魔鉱石だけではなく、ドリルモグラ達が掘り出していた【鉄鉱石】や【銅鉱石】なども活用して、フライパンなどの調理器具だけではなく、本格的な冷蔵庫、鉄パイプで作った簡易シャワーヘッドや木で作った大きめのユニットバスなど、色々とまだ簡易的ではあるもの、森での生活に必要不可欠な設備を作っていると、あっと言う間に日が暮れた。
「むにゃむにゃ」
少女は熊の毛皮で作った布団と藁のベッドでアルルに見事に寝かされており、アルルも母親のように添い寝をしている。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
アルルに寝る挨拶をし、クロウは家を出て、【豹王】を探すために家の周囲を中心に高速飛行でその姿を探し出した。
「む?何かガサゴソしているような」
遠くでやたらと大きく揺れる木をいくつか見つけた。もしかして【豹王】かその手下が狩りをしているのではないかと思い、クロウは出力を上げて高速でその木々へ接近した。
「[隠蔽][消音]」
降り立った木々の周囲には何もなく、かすかに揺れる木の枝のみがクロウに【ステルスパンサー】達の数秒前の居場所を教えてくれる。
「[闇魔法]」
より多くの魔力を消費し、闇魔法で更に両目に宿した[夜目]の効果を強めていく。同時のかすかな気配にもより一層神経を尖らせ、居場所を突き止めようと躍起になった。
【[熱源探知D]を獲得しました。】
[熱源探知D]:周囲の熱源を短い間探知する
【[闇魔法・夜目][熱源探知]を確認。[熱源探知]が[夜間看破D]になりました】
[夜間看破D]:暗い環境にいる存在を短い間看破する
「[夜間看破]」
スキルを使うと、スキャン機能のように暗い周囲でも辺りに何があるかを感じて取れる。
「ここか」
[風魔法・ウィンドカッター]を容赦なく放つ。どうやら【ステルスパンサー】達も夜間にこうして的確に攻撃される事を想定しておらず、最初の数体は難なくクロウに狩られた。
「北の熊王が森の賢者に倒されたと聞いてはいたが、どうやら本当のようだな」
姿は見えないが、声だけは周囲から聞こえてくる。
「どういうつもりでその賢者様に手下をけしかけたんだお前は?」
「む?なぜ私達の言葉が分かる...まさか、あの賢者の入れ知恵か?」
恐らくは[龍の血]のおかげだと思うが、あえて黙っておくクロウ。
「どちらにしろ、ここに来たからには私達を殺しに来たのだろう」
「そのつもりだ」
「ふ、面白い、【暗豹王ブロウデュース】が相手だ!」
周囲から無数の【ステルスパンサー】と【ブロウデュース】が襲い掛かる。まだ[夜間看破]のランクが低いせいで、完全に看破はできなく、何回か攻撃を喰らってしまっているが、それ以上に[噛みつき]や[頭突き]、[CMMA]で的確に確実に一体ずつ死体へと変えていく。流石ヌシクラスの存在と言えるのか、【ステルスパンサー】達は既に100を超える数を倒しているはずなのに、まだまだ襲い掛かってくる。その中でも一際的確で洗練された攻撃を繰り出す豹王もいるので、まだまだ油断ならない
【[夜間看破]がBランクになりました】
200体を超えた辺りでいちいち発動する必要がなくなり、夜間でも昼間のように常時見えるようになった。それだけではなく、肉眼では見えない存在も、高価なサーマルサイトのように、周囲との温度差でくっきりと見えるようになった。
「魔力は隠せても、体温は隠せないか」
防戦一方だったクロウ、両目の瞳孔がいつも以上に大きく見開き、今度はこちらから攻撃を繰り出す事にした。
「な!?」
流石の長期戦に息が切れ、少し離れた場所で息を整えている【豹王】は、[雷魔法・雷瞬]と言う地面での高速移動スキルを使用し、自ら的確に手下へ攻撃を繰り出す獲物を見て、生まれて2度目の恐怖を感じ始めた。
「み~つけた」
数えきれない程の速度で手下数を減らされており、このまま逃走しようか、どうしようかと迷っていると、気がついたら後ろからのスリーパーホールドされ、[怪力]スキルも相まって、一瞬で気絶してしまった。




