第五十一話 大賢者
ヒルブライデと子供を失ったアルスはテレスミクロと共に家を出る、死場所を得るため見えない契約を結ぶのだった。
「どこへ?」
「まずはこの大陸を出て小さい島に向かう、お前はこれから第二の人生を歩む事になる。」
「話が見えませんが……」
「着いたら分かるよ。」
彼女と共に帝国領が所持する小さい港がある、そこで船に乗り南にある小さな孤島を目指す。
船は貨物船であり二人は荷物室の中で揺られながら到着を待つ、行き先はウラル島といい、原住民がいて帝国領から日用品を輸出しウラル島から薬品の元になる材料を輸入しているようだ、島は湿地であり外側は砂浜だが中央は森であり湿度がいつも高い、島民は森の中で生活し彼らが偶像崇拝する塔がある、古代の遺物とされ研究しようとしても島民に嫌がられ関係を悪化させてしまうため帝国は一切手を出さないようだ。
「師匠、王国で自分の処遇はどうなってます?」
アルスは移動中テレスミクロに今の王国の状況を聞く。
「ハセクやハクレ、アルバートがお前を気遣って捜索を取りやめた、彼らは貴族で権力者でもある、お前が王国に戻っても咎める奴はいねぇけど、快く思わない奴もいる。少なくとも味方はいるから安心しろ。」
それだけ聞くと、彼らに迷惑をかけてしまった事に申し訳なく思う。
他愛ない話をしながら二人はウラル島へ着く、日が眩しく、住民は半裸で褐色な感じだ、いかにも島の民族だって事が分かる。
輸送船の人にお礼を言って二人は森の奥深くにある塔へ歩みを進める。
塔の前には島の住民が護衛していた、塔には入れたくないのが伝わる。
二人が近づくと、威嚇をしてくる。
「これ以上先に近づくな!世界の始まりたるこの塔に異邦人を入れるわけにいかん!」
「安心しろ、私達は塔の御仁に会いに来た友人だ。」
「嘘をつくな!我々ウラル族はこの塔をずっと見守ってきた、そんな戯言通用せん!」
「本当か?」
テレスミクロは護衛の瞳をジッと見つめる。
「あ…あ…ご友人方……どうぞ中へお入りください……。」
護衛は二人に道を譲った、これは催眠の一種だ。
「いくぞアルス、宗教なんて自由だが、信じて救われる奴なんて少ない……こいつ等は長年塔を崇拝してきたが中身なんて誰も知らない、真実を目にした所で受け入れる事すら出来ない、哀れな奴らさ。」
意味深な事を言って塔の中へ入り上へ登って行く、ずっと階段を登り上へ着くと石で出来た部屋が現れる、天井は所々穴が空いており太陽の光が差し込む、穴の下にはコップやバケツが置いてあって水が溜まっている。
「おーいジジイ連れてきたぞ!」
「何じゃ……」
石の部屋の奥にまた部屋がある、そこから人が姿を現す。
「あんたの後継者だ……こいつに引き継がせる。それで良いだろ?」
「こんな若造に背をわせる気か!お主は何を考えておる!」
「オメーがいつまでも表に出ねぇからこうなってんだ!私だって気は進まねぇよ!」
何やら口論が始まった、話は見えてこないがどう言うことだ……。
「あの、この方は……。」
「よく聞け若造、ワシは大賢者キルス。後継者を探しておる。」
「後継者……」
その老人は小柄ではあるが魔力は神聖であり、ラスティーネに近いものを感じる。
「いいかアルス、お前の報酬は死場所だ。そのためには大賢者を継承して悪魔の行動を止め何をしているか明らかにしろ。」
「話が急すぎますね。」
「時間がねぇんだよ。お前に押し付けて悪いと思うが全部このジジイのせいだ!」
「な、何を言うか!ワシだって何もしなかったわけでは……。」
「オメーはずっと引きこもってただろ!弟子である私を利用して継承者を探す旅に出させやがって!」
「それはお主が継承を拒否したからじゃ!ドルクを連れて来た時も拒否されおったわ、今回もそうじゃ!」
「バカ言ってんじゃねー!重荷を背負わすこっちの気持ちも考えろ!」
「うるさい!協力したのはそっちじゃ!!」
また口論が始まる、良い加減にしてくれ。
「とりあえず継承すれば良いんですね。」
痺れを切らし本題に無理やり入った。
「良いか若造!?賢者になれば人生絶望しか待っておらん、継承したら後悔するぞ!」
「とりあえず自分の意思なので問題ないです。」
正直今のアルスには失う物など何もない、以前オロバスの言った生き地獄になると、ずっと生きてる者に伺うというキーワードがあった、果たして今がそれか……。
「とりあえず大賢者って何ですか?ここに来てから話が飛躍していて掴み辛いです。」
「そこまで知りたいか……愚か者が……。」
「良いからオメーの口から話せ、一から十までだ!」
ここから大賢者キルスから詳しい話を聞く事になる。
大賢者とはだが、賢者は元々七人いたらしい、それ等はエルスター神によって生み出され、大罪悪魔七人に対抗するためだったとされている、悪魔を倒してもまた復活するため、賢者たちは悪魔が復活する度倒して世界の均衡を保っていたとされる。
「じゃがな、これは神話の話じゃ。本当かどうか知らん。」
「ええ……」
賢者たちは悪魔を倒し続けると疲れ果て自分がなんの為に生まれたか分からなくなる、彼らは一人の人間に七人の賢者の魂を入れ人間は大賢者へと昇華された、だが得られたのは永遠の寿命であり自害は許されなかった、唯一死ねる方法は誰かに殺され継承される事にある、これ以降繰り返されキルスの代まで引き継がれていった。
「ワシの代は五代目とされる、一、二、三代目はそれぞれ異なる属性でありワシはトリプルエレメントとなっておる、前の代は生まれながらに天性の魔法が扱える者、スフィアーネの一族であろうな……。」
大賢者は前の代の能力を継承し強くなる、なぜキルスが大賢者になったのかだが、それは彼が若い頃に遡る。
キルスはその名の通り剣の型であるキルスを作った本人で武術学者と剣術指導者であった、エルシドの型が一般に普及し各地で型の形がガラパゴス化した時、キルスが激怒したのだ。
本来の剣技を貶していると感じ、新たに対抗するため完璧な型を作った、それがキルスだったが、今更それを普及させるなんて難しい、エルシドが土着化してしまい離れづらくなったのだ、キルスはそれでも非難を続けるとエルシドの型を愛用する人達からウザく思える、その後キルスは島流しに合いウラル島に漂着してしまう。
「ここからワシの大賢者として第二の人生を送る訳じゃ。」
「世は左翼だったってだけじゃねーか。」
「うるさいわ!」
キルスは命からがら島民に襲われそうになりながらも、この塔へ到着する。
監視の目を掻い潜り中へ入ると一人の人間と出会うのだ。
「アンタは……」
若かりしキルスは古代の塔に生きている人間がいるとは思えなかった。
「ただの不死人だ……こんな塔へ来ても何もないぞ。」
石の部屋では中年の男が一人寂しく角の方で佇んでいた。
「なぁ、水はないか?海に流されて……もう何日も口にしてないんだ……。」
「そこの器に水が溜まってる……好きに飲め。」
「ああ、ありがたい。」
キルスは雨水が溜まった大きい器を浴びるように飲む。
「お前はどこから来た?」
「帝国だけど……」
「帝国か……今でも武力的支配か?」
「今でもって、昔からそうだろ?1000年以上帝国が支配してんだ、どちらにせよ俺たちは不自由しない、でも今じゃあ俺は異端だろうな……」
「所詮人間か……お前等がそうあり続ける以上私は解放されないのかもしれない。」
「あんた何もんだよ?俺は武術研究家で学者のキルス・ヒーリン。平民だけどな。」
「私は……暫く名乗ってなくて忘れたな……」
「何だよそれ?」
「私の一族は天性の力を生まれながら持っている、心当たりはないか?」
「神話上の話じゃエルスター神の血を引いてるらしい、帝国より北はエルスター教の信者が多い、アンタみたいに生まれながら持ってるか分からねぇが、そこの出身じゃねーか?」
「そうか、エルスター神……ありがとう。人と話すのは久しぶりでな、元気が出たよ。」
彼はキルスとの会話で少し元気が出たと言った、それ以降はウラル島でキルスは生活し型の研究に没頭するようになる。
80年近くが過ぎるとキルスの型は帝国で知らない間に普及していた、それでもエルシドの型には勝てなかった。
本人はそんな事など知らずウラル島へ引きこもり老人になっていた。
「おーい、また来たぞ。」
老体になってもキルスは大賢者の居る塔へ勝手に入っていく。
「ああ、お前か……」
「それにしてもお前さんは老けないのぉ。」
「お前は老けすぎだ。」
「最近はどうじゃ?」
「最近……お前の方はどうなんだ?」
「ワシは絶好調じゃ。」
「そうか、私は分からないよ。」
「分からない?」
「これからの出来事をありのままに流すか、介入し武力支配する世界を継続させるか……」
「何を言って……」
「私はね未来が少なからず見えるんだ、選択肢を作ってそれぞれの道をみる、私の頭じゃどちらも地獄だ。良い方法がない。」
「ワシに出来ることはあるか?」
「そうだな……」
大賢者はキルスの顔を覗くように見る。
「ダメだ、アンタは弱い。任せられない。」
「任せられないとは?」
「継承だ、アンタの手で私を殺すんだ。私の力を与えられるが、元の継承者が弱ければ意味はない、悪魔を蹂躙できるほどの力でなくては。」
ここでキルスは悪知恵を働かせる、もし永遠の命が手に入れば一生型の研究に没頭できるのではと。
「ワシを信じてくれぬか?未来は少ししか見えんはずだ、ワシが大賢者になった後の未来は見えるのか?」
「見えない、だがアンタは己の私利私欲の為に私の力を欲している、この力は均衡を保つためのものだ。」
「だからこそじゃ、ワシが型の研究をし続け、絶対勝てる型を開発して布教すれば悪魔も敵ではない。」
「なんて愚かだ、私の倒した悪魔達はそろそろ復活する。お前が布教してる間にアイツらは力をつけて悪魔による完全支配が始まる。」
「それも悪くないと考えるんじゃろ?長い付き合いじゃ、考えてる事ぐらい分かるわい。」
キルスは大賢者の言った『出来事をありのままに過ごす』という言葉を忘れてなかった、大賢者は人間の事など何とも思ってない、いくら均衡を保とうとも人間は勝手に争うし愚かなので一回悪魔に支配されちゃってもいいと考えていた、そんな愚痴を80年近くキルスは聞いていたので、利用したのだ。
「ああ、お前の言う通りだ。最近の私は人間の未来などどうでも良いと考えている。」
「なら、託して見ぬか?」
「お前のような利己的な人間に渡せと?」
「そうじゃ、ワシの未来が見えぬなら。賭けてみよ、お前の望む未来が見えるかもしれん。」
「賭けか……私は好まんが、人がここに訪れん以上は誰かに渡した方がより良い未来を作れる可能性はあるか……。」
キルスの安請け合いに大賢者は継承権を渡した。
それからは大賢者キルスとして塔に住む事になる、本来であればマモンの乗っ取りも阻止しなくていけないのに、エヴァンス王が乗っ取られ多くの犠牲が出た、その間にキルスはただひたすらに怯え塔に篭っていた。
キルスは悪魔に勝てるほど強くはなく、強力な天性の呪文を扱えても戦う勇気はなかった、大賢者は人以外に殺されると消滅する、そのためキルスは保険と称し戦いを見送ったのだ、その結果マモン以外にも悪魔が強くなりすぎて手が付けられなくなってしまった。
「これが、ワシの全てじゃ。」
「世は騙したんですね。」
アルスは確信に入る。
「悪魔がこうなってんのも全部こいつのせいだ、アイツらはまだ強くなる、早いとこ抑制しないといけないんだよ。」
「ゆ、許してくれ……こうなるなんて分からなかったんじゃ……。」
とりあえず二人でリンチにした。
かつて、テレスミクロは継承を拒否した、ただでさえ3000年以上生きるのに永遠の命なんて御免だと、ドルクはただ親の命令で修行しに来ただけだ、継承の話を持ちかけても正しい選択をできる自信はないし柄じゃないと。
弟子は塔を訪れ修行するがその殆どは継承を拒否した、大賢者の代償はいくつかあり子を成せないこと、永遠の命、自害は許されない事の三つである。
己の心臓に剣を突き刺しても、自分で攻撃した箇所はすぐに傷が塞がる、毒やら病気も意味はなさない、餓死を試してもただ腹と喉が渇くだけで辛いだけだ。
どちらにせよ悪者か利己的な人間、何も持たざる者が好みそうな条件だ、それらの人種はまさに愚かと言えるだろう。
その時のアルスは何も持たざる者に当たる、彼は大賢者の修行を終えると彼を殺して力と責任、代償を背負ってしまった、彼の見た未来に死場所を見出せただろうか……。
五十二話に続く……。
世界設定:キャラクター
キルス、彼は大昔の帝国出身であり年齢は2000歳を裕に超えるだろう。彼は大賢者であるが戦闘能力はあまりない、武術学者であるため知識量は並大抵ではなく、彼の弟子は様々だが、どれも強者である。その中でもドルクは弟子の中で一番強い。弟子に教える内容は究極型の剣技に魔法の使い方、戦略等と戦いに関する事が多い。弟子も選んでおり悪魔に味方するような奴は門前払いしてる。基本臆病で頼りないが、人に何か教えてる時は生き生きしてる、内容も的確でわかりやすい。指導者としては負の打ちどころがなく、ここぞと言うときは頼りになる。また利己的な人間でもあり当時は自分の利益のためなら手段は選ばなかった。究極型だが、布教を目的としていたが未完成だったため弟子には教えないように促していた。テレスミクロはアルスに教えていたしドルクは自分自身で型を派生してしまった、威厳があまりないので舐められやすい。趣味は昔なら闘技場観戦で現在は星の数を数えること。
読んでいただきありがとうございます。やっと大賢者が出てきました、出番はこれでほぼ終わりです、本当は修行してるとこも残したかったですが、中途半端な文字数で終わりそうなので、ところどころで垣間見せる感じにします、これからもよろしくお願いします。




