第五話 過去主人公編
ハセクの過去を聞いたアルスはこの後ヒルブライデと共に酒場により愚痴を聞かされ、潰れたヒルブライデを剣聖隊施設に運んだ、そこにいたマルマキアに王国の目的を聞いた。そして懐かしい恩師の名前を聞いたのだが・・・。
テレスミクロ、その名前を聞いた時衝撃を受けた。
「はは、驚いた顔してんな。」
マルマキアは予想通りと言わんばかりの顔をしていた。
「ええ、まさか師匠が剣聖だったなんて。」
「あいつは隠し事が多いからな。」
「でも納得はしました......あの強さは普通じゃない。大賢者の元で修行した数少ない人ですから......。」
「ヒルちゃんをここに連れてきたのもあの女だ。」
「隊長の話を師匠はしてなかったですね。」
「何考えてんだろうなあれは。」
テレスミクロ、帝国出身のダークエルフ何千年か前は帝国の傭兵を続けていたそうだ。
7歳になるまで師匠によって自分は育てられた。大戦が終わると少しは平和になり、ちょくちょく会っては教えを乞うていた。
「アルス、事情聴取だ明日休み取らせるから——飲みながらお前がここに来る経緯を話せ。」
「えぇ......。」
帝国暦2988年
自分は帝都の地下貧困街に生まれたらしい。
盗人が多く毎日のように誰かがのたれ死んでいた——母親が誰かわからない......物心着く頃には師匠が親だと思っていた。
毎日ご飯が出て、周りと違うのがわかる——ただし、ご飯が出る代わりに剣術と魔術を仕込まれていた。
時々師匠の仕事に着いていき相手の脅し方、話し方、酒の席の振る舞い方を観察していた......いつだったか例の剣技に見惚れたのだ。
帝国の模擬戦懇親会と言うことで傭兵と帝国の兵士が招集された。師匠の相手はドルク、皇帝の近衛騎士である。
「後輩くんじゃない、ちょっと老けたかな?」
「お前は相変わらず変わってないな......。」
そうして勝負が始まった、師匠はエルシドの型を使いドルクはキルスの型を使っていた。
ドルクは当時帝国内でも最強と謳われる剣士であり両者はほぼ互角だった——だが、流れが変わりお互いが究極型に切り替わった。するとあっという間に模擬戦場が静まりかえる......痺れを切らしたドルクが切り掛かり師匠がそれをいなす、頭にポンと木剣を置いたのだった。
「あのなぁ、これは剣技の部類じゃないんだよ。相手の攻撃に対して必ずカウンターが決まるってだけなんだ。お前それも知らねーのかよ。」
「剣の型じゃないのか?」
ドルクが不思議そうに話す。
「師匠は剣の型にしたがっているけど、もしこれが剣技なら自分から攻撃したら負けるように作られているじゃねーか。」
「ぐ・・・。」
「本人は不本意だろうが、これは自分が得意な型に対して切り替えて使うのが最強だと思うね。」
この一件以来自分は師匠があの構えをすることがあればよく観察して真似をするようになった、本格的に覚えたのは13歳の時。
帝国暦が王国暦に変わった後である。自分はゲトー要塞攻略に失敗したため命からがら帝都まで逃げることに成功したのだ——それから停戦協定が発表された。
帝国の傭兵として回ることが多くなり師匠とは同業者の立場になった。
会ってはあの究極型の教えを受けその特性も理解できるようになってきた。
「お前すげーじゃん!今まで見た中で2番目に覚えるのがはえー!」
無邪気に喜ぶ師匠、その時はとても嬉しかった。
「2番目ってことは一番は......。」
「そう、あのドルクさ。彼は間違いなく世界で一番強い私よりな。」
その時はとても恐ろしく感じた。
「あと、その構えはあまり表に出すなよ私は大賢者より使用を許可されているが——普段これは第三者に教えることが禁じられている、その理由は私もわからない。」
「はい、わかりました。」
「いいか、どうしようもない時にだけ使いな。」
こうして自分は戦地を転々とし平和が長く続きすぎたのか、戦うことを生業にする傭兵の仕事が減っていった——そのことを師匠に相談すると。
「数ヶ月後に王国で剣聖隊の募集が始まるみたいだぞ、お前受けたらどうだ?」
「んー王国内の歴史や法は詳しくありませんから、それに帝国にいた人間を簡単に受け入れてくれるのでしょうか?」
「彼らは思いの外良い奴らばかりだったよ、仕事でちょっと話したんだけどね。」
その時はやけに詳しいと思いながら話していたが、師匠は顔が広いからと——そこは突っ込まなかった。
「これ、お前にやるよ剣聖の指南書、これには王国の法が詳しく書いてある。歴史はそこら辺の文献漁れば出てくるだろうし物覚えのいいお前だったらなんとかなるよ。」
そう言って師匠は席を立ち急いでいるからと言って別れた......そして今に至るまで会うことはなかった。
「これが自分のここに至るまでの経緯です、信じていただけますでしょうか?」
「まぁ、とりあえず信じるよ。」
そう言ってジョッキに入った酒を一気に飲み干す。
「あれ、お前は飲まないの?」
「さすがにキツくなってきました。」
「あの女はもっと飲めたぞ、お前もいけるはずだ。」
「無茶言わないでください。」
「にしても、お前がゲトー要塞にいた時はテレスミクロを見てなかったのか?」
「いいえ、見ていません、まず師匠はいつから剣聖隊にいたんですか?」
「あたしが入る前からずっといたよ。」
「帝国のゲトー要塞攻略時に師匠はどこに派兵されていましたか?」
「わからない。」
「へ?」
「あの女は常に王国から自由行動が許されていた、恐らく腕を買われた可能性があるが信憑性に欠けるな。」
しかし、解せない点がある師匠が剣聖隊ならそこそこ有名になっているはずだ。
「師匠は剣聖隊の中でも有名な部類だったんですか?」
「いいや、あいつは常に裏方だったから表に出て活動することはまずなかったよ。七剣聖なのに一人欠けてね?って声が当時あったぞ。」
「では、師匠が帝国側の傭兵をしていたのもご存知で?」
「1000年以上前からやってたのは知ってたけど私が剣聖隊に入った時にはてっきり辞めてるもんだと思ったよ、その類の話をすると辞めたの一点張りだ。」
「なんか師匠怪しくないですか?」
「お前の話を聞いて確信したが、あの女は傭兵を辞めていなかった訳だ。それか傭兵ごっこをしていたか......。」
そんな話をしていると日が登ってきた。
「すいません、トイレ行ってきます。」
「あたしも行こうか?」
「いいです。」
「ほら、お前今日飲みすぎただろ?はみ出したらあぶねーから補助してやるよ。」
「最悪だ、そんなこと言わないでください。」
「なんだ自信ないのか?」
「そこそこあります。」
「お前のその返し方反応困るんだよな......。」
「じゃあ、外で待っててください。」
こうして、自分の師匠について少し知ることができた......マルマキアさんとも仲良くなった気がする——今思えば、もっとお酒を飲んで会話を楽しむべきだったな......。
六話に続く......。
世界設定:王国精鋭剣聖部隊
略して皆、剣聖隊と呼ぶことが多い。王国が設立してからこの部隊は存在し王国の象徴として存在している。採用基準は王国の法や歴史に精通しており、実技においては魔法を巧みに扱えること、剣技が得意である者を採用している。主な業務は王都のパトロール、事務作業、王族の護衛、騎士団の応援要請に入ることにある。そして帝国及び他国との戦争が勃発した場合は最前線で戦うように指示される。隊員には基本縛りがなく騎士団と比べてルールが少ない、そのため厳格さがあまりない。7人編成を主軸にしており、隊員が欠けた場合すぐに補充が始まる。
読んでいただきありがとうございます。ここからだいぶダークな雰囲気になるかもしれません。また、よろしくお願いします。