第四話 過去
初仕事が王女の護衛であったアルスは盗賊の襲撃を未然に防ぎ任務を全うした。盗賊の口から帝国が関係していると聞き。引っかかりながらも床に着いた。そして日が昇る・・・。
先日盗賊から村を守り任務を終えすぐに就寝した、初仕事がこんな大事件である事に先が思いやられそうだった——帝国が関係している事に驚きが隠せない、明日はすぐヒルブライデに報告しまた業務に取り掛かる......そのまま目を閉じて眠りにつくのであった。
朝になり支度をする。そのまま大広間に向かい扉を開けると剣聖隊の面々と顔を合わせる。
「おはよう、今日は目覚めが悪かったかな?」
ヒルブライデが話を始める。
「昨日はご苦労だったね。まさか盗賊がいたとは思いもしなかったよ。」
「ですが、帝国に騙されたと盗賊のボスが吐きました。」
「ああ、知っているよ。でも、証拠が少ない上にハッタリかもしれない。確証がない以上帝国に赴いてこの話を持ち出すのはかなりリスクがある。」
「確かにそうですね——停戦協定を結んでも今だにピリピリしてますし、この話を持ち出したらまた戦争が起きそうですね。」
「停戦協定の一つにはお互い戦争を誘発させる行動はしない事にある......とはいえ、あっちから仕掛けてきた可能性が非常に高いけどね。」
間違いなく帝国側の刺客で間違いないだろう、しかし問題なのは......。
「私はね、王国内部にスパイがいると考えているんだよ。なんで姫様が村を訪れるのを知っていたのかが気になるんだ。」
急に大広間の空気が重くなった。
「でも私は、この剣聖隊に内通者がいるとは思えないんだ——私は最後まで君たちを信じるつもりだよ。」
その時扉からラスティーネ王女が出てきた。
「皆様、おはようございます。」
「おーす。」とマルマキア。
「今日もかわいいね。」とハセク。
他4人は頭を深く下げ「おはようございます。」と挨拶をした。
「今日はアルス様に話があってきましたの!」
「自分にですか?」
「ええ、昨日は助けられました。感謝してもしきれません!」
興奮したように早口で感謝を伝える王女様。
「まぁ、仕事ですのでこれぐらいは。」
「何を謙遜してるんですか!兄貴は!」
横からメガネが興奮して入ってくる——前まで重かった空気が賑やかになった。
「もし、私が代わりに任務に入っていればさらに怪我が悪化していました!この恩は一生忘れません!」
「確かにこの剣聖隊の中に内通者がいるとは思えないね。」
笑いながら話すハセク。
「隊長の言うとおりだ、私もその信じる精神を学ぶべきだな。」
スーゼルがしみじみと話す。
「おほん、今日はですね。」
改めて内容を話す王女
「私のお父様がアルス様に感謝を述べたいとおっしゃっていまして。」
「そうなんですか。では、何時から参られた方が・・・」
「今、お願いします!」
昨日からバタバタしているなとつくづく思う——そうして自分はラスティーネ王女に手を引っ張られて王城に向かったのだ。
「なんか妙に気に入られたね彼。」
考えながら話すハセク。
「とはいえ、今後の行方が気になるところだがな。」
警戒するように話すマルマキア。
アルバートとハクレは首をかしげていた。
王の間に入り自分は王と謁見をした——体格がそれなりによく明らかに強いのがわかる。隣には騎士団長がいた、剣聖試験の面談時にいた男だ。あれも最強格なのが窺える。
「この度は我が娘を救ってもらったこと感謝するぞ。」
深々と王が自分に頭を下げてきたのだ。
「頭をお上げください、陛下......私はただ仕事で........」
「いや、スフィアーネが残してくれた娘なのだ......私の世継ぎにはラスティーネしかいないのだ.......そなたは王国の未来を守ってくれたといっても過言ではない。」
ラスティーネ女王が生まれる前一人息子であるジョグレン王子がいたが、10年前の大戦で戦死したのを覚えている。
黒死隊と呼ばれる帝国の精鋭部隊であり四人編成である。
ゲトー要塞攻略のため進路確保をするのだが、当時王国の戦力は凄まじく行き着くまでが困難である——そこで黒死隊から一人出兵されたガイストという屈強な男と共に無事ゲトー要塞まで行ったのだった。攻略直前で彼は私たちの大部隊を離れまた別のところに派遣されたそうだ——その時彼が向かったところこそジョグレン王子が率いる部隊だったそうだ。
ジョグレン王子はこれでも王国指折りの剣士だった。
単身一人で大部隊を相手にしジョグレン王子の部隊は壊滅、黒死隊他メンバーでさえもこれに匹敵する強さを持っているらしい。
「私からも礼を言おうアルス君。」
騎士団長からも礼を言われた。
「模擬戦の試合を見ていたが、君は驚くほど強い。これからは王女が遠出する際には君を付けたいのだがどうかね?」
「仕事であればお任せください。」
そう言って城を出て再び剣聖隊の施設に戻る。
「お、帰ってきたね。」
ハセクが手を振ってきた。
「他の皆さんはどこに?」
「もうみんなそれぞれの職務を全うしてるよ、君は僕と一緒に書類整理。」
黙々と作業をしているとハセクが急に話し出す。
「ねーなんか面白い話をしよーよー。」
「今、業務中ですよ。」
「でもなんか話してないと手が止まりそうだよー」
「ハセクさんは何故あの時ゲトー要塞に居たんですか?」
「え、急にそんな暗い話をふっかけてくるなよー。」
急な話に困惑するハセク。
「じゃあ、武勇伝を聞きたいです。」
「んー、これといってデカイ戦果をあげてはないんだよな。」
ハセクが考えていると。
「じゃあね、僕が皇帝に殺されかけた話でもしようかな。」
「皇帝と戦ったんですか?」
「正確には戦っていない、彼から刺客を送ってきたのさ——こう見えて僕は帝国では雷獄の名前が通っているし危険人物なんだよ。」
「実際会ってみれば子供っぽいですもんね。」
「舐めんなよ!話は戻るけど、彼が送ってきた刺客は老人で全身ローブそしてフードを被っていて顔がわからなかった......ちょっと面白くなってきただろ。」
「例の盗賊の話と一致しますね。」
「そう、でも同一人物か分からない。奴は剣技も魔法もトップクラスと言っていい......属性は雷、使う剣技はソルブ問題は魔法が闇だった。」
「帝国で闇の魔法を使う者は王国と比べて多いですね。」
「でも、かなりの熟練度だった......ああいうのは滅多にいない。時期は大戦中だったな、ゲトー要塞攻略に失敗した帝国が焦っている時——ゲトー要塞に残っていた王国兵の殆どを外に出し残った兵を殲滅するように指示した——その時奴は現れたんだ。丁度疲れたんで一人になった時背後を切られてね、必死に応戦したけど剣技も魔法も奴が上手だった。その後のことは覚えてなくて王国兵士に発見された時には瀕死だったと聞いているよ。」
「なぜ、皇帝の刺客だと分かったんですか?」
「100年以上前に帝都にある王城を訪れたことがあってさ、そこの宰相と雰囲気がそっくりだったんだ。魔力の流れも似ているし、奴は人間だし人間の寿命で生きているとは考え難い。もし、何かしらと契約を果たし延命できたとすれば闇の魔法を使えるのも納得ができる。」
「可能性はありそうですね。」
「ここだけの話。君を帝国の内通者だと疑っているものがいるんだよ。」
「私が異常なのは知っていますし。疑われてもしょうがないですよ。」
「君は聖人かい?もっと動揺すると思ったのに。正直僕も君を疑っている。何かあれば君を殺す覚悟が僕にはある。」
ハセクの目は本気だった。
「なんてね、ちょっとはヒヤヒヤできる話ができたんじゃないかな?」
「はい、楽しかったですよ。」
こうして作業が終わり夜になる。
業務を終わらせ自分の部屋に戻ろうとしたその時だった。
「ちょっといいかな、アルス。」
ヒルブライデが自分の肩を掴む。
「どうかしましたか?」
「ちょっと飲みに付き合って欲しいのだが、時間はいいか?」
「私で良ければもちろん。」
「マルマキアもどうだ?強いだろ?」
「いや、あたしは遠慮しとくよ・・・。」
何故かマルマキアが視線をそらす、そしてこっちに近付いて小声で話す。
「長居はするなよ。」
こうして酒場に来たのだがマルマキアの話していた内容が理解できた。
「私も出会いを探しているんです。もっとこう男に言い寄られても良いというか、アルス君は私みたいな女の子嫌いですか?いつも清廉潔白のイメージがあるせいか誰も私に手を出さないんですよ、私は確かに処女ですが大人の階段を登ってみたいんです......わかりますか?ちなみにアルス君は童貞です?もしそうだったら一緒に階段登っても良いと思うんですよ......どうでしょうか?」
酒が強いのは分かったが、暴れる方じゃなくてめんどくさいタイプだった。4時間ずっとこの類の話である......正直クソだるい。
「自分は童貞じゃないです。」
「そうやって、私だけ取り残されていくんだ......一人だけずっと子供のまま.......。めんどくてごめんなさいアルスくん。どうやったら成功体験できるんでしょうか?私は真剣なんですよ?22にもなって男の気配すらない人生送ってるんです。この話を今あなたにしているってことは、そういうことなんです。わかりますよね?」
「まだ会って3日目です。」
「............」
なんだ、急に静かになったな?よく見ると寝ていた。
「あー、隊長さんまた寝ちゃったよ。」
酒場の主人が顔を出してきた。
「もうそろそろ店を閉めるから、いつもだったら剣聖の隊員が迎えに来て連れて帰るんだがね。」
なるほど、そういうことか。何故か飲みにいく際、剣聖隊みんなが申し訳なさそうな顔をしていた。
「店閉まるらしいので帰りましょう。」
聞いても返事をしないので担ごうとすると。
「いやん♡」
『は?』
こうして剣聖隊の施設まで担いで行った。
「あー潰れたか。」
やれやれとマルマキアが頭をかく。
「部屋こっちだから案内するよ、もうみんな寝ちまったし。」
「マルマキアさんは起きてたんですね。」
「明日はオフだからなーそれに、ヒルちゃんがこうなるのは分かっていたし。」
「仕事以外ではヒルちゃん呼びなんですね。」
「普通に仲がいいからな。」
ここだと言われベットに寝かせる。
「最初コイツが剣聖になるなんて思わなかったんだ。」
急に話を始めた。
「コイツは実の兄に会うために剣聖に志願したんだ。コイツの兄は黒死隊のバルキルウスしかも隊長だ。」
そのことを聞いて驚愕する。
「ちなみにこれは、本人は知らない知らせないようにしている。剣聖隊で知っているのはハセク、スーゼルとあたしだ。」
「なぜ自分に?」
「今日ハセクがうっかり口を滑らしただろ、お前を疑っていること。だから情報を交換してやったまでだ。」
「何か企んでませんか?」
「まさか、お前には知っておきたいんだよ——王国が少しずつ腐っていることに。王国はヒルブライデを使って剣聖隊を伝説に仕立て上げるためのプロパガンダに過ぎない——数ヶ月前に居た女性の剣聖がいたんだがそいつが情報を突き止めてね。その後すぐに消えちまった、これは王国に消されのかそれとも帝国によるものなのか分からねぇ。」
次から次へと恐ろしい話が出てくる。
「あたしたち古参組三人は、この事を王国に悟られないように常に気を張っている。お前は口が固そうだから話すが——近いうち大戦が起きるのは間違いねぇ。恐らく王国は帝国を飲み込もうと画策している......今でこそ王国暦にはなったが肝心の帝国が潰れず残ってやがる——何か起きる前に手を打ちたいんだろうな。戦争が始まれば王国は剣聖隊を主戦力に置いてバタバタと敵を葬り伝説的立ち位置を確立、象徴とし継承を続ければ抑止力にもなる。」
「知らない間に黒死隊が壊滅していれば隊長の戦意を削ぐこともなくなる。」
「そうだ、せっかく黒死隊に匹敵するヒルちゃんが実の兄が戦場にいるなんて知ったら戦いどころじゃねーだろ、王国はせっかくいい人材を手に入れたのにこれが足枷になってるようだ——なんとかして戦争を起こすきっかけが欲しいんだ。」
以前の盗賊事件もしかすれば王国にも関係していそうだ。
「でも、あくまで考察程度だ......決定打がない。あの女が生きていれば少しは変わるかな。」
「ところでその前いた剣聖というのは?」
「お前にそっくりでね戦い方が、テレスミクロって言うんだが、」
その時懐かしい名前を聞いた気がした......それは紛れもなく恩師の名前であったのだ......。
五話に続く......。
世界設定:キャラクター2
ヒルブライデ:王国に所属する剣聖精鋭部隊隊長を務めている。剣聖隊の中では一番強く魔力もあるそして何より頭が切れる。容姿は銀髪美人スタイルが良い。年齢は22歳、仕事とオフでは全く印象が変わる剣聖隊でもフレンドリーに接することが多く常識人枠にしている酒は強いがめんどくさい。時どき幼さも見せるため人間がしっかりしているように作っている。
読んでいただきありがとうございます。これからも頑張りますのでよろしくお願いします。