第三話 初仕事
メガネとの決闘に勝ち正式に入隊ができたアルス。剣聖隊の面々と顔を合わせ明日から仕事が始まるのだった・・・。
朝になり、目覚めの良い1日が始まる。昨日は楽しかったと思いながら支度し剣聖隊施設の大広間に顔を出す。
「おはようございます。」
「いいって、タメ口で構わないよ——そもそも同い年だし。」
ヒルブライデから事実を知らされる。
「そうだったんですか?」
「同じ22歳だよ私たちは、そしてなんの巡り合わせかわからないけど——私も帝国出身なんだよ。」
「え?」
そんな会話をしていると後ろから他剣聖隊が顔を出してきた。
「おっす、アルスが一番早かったな熱心だね〜。」
砕けるように言うマルマキア
「昨日はお姉さんといて悶々とした夜を過ごしたんじゃないのかい?」
距離を詰めてくるマルマキア、正直まだ酒の匂いがする。
「それはもう悶々としましたね。」
「お前はそういうタイプか......。」
少し残念そうだった。
「さて、これより君に初任務を与える——君はアルバートの助骨を砕いたため彼が本来やる予定だった任務を代わりにやってもらうぞ。」
「いえ、私は大丈夫です!一緒に行きましょう兄貴!」
食い気味に話をするメガネ。
『一緒に行く前提なのか......。』
少し引いた。
「バカを言うな、悪化したら大変だしお前は大人しく事務作業だ。」
「ちなみに自分の任務内容はなんですか?」
「姫様の護衛任務だ、騎士団兵士からも数人手配されるが——剣聖から一名欲しいという。アルスはその王女の身辺警護を任せる——腕が立つのだからそれぐらい余裕だろう?」
恐らく戦う事しか取り柄がないのを見透かされているようだ。
『どこまでも鋭いな。』
「もうじき姫様が出立される。直ちに正門で待機せよ。」
「はい。」
そう言って自分は剣聖隊施設から出た。
「では、ハクレとアルバートは事務室に行き作業を開始せよ。」
「「ハッ!」」
ハクレとアルバートは大広間から出ていった。
「さて、どう思うあの男を?」
「まず、証拠がないしなぁ。」
「置いとくには危険すぎる。」
「精神面が強すぎるせいか自分を出して来ないな。」
「一応経過観察ってことで。別に悪そうじゃなさそうだし。」
「ハセクが言うのであれば。」
「だが、警戒は怠らないで欲しい——ここに居て長いお三方は特に。」
そして、自分は王女が乗る馬車に揺られていた。
「わーアルス様ははらんばんじょうの人生を送っていたのですね!」
「ええ、波瀾万丈なのかは分かりませんが——苦労はした方だと思います。」
この王女の名前はラスティーネ王女、国王の娘である。
見た目が幼く10代いかないくらいの少女である——難しい言葉を覚えたばかりなのか頑張って喋っているようだ。
今から向かう先は王都から少し離れた小さな村。
そこでは農作業が適した環境であり村もあまり生活に困っていないそうだ——帝国にある村とは大違いで豊かそうに見える。
村に到着すると護衛の騎士団の馬車から兵士が出てきて家族に挨拶しに行っている、今回の護衛の騎士団は皆ここの村の出身で挨拶も兼ねて王女を護衛するそうだ。
今回王女の目的はこの村の農作物の輸入、王都からの生活必需品などを輸出する事らしい——だが、一つ疑問なのは女王自らが赴く必要はないだろうし他の王国関係者や商人を雇えば済む話ではないのか?
「姫様は何故自らで、交易をしているのですか?」
「ええ、見聞を広めるのもそうですが。ここの村は前まで王都の管轄ではありませんでした。特にこの村での交易は私が担っており私がここにくる前は飢えが酷く子供もまともに教育ができないそうでして——環境が整っているのに、農産業も出来ない状態でした......そこで、王都から農作物に必要な道具や材料を渡し作業させました。結果今このように豊かな村になったのです。」
すると横からこの村の村長が顔を出した。
「姫様には感謝してもしきれないのです。何を隠そう姫様が農業を提案し実行するための資金や道具を用意してくれたのですから——なので、姫様に直接来て貰えれば村のみんなが喜びます。」
そこに若い王国兵士が話に混ざってくる。
「僕たちもこの村の出身で何かできることはないかと思いまして、せめて王国の助けになればと兵士になったんです。少ない人数で半人前が多すぎて護衛には向かないけど......姫様がここの村に行くときは絶対に決まった人たちで行くようにしているんです。」
なるほど、兵士が若く人が少ない理由がわかった気がする、戦力的問題で剣聖から人を送る理由も理解できた。どうやら譲れないものがここの村にはあるらしい。
「なので、今回はアルスさんですが。もし敵襲にあったらアルバートさんに助けてもらっちゃうことに......。」
若い兵士が申し訳なさそうに話す。
「でも、この村が襲われた事が一回もないんですよ!帝国領からも離れていますし!盗賊は騎士団がほとんど拠点を潰してますから!」
必死に説明する王女。
『しかし、末恐ろしい王女様だな......。』
内心そう思い馬車の中で会話した時とイメージが180度変わった。
しばらくして作業が終わり、王都から来た教師が子供達に勉強を教える——そこにはラスティーネ王女の姿が見える、一緒に授業を受けているようだ。
その時、外からでかい鐘の音が聞こえた敵襲を知らせる鐘だ。
外に出ると遠くに盗賊が6人見える。
ここの村はモンスター、猛獣の被害も少なく外敵による対策があまりされていない——接近される前にこっちから迎え撃つ必要がある。
さっき話をしていた若い兵士アレクにみんなを馬車に避難させ遠くへ行くよう指示をする——積み込んだ農作物を全部出して人を乗せれば全員遠くまで行けるはずだ。
「無駄に血を流さないでくださいね。」
「ええ、痛い思いだけさせて殺しはしませんよ。」
とても慈悲深い王女だと思いながら、前に突っ込む。しかし疑問に思うのは、真正面から攻撃を仕掛けたのかが気になるところだ......まぁ吐かせればわかるだろう。
「おい、カモが一匹で突っ込んできたぞ回り込んでやれ!」
恐らくあれがボスだろう。
右から下っ端が切り掛かってきたが、そのままいなして足を切る。入隊時にもらった剣の切れ味がとても良い——肉だけで終わると思ったが骨まで切れた。下っ端の右足が欠損した——。
『これは殺さないようにするのが難しいな。』
そう思いつつ、今度は4人一斉に切り掛かる4方を固められたが、先に目の前の盗賊の腕を切り落とし後ろから来る盗賊のナタをかわす——すると、腕を切り落とされた盗賊の肩に入り骨が食い込んだのかナタを取ろうと必死なようだ。
「テメェ!」
そうして二人襲ってくるが右手を切り落とし足の腱を切った。これなら殺さずに済むだろうと......さて、あと二人か。
ナタが取れなかったのか殴りかかってきたが足を負傷させて立てなくした。
「バケモンが!」
ボスだと思われる盗賊が背中を向けて走り出そうとした。
「待て。」
自分は逃げる相手を金縛りにして動けなくした。
「俺の質問に答えろ。」
「うるせー!俺は騙されたんだよ、帝国にな!」
帝国の使者なのは理解ができた。
「依頼された内容はなんなんだ?」
「ここに、王国の王女が来るから村を襲ってそのまま殺せと命令されたんだ!」
「依頼してきた人物は誰だ?」
「分からねぇ、老人なのは確かだがフードを被っていてよく分からなかった。」
「でまかせか?」
「本当だよ!信じてくれ旦那!王女と半端な兵士だけって聞いたのに剣聖がいるなんて聞いてなかったんだ。」
問題はその老人が帝国のどこに位置する人物なのかだが、これは悪い予感がする。
その後王国騎士団により盗賊を収監、事情聴取を行い帝国が裏で手を引いているのかを聞き取ったそうだが......これといって確定的な情報はなかったそうだ。でも、この一件で今後の王国が地獄になることをこの時は誰も予想できなかった。
四話に続く......。
世界設定:キャラクター1
アルス、今作の主人公であり帝国出身の元少年兵士である。見た目は読者の想像にお任せするため、物語中ではあまり容姿を触れないように執筆している。得意な剣技はエルシド(独学)もう一つになぜか究極型を覚えている。戦闘能力がかなり高く実践経験もあるため、負ける事がまずない。一応無口だが、ちゃんと冗談も言えるし人間臭い一面だって見せるかもしれない。とにかく謎が多い。
読んでいただきありがとうございます。今作は主人公にキャラクター性を持たせる方向では書いてなく、周りのキャラクターに愛着を持たせるように執筆してますが。立ち回りがとても難しく感じます。これからも頑張りますので、よろしくお願いします。
※カクヨムと同時掲載です。