第二十八話 悪魔視察
共産国が三国大会議館に向かう数日前……。
剣聖隊施設で話合い、三国の会合日を決め女王に報告し準備を進めた。
ヘルヘイトスとオーフェンスもちょうど共産国に向かっていった、会合日まで数日と時間がある、今やるべきことは王国内の悪魔への処遇をどうするかである。
魔界の扉に逃げ遅れた悪魔達は夜になると活発に動きを見せる。
この件は現在王都の統治者であるスフィアーネが担当するが、彼女のへの負担は大きく、休む暇もない。
そのため、この一件の一部をラスティーネに任せるように女王が指示を出した、女王の娘であり頭も10代とは思えぬほどに切れる、そして今後国を担う者として王女が社会的に政治にも信用を得るチャンスでもある、何より国民が今の王に支持されなくてはこの国は終わってしまう。
「で、これは一体?」
自分は昨日剣聖隊の施設で会合日を決め女王の護衛の任を与えられた、護衛は自分とテレスミクロ、他は王国内でまた襲撃が来ても対応できるようにと残るそうだ。
そんなことより、ラスティーネに呼び出されたのだが一体何なのだろう。
「アルスさん今日はお願いがありまして。」
「はい。」
「夜に悪魔街へ視察に行きたいのです。」
悪魔街、それは以前魔界の扉が閉じ、逃げ遅れた悪魔達が集まってできた無法の地である。
そもそも悪魔街と言われ始めたのは太陽の日が苦手な悪魔は活動力が著しく落ちるが夜になれば活発になり元気に行動を起こす、そのため側から見れば建物こそ崩壊し荒んだ場所だが賑やかになっており悪魔同士で商売を始めるほどに社会が少しずつ成り立っていったようだ。
魔界の扉が閉ざされ十日近くなるが彼らなりに生きようと模索した結果、王都の社会の中に小さい社会ができたわけだ。
「それで、護衛ですか?」
「ええ、話が早くて助かります。」
だが、夜中に少女を出すとは危険だが……。
「なら、何人か連れてきますよ……多いに越したことは……」
「大丈夫です!二人で行きましょう!」
「ちなみにですが、他の人に許可……アグライトさんや女王陛下に許可を求めましたか?」
「さぁ……」
予想はしてたが、許可が通らないことを分かっていたようだ、視察……悪魔の状況を知らなくては政策は打ち出せないが、カラスは出払っているし……。
「アルスさんは良識のある大人です、夜遊びぐらい見逃してくれる器量の持ち主だと信じてます!」
「アホ言わないでください、いくら何でも未成年があんな所行かせられないですよ。」
「お願いです!!」
「じゃあ、ちょっと待っててください。」
渋々承諾してしまった。
自分は王城地下へ入り、アグライトに話す。
「ほう、姫様がそのようなことを……なんで許したんだ?」
「すいません……」
圧がすごかった、どうしよう。
「まぁ、あらかた事情はわかった。良かったな私で、これがハセクさんやテレスミクロ殿であれば止められていたが、女王及び姫の意見は尊重したい。」
狙いは的中した、アグライトは規律を重んじるが王家の人間の意向には忠実なようだ、とはいえ彼女もついていくそうで絶対に無事とは限らないのも確かだ。
そもそも、そんなところに行かせたくないのは百も承知である。
「で、何でここにきた?」
「戦力が欲しくてですね。」
アグライトと共にヒルブライデの牢へ訪れる。
「開けるぞ」
アグライトがヒルブライデの牢を開ける。
「アルス君助けにきてくれたの?」
「違います。」
ある程度内容を説明し理解してもらった。
「チッあの女の護衛かよ……」
ヒルブライデが不機嫌そうだが、なぜだろう。
「協力してもらいたいのですがどうですか?」
「もちろん、アルス君のためなら何でもやるよ。」
今日の夜限りだが、最高戦力だと思う、彼女であれば大抵の脅威から守ってくれるはずだ。
「とはいえ、お前は囚人だ、これを付けてもらう。」
アグライトは手枷と魔法が付与された首枷を渡す、どうやら首枷の方は魔法を遮断できるらしくヒルブライデは魔法を使えなくなる、その上アグライトから距離を離せば電流が流れるらしく逃がさないように作られているようだ。
「手枷とはいえ、おかしくないですか?いざという時に……」
「それはこうするんだ。」
アグライトは手枷をアルスの右手にかけそしてヒルブライデの左手にかけた。
「一緒だね。」
「えぇ……」
「この手枷はお前の任意で解錠ができる、いざという時に利用しろ。」
ヒルブライデは魔法を使えない状態だ、つまり彼女が暴動を起こそうとしても魔法を使えるこっちに分があるため有意に立てる。
身体強化はおろか氷結の生成もできない、だが、自分の意思で手枷が解錠できる、そこからアグライトの判断で首枷を解錠しヒルブライデの制御を解くことができる。
さて、これで戦力もある程度は揃ったが、他に周りに他言しない戦力はいるだろうか。
「おい、隣で何やってる?」
クフラクがいたが、彼はどうだろう。
「クフラク元気か?」
「別に元気だよ……」
と言いつつ彼は元気がないようだ、彼が監禁されてると知ってから何度か会ってはいるが自分に心を開いてはくれなかった、どうやらまだ自分を疑っているのかもしれない。
テレスの件もあるし彼は連れて行けない、それどころか彼と大きな溝を生んでしまうことは避けたい。
クフラクは連れて行かないようにし他を当たることにした。
「え、護衛?俺がスか?」
というわけで、外部の人間だし他言しないであろうライノックに頼んだ。
「いいんじゃない?俺はあんなとこ行きたくないよ、下手したら死ぬかもだし。」
友達の帝国兵士は行きたがらないようだ。
「いや、そんなこと言うなよ!人は多ければいいって!」
「何をそんな焦ってんだ?」
ライノックは知人がいないと多分気が進まないタイプの人間なのがわかった。
その後、エレスも考えたが、退院してすぐということもあり、彼女は口が軽そうだった、中の良いハクレと談笑している途中でうっかり喋ってしまいそうで怖かった。
だが、改革が始まれば姫が直々に視察した事などすぐにバレてしまうだろう、これは時間稼ぎにしか過ぎない。
「というわけで、何人か集まりました。」
「まぁ、凄いですわ!アルスさん!」
ちなみにだが、セブラブも付いてきた。
彼女も悪魔街が気に掛かっているらしく調査したいようだ。
夜になりこのメンバーで悪魔街を散策し調査する。
「ここから先は闇の魔力が大きいです、悪魔が集中しているでしょう。」
セブラブが鼻を利かせ悪魔街の中心へ入っていく。
中心に入る前は元から弱った悪魔が倒れていたり、崩壊した建物からこちらを覗かせる悪魔がいたりと賑わっているようには思えなかった。
だが、中心部に入っていくと紫色の明かりが多く浮いていた、これらは普通の灯りと違い闇の魔力を纏っている、光に弱い悪魔はこれを灯りの代わりに使っているようだ。
悪魔達だが、種類は様々で完全に人の形をしている者や人の形で角や尻尾が生えたり、顔が動物であるが明らかに獣人ではなく悪魔の特徴を捉えている者など多種多様であった。
建物も悪魔達によってある程度修復されている所もあり、そこを棲家として利用しているのが伺える。
「なんか、繁華街って感じすね」
ライノックが圧巻したかのように周りを見渡す。
「お兄さん、お時間どうですか?」
サキュバスだろうか、話かけられた。
「人間が来るなんて、珍しいこともありますね。私達も同族ばかり相手で飽きてきたんです。どうですか?」
サキュバスが自分の方に近づいて来た。
だが、サキュバスが自分の後ろの方をみて後退りをし始めた、自分の後ろにはヒルブライデがいるが何かあったのだろうか?
「おい、どうなってる?!魔力が制御できないだと?!」
アグライトが焦っていた。
ヒルブライデは闇のオーラを放っていた、悪魔と契約を解除したはずだがなぜ使えるんだ?そもそも首枷の意味は?
「許さない……許さない……」
ヒルブライデがなんか言ってるが、どうしたんだ?
「す、すいません。つい興味本意でして。申し訳ない……」
サキュバスが丁寧に謝ってきた、曲がりなりにも礼儀を知ってそうだ。
『なんか申し訳ないな……』
自分は近くにいたライノックに話をかける。
「おい、ライノックお前が代わりに行ってやれ。」
「え、いいんすか!?」
なんか嬉しそうだな……。
とはいえ、サキュバスが困っているし、多分営業なのもわかる……僅かだが、魔力が残ってないのもわかる。
このままでは弱ってしまう事も考えられたので、ライノックは若いし元気だろうから視察という体でイかせることにした。
「いやーアルスさん話が分かってらっしゃる。俺たちは行ってくるっす。」
ライノックと巻き込まれた帝国兵士がそのままサキュバスが集まる館に入って行った。
「あいつ馬鹿だろ。」
とはいえ、これは投資である。
ある程度恩を売っておけば、今後悪魔街との交流もスムーズになるだろうと考えた、他の営業にも顔利かせればラスティーネの株も上がるだろう。
ライノックを差し出した後、さっきまで話してたサキュバスがここのことを色々教えてくれた。
自分達は悪魔街と呼ばれている場所だが、どうやら統括している者がいるらしい。
規模そこ小さいが、殆どの悪魔は人間を迎え入れる準備をしているそうで、寛容な悪魔が意外にも多かった。
魔界の扉が閉ざされた後、人間に対抗する悪魔と逆に勝ち目がなくなってしまって降伏あるいは服従を決断した悪魔もいたが、圧倒的に降伏し服従を決断した悪魔が多かった。
そのため、攻撃的な悪魔は人を襲ってはいるが大抵は黒死隊や冒険者によって殲滅させられたので、いないだろうとのこと。
これらを聞いていても視察はせずともそのまま外交まで持って行けそうだ。
サキュバスから統括者の場所を聞いてそこへ向かう。
「しかし、アルス君あんな女が好きなんですか?」
ヒルブライデがずっと不機嫌そうだが、殺意を感じる。
「いや、まさか……自分の好みは違いますよ。」
「私ってこと?」
「違います。」
恐らくだが、彼女の夢はずいぶん先になることが予測できる。
「じゃあ、なんなんですか?」
ラスティーネにも聞かれるが。
「あー、あんまり考えたことないんですよね。これといって恋愛もしたことないので。」
「なら、私と付き合って。」
ヒルブライデは手を握ってくるが潰されそうだ、力がおかしい。
「ちょ、痛いです。」
「私の手の形にしてあげるね。」
なんか嫌だなその伝え方。
後ろにはドSとドMがいるし左に王女と右にメンヘラがいる状態だが、なんだこの組み合わせは、人選ミスにも程がある。
戦力的な面で言えば申し分ないが、地獄すぎる。
話しながら進むと倒壊した建物に辿り着く。
その下に地下に続く通路があるようで、そこに統括がいるとのことだ。
恐る恐る地下に入って行くと、中は暗く何も見えない。
「ちょっと怖いです。」
ラスティーネが不安を露わにするので、四方を囲んで守る体制に入る。
「客人か……。」
奥の方から声が聞こえた、目が光っているのか二つの赤い光を確認する。
自分達は対話に持ちかける、果たしてそれは成功となるのか……。
一方、ライノック達はサキュバスの館にいるが、どうなっているだろう……。
「まさか、こんな可愛い子とお相手できるなんて、マジで護衛に参加してよかったー!」
ライノックは両手に花の状態で部屋まで案内される、どちらも若く美しかった。
「いえいえ、私達も困っていたんです。これを皮切りに人間さんを沢山呼んで質の良い精気をいただければこちらも安泰です。」
部屋の手前で二人の若いサキュバスに変化が訪れる、彼女達の体がシワシワになっていった。
「え?!ちょっと待って、なんすか?どうしたんですか?」
「しもうた、状態が維持できなくなったわい。すまんのう。」
彼女達は久しく人間の精を吸っていなかった、魔界の扉が閉ざされてからというもの勝手な動きをすれば彼女達は愚か無害な悪魔まで消されてしまう。
お婆ちゃんになったサキュバスに強引に部屋へ押し込まれる、ライノックは抵抗するが、部屋の中には大量のお婆ちゃんや熟女サキュバスがいて数で負けてしまった。
「や、やめろーーーー!!」
「悪いなライノック、ツキは俺にあるみたいだ。」
帝国兵士は可愛いサキュバスに案内されるまま部屋に向かう。
「こちら、店長のお部屋になっております、頼みましたよ。」
「え?」
帝国兵士は中に入ると、どデカい肥満サキュバスと対峙する、ベッドは体重で潰されそうで今にも足が折れそうだ。
「待ってたわーん」
「すいません、仕事が残ってて。」
部屋を出ようとすると、鍵がかかっており出られなかった。
「心配しなくて良いわ、あなたはただ寝てれば良いの、こんな姿だから相手にされないのも分かってるわ。」
「いやいや、潰されちゃいますって。」
「そうじゃないの、私は精気を受け取る側じゃないから。」
肥満サキュバスはモノを帝国兵士によく見せる、それは余りに大きく理解が追いつかなかった。
「俺の貞操そのものが……」
帝国兵士の居る部屋の外でアルスと話したサキュバスが啜り泣いていた。
「うう……これで私達は救われました、感謝しかありません……。」
少なくとも、二人のおかげで悪魔街の一角では王国に絶大な支持を得たと言っても過言ではなかった。
これが、共産国に対する大きな一手となる事を皆は知らない。
二十九話に続く……。
世界設定:サキュバス
この世界においてサキュバスが存在する、基本彼女達は人間から精気を吸い取って生活しているが、精気が不足しているからといって死ぬわけではない。物理的肉体を持っている者がいるため、その場合人と同じく物理的攻撃で死ぬ、病死はあまりない。一応闇の魔術を保有しているため、天性の魔法の前では浄化され死ぬ、彼女達は悪魔的立ち位置だが、リリスが生み出し率いた者なので、悪魔というより魔物に近い、見た目もそれぞれで自在に操ると言われる、自分なりの美貌をそれぞれ持っており精気が不足すると多少醜くなる。尚彼女達と契約も可能であり闇の魔術を授かる事も可能だ、中には太陽の光が苦手な者もいるため日傘を差したりおしゃれな工夫をしてる者もいる、人と同じで性格も様々で必ずしも残忍なことはない。
読んでいただきありがとうございます。サイトに小説を書いて二ヶ月ほど経とうとしています、この調子で自分なりに書いていけたらと思います、これからもよろしくお願いします。




