第二十六話 選択
王国にグランハースという国から書簡が届く、そこには支配的な内容が書かれており武力を持って行使するとのことだった。彼らは今、やれる事を背一杯行うばかりだった……。
帝国はグランハースと合併し支配を免れようとしていた、王国はこの状況を知らない。
王国は両国の勢力に対抗し得る力はまだない。
王国に所管が届いて数日後。
軍事国家グランハース共産国の王宮では最高指導者とその仲間が姿を現していた。
「王国は混乱状態と言っても過言ではない。」
「では、すぐに兵を……」
「まぁ、待て。あれでも雷獄と帝国で最高の傭兵……テレスミクロの封印が解かれたそうだ。」
「剣聖隊のヒルブライデが契約を解除したと考えられるな。」
「敵に回られたら厄介ですぞ。」
「今はまだ、だめだ。敵はあれでも強い……必要な物と人員そして情報がなければ。」
共産国は準備を着々と進める方針だった。
ハセクはアグライトから借りたカラス座の人員を使って斥候とグランハースの宮廷がある街で情勢や出回っている武器、敵の情報を収集していた。
「暑すぎる……」
「暑いですね……」
ヘルヘイトスと以前ハセクがヒルブライデの部屋に攻める際同行したカラス座の一人がいた。
グランハースはとても暑く乾燥していた。
今彼らは街を散策しているが、どこを見渡しても活気に満ち溢れていた。
露店が多く色々な物が売られている。
「そういえばオーフェンス、アルスさん達はどこに?」
「宮廷周りを見て回ってるそうだ。あの人も大変だな……。」
ちなみだが、ヘルヘイトスと話している男の名前はオーフェンスという名だ。
アルスはセブラブと共に宮廷周りを回っていた、兵士はそこら辺を巡回しているが、どれも手だれである事がわかった。
「セブラブはここの宮廷に行ったことある?」
「ええ、魔女団にいた時は頻繁に出入りしてました。」
色々と彼女から聞いたが、兵士のほとんど属性持ちでしかも闇の魔術にも寛容だそうだ。
そのためほとんどの兵士がトリッキーな技を仕掛けてくるから注意した方がいいとの事。
「おい!お前ここの人間じゃないな?」
グランハースの兵士が声をかける、グランハースは比較的肌の色が黒に近く焼けている。
アルスは肌が白いため周りから見れば異国人に近い。
「はい、帝国から参りました。」
「ほう?帝国か。なら身分証明を見せろ。」
アルスは懐から偽造の身分証明を出した、そこには正規に乗っ取り関所を通過したとされる。
関所の印も偽物だ。
実際は関所を上手く避けてグランハースに辿りついている。
「疑って悪かった、近頃王国と一悶着ありそうなんだ。異邦人がいれば警戒するようにと言われてな。」
「いえ、お仕事ですから仕方ないですよ。」
「お心遣いに感謝する。それと……」
兵士が下を見る。
「その犬は一体なんだ?見た事ないぞ。」
セブラブは首輪にリードをつけている、側から見れば犬の散歩に見えると言われたが、所詮はガルムの幼体、変わった犬に見えるのは仕方ない。
「ただの散歩です……趣味だそうで。」
「ああ……犬であればそうだろうな……。」
実際に彼女の趣味らしいがアグライトさんが毎日と言って良いほどセブラブと散歩しているらしい。
2年前まで敵同士だったのにかなり仲のいい関係になっていた。
グランハースの兵士と別れて、ヘルヘイトスのところに向かう。
「セブラブはここに知り合いはいるの?」
「ええ、王の妻であるナーダ王妃はゴメリウスの支持者です。私もよく会っていました。」
「支持者?」
「ええ、彼女もまた魔女と同様……闇の魔術に魅入られた者ですから。」
アルス一行はグランハースを出て、王国に帰国して行く。
帝国城の小さい物置部屋では幾人かが話をしていた。
「俺の親父のせいで、王国との溝は確実に深いものとなった。ハセクから所管が届いたらしいが、都合が悪いってことでハルゲンの従者か誰かが処分しやがった。連絡が全くできない状況にしてやがる。」
ドルクは色んな手を使うが怪しい動きをすれば自分の周りに被害が出ると思い大胆な行動は謹んでいた。
「なら、キーウィと通信魔法で連絡すれば良い。できるか?」
バルキルウスがキーウィに話す。
「モチ、この通信水晶をあっちに届ければ通信できる。」
「問題は誰が王国に届けるかだが。」
バルキルウスは考えるが、王国側の現状がよく分からない、王国も帝国がグランハースに付いていると考えている可能性がる。
そう易々と帝国の人間が入国できるだろうか。
「以前はハセクさんのお陰で大軍でも通して頂きましたね。」
オレオンスが思い出したように話す、帝国と王国の国境の関所はハグバル家によって管理されている。
そのため、ハセクもといハグバル家の力があれば一番なのだが。
「今回は事情が事情だ、オレ達がグランハースと関わってないと言っても分かってくれるとは限らねぇ。」
ドルクが頭を悩ませて話すが。
「水晶玉……お前が持ってけライノック。」
ドルクが名指しする。
「ええ?!オレっすか。」
「お前まだヒヨッコだしあまり顔も割れてねぇだろ?」
ドルクの指示によりライノックとその友人である帝国兵士二人で王国に向かった。
「おい、なんでオレまで巻き込むんだ!」
帝国兵士がキレ散らかす、彼は双子のエルフ襲撃の際ライノックの腕を心配していた兵士だ。
「すまん、方向音痴で……。」
「仕方ねーな、帝国の命運がかかってるんだ。これぐらいお安いご用よ。」
帝国兵士は巻き込まれた形とはいえハルゲンに謀反を起こす一員となったわけだ、こうなれば自分がどのような処遇を受けるか想像に難くないだろう。
二人は養成施設時代の馴染であり、養成卒業をしたのが1年ほど前だ。
ライノックはドルクにその身体強化魔法の威力を見込まれ弟子入りした。
弟子入りしたとはいえライノックの顔を知られている訳ではないので、今回は帝国の一市民という立場で王国に入国するそうだ。
王国では正式に王位がスフィアーネに渡ったが、彼女からしてみれば皮肉なものだろう。
そのため、乗り気ではないようで、娘であるラスティーネにはその責任を負わせたくない一心だったようだ。
「スフィアーネ様、そろそろ議会室に。今後の方針を決めなくては。」
アグライトがスフィアーネを迎え王城の議会室まで連れて行く。
「それでは、会議を始めます。今現在、剣聖隊の一人アルスと私の部下がグランハースに向かい情報を収集しています。彼らが帰ってき次第、情報をここでまた開示いたします。」
アグライトが今の状況を淡々と話す。
「今後の方針と致しましては、グランハースと帝国は繋がっている可能性があります。なので、グランハースが提示する属国に従わなければ帝国とグランハースに挟まれ多くの血を流すことになります。」
間違いなく血は流れ、敗戦も間違いない。
「そのため、今回は属国を飲むか、対抗し戦うのかが議題とさせて頂きます。」
その内容を聞いた各貴族諸侯たちは眉を顰めるが。
「であれば、属国を飲むしかあるまい。無用な血を流すことは避けなければ。」
「何をいうか、このまま飲まれれば我らの領地はどうなる?共和国のようになるぞ?」
貴族が一斉にスフィアーネの方を見る。
共和国と王国の合併は実質武力を用いていた、スフィアーネが頑なに合併を断り小規模ではあったが土地を燃やされ見せしめとして首が置かれていった。
それが起因し皇帝は王国との大戦を決起したという。
「私は戦わず、対話で解決するべきだと思います。」
スフィアーネはそう提示した、彼女は戦いを好まない、共和国自体も小さな国々が対話で協力し合い作り上げていった国なのだ、対話と協力の重要性を一番に理解できてるお人だが、相手は軍事国家で血が騒ぐ連中が多い国では無力だろう。
「何をおっしゃる、帝国も共産国も血に飢えた獣ですぞ!対話など意を為さない!」
スフィアーネの意見は概ね反対が多かった。
「では、三国の代表で対話をいたしましょう。お互いが血を流さず、平和的に解決できるように振る舞うしかありません。」
スフィアーネの意見は最もであるが、リスクが大きい。
戦わず、解決できるのが一番だが、帝国とグランハースが繋がっている以上対話は難しい。
都合の良いように言いくるめられるのが目に見えるし、何より相手の後ろには悪魔がいる可能性もある、何より悪魔の本来の目的の中にはスフィアーネとラスティーネの利用もある訳でかなり危険だ。
「女王陛下、それはいささか危険かと……」
アグライトが耳打ちで話す。
「勝ちたいなら、こっちも攻めるべきです。」
スフィアーネはアグライトにそう告げると席を立つ。
「これより、騎士団長の部下がグランハースから帰国次第、使者を帝国とグランハースに向かわせます。対談の場所は三国大会議舘で行います。」
「な?!本気ですかな?」
「私の決定に逆らうと?」
王位ある者には各貴族はぐうの音も出なかった。
三国大会議館、これは王国と帝国の丁度真ん中に位置しており、大戦が始まる前に共和国、王国、帝国が話し合うために設けられた場所である。
対戦中には帝国の基地として利用され大戦後は廃墟と化している。
中は埃を被っているだけで、掃除をすればまた綺麗になる程度であった。
アグライトとスフィアーネは議会室を後にし肩を並べて歩いている。
「女王陛下、私は危険と判断致します。敵は貴方を殺すか利用するかしか考えていません。」
「だからと言い、従うか殺し合うの二択ではどうにもなりません。もう一手増やさなければ、あの二択では地獄しかありません。」
スフィアーネは自室の前にたつ。
「そうだ、ラスティーネを呼んできてちょうだい。」
アグライトに指示する。
「承知致しました。」
しばらくするとラスティーネがスフィアーネの自室に入る。
「お母様!」
「キャー!ラスちゃん今日も可愛いわ!!」」
と、このような声が扉越しに聞こえてくる。
ここ数日暗い感じだったがお互い元気を取り戻せていたようだ。
ラスティーネはテレスをスフィアーネは皇帝を失った訳でかなり深刻な時間が続いたが、暗い雰囲気よりはこのような明るい雰囲気でいて欲しいとアグライトや他の面々も望んでいた。
とはいえ、ラスティーネを産んですぐ封印されたわけで成長が見れないのが悲しかったとも言っていた。
それゆえ、愛が爆発したのかここ最近は溺愛しているようだ。
『今日も楽しそうだな……』
アグライトは女王の部屋を警備しながらそう思った。
剣聖隊の施設では久しい人物が顔を出していた。
「エレス、本当に戻ってくるのかい?」
「はい、私も戦います。皆様に助けて頂いた恩をお返しします。」
そこにはエレスとハセクが居た。
エレスは無事体が治り圧倒的な回復スピードを見せた、テレスが治癒魔法をかけた時から調子が良かったそうで、医者もびっくりしていた。
しかし、腹には深い傷が残っており内臓も足りない、そのため激しい運動をするとすぐに疲れてしまうそうだ。
「無理はしないでね?」
ハセクは心配そうに話す。
「お前がエレスか?どうにもバカ力らしいが……」
テレスミクロがエレスをよく観察する。
「えーとね、今現在の剣聖隊はアルス、エレス、テレスミクロ、ハクレと僕で五人なわけだ、クフラクは色々あって監禁しているから……」
「それで、話ってなんだ?」
「この一件が解決次第、剣聖隊の解散を申請するよ。」
「つまり、今後は剣聖隊が無くなり募集もしないと?」
ハクレが質問する。
「ああ、だって王国精鋭剣聖部隊だよ?今後は王国じゃ無くなるだろうし、象徴の意味も無くなる。各貴族は王国のブランド力だと思って反対してきたけど、実質僕らは王国に良いように使われてきただけだしね。」
つまりハセクは王国の道具にされていた事に憤りを感じスフィアーネ王位の暁にはこれを考えていたようだ。
「それと……もし大規模な戦いがあると想定した時ヒルブライデの監禁を解こうと思う。」
「それって危険なんじゃ……」
ハクレがビビるが。
「大丈夫、アルスを上手く利用すれば大人しいから。」
「そのまま逃げんじゃねーか?」
的確な事をテレスミクロは突くが。
「正直、手段は選んでられないよ。使えるものは使わないと。」
「つまり、七人欲しいわけだ。共産国に対抗しうる七人が。」
「ああ、奴らは強い。なので、悪魔と契約したクフラクを利用したいけど……」
「あんまりじゃないですか?ずっと大人の都合で利用され続けて可哀想です!」
ハクレが反対する。
「いや、これが最後だ。彼は僕から説得するよ。」
正直クフラクは悪魔の力を得てから強者になった。
使えるモノは使う……大人の勝手な都合だが、クフラクにも協力してもらわないとこの戦は勝ち目がなかった。
ハセクは共産国の強さをある程度理解していた、王の周りには盲目の剣士、強靭な肉体を持つグラップラー、学会で有名な魔術師、千里眼の弓使いのウッドエルフが居る。
王も王妃もその強さは並大抵ではない。
特に周りに居る四人は最強格で彼らが戦争に出て負けたことは無いそうだ。
それに、帝国と組むとなればドルクや黒死隊が居るわけで、勝てるわけがない。
剣聖隊は再び七人集まる機会が出来たが、空気は最悪だろう。
特にクフラクはテレスが死ぬきっかけにもなったヒルブライデを恨んでいるだろうし、隠し事を通そうとしていたハセクやアルスを嫌っているはずだ。
時は刻々と迫ってきている、彼らはどう行動するのか……。
二十七話に続く……。
世界設定:キャラクター11
ライノック、彼の生まれは平民で十六の時に帝国の養成所で訓練を受け兵士になった。本人は身体の強化魔法が得意であり大幅な人体強化ができる。その反面制御が難しく体を壊してしまうことがある。ドルクがそれを見かねて弟子にし強化魔法の上手い使い方を教え込んでいる。戦闘能力も高く、剣術においては若い兵士の中では一番強いが頭の回転が悪いため理解が遅い。性格は明るく好青年で悪い印象はまず受けない。人当たりも良く友達が多いため、休憩時間はいつもだべっている為上司に怒られがち。使う型はガルガンドで属性は炎である、身体が追いつかない力であるため武器をよく壊す。趣味は運動で暇さえあれば走っている。年齢は王国歴12年時点で19歳。
読んでいただきありがとうございます。ここ最近はアルスの出番が少なく、アルス目線での書き方はしていません。彼が中心になっていき次第その目線で書くつもりです。これからもよろしくお願いします。




