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剣と魔法の世界ラーキッド②

「いやマゼル、勝ったは勝ったけどさ。もっと楽なやり方なかったわけ?」

肩で息をしながら明らかに不満げな顔をして、シャインは詰め寄ってくる。

「しょうがない。私たちの今の装備とレベルじゃ、そもそも勝てたのが奇跡。なんなら私を誉めてほしい」

「そうは言っても、明らか死にかけたんだが!?みろよこのわき腹!買ったばっかの鎧が溶けちまったじゃねぇか!」

「そんなの、この蜘蛛の牙を売ればお釣りがくる。こいつはいいダガーになるよ。ふっふっふ」

「はぁ~、わかったよ。じゃあ剥ぎ取りは任せていいか?周りの警戒しとく」

「頼むよシャイン。しっかりとお姫様を守り給え」

「…はいはい」

改めて、こいつはシャイン。

小っちゃいころから家が隣で、15歳になった今では私と一緒に冒険者をしている。

昔から腕っぷしだけは強かったから、親父さんは騎士になって欲しかったみたいだけど、その道を蹴ってギャンブル性の強い冒険者になった親不孝者だ。


本人曰く、守るのは向いてないそうだ。


対して私もなかなかに親不孝者だ。

私の今生での名前はマゼル。

本名はマゼル・アントリューズ・ドロワ。

今生といったように、私には前世の記憶があり、そのときは確か男で、この世界によく似たゲームのランカーだったはずだ。


ただ、思い出したのは思春期も終わりかけた14歳のころ。

いくら前世が男だといっても、知らずに過ごした女性としての14年を上書きできるはずもなく、私は女性ということに違和感なく生きている。

影響を及ぼしていることがあるとすれば、一つだけだ。

名前から察した方もいるかもしれないが、私の家はいわゆる貴族だ。

それもなかなかに高位なほうの。


蝶よ花よと育てられ、戦いなんぞとは無縁の令嬢として育った私は、剣と魔法の勉強をする時間があれば令嬢教育に勤しんだ。

その結果、私が使える魔法といえばせいぜい、紅茶を作るために使える小さな火を起こすだけの魔法やら、砂の城を作るだけの魔法やらが関の山となってしまった。


こればっかりは修練あるのみだとは思うが、魔法の習得は幼い時分が最重要。

身体の魔力を用いて何かを発現させる感覚は、魔術回路が柔らかい幼少の時に磨かなければ錆びる一方だ。


わかりやすく言えば回路はゴムのようなもの。

新しい回路は伸びやすく、通す水が多くても破けることはない。それに、使い込めばだんだんとその回路も大きさを増していく。

対して時間のたったものはどうだろう。

伸びにくく破れやすい。

いくら魔力が多かったとして、回路が貧弱では意味がないのだ。


そんなこんなで私は、初級魔法しか使えない。


話を戻そう。


私に影響を及ぼしていること。


それは、色恋がわからない。いや、わからなくなってしまったことだ。


これでも高位貴族であった私には、政略結婚のため許嫁がいた。

前世の記憶がない頃は特に疑問を持たず、それが女の幸せ、ひいては家族のためだと心から思えた。


たとえそれが、自分より10もうえの許嫁であったとしても。


しかし、14歳で思い出してからというもの。私は折り合いをつけられなくなった。

そりゃあそうだ。

前世では男性のうえ、10もうえの男と無理やり結婚など、いくら家族のためとはいえ我慢できるはずもなし。

そうして私は家を飛び出した。

隣家のシャインをそそのかして、着飾るために与えられた宝飾品を持てるだけ持ち出し。

辻馬車を乗り継ぎたどり着いた先は、このラーキッドにおいて最も栄え、最も死者の多い人類と魔族の最前線。


冒険都市アムリタだ。


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