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【本編完結】高い城の男は、仕事をする。  作者: マンムート


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58/60

58 オレ達は21歳の、そんじょそこらに転がっているカップルです。


 マリーの言う通りだった。


 外ですれ違ったり会ったりした人は誰も、オレ達の正体には気づかなかった。


 少し頭も冷えた状態で、センセイの本を読み返してみたら。


 オレとマリーに関して、性格の描写はあっても、容姿の描写はほぼなかった。


 マリーの胸が大きいことすら書いていない。


『地味』とか『中肉中背』とか『肩の辺りで切った黒髪』とかだけで、オレ達を特定できたら大したものだ。というか異常というべきだろう。


 しかも、オレとマリーが『高い城』から去って以降のことは全く書いていない。


 念の入ったことに『英雄とその愛する女性がどこへ行ったかは不明なので、証言はとれなかった』とまで書いてある。


 現在ベローナにいることも、新ベローナ侯爵のもとで働いていることも書いていない。


 そのうえ、アントンさんの息子さんから聞いたところでは、元『高い城』にいた人たちには、変な奴らが押しかけて来たので宿を変えたという、情報が流されているらしい。


 そのおかげか、宿に押しかけて来る有象無象もいなくなった。


 押しかけて来たとしても、今のオレ達は『ヒース・イグアス男爵』と『イグアス男爵夫人マリールー』なので、ヒース・マグネシアも、マリー・ライトもいないのだ。



 あ、正確には10人ばかりまとめて押しかけて来た人たちがいた。


 マリーの家族……というか元家族達だ。


 オレ達が宿へ戻ってきて階段を3階まであがった辺りで、フロントの辺りから喚き声が聞こえてきたのだ。


 娘に会わせろ、家族なら娘に会う権利があるはずだ、親子を引き裂くつもりかなどと、ギャンギャン騒ぐ声に、マリーは足を止めた。


「もしかして両親?」


 と聞くと


「元両親」


 とひどく冷めた声が返って来た。


 マリーが踵を返して降りていこうとした所で、支配人の声がした。


『あなたがたのお探しのおふたりはここにはおりませんが……私めも、あの本は拝読させていただいておりまして……あなたがたがお探しの方々にどんな仕打ちをしたたかは存じておりますよ。私めだけでなく、ここにお泊りのお客方も。いや、王都中の方々が。そのかんばしくない印象を更に増すような行動はなさらない方がよろしいのでは』


 フロントの方から拍手が聞こえた。


 あとで他の宿泊客に聞いたら、支配人の毅然とした態度への拍手だったらしい。


 マリーの元家族達は、周囲の人間の冷たい視線に気づくと、逃げていったという。


 それ以降、二度と現れなかった。逮捕されたからだ。


 マリーの行方を突き止めようとして、新聞社の人間を何人も暴行して宿を聞き出したのだそうた。


 宿から逃げてすぐ、警邏隊に捕縛されてしまい、留置場へ。


 裁判のあいだも、


『娘が素直に言うことを聞かないから』『娘が悪い』と喚くばかりだったらしい。



 というわけで、オレは一週間ばかりはビクビクしていたが、ふたりで王都を歩いていると耳にイヤでもはいってくる『高い城』だの『英雄ヒース』だのの言葉を無視すれば、なんということもなかった。


 結局、オレが噂の英雄だと誰も気付かなければ、何も変わりがないのだ。



 周りの目が気にならなくなったオレ達は、ベローナ侯爵にもらった休暇を、最後まで満喫した。



 休暇の最終日は晴れ渡った日だった。


 青空の下。どこまでも明るい世界。


 起きた時にはすでに午後で、行きたいところは特になかったけど、宿に籠っているにはいい天気すぎる。


 明日の朝には、宿に予約しておいた馬車が来る。荷物はもうまとめてある。


 乗ってしまえば、ベローナまで二泊三日。当分ここへ来ることはない。



 オレ達は、午後の王都を、ただぶらぶらと散策した。


 大通りの人込みを並んで歩いていても、誰も気づかない。騒ぎにもならない。


 高級そうな服飾店の店頭にあった鏡にオレ達が映っていた。


 どこからどう見ても凡庸な顔をした男と女のカップル。


 オレの目から見ると、マリーは美人だけどね。


「なになに? あのたっかい服とか欲しいの? 絶対に似合わないと思うけど」


 店を覗き込んでいたので、誤解されたらしい。


「つくづくオレって……英雄っぽい顔をしてないんだなって思って」 


「うん。とっても平凡で凡庸。で、参考までに聞きたいんだけど。英雄っぽい顔ってどんな顔?」


「彫が深くて、鼻筋が通ってて、美男で、どこか神秘的で、知性を感じさせて、どこか影も欲しいかな、あと野性味もひとさじ」

 

「欲張りだね。一体どんな顔だよ。だけど、どれもあーたにはないね」


「ないな」


 残念だとすら思わん。


「というかさ、たぶん、そうじゃない英雄だっていっぱいいたろうけど。絵とかになると、そうなっちゃうだけなんじゃない? 昔昔の人だと実物見て描かれた肖像画なんてほとんどないんだから」


「言われてみればそうか……」



 オレ達が、ぶらぶらと歩き、店を冷やかしたり、公園で大道芸を見たりしているうちに、夕方が近づいて聞いた。


 もう、そろそろ宿に帰らないとな、でも、まだもう少しこうしていたい。


 広場の一角が柵や幕で区切られていて、テーブルが並んでお店になっているのが目にとまる。



 マリーも同じ気持ちだったらしくて、どちらからともなく、テーブルにつく。


 カップルだらけで、オレ達もそこに溶け込んでしまう。


 21歳の平凡なカップルなんて、星の数だよな。


 マリーはボーイさんに、お茶と軽食を頼んでくれた。


 こういうのは彼女に任せておけば、だいたいおいしいものが食べられる。


「そういえばさっきの話だけど、ヒースの思う英雄は判ったけど、英雄の彼女に関しては?」


「彫が深くて、鼻筋が通ってて、美女で、どこか神秘的で、知性を感じさせて……」


「って、おんなじじゃん! あたしにもないものばっかりだ」


「オレの彼女は美女だと思うけど」


「そう言ってくれるのは、あんただけだよ」


 そんなことはないと思う。


 確かにすれ違って思わず振り返るような美人ではないかもしれない。


 目が小さいし垂れ目気味なのが、地味な印象を強くしている。


 鼻も形はいいけど、高いとは言えない。


 これっていう尖った特徴がない。


 だけど、見れば見るほど、なんというか、いいんだよね。


 笑う時のえくぼとか、全体的に晴れやかな感じとか。


 さっぱりしてたり、しっかりしてたり、きりっとしてたり、すごく美人に見えたり。


 たまに見せる隙だらけの表情もいいし、オレよりかすごく大人に見える時の顔もいい。


 あまやかしてくれる顔も、怒ってくれる時の顔も、からかってくる時の顔も。


 きもちよさそうな顔も、無防備に眠っている顔も……。



 うん。嫌いな表情とかないよね。全部好き。


 どんどん好きになる。



「い、いやだなぁ、もう、そんなに見つめられると恥ずかしいって」


 マリーは恥ずかしさをごまかすように、顔の前で手をぶんぶんと降る。


「ふたりしか座れないテーブルで、相手の顔も見ない関係なんて大問題だよ」


「だからって言って、そんなに見ないでよ。見るほどの顔じゃないんだから」


「見てれば見てるほど、好きだなって思って」


「もう……ヒースはすぐそういうこと言うんだから……なら、あたしも」


 いきなりオレの顔をじっと見返して来た。


 オレの顔なんて面白くもないだろうと思うんだけど……。


「平凡だね。だけど、なんだろうこの、絶妙に印象に残らないパーツだけで出来た顔って、すごいよ」


「褒められてはいないことは判る」


「でも、あたしは見てて飽きないかな。嫌いなところとかないし。あたしはね、どこにいても、あんたのこと見つけられる自信がある」


 見られ続けると、だんだん恥ずかしくなってくる。


「そりゃどうも……」


 マリーは、にやにやと笑って、


「あたしの英雄の顔だもの当然か」


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― 新着の感想 ―
何で見たか忘れたけど、イケメンとか美女の顔は集めて合成して平均化すると、平凡そうな顔になるとかなんとか。
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