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【本編完結】高い城の男は、仕事をする。  作者: マンムート


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55/60

55 ヒース・マグネシア司令官って誰ですか?


 オレ達は生まれて初めて王都を楽しんだ。



 オレもマリーも王都の生まれじゃなかったし。


 学園生時代は、ふたりとも学業と生活で必死だったから楽しむなんて出来なかったし。


 卒業して就職してからは、オレはずっと『高い城』にいて。


 マリーは王都にいたけど、楽しんでいたわけではなかったろうし。


 特に最後の一年半は『おっぱい部屋』でひどい思い出しかないそうだし。



 王都やその近郊の、名所旧蹟は片っ端から全部回った。


 マリーは、そういうものにとっても詳しくて、聞いてるだけで楽しかった。


 学園時代の懐かしい場所も回った。


 馬車にも乗らず、ふたりで日がな一日ほっつき歩いた。


 お互い学園の制服でもなく、軍服でもなく、私服で歩いているのすら新鮮だった。


 マリーはよく笑った。やっぱりきれいだな、と思った。


 マリーが楽しそうだと、オレも楽しい。


 宿では、ベローナ侯爵の好意に甘えて、食事は部屋に運んで貰うわ、風呂は沸かして貰うわ、片付けは全部して貰うわ、起きたらとっくに昼過ぎだわ、書類も読まなきゃ本も読まない仕事もしない新聞も読まなきゃ気楽なこと以外なにもしない! 


 ふたりで、ひたすら堕落した生活を送った。


 そのあいだにも、元『高い城』にいた人たちから招待されて出かけたり、アントンさんの子供さんがやってる店へ顔を出したら歓待されたり、ベローナの人達にみやげを買ったりで、それなりに忙しいし楽しかった。


 だけど。


 一週間くらい経つと、周囲に「?」なことが起きたり、聞いたりするようになってきた。



 最初の「?」はこんな出来事だった。


 ふたりで王立公園へ出かけて、もうセミを取ったり野草やキノコを集めたりしなくてもいいんだ、と貧乏生活の思い出にさんざんふけったあと、宿である『栄光宮』へ帰ってきたら。


 見覚えのない男にいきなり声をかけられた。


「この宿に、ヒース・マグネシア閣下が泊っているというのは本当ですか?」


 オレが応えるより早く、マリーが


「いえ、他の宿泊客のことは余り……あたしたち、ベローナから新婚旅行で来たばかりなので……」


 と、戸惑ったような声で答えると、男はオレ達をじろじろ見て舌打ちし。


「おのぼりさんが知るわけがないか」みたいな捨て台詞とともに去っていった。


 宿に入ってからマリーに。


「さっきの人、オレを探してたみたいだったけど」


「怪しいでしょ。『高い城』の兵隊さんでもないのに、あんたのこと閣下と呼ぶなんて。しかもマグネシアまでつけて。かかわらないほうがいいって」


「ベローナの人かもしれないじゃないか」


「だったらヒース・イグアスって呼ぶでしょ。またはイグアス男爵」


 言われてみれば確かに。あやしいあやしすぎる。


「あ、それオレです。今はヒース・イグアスなんですけどね、とか答えちゃうところだった」


「あんたって、突発事態には相変わらず判断停止するよね……」



 その時は、それで終わったのだけど。


 それからというもの、ヒース・マグネシアやヒース司令官やマグネシア司令官を探している人、宿まで突き止めて押しかけて来る人が、ちょこちょこ現れるようになったのだ。


 なぜ?


 そういうひとたちは『栄光宮』のフロントにも押しかけて来て、オレがいるかどうかを聞き出そうとしたけど、フロントの人達は高級な宿屋の従業員だけあって良く心得ていて、お客の名前をペラペラと教えるような人たちではなかった。


 そもそも、このホテルで、オレはヒース・イグアス男爵と、マリールー男爵夫人なのだけどね。


 触らぬ神に祟りなし、というわけで、オレ達は彼らに「なんでその人を探しているんですか?」と探りを入れることもなかった。


 面倒なことになりそうな予感しかしなかったからね。


 だけど、日を追うごとに「?」は無視できないものになってきて。



 ふたりで王都で有名なレストランへ出かけて、順番待ちをしていたら。


「ヒースっていう司令官はすごい人だったんだ」「国を救った最大の功労者なのに、なぜ姿を見せないのだろう」「奥ゆかしい人にちがいない。立派な人だ」


 などなど。聞き捨てならないセリフが耳に入ってきた。


 ようやく順番が来て、席についたものの、なんか落ち着かない。


 あちこちから『ヒース』『高い城』『帝国』なんていう単語が聞こえてくる。



 オレ達は早めに予定を切り上げて宿へ帰ると、ここ半月の新聞各紙に目を通した。


 そして、ベローナに帰ってから読もうと思っていたセンセイの新刊を読んだ。


 結論から言おう。



 オレは、英雄になっていた。


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