47 しあわせな夜
結婚式は3度目だった。
1度目は、元奥方との結婚式。
豪華だったけど他人事感が半端なくて、演劇でも見てるみたいだった。
そして、誰もがオレを見ていなかった。
2度目は、兵隊さん達が開いてくれたマリーとの結婚式。
攻防戦の際中、しかも陥落全滅必至の状況だったけど、すごくしあわせだった。
兵隊さんたちが贈ってくれたケーキはさいこうにおいしかった。
こんなしあわせがあっていいのかと思った。
そして、誰もがオレ達を心の底から祝福してくれた。
3度目が今回。
オレが祝ってくれたらうれしいな、と感じていた人たち全員が祝ってくれた。
1度目と同じくらい豪華で、2度目と同じくらいしあわせで。
『高い城』の形をしたケーキはさいこうにおいしかった。
なぜだか、いろいろな人がスピーチしてくれた。
オレとマリーのことをみんなが褒めてくれた。
からかわれているんだろうけど、それでも、やっぱりうれしかった。
少なくともこの人たちは、オレ達を祝福してくれている。
それが、うそいつわりないものだと感じられた。
しかも、この人たちがみんな、明日死んでしまうかもなんて考えなくてもいいんだ。
こんなしあわせがあっていんだろうか
そして初夜も3度目だった。
1度目は元奥方とので、『白い結婚』宣言で終わった。
2度目は仕事に忙殺されて、ふたりともなにもせずに終わった。
そして3度目の今夜は。
マリーと何度も夜を過ごした部屋は、すっかり見違えていた。
木材を並べたのが剥き出しになっていた床は、赤い絨毯に覆われ。
殺風景な石組の壁は、豪華なタペストリーに隠され。
ランプくらいしかなかった部屋には、豪華な燭台がいくつも並べられていた。
燃料の予算を考えて、常に最低限の薪しかくべられていなかった暖炉には。
惜しげもなく燃料がいれられて、赤々と燃え盛り、部屋まであたたかかった。
ベッドも、天蓋付きのものに交換されていた。
天蓋からは白いカーテンが下がり、お姫様のベッド(個人のイメージです)みたいだった。
オレとマリーが文官さん達に引継ぎやら見守りやらをしていた間に、全部整えられたらしい。
そこでマリーが待っていてくれた。
暖炉と燭台の灯りに照らされて、ベッドに腰かけて待っていた。
すっけすけのネグリジェで、普段なら見えてはいけないところもほぼ丸見えで、なんかクラクラする香水のスメルがぷんぷん。
しかもネグリジェの下には、脚の付け根にちいさな下着をつけているだけだった。
ゆたかなおっぱいも、その色も、ほとんど丸見えだ。
マリーとはもう何度も体を重ねた。当然、生まれたままの姿だって見ている。
いや、見ている以上に、触ったり、なめたり、いろいろしている。
だけど、なんだろう、あらためて恥ずかしいし、緊張するぢゃないか!
マリーはオレが入って来たのに気付くと、パッと顔をあげたが。
「あ、あまり見ないで……」
前を腕で隠すようにしてすくんでしまう。
「でも、いや、わ、わかった」
と答えたものの、どうすればいいんだろう。回れ右をして出ていくわけにもいかない。
「と、となりに座る?」
「お、おう」
オレはパペットみたいなぎこちない動きで、隣に腰かけた。
いいにおいがした。
いや、いつもマリーからはいいにおいがするんだけど、そのすごく女っぽいというかくらくらするというか。
「な、なんかヒースから石鹸のにおいがする……も、もしかしてヒースも侍女さん達に、あっ洗われたとかなの?」
「い、いや! お、オレはその、風呂には入れっていわれて入ったけど、じっ自分でだよっ! え、っていうことはマリーは……?」
マリーは真っ赤になったまま、うなずいた。
「あ、あたしはいいって言ったんだよっ。だって、その式の前にも、念入りにあ、洗われちゃったし、少しくらい汗かいただけだしっ。で、でも、初夜だからってっ! すごく念入りに……もう初夜じゃないし何度もしてるしって言っても、誰もやめてくれないの」
マリーは思い出しただけでも余程なのか、顔を手で覆ってしまった。
「は、恥ずかしかった……しかも、こんなのまで着せられて、鏡で見せられた時、卒倒しちゃうかと思った……あたし、は、肌も手入れとかできないししてないから、そのっ、ミルクみたいに真っ白じゃないし、腰だってくびれが少ないしっ、そのくせに、胸とお尻ばっかり無様におおきくてっ、それがっぜんぶ、丸見えでっ……いつもは、男みたいな恰好してるしっ、その、くたびれた服きてるからっ、目立たなかったのにっ……」
いや、知ってるし。
学園に通っていた時分から、マリーはそうだったし。
無様と思ったことはないけど、胸とお尻は大きいなと思ってた。
意識しないようにしてたけど、そうしないと、友達でいられないと思ってたから。
でも、ここでそう言わないだけの分別はある。
それになにより、マリーは
「かわいい……」
「え……?」
「マリーは、オレにとってかわいい。身も心も。ほんとう、きれいだし、かわいい。いつも、いつでも、何着てても、着てなくても。ずっとそばにいて欲しい」
平凡で凡庸なオレなんかには勿体ない。
でも、仮にオレが平凡で凡庸でなかったとしても、ニコライのようなイケメンだったとしても、やっぱり勿体ない。
何よりも、まだ何者でもないオレを、選んでくれて愛してくれている唯一の人だ。
だから、最初の、元奥方との初夜とはなにもかもがちがった。
オレは猛烈に、今すぐにでも、マリーを抱きたかった。
こうやって隣に座っちゃうと、どんどん高まってきてしまう。
「で、でもっ。こんなっ。今にも盛りますなんて格好してたら! あたしみたいなのがこんな格好してたらっ! ほら、いつもは、あたしって『あれ? こいつ実は女じゃん抱けるじゃん』みたいな感じでしょ! でも、こんな格好してたら、いかにも」
「マリー。オレも、今すぐにも盛りたい! マリーと」
「え、ええっ。だって、でも」
オレはくちびるでマリーの唇を塞いだ。
そのままぎゅっと抱きしめると、抱きしめ返された。
固く固く抱き合ったまま、長い長い長いキスをした。
息が苦しくなってようやく離れた時に、マリーがちいさくつぶやいた。
「実は……あたしも……でも、なんかあまりにこれって露骨でひかれちゃうかなって……」
「そんなことない。ひかないでおしちゃう」
オレはマリーのすっけすけのネグリジェをたくしあげた。
汗ばんだおっぱいは、とっても魅惑的だった。
「はぁぁ……おっぱい」
オレはおっぱいの間に顔をうずめてみた。
やわらかくてあったかくて好きな人のにおいがいっぱいする。
「もう……なんか悩んでたあたしがバカみたいじゃない……」
耳元でささやかれる。
「ねぇ……面倒なこととか、なにも考えられないようにして」
「うん。オレもそうしたい。そうする」
そして、オレ達はそうした。
むずかしいことはなにもかんがえなかった。
かんがえるひつようがなかった。
汗まみれになったマリーがつぶやいた。
「しあわせ」
オレもだった。




