03 将来が変えられたのはあんただけじゃないのさ
「……じゃあ、白い結婚で。正直、お前さんと夫婦になるなんてムリ」
そう告げた時、頭くるぱーは一瞬驚いた顔をしたが、
「そういうことなのね! 実は愛人がいてわたしを隠れ蓑に――」
「いねーよ。どこにもいねーよ! いねーんだよっ! いくらでも調べるがいいさ! 優秀なんでございましょう!」
思わず怒鳴りつけると、びくっと震えやがった。
やれやれ。
アレだな。家でさんざん怒鳴られたりしてんだろう。
オレは深呼吸して、なんとか心を落ち着かせ。
「オレはなるべく早く任地へ行く、あんたは一緒にこなくていい」
あの任地にしたのは、頭くるぱーを王都から離そうという意図があるのかもしれんが、構うものか。
「え……」
「新年の祝いにもここへは戻ってこない。用事で王都に行かなきゃならん時も、ここには寄り付かないし、あんたに偶然遭ったら断固として目も合わせないし、そしらぬ顔で通り過ぎる。それで文句はないだろう。同じ夜をすごさなきゃ孔もくそもないからな!」
「そうやって私を捨てられたお飾り妻――」
「はっ。それがあんたの望みなんだろ。違うか!? 違わないよな!
オレはあんたに言わせれば、えらいさんに媚びて無理やりあんたを手に入れた強姦魔なんだろ!
強姦魔に犯されるのはいやだろ! だからお望みどおりにしてやるだけだよ!」
「そこまでは――」
「ああ、正式に結婚しちまったので、すぐ別れるわけにはいかんのでちょっとは我慢してくれよ。
こんなことになるとは思ってなかったから調べてなかったが、『白い結婚』の場合は一年後だか二年後だかカレンダーにバツ印でもつけとけ。
んで、正式に別れられるまで好きにしたらいい。借金をしない範囲でなら、送った金は好きにつかいな」
「どうせ……食べられるギリギリで済ますつもり――」
「『高い城』司令官の俸給の半分は送ってやるよ! ああ、後で正式に契約書も書こう。もちろん正式な資格者の立ち合いのもとでな! オレが何を言おうとどうせ最初からなにひとつ信じる気がないんだろ? さっきのまくしたてでよーくよーく理解いたしましたっ!」
一刻も早く、このオレの言葉を聴く気がない頭くるぱーから離れたい。
「半分じゃどうにもならないわよ!」
オレは給料の額を告げてやった。
「え……うそ……」
そうなのだ。結構高いのだ。
閑職だが給料はかなりいい。
ここをオレにあてがってくれたのはアンナン侯爵。
こんな話に巻き込んだ慰謝料込みなのだろう。
「それだけありゃできるだろう。その金であんたの才能やらを好きなだけ試せばいいさ。まぁ、そんな才能が本当にあったのなら、悲劇のヒロインの境遇から自力で逃れられたと思うけどな」
金はドブに捨てたのと同じ結果になっちまうだろうが、オレはとにかく、目の前の頭くるぱーから一刻も早く離れたいのだ。
「だ、だって、そんなことしたらイベントが起きな――」
オレはベッドから立上がった。
「あ……」
頭くるぱーは、心細げにオレをみあげやがったが、今更だ。
まぁなんだ、そりゃ、こいつは悲劇のヒロインにふさわしいかもしらんさ。
本人の主観ではな!
長女なのに、家も継がしてもらえず、婿も迎えて貰えず、こんな平凡で凡庸でそんじょそこらの大量生産品の四男坊に投げ与えられたという事実だけで、その境遇は、お察し。
あれだろ。妹がひいきにされて、こっちはないがしろにされてるってわけだろ。
婚約者だって不誠実で後ろ指さされ組になるはずが、堂々としたもんだ。
それで許しちまう実家なんだろ。ああ、かわいそうだね。
だーれも助けてくれなかった、はいはい、そうでしょうともそうでしょうとも。
かわいそうな女の子は、結婚してもしあわせにはなれませんでした。
あはは。
だけどな。悲劇のヒロイン様は自分が不幸をひとりじめしてるみたいな顔してるが。
このオレだって、そんなに、まったく、ぜんぜん、うまくいってないんだぜ(あてがってもらった役職の給料だけはいいけどな)。
権力も地位も人間的魅力もなくて、味方すらいないから、こういう風になるしかなかったんだよ。
「ピョートルだかニコライだか知らんが、あんた、いや、キミの好きにしたらいい。周りにばれないようにやるがいい。ばれてもキミが不利になるだけだから」
オレは服を整えベッドを離れると、部屋を出た。
背後で何か聞こえたが、知ったことか。
後ろ手に扉を閉めて、人生から頭くるぱーを追い払う。
それにな。頭くるぱーよ。
妄想だかなんだかの運命がかわっちまったかもしれないが。
オレだって、変わっちまったんだよ。
あんたとこうならなきゃな……。
オレはあいつと。




