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【本編完結】高い城の男は、仕事をする。  作者: マンムート


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24/60

24 『高い城』攻防戦 二日目 午前 (1) オレは運び上げる。


 朝。


 二日目。朝。


 敵陣からあがる炊事の煙が減っていく。


 動き出すのだ。


「やはり来ましたぜ」


「……あれは矢で貫けないな」


 敵軍の先頭には、人の背丈より高い巨大な盾がずらちと並んでいる。


 それは盾というよりは筏だ。


 切り出した丸太を並べて縄で縛って巨大な盾としているのだ。。


 太い木を選んだと見えて、矢を貫通させるのは無理だろう。


「ご丁寧に、筏の上に葉っぱがついたまんまの枝をびっしりと並べてやがる。あの光り具合、たっぷり水をかけてありますぜ」


 火がつきにくくする工夫か。


 生木はたたでさえ火がつきにくいのに……。


 だけど。


「……敵陣の近くに泉はなかった。小川もない。昨日捕まえた敵兵は、水について何か言ってた?」


「確か……5日間分の飲み水をもってここへ来たと。ここでの炊事に使う水は、馬で運んで来たらしいですがねそれは昨日使い切った……ああなるほど」


 バルガスはニヤリとした。


「若親分、敵は、なけなしの水をアレに使ったんじゃねぇかとおっしゃいたいんで」


「ふもとの村から運ばせていなければ、ね」


 そうした可能性はある。


 伝令を出せば向こう側で一番近いベローナ侯爵領の村へは半日でつく。


 初日の戦いの最中に、ここが事前の予想通りには抜けないと察したなら、昨夜のあいだに水が運び込まれた可能性はある。


 だが、(ふもと)から水をあげるのは重労働だ。2日分だとしても5000人分は大量だ。


 とすれば……。


「とりあえず手持ちの水をアレに使ったんだろうね。5000人分の4日分の水だもの。合わせればかなりの量になる。今朝も炊事をしてたから、それにも使ったろうし」


「水がなけりゃ奴らの攻撃は続きませんぜ。こっちには好都合ってぇわけだ。しかも上はがらあき。なんとかなりますぜ」


 午前中をしのげば、一旦は攻撃が停止する……かもしれない。だといいな。


「動き出しやした」


 森のように濡れた葉を茂らせた盾の横列がこちらへ進み始める。


「まずいな……」


 盾と見えたそれは盾ではなかった。


 こちらへ進み始めると同時に、背後の軍勢に大きな動きがあったのだ。


 彼らは一斉に、丸太を筏状に組んだ盾を頭上に掲げた。


 こちらにも、まだ濡れて青々と茂った葉がついた枝が、とりつけられていた。


 前面も上面も分厚い盾に護られた軍団が、重々しく接近してくる。


 あれは単なる盾ではない。軍勢そのものを覆う鎧なのだ。


「一日中とんかんとんかん、あんなものをこさえてやがったのかよ。だがよ。全軍をアレで覆うのは無理ってもんだ」


「……いや、その必要はない。あれは突撃路だ」 


 敵の意図が判った。


 激しく抵抗する城壁に、安全に接近する方法だ。


 あれは盾ではない。城壁に接近するための安全な突撃路なのだ。


「あの壁と屋根で覆われた中を通って、城壁の真下まで来るつもりだ。完成すれば、木の棒で屋根は支えればいい」


 こういう仕寄せ道具を敵がもちこんで来る可能性は考えていた。


 だが、まさかこんな短期決戦が前提の戦いで、これと対峙するとは。


 相手はニコライが騙されたと気付いたのだ。


 そして貴重な半日を使って、この攻略法を整えたのだ。


「火壺を試してみて」


「合点で!」


 バルガスの足元には大きな壺が5個ばかり並んでいた。


 壺の口は木の栓で密閉され、隙間を粘土で埋めてある。


 安い油の強烈なにおいが漂っている。


 口のくびれた部分に巻きつけられた縄に、バルガスは火をつける。


 油がたっぷりしみ込ませてある縄は燃え上がり、


「おらよ! くらいやがれ!」


 塔の屋上から放り投げられた壺は、放物線を描いて、徐々に面積を広げていく敵の屋根の上で砕けて、燃え上がった。


 壺の中に入っている油とタールが、縄につけられていた火に引火したのだ。

 

 濡れた葉の間で、油とタールはしばらく燃えていたが、燃え広がらず鎮火してしまった。


「……奴ら、よほど大量に水を撒いてやがる。だがいい報せでもありますぜ。奴ら、手持ちの水を使い切ってやがる」


「どれくらいかな」


「奴らが戦えるのは、午前中いっぱいってとこですぜ」


 順当な予測だろう。水なしで長時間戦闘をこなすのは、きついからだ。


 だが、そこまでオレ達が凌げるか。


 敵は着々と進行してくる。


 何の妨害を受けることもなく、敵側に向いたVの字の城壁すべての足元へ、屋根に覆われた安全地帯を広げていく。


 全城壁に対する一斉攻撃か……300対4000強の兵数差を生かせる作戦計画だ。


 あの屋根と盾の下で、兵の交代だって出来る。


 兵の交代が出来るなら、常に元気な兵を送り込めるわけだ。


 それに引き換え、300しかいないこちらは、交代なんかできない。


「あの屋根が邪魔だ……」 


 燃やせず、矢では貫けないアレが。


 アレに石弾は通用するか?


 石弾とは、人の頭くらいの石で、敵へ落とすのに使うため城に備蓄してあるものをいう。


 あの盾の分厚さ。


 おそらく通用しない。


「……試しに、大きいのを使おう」


「承知! 伝令いるか!」


 たたたっ、オレ達の側にやせた男が駆け寄ってくる。


 彼はジョンソン。『高い城 いだてん決定戦』第1回第2回連続王者だ。


「ここに!」


 王都では俊足をいかして、かっぱらいをしていたそうだ。そんで捕まってここへ。


「王都から戻って来たばかりで疲れてると思うけど。伝令おねがい」


 彼のお陰で、昨日のうちに王都に伝わっている。


『高い城』は抗戦中であると。


 戻ってこなくてもいいと言ったのに、今朝、戻ってきてくれたのだ。


「わ、若親分! おいらのような奴にもったいないお言葉……」


 バルガスが吠えた。


「力自慢どもに伝えてきやがれ! 大玉行くぞ! ただし試しに一発ずつだぜ!」


「承知!」


 それこそ、残像が残るほどの速さで、彼は塔を駆け下っていく。


「まずは、俺様がやらしてもらいやすぜ。副官の特権ってやつだ」


 バルガスは、胸壁際においてあった、人間の上半身ほどもある石を、ひょい、と持ち上げた。


 そして、顔を真っ赤にして


「ふんぬっ!」


 高々と放り投げると、巨石は放物線を描いて頂点に達すると、力尽きて落下。


 敵軍の頭上を覆う屋根の中心辺りへ激突した。


 轟音と共に、一個分の屋根が真っ二つに割れて、陥没し、悲鳴があがる。


「効いてやすぜ!」


 だが、すぐに後ろに続いていた屋根が進み出て塞がれてしまう。


 この主塔から放たれたのに続いて、『高い城』の他の城塔からも、次々と巨石が放り投げられる。


 直撃した部分は、確かに割れて潰れる。悲鳴もあがる。


 だが、すぐ塞がれてしまう。


「……駄目だ。これでは大した効果はない」


 一矢は報いた。おそらく、直撃を受けた部分の盾を支えていた奴は無事ではない。


「確かに……ですがデカイの一個と、この戦果では引き合いませんぜ」


 ひとりかせいぜいふたりだ。しかも続いて来た奴らにすぐ塞がれてしまう。効率が悪すぎる。


 しかもこれは、主塔から投げ落とす、という高さの威力も加わってだ。


 この高さまで一個運びあげるだけでも大変だ。しかも運べるのは力自慢の奴らだけだ。


「あのゴテゴテした骨董品でも落としてやりましょうか。さぞや豪勢に割れるんじゃねぇですか」


 司令官室(偽)に並べて置いた奴ね。


「……見た目ほど重くないよ」





 あの仕掛けを使うか?


 今、完成しつつある突撃路は潰せるだろう。


 だが、あの仕掛けは取り返しがつかない。ここで使って午後の攻撃があったら凌げない。


 しかし、使わないうちに『高い城』が落ちたら……。



 オレの焦燥を嘲笑うように、分厚い丸太で覆われた突撃路は、完成しつつある。


 城壁に囲まれた場所は、ほぼ全て覆い尽くされ。敵の安全地帯になってしまった。


 あの屋根の下では仮設の柱を立てて、縄や釘で補強して、巨大な仮小屋のようにしているのだろう。


 準備が整い次第、全ての城壁にとりついてくるだろう。


「こっちが何もできねぇと知っててなめやがって! くそっ。大きいのをもっと使えりゃ!」



 ジョンソンが戻って来た。流石の彼も肩で息をしている。


「次は何をつたえやしょう!」


「ちょっとまって」


 オレは持っていた水筒から、カップに水を注いで渡した。 


「あ、ありがてぇ! くぅっ。うめぇ!」


「!」


 なにか。なにかひっかかる。何が?


 カップ。水、水が入るとカップは重くなる。


 カラのものに何かを入れれば、重くなる。


「あ」


 思いついた!


 考えて考えて考えないと出てこないオレにしては、珍しい。


「伝令! 全体へ伝えるんだ!」



 オレは働いていた。


 幾つもの砂袋を肩に載せて、塔の階段をひぃひぃふうふう言って上り下りする。


 オレだけではない。『高い城』にいる人間全員がだ。


 戦闘配置についていた兵隊さんはみんな、一時的に持ち場を離れて参加している。


「どけっ」「おすなっ」「階段で走るな!」「無理して持つな!」


 叫びが飛び交う。少しだけ破れがある砂袋から、もうもうと砂が舞う。



 間に合うか。間に合ったとしても効果があるのか。


 そんな恐怖を振り払い、オレもただひたすら砂袋を運ぶ。



 階段で何度もマリーにすれ違った。兵隊さんたちに混じって、砂袋を運んでくれているのだ。


 他の兵隊さんと同じく、オレもマリーも砂まみれだ。


 何も言わず、小さくうなずきあうだけ。


 それだけでも、頑張ろうって気になる。


「若親分も姉御も運んでくださってるんだ! オレ達も負けてらんないぞ!」


 そんな声が周りで飛び交う。



 全ての塔の屋上で、準備が整った。


 6つの城塔に、こちらの300人全員が集まっている。


 みな息を荒くして、汗まみれだ。


 持ち場には誰もいない。


 今、壁にとりつかれたら、矢を放つことも槍でつくことも出来ない。


 下では敵軍が、しずまりかえっている。


 安全と確信し、守りの中で整列して隊形を整え、もうすぐ突撃してくるのだろう。


「やりますぜ!」


 オレはうなずく。


 バルガスは、屋上に並べられた巨大なもののうちのひとつを掴んだ。


 それは、ニコライを騙すために、司令官室(偽)に並べて置いた、背丈ほどもある巨大な金のゴブレットだ。


 あの時、中は空っぽだった。


 だが今は。


「ふんぬっ!」 


 バルガスは金のゴブレットの肩の取っ手を掴むと、顔を真っ赤にして、高々と持ち上げ。


 空中へ放り投げた。


 他の5つの塔でも力自慢が、次々とでかい飾り壺や、以前はワインが入っていた巨大な甕を投擲していく。


 オレ達は、息をつめて結果を待った。


 巨大な壺やゴブレットは、突撃路の屋根に激突、命中した箇所を破壊し、穴をあけた。


 各塔から大喚声があがる。歯が立たないと思われていた敵の守りを破ったのだ。



 いくら壺やゴブレットが巨大でも、中がカラでは大した威力はない。巨岩に遥かに劣る。


 だが、そこに砂や瓦礫を詰めたら?


 カップに水を入れればカップは重くなる。それと同じだ。


 巨大な入れ物には、大量の砂や瓦礫が詰め込める。それは重い。


 しかも、カラの巨大な容器だけなら、巨岩を運びあげるより遥かに楽だ。 


 容器につめる砂や瓦礫やらは袋に詰めて運べばいい。


 城塔の屋上で、容器に中身をぎっしり詰めてから放り投げれば、巨岩に劣らぬ破壊力を発揮できるのだ。


「次行くぞ次!」


 しかも、食料を定数分、常に保存しておく必要があるここでは、次の補給日までカラの容器がたくさんあったし、先代までの城代が残した意味のない骨董(大部分は引き取り手がいない偽物)も、あちこちで埃をかぶって眠っていた。その中には大きくてカラの器もいっぱいある。


 今やそれらが、砂や瓦礫という命を吹き込まれ、巨弾となって敵へ降り注いでいるのだ。


「みなさんありがとうございました! 持ち場へ戻ってください! あと屋根が崩れたところへ火壺を放り込んでください! 敵が火に追われて出てきたら矢を!」


「応!」「合点!」「承知!」「はい、閣下!」 とそれぞれてんでばらばらの応答をする兵隊さん達が、階段を駆け下りていく。


 その間にもバルガスや各塔に陣取る力自慢たちは巨弾と化した容器を空中へ放り投げていく。


 敵の屋根は関所の前のスペースを埋め尽くしているから、狙いをつける必要もない。


 次々と着弾して、屋根ごと砕けて、崩落させていく。


 城壁の各所から、穴が開いた部分目掛けて、火壺が投げ込まれると。


 屋根の内側で炎の花が咲き、激しく燃え上がり、もうもうと黒煙があがりはじめた。


 仮設の柱が焼け崩れたのか、屋根のいたるところが陥没しだす。


 しかも裏側には水をかけていなかったらしく、よく燃えている。


 焼かれて飛び出してくる敵兵に、矢が集中し次々と倒していく。



 たちまちのうちに用意していた火壺を投げ尽くしたが、その甲斐はあった。


 各所にあがった火の手に屋根は飲み込まれ、崩れていく。


 流石に替えはもうないらしく、崩れても補修も補充もされない。


「これで、どうにか」


 敵が退いてくれれば……。


 城壁のほど近くまで広がっていた突撃路の側面が、あちこちで開いた。


「来るのか!?」


 突撃路の半分は崩壊させた。火もついてるしそのうち全て焼け落ちるかもしれない。


 だが、敵陣から城壁際までの安全ルートがまだ幾つかは残ってしまっている。


「敵さん。余程特別手当をはずまれたんじゃねぇですかっ!」


 力自慢の誰かが投げた巨大な甕が、今まさに開いたところへ直撃、飛び出そうとしていた敵兵数人を圧殺するのが見えた。だが、一か所だけだ。


 ついでバルガスの放ったのも、別の個所に直撃し、敵兵を血の花に変えた。だが2か所。


 敵兵が、まだ残った屋根の下から一斉に飛び出してくる。


 我先に城壁に梯子をかけ、先端に鉤爪のついた投げ縄を城壁にひっかけ、よじ登ろうとしてくる。


 それに対する、こちらの矢の数は少ない。300対5000(4000だったとしても誤差)の差はいかんともしがたい。


 城壁にとりつこうとする敵を、片端から撃てるほどの弓はない。



 だが、オレの作戦計画第一号には、まだ小細工がある。



 圧倒的な少数で大軍を迎撃することを想定せざるを得なかったからだ。


 ありえない妄想で済んでいればよかったんだけどな。



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