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【本編完結】高い城の男は、仕事をする。  作者: マンムート


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22 『高い城』攻防戦 初日 午後

 

 午後。



 いつもの司令官室で、オレとマリーは、遅い昼食をとっていた。


 ふたりともくたくただった。


 時間が経ってしまったせいで、パンはしっけてるし、肉がたっぷり入ったスープもミルクも、すっかり冷えていた。


 それでも疲れ切った身には染みるようにうまい。


「……こうやってふたりで食事してると……『どぶろく亭』でまかないを食べてたのを思い出すわ……」


「確かに……なんだか判らない肉とか甲殻類とか入ってたけど、たっぷり働かされたあとのまかないはうまかったな……」


 料理長のアントナン(王都の一流レストランの元シェフ(自称))は、温め直してくれようとしたが、少しでも休んで欲しい、と断った。


 だってアントナンと料理班も、厨房という戦場で激戦を潜り抜けた直後だったのだもの。


 ここまで遅くなってしまったのは、配置についたままの300近い兵隊さんに、食事を配膳したり、全員の顔を見てまわったりするのが大変だったからだ。


 オレとしては、可能であるなら、戦っている兵隊さんには、あたたかい食事を食べてもらいたいかったのだ。


 各人、3食分の携行食料と水筒(酒は厳禁!)は装備してもらってるけど、戦闘配置についている間は食事くらいしか楽しみないしね。


 配膳作業の人員はセンセイと各班からクジで選ばれた27名。計28名。配膳係が奮闘している間に、オレとマリーは全部署を回った。


 調理場から離れた場所だと運んでいる間に食事が冷めてしまうから、配膳係は文句を言われかねない。そういうところへはオレ達も同行した。


 兵隊さん達を危険な目にさらしているんだから、せめて苦情くらい引き受けないと。というつもりだった。


 どこへ行ってもオレ達は冷やかされた。口笛をふかれたりもした。


 昨夜、マリーとアレしたりコレしたりしてたこともバレていた。



「お貴族様には新婚旅行っていうのがあるらしいが、スゴイ新婚旅行もあったもんだ」とか。


「こんな新婚旅行に連れてっちゃ、閣下は即座に彼女に逃げられちまいますよ!」 とか。



 2人そろって凄い恥ずかしかった。


 だけど、オレとマリーを見る兵隊さんたちの目は、あたたかかった。


 普通、司令官だけがいい目を見ている、と指弾されるところなのに。陰口を言われている雰囲気でもない。


 マリーの言っていた通り、親戚のほうっておけない甥っ子と、その甥っ子が長年思いを寄せていてやっと結婚できた若奥さん、といった感じの扱いだった。



「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」


 マリーは手を合わせて、カラになった食器に礼をした。


 こういうとこ見ると、彼女は自分の実家を零細とか弱小とか言うけど、育ちがいいよな。


 ぴん、と背筋とか伸びてるし……いいな。


「え、顔になんかついてる? 食べカスとかじゃないよね?」


 指でくちびるをぬぐう仕草はかわいくて。


 でも、いつ戦闘が再開されるか判らない時に、きれいで惚れ惚れした、とか言うのが場違いすぎて。


 咄嗟に、


「え、あー、その、ありがとう。戦闘中」


「え、なにが?」


「矢が足りなくなりそうなところへ、いい頃合いで補充してくれてたみたいだからさ。あと、兵隊さんがひっくり返したあの壺を、さっさと掃除してくれたり……みんな手際の良さに感心してたじゃないか」


 マリーは、この関所における唯一の非戦闘員だ。正式な役職は、現地採用の臨時法律顧問。


 他にも大工班、細工物班、厨房班など戦闘配置についていない人たちはいるが、彼らもまた戦闘力の維持や、これからの戦闘への備えのために働いている。


「ああいうのはすぐ掃除しとかないと汚れが広がるから。それに、あたし弓撃てないし、刀や槍もふるえないし、石の弾とかも大して運べないから。あれくらいはやんないと」


 その奮闘の証で、マリーの服はかなり汚れていたし、髪は乱れて額にはりついていた。


 だけど、やっぱりきれいだ。


 おかしいなぁ。オレってマリーのこと昔は地味だと思ってたのに。今や、かわいいかきれいにしか見えない。


「だからっ! そんなに見ないでよ……やっぱり汚れてるよね。顔洗う暇とかなかったから……」


「ちがうよっ。マリーは凄いなと思って……オレなんて……戦いが始まったら、見てるだけに近かった……」


 しかも吐いちゃったし。


「吐いたりしちゃった?」


「ど、どうしてそれを!?」


 バルガスか!? ひどいじゃないか。好きな女にはみっともない自分は隠したい。


「判るよ。長い付き合いだもの。本来あんたって、争いとかに向いてないもの。そうなりそうだと逃げたり、争うくらいなら流されちゃう性質(タチ)でしょ」


「う……」


 ですよね。マリーはオレの情けないところを、とっくに知ってる。


 今更かっこつけても遅すぎるよな……。


「だけど戻ってからは、ちゃんと見てたでしょ。そういう人だもの。一度は逃げても何の因果か戻ってきちゃったら、二度と逃げられない人」


「……次からは、最初から逃げないようにするよ」 


 あのパーティで、アホボンボンにご指名されてしまった時、ちゃんと断っていれば。


 二度とああいうことはしない……ようにしたいなぁ。


「あたしのしてたことなんて大したことじゃないわ。『どぶろく亭』と同じ。あのお客さんそろそろ席立ちそう。とか、食事終わりそう、とか、追加の注文したそう、とか。そういうのって判るものでしょ?」


 マリーは『どぶろく亭』のおかみさんに気に入られてたもんな。気が利くって。


「若親分。損害報告ですぜ!」


 ノックもなしにバルガスが入って来た。


「損害は?」


「死んだ奴は誰も。けが人は……強いて言えば、第3班のケントが、切れた弓のつるを張り替える時に、新しいつるで指をきっちまったことと、クソに矢をつけようとした時、矢を足に落として、ぶすっと刺さっちまって転げまわったことと、水を飲もうとして立ち上がった瞬間、慌てすぎてひっくりかえって壁に頭を打ってコブをこさえて、ついでにクソ壺をひっくりかえしたこと、くらいですぜ」


「あ! あたしが片付けた部屋の人か」


「ええと……指切ったのと、足に矢を刺したのと、コブつくったの……つまり3人?」


 ケントは赤い髪の大男で、見た目の割にはからきし弱くて(なんせオレと本気で駆け比べをしても、弓矢の腕を競っても負けるのだ……僅差だけど)、日頃からよくやらかすから、ありそうな話だ。


 軽傷3人なら、すごくうまくいったと言うべきだよな……。


「ケントひとりでさ」


「え?」


 マリーが感心したように、


「あの人が、悪運をひとりで吸いとってくれたみたい」


「がはは。違ぇねぇ! 初日の不幸はあの粗忽モノが全部引き受けてくれたってぇわけだ! 勲章もんだな!」


 そうか。ひとりも死んでいないのか。


 良かった。


「……誰も死んで欲しくない」


『高い城』へは、望みもしないお仕事で来ただけだったはずなのに。


 こんな気持ちになるなんて。


 今ではひとりひとりの顔を思い浮かべられる。


「うん……なんか……わかるけど……でも」


「相手もバカばっかりじゃぁありませんからねぇ。そううまくは」


「だよな……」



 初日の午前の段階で、戦死者はいない。


 突撃して来た敵には弓兵すらいなかった。突撃だけで落とせると考えてたんだろう。


 だから城壁の背後で構えたオレ達には、何も飛んで来なかった。


 城壁の内側から出なければ、白兵戦も発生しない。


 だが、この戦闘で予想外に痛い目を見た敵が、同じ手で攻め寄せ続けてくれるとは思えない。


「敵の陣の方から、木を切る音が絶え間なく聞こえてくるそうで。木こりのハンスの言うことにゃ、間違いなく、太めの木を切ってる音だそうですぜ。細工してる音も混じっているとか」


「……盾か」


「そんなところですぜ」


 進軍速度と荷駄のなさからして、敵は重厚な金属製の盾を所持していない。


 だとすれば、盾をいちから作るしかない。


「対策は出来てるでしょ。作戦計画第一号に書いてあったもの。『相手の盾を処理する手法』」


「もう読んだの?」


「目次だの索引だのが詳しーくついてたから、必要そうなところを斜め読みして大雑把にはね」


「細かすぎて、かえって読みにくいと感じたんですがねぇ……」


「う」


 オレって凡庸なのに細かすぎるんだよな……。


「あ、若親分。もうひとつ報告がありますぜ。ほっぽっとかれて死にかけの敵さんを3人ばかり連れ込んで、治療してやった代わりに尋問してやりましたぜ」


「何か判った?」


「御推測通り、全員ちいさな傭兵団に属してやしたぜ。『バラのつぼみ』『青い壺』『小鹿物語』奴らを除いて全滅しちまったようで、戻ってももう居場所がねぇから、このまま降伏しちまいたいそうなんですが……どうします?」


「後送する余裕はないから、とりあえず牢屋に。治療は続けるようにね」


「合点でさ。奴らの話じゃ、今回の攻撃に参加したのは、同じようなちいさな傭兵団ばかりだったと」


 第二皇子直属の精鋭は丸ごと残っているのか。


 それをいつ投入してくるかだな……。

 


 ノックの音がした。


 この関所で、ノックを一応してくる人間は滅多にいない。



「センセイ、入ってくれ」


「ほっほっほ。閣下。ひとつ御提案が」

 

「昨日センセイがこさえた策はつかえなくなっちまったぜ。若親分の打った手がはまりすぎたからな」


 あれな。オレとマリーを敵軍に引き渡すふりをして、相手をはめるヤツ。


 っていうか、普通考えれば、司令官とその彼女を餌に使う策を、平気で言うヒトってあぶないよね。


 でも……それを受け入れてたってことは、オレは、この人を信頼してるんだよな……。


 センセイは、茶飲み話でもするような口調で、


「新しい策ですぞ。前提条件として、明日も奴らが苦戦する必要がありますがの。そこは閣下の事前準備のおかげでかなえられるでしょうから、問題ありませんな」


 楽しそうだ。かなり悪辣なんだろうな……、。


 こんな人だから、敵も多かったに違いない。だからこういうトコに放り込まれちゃうんだよ。


「うまくいけば……かなり数を減らせるやもしれませんぞ。しかも相手を殺さずに」


「そんなうまい手があんのかよ」


 センセイは悪い笑顔を浮かべた。


「世の中で、たいていの人間が一番失いたくないものはなにか? 金と命ですな。それを攻めますぞ」



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