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02 花嫁さんは真性のアレでした!

 それから事態はバタバタとドミノ倒しに進み。


 アンナン侯爵家とブーベ侯爵家が相手では零細男爵家が逆らえるわけもない。


 それどころか、オレの両親も兄どもも、経緯はどうあれ、お前に嫁さんが発生してよかったな、と祝いやがった!


 でも、目の奥に、ちょっとおもしろがっている色があったのをオレは気づいていたさ! ああ、気づいたとも!


 しかもだ。


「これでジュディスの嫁入り支度もしてやれる……」


 とか父さんはつぶやきやがった!


 ねぇ、父さん。オレっていくらで売られたんですか?、


 流れから判るかもだが、ジュディスはオレの妹な!



 たちまち結成された包囲網に追い詰められて、


 あっというまに、婚約即、結婚とあいなりました。


 事ここに至っては、婚約してくれそうな人が見つかってたんです。なんて言えるわけもない。



 さすがに、男爵の四男坊(平民確定)と侯爵家の令嬢(長女。というか普通こっちに婿とってつがせるんじゃね?)ではつり合いが悪すぎる、と、アンナン侯爵家からオレに、領地なしの男爵の称号を投げ与えてもらった。


 バンザイ! これでオレも貴族でいられる!


 とか、喜ぶわけないだろう、莫迦野郎! 収入がくっついていない称号もらってもな!


 まぁ、勤務先(あそこかよ、と思ったけど)まで世話してもらったんで、何も言わなかったがな。


 つーか、どうされたところでオレに発言の権利はなしだけどな!



 そんで、翌々日、貴族にしては最底辺だが、庶民としては、まぁまぁなくらいの結婚式。


 この金もアントン侯爵が出してくれたらしい。あのアホボンボンどんだけ愛され(甘やかされ)てるんだか。


 式に寝取り女とアホボンボンがやってきたのには驚いた。


 こいつらの血にはアルコールでも入っていて浮かれポンチキチンどもなのね、と確信したんだが。


 寝取り女キャロラインが、なりゆきの花嫁のジョアンナに祝福を伝えるフリをよそおって。


 その耳元でボソッと。


「ふふふ。おねえちゃん。し・あ・わ・せ・に、なって、ね♪」


 と、安っぽい悪役笑顔で囁いたのを聴いちまった時には、うわ、と思ったね。




 そんなこんなで、たちまち初夜。


 ちいさな部屋でふたりっきり、これっきり。


 相手はすっけすけのネグリジェで、普段なら見えてはいけないところもほぼ丸見えで、なんかクラクラする香水のスメルがぷんぷん。


 うれしはずかし、と行きたいところだが――


「………」


 いや、そんなうらみがましい目をされても困るんですけど!


 ただでさえ、ガッリガリにやせてて、肋骨とかくっきりで「わたし虐げられてたんです」と全身で力いっぱい主張している女に手を出すとか……。


 すごーく罪悪感あるんですけど!


 悪女とか言われてるって、ありえねー!


 そんなわけで。


 オレ、この子に同情というか不憫だなというか憐みというかで心が満ち満ちちゃって……。


 ピクリとも勃ってなかったんでつよ! マジなはなし。


 これで初夜とか無理無理無理!


 そん時、ボソッと。


「ああ……なんて不幸な私……なぜ……貴方あの会場にいたのよ……何もかも滅茶苦茶だわ……」


 と地を這うような声で言われてぞっとしたね。


 なぜにオレが責められなくてはならんのだ! オレもどっちかというと被害者!


 と思ったものの。


 まぁ確かに、普段は目立たないオレなんだから、あそこで目立たなければよかったよね。とも思ったんで。


「まぁそれは……官吏採用試験に合格したんで、新しい職場の顔つなぎになるかなーと……みんな出てるんだよアレには、出た方があとあといいから」


「……」


 女はうらみがましい目で俺を睨み。


 くわっと口を広げると、噛みつきそうな勢いで。


「貴方! あのアントンとグルだったのね!」


「は?」


 あんな顔だけが優良物件とはお金払われても……いや、大金なら考えんでもないが……とりあえずつながりももちたくないんですけど! もたないようにしていたんですけど!


「わたしは、修道院に送られる途中で襲撃されて! あわやというところをイケメンのピョートル様に助けてもらうはずだったのに!」


「……」


 ええと。


「ええと……何を言ってるかよくきこえなかったんだけど」


 すごい幻聴ですよね。空耳だよね。聞き間違いだよね。


「私はっ! 修道院に送られる途中で襲撃されて! あわやというところをイケメンのピョートル様に助けてもらうはずだったのに! そういうストーリーなの! それを貴方のせいでっ!」


 聞き間違いじゃなかった!


 オレのこめかみに、汗がつーっと流れた。



 これは、ヤバい。真性だ。


 顔だけアントンは頭からっぽ、媚び媚びキャサリンはやっすい悪女でどっちもどっちでしようもないが、こいつもヤバい! 下手すりゃ一番やばい!



 ピョートル?


 そんなヤツいたっけ?


 名前からすると、帝国系だけど、確かに帝国からの留学生いたけど、名前ぜんぜんちがったよな?


 まさか、少々頭のネジがゆるんでいるこの女の、イマジナリーフレンド!?



 呆然自失を実体化したオレに向かって、わめきたてるジョアンナ。


 その勢いはダムが決壊したごとし。


 聞きたくないが、いやでも聞かされた内容は以下のごとし。



 はぁ? あの分厚い眼鏡で目立たない冴えないニコライが実は帝国の侯爵令息がお忍びで?


 それで、この頭くるぱーの気づかれてなかった能力にそいつは気づいてて。


 実は前から熱い目で見られていたが、この女は気づいていなかった。と。


 いやいや、こういう話をしてるんだから気づいてるじゃん!(突っ込むのは怖かったからしないけどね)


 さんざん家でしいたげられてきて自信をなくしていたが、ピョートルの愛に包まれて自信を取り戻し。


 実は頭くるぱーの能力に頼り切っていた腐った実家(長女を嫁に出して、頭がアレでいっぱいな次女に婿をとるあたり、まぁお察し)はたちまち落ちぶれて。


 元婚約者の方も、頭くるぱーに能力底上げされてたんで、大暴落。


 そうですか課題は全部やってあげてたんですか。へー。


 頭くるぱーを得たニコライ家はたちまち大躍進(どっちへ? あさっての方へ?)。


 侯爵夫人になった頭くるぱーは、実家と元婚約者の家にざまぁ(話の流れからして復讐のことのようだ)を下し。


 大団円! だってさー。スイゴイデスネ。


「それなのに! 貴方があんなところでうろついているから! いったいいくらもらってあの場所にいたのよ!」


「はぁ」



 あー。


 頭痛が痛い。


 押し付けられた花嫁は、頭がアレでした! の巻。


 やたらくわしい妄想でつね。


 きっと家でろくな扱いをされていなかった間に、精神を護るためにできてしまった現実逃避ワールドなんでしょうが、オレに言うなよ!


 言われたって困るじゃないか!


 それにオレだって幾らでも言いたいことならあるんだ。


「とりあえずあなたの言い分は判ったから、今度はオレの話を聞いて――」


「それともアレなの! 男爵の四男坊でその顔じゃ嫁のきてもないから、穴なら誰でもいいから欲しいとか言ったんでしょう! いやらしい! 最低だわ!」



 ……。



 もーいやだ、この女。


 頭がくるぱーの上に、こっちを最初から最大レベルで敵視!


 オレはたまたまあそこにいたって最初にちゃんと言ったよね? 就職にはマストだって。


 こいつ頭から信じてないし、それ以前に聴いてないよねオレの言葉! 


 そもそも聴こううともしてないよね!


 これはアレだ。あいつが言ってたところの『耳と心がつながっていない』というヤツだ。


 それにだ。


 弁解っていうのはさ、なんというか、こいつとはなんとかやっていかなくちゃ、関係を続けたい、または続けなくちゃって時にやるもんでしょ。


 今ので、その気も完全粉砕。


 だからさ。オレの口から、あの阿呆な最低のセリフ、正気とは思えないセリフが出たって仕方ないだろ?



「あ……今のはその言いす――」


 オレの雰囲気が変わったのを察したか、女は何かもごもごと言おうとしたが。


 それを遮って言ってやった。



「……じゃあ、白い結婚で。正直、お前さんと夫婦になるなんてムリ」


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