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【本編完結】高い城の男は、仕事をする。  作者: マンムート


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15/60

15 そんなこと起きるわけないじゃん!


 オレは、マリーが言ってくれた通り、ひと風呂浴びてから、バルガスとセンセイを呼んだ。



 マリーは、オレから聞いた話に自分の見解を加えながら、要領よく手短に話してくれた。


 もちろんマリーは服を着ていたが、あの制服姿だ。


 ばいんばいんのパッツンパッツンで、相変わらず目のやり場に困る。


 しかも、オレはあの下の姿も知ってしまったから、余計……。


 それを見て「けけけ。3人でやろうとは、若親分も趣味がいい。え、センセイも加えて4人ってことですかい! ますます趣味がいい」とか言ってたバルガスだったが。


 話が進むにつれて、徐々に目が真剣になっていく。


「……というわけ。抜けてたところはある?」


「ない。オレが話すよりも解りやすい」


 もっともらしく腕を組んで聞いていたバルガスは、


「……なるほど。若親分が学生の時分から目ぇつけてただけのこたぁあるぜ。おっぱいとケツがでかいだけの女じゃあなかったてぇわけだ」


 最初の感想がそれかよ!


 興味深げに聞いていたセンセイが口を開いた。


「ふぅむ。元奥方と帝国人の間に事前の計画があった、とも説明できますが……違う説明もできなくはありませんな。少々面妖な話ですが、似たようなのを聞いたことがありますぞ」


「似たような?」


「前世の記憶や、他の世界の記憶をもって生まれてきた人間がいる、という話を聞いたことがありましてな。小説のネタにならないか、と調べたことがあるんですなぁ」


「そんな奴らが実在したんだ」


 以前のオレなら頭くるぱーと断定したかもだが……。


 いやいや、納得するなよオレ! ありえないから!


 オレ、そういう理屈が通らない話、苦手なんだよ!


「いろいろなタイプがありまして。今の話に一番あてはまるのは、前世で読んだ物語の登場人物に生まれ変わり、その人生をなぞったり、はたまた、登場人物が辿ってしまった悪い人生を変えようとする。というタイプですな。閣下の元奥方は、なぞっていた、と解釈もできますな」


「いろいろなアイデアを、次々と考案できるのは、最初から知っていたから、とも解釈できるわけね。あの人が発明したゲームが妙に完成度が高いもの」


「でもよぉ。そいつが本当だったとしても、若親分とその女が結婚させられちまったことで、滅茶苦茶になっちまったということだろ? もう終わった話なんじゃねぇの?」


 なに3人とも、マジな顔してイカレタ話をしてんのさ!


「彼女は元の物語に戻したみたいね。2年間回り道をするはめになったけど」


「物語を変えてしまった閣下に復讐する……ほとんど狂人の理屈ですな。まぁ、仕方がないと流されてほいほい結婚した挙句、これはまずそうだと『白い結婚』へ逃げた閣下への復讐というほうがよほど説得力がありますなぁ」


 き、きつい。だが反論できない!


「まぁ、そういう証明しようがないことはおいておきましょう。どちらにしろ、やっぱりいろいろおかしいですなぁ」


「そうだよ。前世だの物語の登場人物だの――」


「だよな。だってよぉ。なんで今なんだ? 『ショーギ』だの『オセーロ』だのは去年のうちからはやってたぜ。つまり去年から帝国野郎とずっぷし繋がってたってわけじゃあねぇですか」


「オレと正式に別れるまで、関係をおおっぴらに出来なかったってことか?」


「ほっほっほ。閣下を罪に陥れさえすれば、罪人である閣下との離婚は、たやすい。『白い結婚』での離婚を待つ必要もないですぞ」


「確かに……」


「それにもうひとつ気になる。罪に陥れるにしても、なんでこんなにいい加減な事前調査しかしなかったのかな?」


「そいつぁは、考えるまでもねぇぜ姉御。あのデブ閣下が阿呆ってことだろ」


「デブは調べたりしないし、その能力もないのよ。調べたのは、デブじゃなくてニコライかその配下でしょ。で彼には、マグネシア司令の元奥方の事業を後援する能力がある。資金面だけじゃなくて、他の参入を防ぐ工作までやってる。そんな人が、あの程度の嫌疑で、マグネシア司令を拘束できると判断したかしら?」


「若親分をみくびってたんじゃね?」


「まぁ……オレは、顔も容姿も能力も、平凡を絵に描いたような人間だからな……」


 凡人バンザイ! 嘗められた方が安全!


「……拘束させる気がなかった。又は、拘束に至らなくても問題ない、とも考えられますぞ」


「どういうこと?」


「誰も信じはせんが、私は小説家だったんでね。一番ありえない理由を考えてみたんですわ。例えば、この時期にここへ、室長殿とその随員を送り込むことこそが目的だったのでは、とね」


「あ、ありえない! いくらなんでもそんな――」


 まさか!


 元奥方かまたはニコライは、マリーの存在を知ってオレの隠していた愛人と断定。


 マリーをここへ送り込んで滅茶苦茶にするのが目的なのか!?


 オレを恨むならまだ仕方ないが、マリーにまでかよ!


「センセイ、いくらなんでもそりゃ無理筋ってぇもんだ」


「待って。もしそうだとしたら、どういうことが考えられると思う?」


「ライト嬢。あの三人の爵位は判りますかな?」


「あいつらは、みんな三男坊とかで、爵位は――」


 マリーは、一瞬黙り。


「あのメガネ、あれでも伯爵だった。テッサリ伯。領地も何にもついてないけど箔付けに実家からもらってた。女をモノにする時には、爵位をちらつかせるのがいいってほざいてた!」


「ほう。なるほどなるほど」


「センセイよぉ。ひとりで納得すんなよ」


「この関所にいる貴族出身者のうち、デブ閣下を含めて査察官4名は無爵。司令官閣下は男爵。つまり……あのメガネの御仁が一番爵位が高い」


「そうすると……どうなるんだ?」


「確か、司令官閣下の後任人事は、まだ?」


「ああ。来てない。引継ぎをしなくてはいけないのに……あと3日のうちに来て欲しいんだが」


「それは王都が混乱してるからでしょ。元王太子が派手にやらかしたから」


「あれか」


「婚約破棄騒動ですな」


「けっ。莫迦じゃね? えらいさんの癖にナニ考えてんだか」


 うん。オレもそう思う。


 婚約破棄自体は、ありうるけど、人前で宣言するのはバカだ。


 だがなぁ。許されちまったのも見てるからなぁ……。


「王家も、まさかあそこまで元王太子殿下がバカだとは思っていなかったみたい」


「ん? もう『元』王太子殿下なのか?」


「あたしが王都を出た時には、王弟殿下が王太子になる線でまとまりそうだった」


「珍しく早い対処だな……ああ、そういうことか」


 元婚約者の侯爵令嬢にもかなり上の(4位だったかな?)王位継承権があるし、元婚約者の新しい相手が帝国の第二皇子。継承権を盾に介入される恐れがある。


 だから、早く動いたってわけか。


「だけど、王弟殿下が王太子になることには反対勢力も多くてね。特に王妃様とそのご実家が。だから、もう少しゴタゴタしそう」


 王妃の一粒種だものな。


「つまりですな。王都は軽い麻痺状態。くわえて毎年この時期、帝国が我が国との国境付近で恒例の大演習をしていましたな。つまり軍の主力は国境から動けない。我が国の心臓部は無防備というわけですな」


「王都にも兵隊くらいいるだろ?」


「2千よ。今、国内でそれ以上の軍勢を密かに動員できる貴族はいないでしょ。考えすぎ、あ、でも……」


 オレにもセンセイの一番ありえないという考えが見えてきた。


「……センセイ、いくらなんでもそれはないだろ」


「ほっほっほ。帝国には我が国の王位継承権を持っている令嬢がいる。その御令嬢は帝国第二皇子と結婚済み。そして、王都には2千しか兵がいない。流石に我が国内で大兵力を集めるのは難しいでしょうが、この混乱の中、王都から離れた場所でならある程度の兵は集められるでしょうな……」


「そして……この関所には、若親分よりも爵位が高ぇ奴がいるってぇわけですか。しかも後任の司令官は未だに姿も見せていねぇ。におうな」


「そういえば……室長との面会のあと、去り際、メガネとニコライが立ち話してた……妄想に近い可能性だけど備えてはおくべきね。あたしは法律面の検討する」


「ゴロツキどものことは任せてくだせぇ。なぁに大丈夫でさぁ、若親分のためなら死ねる奴らが何人かいますぜ。そいつらに声をかけておくとしますか」


「では、私は、司令官閣下に都合のいい、ちょっとしたシナリオでも書きますかな」


「ちょっと待って! そんなこと起きないから! 考える必要ないから!」


 ありえないよ!


 オレは仕事くらいしか出来ない凡人で、そういう騒ぎの焦点なんかにはならない存在なの!


「大丈夫。万が一の場合。マグネシア司令官が仕事に専念できるようにしておくだけだから」


「そうそう。姉御の言う通り。備えあれば嬉しいなって言いますぜ」


「ほっほっほ。何事もなければ、単なる知的遊戯ですぞ」



 なんでみんな楽しそうなの?


 そんなこと起きるわけないじゃん! 起きないと言ってよ誰か!



 願いはむなしかった。


 夜明けとともに凶報がもたらされたのだ。


『帝国軍7000。王都を目指して進軍中』と。



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― 新着の感想 ―
小説家の頭の回転?想像?すごい
国内限定のお話と思い込んでたから予想外でした。 どうなるのか楽しみ。
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