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【本編完結】高い城の男は、仕事をする。  作者: マンムート


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01 オレは正気だ!

「……じゃあ、白い結婚で。正直、お前さんと夫婦になるなんてムリ」


 いやはや、自分がこんな非常識なセリフをいう羽目になるとは思わなかった。


 しかもスケスケネグリジェでベッドで待っていた花嫁さん相手にだよ。


 人生なにが起きるかわからない、とよく言うけど、ただでさえパッとしない人生にこんな出来事がなぁ。


 余りにアレすぎてほとんど他人事だ。



 ほんとうに他人事ならよかったんだがなっ!



 どこで人生狂った。


  ※     ※     ※


 見渡す限りキラキラした空間だった。


 染み一つないテーブルクロスがかかったテーブルは押し寄せてくる波のように並び。


 そこに並ぶのは、貧乏下級貴族学園生が日頃胃袋を満たしている『どぶろく亭』では、どんなに金積んでも絶対に出てこない豪華な料理の数々。


 礼儀正しさの塊みたいなウェイトレスやウェイター。


 そこでさんざめく宮廷人達もまた、服装は上から下まで礼儀に適い、豪華絢爛な料理をガツガツとほおばるようなこともない。


 常に腹をすかしている貧乏学生とは住む世界がちがうのだ。


 そんな中、オレは『場違い』を絵にかいたような存在だった。



 ここに出席する前に、理髪屋に駆けこんで髪をさっぱりさせて。


 ついでに、飽きるほどに鏡を覗いて出来る限り身だしなみを整え、アイロンを借りて王立ヴォーフォート学園の濃紺ブレザーの制服にかけてきたのだけど、何年も着てしみついたくたびれ感は隠しようもない。


 あれだけ確認を重ねた衿のタイもびしっと決まっていないような気がして、何度も手が伸びてしまう。


 どこからどう見ても貧乏くさくて、場慣れしていない。


 初々しいと見て欲しいが、単に未熟と思われてるだろう。



 もっとも、『場違い』はオレだけじゃなかった。


 同じような制服を着た同輩たちが、あちらこちらをうろちょろしている。


 なぜ、こんな場違いどもがうろついているかと言えば、官吏採用試験に合格したひよっこたちだからだ。


 毎年、王都にある3つの学園揃って卒業式が終わってから一週間後のこの時期。


 宰相閣下主催のこのパーティ。王宮勤めの官吏たちなら誰でも参加できるのだ。


 その中には、官吏採用試験に合格したばかりの者も含まれる。


 そんな有難い参加資格のおかげで、男爵家の四男風情でも出席できたってわけだ。


 試験に合格したばかりのオレ達ひよっこにとって、将来の職場の上司たちに顔つなぎが出来るこのパーティへの出席はマスト。


 その日の昼、官吏採用試験を平凡な成績で突破して胸をなでおろしたオレにとっても、マストというわけだったのだ。


 ここで顔をつないでおけば、少なくとも、合格したのに忘れ去られて無職ということはないらしい。


 成績優秀者だとか、いい家のボンボンだとかなら話しかければ、にこやかに応対してもらえてる。

 その両方を兼ね備えていれば、向こうから話しかけてくれる。期待の新人ってわけだ。


 だが、オレみたいなとるにたらないのにとっては、この世界は甘くない。


 こっちから積極的に行って顔を売るしかないのさ。



 男爵家の四男坊というだけでも吹けば飛ぶような属性なのに、


 さらにどうやっても寝癖が取れないごわごわした黒髪に垂れ目で低い鼻の地味顔、平凡な体格。


 それに加えて全てに渡って凡庸な成績。


 学園を卒業したてで試験に受かりたて、海のものとも山のモノともつかぬオレは、隅っこのほうで、顔つなぎに励んでうろちょろしてた。


 身の程ってものを知っているので。実務やってる下級官吏の先輩方の間をね。


 豪華絢爛たる御馳走なんて食べてる暇はない。


 出来るのは、周囲の観察くらいのものだ。


 ああ、あいつの言ってた通り、来てる女子は媚び媚びのばっかりだな。


 妙に薄い生地で仕立てて肌の露出がちょっと多めのドレスを着てるか、制服だが妙にスカートが短いか。


 でもそれもひとつの処世術か、仕方なくやってんのもいるんだろうなー。



 そしたら、



「ブーベ侯爵令嬢ジョアンナ! お前との婚約を破棄する!」



 と会場の中央の方から場違いな声が響き渡ったんですよ。


 あちゃー、誰かやらかした。


 そっちの方を見ると、顔だけはいい男が、30年遅れくらいのダサイドレスを身にまとった女を罵倒していた。


 アンナン侯爵令息。アントンだ。ダサドレス女はその婚約者なんだろう。


 アントンの腰には、こういう舞台設定にふさわしい、かわいいけど、いかにも頭が悪そうで、それに加えて身持ちも性格も悪そうな女がぴったりとくっついている。


 こいつがキャロライン。


 遺憾ながらふたりとも知ってたさ! 


 同学年のあいだでは、こいつらのバカっぷりは有名だったから!



「なぜでしょうか? 理由をお聞かせください」


 ダサドレスの声は冷静だった。


 ああこうなるだろう、と判っていたみたいな感じだ。


「はっ。理由だと! それは貴様が一番良く知っているだろうが、会場のみなさんにも聞いて貰おうじゃないか! お前がどんなに見下げ果てた女かを知らしめるためになっ!」


 腕をパッと広げて、世界という舞台ではボクチャンが主役ってか?


 格好いいつもりなんでしょうけど、莫迦丸出しですね。


「貴様は、この可憐で清楚で愛らしいキャロラインをさんざんいじめていたではないか! しかもキャロラインは貴様の実の妹! 血をわけた妹をいたぶるとは! なんという鬼畜!」


 事実ならねー。


 30年遅れくらいのダサドレスを着せられてるっていじめじゃないの?


 しかも顔色が悪くて栄養が足りてなさそうなダサドレスに対して、キャロラインは、艶々のピカピカ。


 いじめを糾弾するなら相手が違うのでは?


「そんな卑劣邪悪陋劣な女を、ボクのお嫁さんにするわけにはいかん! そして、ボクは野のユリのように純白で清楚なキャロラインと婚約する!」


「あ゛」


 という声がそう遠くないところからしたんでそっちを見ると、いいお召し物を着た中年貴族様が顎をパッカーンと開いている。


 あ。察し。


 顔だけアントンの関係者。おそらくその父親、アンナン侯爵閣下であろう。


 でも、顎をぱっかーんとさせるより育て方を間違えた自分をうらむべきでしょう。



 アンナン侯爵令息アントン。


 クラスが同じになったことはないが、なんせ同学年の首席(一応)だ。


 といっても、成績は先生方にアレしてコレして爆上げしてもらってるらしいけどな。


 在学中から、かわいいだけのキャロラインにいれあげていたのもちょー有名。



 などとオレが解説っぽい口調で考えていた間にも話はずんずんと進んでいく。


 アホボンボンは、婚約者であるジョアンナの悪行三昧を高らかに歌う。


 ジョアンナがキャロラインを噴水に突き落とした。


 階段から突き落とした、落とし穴を掘って落とした(アグレッシブだなおい)。


 教科書を破った。ドレスを破った。ごろつきを雇って処女まで破ろうとした。


 ドレスをとりあげた。母の形見をとりあげた(亡くなってたっけ?)


 取り巻きを使って、キャロラインをいびりにいびった(取り巻きいたか? いつも独りだったような気がするのだが)。


 全裸にしてよさこい踊りを踊らせようとした(ないない)。


 ジョアンナがジョアンナがジョアンナがジョアンナが。


 あれもジョアンナ、これもジョアンナ、ぜーんぶジョアンナ。


 世界の悪いことはみんなジョアンナさんが悪いのだ、という勢い。


 いやいや。


 ないわー。ありえないわー。


 まぁいいけど。



 これ余興でも十分つまらない演目なんだが……。


「我が息子よ……ここでやるのかここで……あうあう……」


 とかアンナン侯爵(多分)が呆然と呟いていたから、まぁちがうだろう。やれやれ。


 おそらく、話はもう両家の間でついていて、こっそり婚約相手をチェンジするつもりだったんだろうが、おバカさんがやらかしたというわけか。


 多分、あのアバズレもといキャロラインにたきつけられたんだろうなぁ。



 非常識な奴らだとは思ったけど、まぁ、アレだ。他人事だ。


 あとは関係者がしかるべく処理してくれるだろう。



 アンナン侯爵家とブーベ侯爵家は、同格。


 婚約者をチェンジしても、多分、そんなにいろいろ影響はないだろう。


 少なくとも、界隈的には。


 でも、あちらでこめかみをビクンビクンさせてるのは、宰相閣下だよね。


 これだけ派手にやっては、影響でちゃうかも。




 とか、高みの見物を決め込んでいた頃が俺にもありました。



 いきなり。


 アホボンボンが、オレに向かって、ずびし、と指を向けて言い放ったんですよ。


「おい、ヒース! 貴様は確か婚約者がいなかったな! このアバズレと婚約しろ!」


 ………。


「はい?」


 確かにオレはマグネシア男爵家のヒースです。ヒース・マグネシア。


 まぁ、確かにオレは婚約していなかった。


 男爵の四男坊で、しかも何もかも平凡じゃあ、縁談なんか来るわきゃない。


 おいしい部分が皆無ですからなぁ。生まれた時から出涸らしとはオレのことさ!


 しかも、実家も四男の縁談を世話しようという気もなく。


 オレも、そんな事情がよーくわかっていたので、独身でもしょーがねーな。残すような血でもないし、と思ってのんびり構えてた(あきめていたともいう)わけで。


 ま。そんなのはオレばかりではなくて、下級貴族で子だくさんの末っ子でテケトーに扱われて平凡なら、よくあること。



 で、なんでオレ?


 よりによって、このパーティが終わって家に帰ったら、相手が見つかったと親に報告しようと思っていたオレ?



 周りを見れば、オレと似たような境遇の奴らは、流れ弾を避けるためか、さりげなく後ろを向いていたり、わざとらしく歓談とかしているじゃありませんか。


 しまった! ぼぉっと立っていて目立ってしまった!


 しかもだ、このアントンっていうボンボンとオレは、ちょーっとだけ面識があった。


 学園祭の時、手伝いに駆り出されて、ヤツのアシストをさせられたのだ。


 奴はなんにもしなかったけどな!


 もちろんそのあとは、接触しないように努力しましたよ。めんどうだもの。


 でも、向こうはなぜかたまたま覚えていたらしい。


 節穴だらけの記憶力を局所的に発動させるとか、迷惑なんですけど!


「貴様は、婚約者がいるオレのことをうらやましがっていただろう! だからやる! うれしかろううれしかろう!」


 言いましたよ。確かに。


 社交辞令でなっ!


 いやー、こちとらペーペー貴族の四男坊。結婚できるか怪しい身分。

 それにひきかえアントン様には、ちゃーんと婚約者がいらっしゃる。スゴイデスネ!


 あんなくらい女なんか婚約者で最悪だ、くれてやるぞ。


 ハハ。御冗談を。


 みたいな会話はしたさ!



 口はわざわいのもと!






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