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78話 盗賊団アンテを見定める



 翌日。ザバザバ、ジャー。そんな水の音を立てながら、クロルは朝食の皿洗いをしていた。すると、白い鳥がパタパタとやってくる。


「お、ブロンか」


 慣れた手つきで手紙を受け取ると、やっぱり鳥は飛んでいってしまう。ばいばい、と軽く手を振って手紙と向き合った。


「えーっと、『デュールから伝言。リンゴ作戦成功っぽい。もっと近づく、以上。姉ちゃん元気?』か。相変わらず、ライトすぎてイマイチわかんねぇな」


 状況は伝わらないのに、シスコン感だけがビシバシと伝わる。とは言え、書いてあることは事実なのだろう。サンドイッチ作戦の片方は、かなり接近している様子。


「もっと近づく、か。そうだよなぁ……俺らも、この距離じゃダメだよな」


 あっちもこっちも、どうするべきか。悩める美形男は手紙をテーブルにおいて、皿洗いに戻った。


◇◇◇


 同日、エタンスは、グランドの隠れ家に来ていた。


「お呼びですか、グランド様」

「エタンス、とうとう見つけたぞ!」


 大きく喜んでいるグランドの姿を見て、エタンスはピンと来た。


「もしかして、アンテ王女のグッズを見つけたのですか? このエタンスが、すぐに盗って参ります!」

「違う、そうではない! 全く、お前は働き者だし盗みの腕は良いが、察しの悪さが欠点だぞ?」

「働き者で腕がいい……!? お褒めに預かり光栄です」

「……そういうところだ」

「はぁ、痛み入ります?」


 この察しの悪さのおかげで、レヴェイユの本積み重ね事件はギリギリセーフだったわけだが。


「まぁ、良い。秋の園遊会の駒を決めてきたのだ」

「駒? 王城文官の眼鏡男ですか? お決めになられたんですね。ご指示の通り、一応、先週は彼を監視しておりましたが」


 盗賊団アンテに依頼した教会でのスリシスター案件。あのときエタンスが不在にしていたのは、グランドから別の指示があったからだ。

 その指示というのが、文官デュールを監視することだった。


「こちらが報告書です。デュール・デュエルは、古い家に家族と同居しており、毎朝そこから出勤しておりました」

「ふふん、庭に林檎の木があるボロ家であろう?」

「林檎の木……? 何らかの木はありましたが。王都で林檎とは珍しいですね」

「珍しいからこそ、良い。信頼に足る」


 グランドは満足そうに、ワインボトルを掲げて、一口ごくり。


「実はな、私も訪問したのだ」

「は!? グランド様が!? あのボロ家に!?」


 エタンスは衝撃を受けた。グランドは潔癖気味なところがあり、あのボロ家に足を踏み入れるとは思えなかったのだ。


 この隠れ家だって、掃除が行き届いている。もちろん、住むには小さすぎるし、キッチンや風呂などの生活設備はない。しかし、二階建てで屋根裏部屋まであるというのに、どこを見てもいつもキレイだ。


 というのも、グランドはとても掃除が上手かった。ここには盗品も置いてある関係上、隠れ家の掃除は彼一人で行っているのだから驚きだ。

 忙しいのにマメな人間。マメな人間だからお金儲けが得意。掃除の上手さすら利用して、グランド商会の主力商品に『グランドお掃除グッズ』を用意する周到さ。さすが天下無敵の商売人。


「園遊会での駒が決まったとなると……盗賊団アンテは用済みでしょうか?」

「いや、一介の王城文官が国宝を盗み出すなど不可能であろう。使いどころは他にある。まだ計画は確定していないが、プロの泥棒も必要になるはずだ。……となると、盗賊団アンテの方はどうであったか?」


 デュール・デュエルの話から、今度は盗賊団アンテの話へ。エタンスはまた報告書を取り出した。


「はい。『騎士』の役柄からは少し外れていましたが、クロルの演技力はなかなかです。演技力というか、あの顔ですからね。子爵令嬢からは疑われるどころか、お誘いまでされてました」

「貴族令嬢からお誘いとな!?」


 エタンスは先日の偽騎士の一件を思い出し、また眼鏡がくもった。

 しかし、そこで伯爵令嬢レヴェイユのウレシハズカシな赤い顔を思い出して、少し溜飲が下がる。壊れた眼鏡は残念だったが、ちょっといい気味だ。新しい眼鏡をふきふき。


「そこまでの男か。どれくらいの美形か見てみたいものだな」


 グランドは「ふむ」と腕組みをする。


「首領クロルの実力は本物であろう。しかし、どうにも引っ掛かる。盗賊団アンテと名乗って、ソワールと入れ替わるように凄腕の泥棒が現れるなど、偶然とは思えん。あと、名前が気に食わん」

「……平たく言うと、名前(アンテ)がダメなんですね」

「ふん、気に食わん」


 グランドは、これまで盗賊団アンテに発注した窃盗案件をズラリと並べ始めた。その数は六件。ルビーのネックレスやプラチナリング、パールのブローチも含まれる。


 エタンスとしては、すぐにでも盗賊団アンテをスカウトして引き抜いてもらいたかった。これまで六年間、ソワールに出し抜かれてきた盗賊団サブリエとしては、一時代を築くチャンスでもある。


 でも、エタンスは口を開かない。決めるのはグランドだからだ。


「……エタンス、女は近寄ってきていないか?」

「はい、警戒しております。ご安心ください」

「そうか。行方知れずの女泥棒、か……」


 グランドは何を考えているのか、ぽつりとそれだけ言って、黙り込んでしまった。赤い瞳を右に左に動かして、報告書をじっと見る。

 そうすること、五分。グランドは「決めたぞ」と言った。


「エタンス。彼らに会う」

「グランド様が直々にお会いすると!?」

「馬鹿者! そんなわけないであろう」


 グランドは、エタンス以外の盗賊団メンバーには絶対に会わない。主要メンバーでさえ、首領の正体を知らずに過ごしている。

 しかし、グランドは主要メンバーの顔や性格を知っている。エタンスを通さずに、実際に見ているからだ。


「盗賊団アンテを、サブリエの住処『水の音色』に住まわせる。あくまで客として、自然な形で。多少のリスクはあるが、信頼に足る人物かどうか、直接見定めたい」

「住処に……なるほど。しかし……」


 エタンスはそこで、レヴェイユのことを思い出した。盗賊団アンテと共に生活しているのだから、彼女も住処に来るのだろうか。彼女は女だ。女を近付けて良いものだろうか。

 しかし、あんなぽやぽやの天然女がソワールだとは思えなかった。


「グランド様。例の伯爵令嬢はどうなさいますか?」

「幸運の招待状か。女であるが、致し方ない」

「では、盗賊団アンテと共に移動させます」

「うむ、頼んだぞ」


 グランドは悪~い顔で、ほくそ笑む。片手に添えられたワインボトルが、それに拍車をかける。


 というわけで、この翌日。クロルたちの苔色アジトは、寝泊まりできない状態になるのだった。


 





次話、クロルのターンに戻ります。

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マシュマロ

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