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76話 ポニーテールは凶器、閑話な後日談

閑話テイストですが、本編ストーリーに関わります。



 パールのブローチをソワられていることに気付いたスリシスターは、怒髪衝天。ぶっちぶちに怒っていた。


「あの男装女! いつの間にあたしのブローチをぉおお! 絶対許さん! 神よ、天罰をぉおお!」


 逆にあふれる信仰心。神もお困りだろう。


 怒りながらも祈りを捧げること、翌日。祈るよりも早いところ金を用立てないと、孤児院は明日にでも潰れてしまうかもしれないと思い直した。


 シスターは悪い心を痛めて、次なるターゲットを物色するために出掛ける。聖なる鼻で金のにおいを嗅ぎ分けるのだ。

 すると、なにやら隣の孤児院が騒がしい。くんくん、金の匂いがするぞ。


 シスターは、聖職者モードをオンにして孤児院を訪れた。


「どうかなさいましたか? 孤児院長」

「おぉ、シスター殿! これを見てください!」

「こ、これは……げ、ゴミ? ……いや、お金……?」


 こぼれ落ちるほどの札束が、孤児院のポストに入っていた。雑な感じでグチャグチャに押し込まれていたから、正直ゴミかと思った。


「す、すごい雑! そして、すごい額!」

「お優しい方がいるものですなぁ」

「あら、何か手紙が入っておりますわ。拝見しても?」

「ええ」


 その手紙には『約束を守ります。ソワってごめんなさい』とだけ書かれていた。

 真夜中に訪れた、怪しい三人組の顔が脳裏を過る。美の神とニッコリ少年と男装女。並べてみると、とても濃い。


「あいつら……」


 泥棒も悪いやつらばかりじゃないのかな、なんて悪いシスターは思ったりするのだった。




 ……と、まぁ、こんな美談が美談で終わるわけもない。どんな出来事も、美しい話をひっくり返して裏にしてみれば、必ず悲惨な真実が見えてくるものだ。


 それは、多額の寄付がされていた翌日のことだった。すなわち、橋キスの翌日だ。


「クロル~。エタンスからもらったお金を騎士団本部に持っていくんだけど、どこにしまったの?」

「二階の金庫に入れた。よろしくな、トリズ」

「え? 入ってなかったよ?」

「え」


 イヤな予感がした。すぐさまドタドタと二階にあがると、金庫は空っぽ。五秒間の現場検証の結果、鍵はこじ開けられたことが判明。こんな厳重な金庫を、騎士二人の目をかいくぐって開けられる人物なんているだろうか。あ、いたわ。


 事件発覚からわずか六秒で犯人特定。クロルは迷わない足で、隣の部屋のドアをバンっと開ける。レヴェイユはベッドの上で洗濯物をたたんでいた。


「おい、馬鹿女。金はどうした?」


 ゴロツキレベルに口が悪いが、彼は正義の騎士だ。たぶん。


「どうしたの、クロル?」

「金はどこだ!?」

「お金? 子爵家の当主様からもらったお金かしら? だいじょぶだいじょぶ、ちゃんと孤児院に寄付しておいたから。たまには働くソワール~♪」


 今じゃない! 働いてほしいのはそこじゃない! クロルとトリズは真っ青。トリズなんて紫髪だから、全身が寒色系じゃないか。そういう生物みたいだ。


「ききききふ?」

「ふふっ、まぁね!」


 ドヤるソワール。


「……ここまでバカだとは」

「ソワちゃん、やっちゃったね……」


 エタンスからもらった報酬。あれは盗賊団アンテの金ではない。騎士団すなわち国の金だ。それを無許可で使用したとなれば立派な横領。


 思い出して頂きたい。第五騎士団の鉄の掟(cf.24話)を。証拠をでっちあげたり、任務に無関係な犯罪に加担したり、潜入中に稼いだお金を横領したならば、問答無用で即処刑! まさかの横領達成。はい、極刑。


「レヴェイユ、今すぐ回収してこい!」

「ぇえ? なんで?」

「かくかくしかじかで、お前は即処刑だからだ。あーもー、ホントお前って、なんでそんなに死と隣り合わせなんだよ……」


 死亡フラグなんて、一つも立たせていないのに。


「あらまあ、大変。かくかくしかじかなの~? 知らなかったぁ、びっくり! ふふっ、どうしましょ?」

「もっと焦ろや」


 このままじゃニッコリ極刑どころか、おっとり極刑だ。


「じゃあ、今日の夜、こっそりソワってくるね~」

「思考回路が犯罪者すぎる。罪に罪を重ねるなバカ。正面きって回収してこい」

「はぁい。でも、返してくれなかったら、そのときはそのときよね~。あ、処刑のときの髪型は、やっぱりポニーテールが主流? 首出しルック的な?」

「もっと生にしがみつけよ。ダメだこいつ。とりあえず孤児院に行くぞ」

「はぁい」


 そうして三人は孤児院へ。こっそり覗いてみると、もう孤児院はお祭り騒ぎ。寄付フェスティバル状態だった。


 病気や怪我をしていた子は医者にかかることができたようだし、久しぶりにちゃんとした食事を頬張る子供たちの笑顔が、本当にスマイルだった。


 クロルとトリズは思った。あ、これ無理だわ、って。


「よぉし、私に任せて! ズカズカ入ってお金の取り立てしてくるから~」

「取り立てとか言うなよ……。子供たちを絶望に落とす気か? 本当に空気読んで、まじで」

「読む? ふふっ、空気は『吸う』でしょ? クロルったら、うふふ!」

「……うん、お前はもういい。空気になって黙ってろ。トリズ、どうする?」 

「ごめん、正直悩ましい」


 なんてこった、トリズの眉間にシワが寄っているぞ! 語尾がぁ~、全く伸びてない~。これは相当やばい状況だ。あのうさんくさい微笑みが見たくなる日が来るとは。


「いつもの微笑みカムバック。なぁ、元々は悪党子爵のあくどい金だし、カドラン伯爵に掛け合って何とかなんねぇかな? この前、こいつが服をソワったときは、もみ消しただろ?」

「あれは少額だったから経費で落として、クソ親父の範疇はんちゅうでもみ消せたんだよ。でも、今回は超えてる。あくどい金でもお金はお金。反故にするには、もっと上の侯爵家まで話を通す必要が出てきそう。正直、イチバチだと思うよ」

「ソワールの横領を公表したら……やぶへびになりかねないか」 


 当然ながら、ソワールの司法取引に反対を唱える騎士も多い。ここぞとばかりに極刑をオススメしてくるだろう。


「待てよ。ソワールだから問題なんだよな。心底イヤだけど、俺がやったことにするとか? それなら減給くらいで済むだろ」

「ノンノン。普通の騎士がそんなことするわけないじゃん。一つで良かったものが、仲良く二つ並ぶだけだよ」


 クロルは想像して、首のところがスーッとした。


「はぁ……まじか」


 しゃがみ込んで頭を抱える。頭を抱えているのは、実際のところ、八方塞がりというわけではないからだ。解決策なら一つだけある。あるにはあるが、有り得ない。

 エタンスから受け取った『ピーー』ルドの札束たちが脳裏を過る。悪いことって儲かるんだよね。……うん、額が、ちょっと、多すぎるんですけど。


 チラリと横を見ると、打ち首のときに邪魔にならないようにと、髪をポニーテールに結び始める悪女がいた。前向きだ。赤い髪に白いリボンが良く映える。

 

 こんなとき、ポニーテールは凶器だ。その首筋に、かすかに残る赤い痕。橋のふもと、路地裏のひとときが思い起こされる。これが真っ二つになることを想像したら、決めざるを得なかった。


 クロルは決めた……覚悟を!


「……俺が……金を、出す」


 トリズは息をのんでいた。そして、震える声で称えてくれる。


「クロル……っ! 男気! 超リスペクト~!」

「このまま銀行にいく。もみ消すぞ」

「超かっこいい~! 超尊敬~!」

「やばい、心が折れそう。もうすでに撤回したくて仕方ない。トリズ、もっと俺を称えて」

「さすが第五のエース! ソワールに愛された唯一の男! 顔も心も超イケメン~!」

「その調子で銀行まで頼む」

「任せて。骨は拾うよ、イケメン」


 真面目に働いて貯めた金が、こんな悪女のせいで……。でも、間接的に孤児院に寄付したと思えば……うん、クロルは泣きそうだった。


 レヴェイユは事の重大さがわからない様子で、「りすぺくと~」「大好き~」「かっこいい~」とトリズのマネをしていた。クロルはそりゃあもう腹が立ったので、ポニーテールを引っ張って銀行に向かうことにした。


 そして、出来上がったのが、ポニーテールを引っ張りながら怖い顔でズンズン進む美形、ぼんやりニコニコしながら引っ張られる赤い髪の娘、それを「かっこいい!」「イケメン~!」と称える少年、という強烈な絵面。目立っちゃいけない三人が、ちょっと目立ってしまったのだった。


 これはきっと、いつしか情報屋ブロンの耳に入ることだろう。高い買い物になるのか、お買い得だったのか。結果オーライ……かな?



 


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マシュマロ

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