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『けん者』  作者: レオナルド今井
水と花の都の疾風姫
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作戦失敗

 ──数十分後。

 ジョージさん一人に宿の確保を任せた俺たちは、ランチ一食一〇〇シルバー以上する高級レストランへとやってきていた。

 決して、マキを取られたことでソフィアの脳が破壊されたわけではなく、そしてその結果行動決定に支障が出たわけでもない。

 俺はそんなことを、窓から水の王城の方角を眺めながら考える。

「──どう、何か見えそう?」

 部下に他国の王城敷地内へのデバガメをさせている公爵令嬢ことソフィアはそんなことを聞いてくる。

 霧の国で我々を良く思わない物が知れば、スターグリーク家も堕ちたものだと非難轟々だろう。

 さて、『望遠』スキルを使用した窃視の末、分かったことと言えば。

「マキのヤツがオクタゴン大臣とボードゲームで遊んでいるみたいだ。……あ、大臣のヤツ負けたぞ」

 あのボードゲームは俺も遊んだことがあるが、九割がた運ゲーなので負けた大臣を嘲笑うのは可哀そうだ。

「マキはなにを考えてるんだろうね。……あ、ソフィアが頼んだパフェが流れてきたよ」

「わぁ! おいしそ~!」

 流水を使った無人配膳サービスによって流れてきた、桶に乗せられたパフェが俺たちがいるテーブルへと移された。

 人に大事な仕事を任せきりにしやがって。

 コイツらにはあとで辱めを受けてもらうとして、ひとまずスキルを使った窃視を続けよう。

 そんなことを考えながらぼんやりしかけていると、ボードゲームを終えた途端オクタゴン大臣がマキに接近し、なにやら耳打ちしだす。

 魔力消費が激しいが故にシャットアウトしていた『傍受』スキルをアクティブにして、秘密の会話に聞き耳を立ててみると。

『──マキア。例の件の返答をもらえるものと受け止めてよいのかね?』

 例の件とはなにか。

 脳内に入った濃縮還元一〇〇パーセントな怪しいワードに疑問を抱いていると。

『うふふ、嫌ですわ。この度はお忍びで来ているのですよ』

 ……うふふ、か。

 これはイジり甲斐がありそうだと考えていると、対面に座るソフィアがテーブルを叩く

「どうしたのよ、そんなに意地の悪い顔をして! まさか私たちの愛すべきマキに何かあったの⁉」

 ソフィアのそんな怒りの声を聞いて我に返る。

 俺たちの愛すべきマキは、たった今まで仲間に甘味と天秤にかけられた末に負けていたんだがな。

「……どうせまたしょうもない悪だくみでもしていたに違いないさ。放っておきなよ」

 失礼なことを言う女神だが、あながち間違いでもないので反論しづらい。

『失敬。私としたことが、意図を読み違えた。……そういうことであれば、今日は解放しよう。護衛の者を数名つけられるが、どうだろうか』

『お気持ちだけ頂戴するのです。アタシ、脚力には自身があるのですよ』

 おっと、どうやら何事もなくマキを解放してくれるらしい。

 そうなると、いつも通り滞在中の街の冒険者ギルドで合流するとしよう。




 ──その日の夜。

 夕食と入浴を終えて一息ついた俺たちは、オクタゴン大臣と接触したマキから情報を聞き出していた。

 とは言っても、ジョージさんを除くメンバーは一部始終を把握しているが。

「……で、今話してくれた『例の件』ってどいういうことなの? あの大臣に何か言われたなら私を頼りなさい。守ってあげるから」

 そうだった。

 ソフィアが口にした通り、オクタゴン大臣が言っていた『例の件』とやらが良くわからないのだ。

「大したことじゃないのです。水の国の国家元首は花の国で生まれ育った貴族令嬢を妃とする風習があるんです。今代の国家元首に相当するオクタゴン大臣へも花の国から貴族の令嬢を差し向けるのですが」

 そこまで口にしたマキだが、何やら言いにくそうである。

「おい、ソフィア。自白しやすくなる魔法か何かがあれば使ってみろ」

「あるわけないでしょ⁉ てか、アンタ本当に最低よね」

 さすがに仲間に尋問まがいのことはしたくないのか、俺がソフィアに怒られてしまった。

 そんなものかと諦めようとしたところ、やり取りを見守っていた『月夜見』が呟く。

「今は途絶えたけどあるにはあるよ」

「ホント!?」

 目の色を変えて飛びつくソフィア。そうだ、コイツはこういう奴だった。

 まだ見ぬ魔法に知的欲求を刺激されたこのメスガキはもう使い物にならない。捨てておこう。

「魔法バカは置いておくとして。……マキは、あの大臣の嫁さんになる気なのか?」

「ないですね。というか、昔お会いした時にオクタゴン大臣の方からやんわりと断られました」

「貞操観念がしっかりした奴なのか、単に好みじゃなかったのか」

 オクタゴン大臣が巨乳美人好きな可能性、あるかもしれん。

 そんなことを考えているのが伝わったのか、マキに足を踏まれる。

「……今失礼なことを考えましたね?」

 なんでこんな時だけ察しがいいんだよ。

「まあ、いいです。とにかく、あれほど紳士的な大臣が異性を選り好みするようなことはしないと思いますけどね。根っからの善人ってことはないでしょうけどね」

「だろうな。しかし、異性に興味がないのも、魔物だというアリサ王女の発言が本当ならば納得がいくな」

 王女の言う占星術とやらで得た、オクタゴン大臣は妖魔教団幹部であるという情報も真実味を帯びてくる。

 『なぜこれほど回りくどい方法を』と疑問に思うものの、表向きは平和主義者らしい大臣とは一度対話で解決できないか試みても良いだろう。うまいこと腹の内を探ってみたいところだ。

 というわけで、今夜オクタゴン大臣の住まう邸宅に潜入してみないかとマキに相談してみる。すると……

「現在、水の国と霧の国は一触即発な状態です。暗殺を企てるような真似は悪手なのです」

 まあ、そうだよな。

 しばらくの間は遠くから観察して大臣の動向を探るしかないか。

 マキの正論を受けて現実に戻された俺だったが、そんな俺を気遣ったのかマキはまるでいたずらを企む子供のような笑みを浮かべて言葉を続ける。

「……ですが、どうしてもというのであれば、アタシに作戦があります。乗ってみますか?」

「詳しく」

 我に返ったらしいソフィアが興味津々な様子だが、いったん無視してマキに耳打ちしてもらい作戦を頭に入れた。




 ──翌日の夜。

 俺はマキに連れられて、オクタゴン大臣が住まう邸宅へとやってきていた。

 花の都からお忍びで訪れた令嬢とそのガードという体で、使用人の案内に従い応接間へと通されたところだ。

 内装は朱色と金を基調とした中華風の装飾がなされており、部屋の中央には円卓が置かれている。そして、部屋の奥には先ほど一方的に視認したオクタゴン大臣が、貫禄あるたたずまいで腰かけていた。

「本日は、急な来訪であったにもかかわらずお会いいただきありがとうございます。こちらはアタシのガードを務める、冒険者のケンジローなのです」

 まずは、マキに倣って一礼。

「のっぴきならぬ事情のもと訪れたのだろう。マキアが幼い頃から顔を知っているので、今更堅苦しい礼節は不要だ。自然体で構わない」

 こちらの緊張の色を感じ取ったのか、オクタゴン大臣は気を遣ってくれた。

 ひとまず、マキから言い渡された作戦通り、大臣の懐に入ることには成功しただけよしとするか。

 何か話題になればよいと思い屋内の調度品を話題にあげてみる。

「華やかな装飾だと感じるが、これらはオクタゴン大臣のこだわりがあっての品なのだろうか」

「あぁ。君の言う通り、私のこだわりだ。なに、為政者として長年気を張り続けてきた私でさえ、故郷を想う心があるのだ」

 天井を見上げる大臣の目は、もっと遠い場所を見ているようだ。

 そういえば、妖魔教団の本部はずっと東の国だったっけ。だということは、日出国のことも知っているのではないだろうか。

「俺も日出国の出身だから、共感できる部分も多い」

「日出国は現在鎖国状態だと聞く。君も寂しい思いをしているだろう。日出国とは雰囲気が異なるが、近隣の国の雰囲気に触れてくつろいでほしい」

「感謝する」

 やはり、コイツは妖魔教団のもので間違いないだろう。

 しかし、ストレートに『アンタ魔物だろ』と言っても、よくて笑い者にされるだけだ。いったいどうしたものか。

「せっかくなので、オクタゴン大臣に政治の考え方を教えてほしいのです」

 俺も大臣も口数が少ないタイプなのを察したらしいマキが会話の風呂敷を広げる。こうしたところはさすがだと思う。

「私の政治は日出国に倣ったものが多い。貴族政治の淘汰と民主化が最たる例だが、経済政策の基盤もあの国に倣っている」

「国民からの評判も良かったのです。好景気の恩恵も国民にまで行き渡っているようでした」

「ふむ。他国からの来賓からそのような言葉が聞けると安心する」

 なんというか、ここまでのやり取りでは悪人のようには思えないのだが。アリサ王女ほどの人物が抹殺を命じるほどなのか?

「……御託はこの辺りでいいだろうか。ケンジロー殿、マキア。君達は霧の国の近いとして、私を抹殺しに来たのだろう?」

 なんだと⁉

 いつから知っていた。いや、なぜ知られているのか。

 俺一人なら動揺を隠せたが、隣で口元を抑えて慄くマキをみて誤魔化せないと判断する。

 妖魔教団幹部クラスとの戦闘など、現在の軽装な俺たち二人では勝ち目がない。なんとしてでも避けなければ。

「王女の命令はそうだ。しかし、これは俺個人の考えだが、オクタゴン大臣がなぜ抹殺を命じられたのか理解に苦しむんだ」

 俺の言葉に、大臣は疑ってかかるのではなく興味部下層に声を漏らす。

 続けろ、と告げられたものと捉えて俺自身の考えを話し続ける。

「この際はっきり言うが、アンタを妖魔教団幹部だという話も耳にしている。が、それを踏まえても、アンタのやったことは人類にとってプラスの側面の方が多い」

 マキとアイコンタクトを取りながら、どこまで情報を渡すかをアドリブで判断する。

「ふむ。あくまで君達は私に対する害意はない、と。両国の関係性が危うい情勢のなか、正直に打ち明けた君達に敬意を表することとしよう。故に、今週中に出国するのであれば、君達の仲間であるスターグリーク卿まで含め、身の安全を保障する」

【作者のコメント】

たこ焼きの美味しい作り方が知りたい今日この頃。

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