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『けん者』  作者: レオナルド今井
水と花の都の疾風姫
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せせらぎ作戦

 ──同じ頃、せせらぎの街にて。

「……ねえ、マキ。いくら急ぎとはいえ、さすがにこの格好は恥ずかしいわ」

 魔法事件の捜査をおおかた終えた私のもとへ、ケンジローたちがエンシェントドラゴンと交戦しているとの報告が入ったのがついさきほどのこと。

 その後、私と『月夜見』の加勢を求めてマキが駆けつけてきたのだが。

「そんなこと言ってられないのです。あの轟音、ケンジローとジョージさんが無事ならいいのですが……」

 私と『月夜見』を両脇に抱えて全力疾走するマキは、息を乱すことなくそう呟く。そんな呟きに、私は反論する言葉を無くす。

 ついさっき聞こえた轟音はエンシェントドラゴンの攻撃によるものだろう。

 ジョージもケンジローも無事だろうか。

 生きてさえいてくれればいい。そうすれば全部治せる。

 あの二人がどこにいるかさえ分かればここからでも治療魔法をかけられるのだが、街を覆う壁が邪魔で見えない。

「もうすぐ街の外なのです。ソフィア、魔法の準備を」

「もうできているわ。『月夜見』は?」

「僕も準備万端だよ! さて、僕たちをほったらかしにして美味しいところを搔っ攫おうとした薄情者達に格の違いを見せつけに行こう!」

 不安で仕方ない私とマキを鼓舞するかのように『月夜見』が高らかに叫ぶと、私たちを運ぶマキがタイミングよく街の門を抜ける。

 一心不乱に辺りを見渡し、ジョージが借りたらしい竜車の残骸が血痕が付いた状態で転がっているのが見えた。

「我らに、祝福を!」

「天恵をもたらさん!」

 生きているかどうかの確認は後からでいい。生きていたら治療可能なので、それでわかる。

 『月夜見』と同時に魔法を発動し、彼女からは魔力自動回復の支援効果をもらう。そして、私は見えた竜車の近くを覆うように治療の範囲魔法を放つ。

 二人で同時に魔法を使ったせいか、エンシェントドラゴンに気づかれてしまった。

『……◎△$♪×¥●&%#』

 こちらに気づいたエンシェントドラゴンは、いきなり敵対してくるということはなく、テレパシーのように咆哮を轟かせる。

 威嚇のつもりだろうか。だが、大切な従者の命がかかっている以上、私に引くという選択肢はない。

 時間を忘れるほどの睨み合いが続くが、やがてエンシェントドラゴンの方から視線を外す。

 代わりに、大破した竜車の残骸の方へ再び関心を向けだした。

 それほどまでにケンジローはエンシェントドラゴンの怒りを買ったのだろうか。買ったんだろうなぁ、彼のことだし。

 魔物の中でも指折りの知性をもつエンシェントドラゴンだが、竜車の残骸を狙って鉤爪を振り下ろそうとしているアイツからは何を考えているのか読み取れそうにない。

「させないわ! 守護神の御業のように!」

 竜車を覆うように魔法のバリアを展開する。

 あの竜車の近くにはジョージとケンジローがいて、体格が全然違う相手に臆せず威嚇し続けている竜車用の地竜がいる。守る理由はこれで十分。

 今にも竜車周辺にいる生き物を叩き殺しそうな竜爪攻撃は、地面に触れる前にバリアに阻まれ虚空を切る。

 割り込まれたのが気に食わないらしいエンシェントドラゴンは、こちらへ振り向いたかと思うと口から水属性の魔力を溜め始める。

 バリアを準備するか、魔力攻撃の準備を妨害するために攻撃魔法を使うか。

 どちらの魔法も効果が小さい即効型でさえ間に合うか怪しいと思いながら、私は身を守る方を選択する。

 魔法が完成しバリアを展開した直後、口に溜めた魔力の光が一層強くなったかと思うと、隣でこそこそと何かをし出した『月夜見』が突然何かを唱えた。

「させないよ! 神罰を下す!」

 次の瞬間、エンシェントドラゴンの頭上に雷は降り注ぐ。

 その衝撃で口の中の魔力が制御を失い爆発し、エンシェントドラゴンは耐えかねて仰け反った。

「奴は水の龍だったドラゴンなんだ。かつては日出国の次代神龍候補だったんだけど、守護竜争いに負けて以来怒り狂った。幾度となく水害を齎す災厄の象徴となった奴も、やがては勇者に撃退され姿をくらましたんだ。今になってすっかり見た目も変った奴と相対するなんてね」

 苦痛にうめくエンシェントドラゴンを見て、何かを思い出したように手を叩く『月夜見』がそう口にする。

「知っているのですか、あのエンシェントドラゴンのことを」

「うん。まあ、遠い昔の記憶だから朧気なんだけどね。ちなみに弱点は雷。だからこそ、嵐と水害を齎す厄龍だけど、雷だけは絶対に降らせないんだ」

 長生きしているだけあり、記憶を取り戻した『月夜見』は頼りになる。なるほど、弱点は雷か。

 背が低いので普段は妹のようにかわいがっている『月夜見』だが、今は『神なんだなぁ』と少し距離を感じてしまう。

 そんな私の気持ちにまでは気づいていないだろう『月夜見』は、私たちを置いて数歩前へ出る。

 あまり前に出過ぎるとバリアで守れなくなってしまうと伝えようとする前に、笑顔を浮かべてこちらに振り向く。

「さて、忙しくなるよ。奴に痛手を負わせた僕は、きっとしつこく狙われるだろうからね」

「あ、ちょっと!?」

 私の制止を聞き入れる前に、『月夜見』は魔法で空へ飛び出す。

 すぐに竜車まで飛んでいくと、残骸の中から魔法銃を引っ張りだす。

「まさか、あれで戦う気なのでは!? 無茶ですよ!」

「マキ、お願い。苦労をかけちゃうけど、私を運びながら走り回ってちょうだい。私たちもエンシェントドラゴンに立ち向かうわよ!」

「り、了解なのです!」

 私を抱え直したマキは猛スピードで駆けだした。




 ──数分後。

 激しい攻撃を魔法のバリアで凌ぎながら交戦し続けていると、戦況に変化が訪れた。

「見てください! あれってもしかして!」

 マキも気づいたようで、背の高い草むらの一点が光始めるのを確認する。

「魔力光……ってことは」

 壊れた竜車からエンシェントドラゴンに魔法銃で応戦する『月夜見』ではない誰か。第三勢力かと思い身構えたが、あの魔力は性質的にケンジローのものだろう。微量過ぎて本人の魔力を察知できないことにも納得がいく。

 強まる魔力光はやがて草むらからエンシェントドラゴンへ向けて光線となって放たれる。

 完璧な不意打ちが決まり、さしものエンシェントドラゴンも呻き声をあげてよろける。

 しかし、あの位置にいたということは、私たちが決め打ち気味に使った範囲魔法で支援できていないのではないだろうか。

 そんなことを考えていたためか、草むらからは答え合わせをするようにジョージさんを引きずってケンジローが這い出てきた。

 竜車の壊れ方からしてもうだめかと思っていたが、二人とも体の原型は留めているようだ。ケンジローは片足がグチャグチャだしジョージは腹部から大量出血しているが、治療魔法を使えば命は救える。

「主よ、勇敢な彼らを癒したまえ!」

 よかった、間に合ったらしい。

 起き上がったことが分かった途端狙われ出したケンジローを守るために魔法でバリアを張っておく。

 というか、なぜ彼はああも狙われるのか。もはやそういう星のもとに生まれてきたとしか思えない。

 それより、ケンジローとジョージはまだエンシェントドラゴンの弱点を知らないはずだ。

 通信魔法を使って伝達を試みる。

「──ケンジロー、聞こえる!? アイツの弱点は雷よ!」

 喋りかけてから数秒して応答があった。

『弱点は雷か、了解。それと、ヤツとは対話が可能かもしれない。例えば、そうだな。今さっきソフィアが俺たちの怪我を直してくれた直後は、『余計なことしやがって、あのクソチビファッキンメスガキがあああ』だそうだ』

「本当にそんなこと言っていたの⁉ ねえ、私本当にそんな酷いことを言われていたの⁉」

 というか、言葉遣いが悪すぎない!? アイツって本当に守護神候補だったの?

 少なくとも私はアイツと対話なんてできないと思う。

『言っていた。俺も同感だが、そんなことよりアイツの弱点は雷……というか、電気なんだな。であれば俺に考えがある』

 自信満々な時の声だ。

 魔力が少ないケンジローにできることは少ないだろうが、いったい何をするつもりだろう。

 いや、一つだけ有効な方法がある。

「奇遇ね、私も策を思い浮かんだところよ。それと、アンタはいったい何に同感なの?」

 私の聞き間違えでなければ、ケンジローも私のことをメスガキだと思っているということになるが。もしそうなら徹底的に詰めなければならない。

『特にない。ただでさえ休息が取れていないのだから、無理だけはするなよ』

 そんな声が聞こえたと思うと、壊れた竜車に向かってケンジローが駆けだす。

 マキは彼と通信中だった私へ話しかけるタイミングを待っていたらしく、不思議そうな様子で問いかける。

「ケンジローはなんて言っていましたか?」

「私たちほどの美少女を、ちんちくりんで貧相なメスガキだって言っていたわ」

「なるほどなのです。あとで一緒にぶちのめしましょう」

 マキもやる気になってくれたようで何よりだ。抵抗できないほど痛めつけてから丸一日教育してやろう。

 それはそうと、まずはエンシェントドラゴンの対処が先だ。

 ケンジローの考えとやらは私が思い浮かんだ策と同じだろう。となれば、そのための支援をしてやろう。

 とはいえ、私にできることは少ない。

 通信魔法を使っての意思疎通が容易な私が司令塔にならないと。

「ねえ、マキ。もう私の護衛は大丈夫よ。それより、危険な指示を出すから嫌なら断っていいのだけれど──」

「任されたのです! さあ、何をすればいいですか?」

 危険すぎるが故に言い淀んでいると、マキに食い気味に問われてしまう。

 何を命じられるかわかっていないのに引き受けてくれるなんて。

「なるべく急いでケンジローと合流してちょうだい。合流地点は竜車があるところ」

 エンシェントドラゴンに狙われているケンジローと合流するとなれば危険が伴う。しかし、マキはそれを嫌な顔せず頷いてくれた。

「なんだ、そんなことなのですか。お安い御用なのです」

 マキは私に笑いかけると、竜車の方へと向いて駆けだした。

 さて、次は『月夜見』に通信魔法を使うとしよう。

「……聞こえているかしら」

『なんだい? そっか、ソフィアは通信魔法を自前で習得しているんだったね。作戦なら早めに教えてくれると助かるな』

 大半の攻撃はケンジローに向いているが、魔法銃を撃とうとするたびにバリア越しに揺らされている『月夜見』が、忙しない様子で答える。

「話が早くて助かるわ。今からケンジローとマキがそっちに向かうわ。いつでもケンジローに魔法銃を渡せる準備をしておいてちょうだい」

『了解だよ。安全装置は入れておいた方がいいかな』

「解除したままで大丈夫だと思うわ。どうせケンジローのことだから、余計な手間をかけさせたらきっと怒るわ」

 頭の中で嫌味を言う彼の様子が容易に思い浮かぶ。

 すごく腹が立つので、もしそんなことを言われたらビンタしてやろう。

『わかった。ソフィアも気を付けるんだよ。人間は僕よりずっと撃たれ弱いんだからさ』

 そんな声が聞こえたと思うと、『月夜見』からの返答は途絶えた。よく見ると、マキが合流したらしく何やら身振り手振りを交えて言葉を交わしているようだ。

 さて、あとはジョージを安全な場所まで避難させて、皆に支援魔法を掛け直そう。

 自己強化魔法を掛け直し、ジョージのいる茂みへと駆けながらこの後の立ち回りを考える。

【作者のコメント】

ご読了いただき誠にありがとうございます。

実はせせらぎの街はお話を書き始める段階では構想に存在しなかった街でした。

ケンジローたちには、良く知らない街で勝手に戦闘を始めるのはやめていただきたいところ。

なるべく来月中には更新いたしますので、次回もお楽しみに!

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