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『けん者』  作者: レオナルド今井
凍らぬ氷の都編
45/99

堅氷の防衛力

 上位級の魔物を追い返した俺たちは日が暮れる頃には街に帰れた。

 街の正門を潜り抜けるとすぐに商店が広がっている。仕事終わりの一杯をひっかけてるおっさんたちや、ちょっとした祝い事のためか外食に行く家族連れをメインに日が沈んだ後も様々な人々で溢れていた。

 この通りは馬車の通行が禁止されている、日本でいうところの歩行者天国ということも賑わっている要因なのだろう。うまく活用すれば経済効果を見込めそうなので霧の都に帰ったら企画提案を試案するくらいの価値はありそうだ。

 残念ながらこの通りから冒険者ギルドへ向かうには道を逸れなければいけないのだが。この街にやってきてまだ日が浅いが、国の北方地域すべての住人が集まっているだけあって賑わい方が王都に負けず劣らずだ。

 そう思い、夕飯はこの辺の通りで済ませないかと提案してみると。

「それならお店のチョイスは私に任せてちょうだい。故郷にいたころ好きだったレストランがこっちに移転していたのをこの前見つけたのよ」

 先頭を歩くソフィアが自信ありげに言うもんだからついていくことにした。


 二時間後。

 高級レストランで一通りコースを食べ終えた俺たちは、いい頃合いだということもあって店を出ることにした。あまり長居しても店に迷惑だしな。

「ケンジローは先にお会計を済ませて外で待っててちょうだい」

 忘れ物の確認をしていると、対面に座るソフィアにそんなことを言われた。

 食費自体は屋敷の財源から出るので問題ないのだが、妙にもじもじしているのが引っかかる。見ると、マキも心なしか内股でそわそわしていみたいだし、なにか隠し事でもしているんじゃないだろうな。

 そう考えて言及したのだが。

「ケンジローというものはもっとデリカシーを身に着けた方がいいと思うのです」

 おっと、ゴミを見る目だな。

 マキのそんな言葉とともに二人から冷ややかな視線を向けられて居心地が悪くなったのでそそくさと会計を済ませに行く。

「またのお越しをお待ちしております」

 店員に見送られて店を出る。

 扉を開けるとちょうど冷たい風が吹き込んで目を庇う。風が収まったから目を開くと、目の前に人がいて。

「あああああああああああ! な、なな、なんで君がここにいるんだい⁉」

 背丈は俺より低くて中性的な声と容姿。見覚えがあるような無いような人物にいきなり叫ばれた。

 叫び声を仲間たちに聞かれたのか、店内から慌ただしく駆けてくる足音が聞こえだした。

 すると、顔を青くした目の前の人物に手を取られて。

「ちょっと手荒な真似をするけど怒らないでくれよ!」

「あ、ちょ、おまっ⁉」

 異次元の腕力で引っ張られたかと思うと、腕を掴まれたまま近くの建物の屋上へと連れてこられた。

「き、君にお願いがあるんだ! 頼む、誰にも言えないんだ‼」

 手を両手で握られて懇願されるが、まずはコイツの素性とどういう状況なのか説明してほしいものだ。

 って、この声って確か。

「あああああああっ! 思い出したぞ! お前あの時のうんこマンじゃねえか‼ 今更何しに来たんだ魔物風情が!」

「う、うんこマン⁉ き、きき、君は魔物のスターであるところのこの僕にいったいなんて失礼な呼び名を付けてくれたんだ!」

 言いながら、懇願するように握られていた手を思いっきり潰されそうになった。

「いてててて! それが人にものを頼む態度かよ!」

 うんこマンの手を振り払うと、地上へ降りれそうな場所を探して。

「ま、待って! 本当に君にしか頼めないことなんだ‼」

 そんなことを言われても興味もそそられなければコイツを助ける義理もない。立ち去ろうとすると、今度は大胆にも抱き着かれた。

「おいこら放せうんこマン。闇夜に紛れてあられもない姿にしてやるぞ」

 うんこマンとセクハラのダブルパンチには流石のうんこマンも離れて己の肩を抱いて怯えている。

 こんなに怯えられるとは思えなかったので少しショックである。

「き、君……本当に最低だよ」

 どうやら本気で好感度が下がったらしい。

 しかしこれで厄介ごとに巻き込まれずに済みそうだ。

「また出直すよ。……次僕にセクハラしたら容赦なく反撃するからな」

 と、生意気なことを言われた。

 頼む側の立場とは思えない物言いにイラっと来てしまったのは仕方ないだろう。

 俺は柄にもなく手をワキワキさせて。

「お前の被服が弾けるまで、三……二……」

「ちくしょう覚えてろよー‼」

 魔物のスターはそんな小物じみた捨て台詞を残して飛び去っていった。

 相手が見えなくなるまで見届けてから深いため息をつく。

「はぁ……。アイツはいったいなんだったんだ」

 なんかドッと疲れた。

 はやくソフィアたちと合流して城に帰ろう。

 そう思って屋根の縁から下を見下ろして。

「……降りれん」

 あの野郎次あったら絶対いてこます。




 ──一週間後。

 とある事情により城へ居座ることにした俺たちは、日帰りで終わるような簡単な討伐依頼を受けながら北盗組の補給部隊を潰す毎日を過ごしていた。

 そんなある日の夜こと。

『襲撃警報! 襲撃警報! 魔物の軍勢が城下町へ向けて進軍中! 数は推定七千、妖魔教団とみられます!』

 夕飯を済ませてゆっくりしたい頃合いに城下町にサイレンが鳴り響いた。

 ソフィアに修理してもらった愛用の魔法銃を磨いていたところなので、いつもの執事服に最近ソフィアに作ってもらった防具を身に纏う。

 軽い分防御力は低いが執事服のまま戦闘に出るよりずっとマシなのでここ数日は討伐依頼のたびにお世話になっている。

 ちょうどその頃ソフィアたちの女子部屋になってる隣室から慌ただしい物音が聞こえてきたあたり防衛に加勢する方針で間違いないらしい。

 ドンドンと扉をノックされる前に廊下へ出てしまおう。そう考えて扉を開けると、何か硬質な物に扉がぶつかった。

「いたっ! いきなりなにすんのよ!」

 扉越しに勝気な少女の声で怒鳴られた。

 どうやらちょうど部屋の前まで来ていたソフィアが扉の開閉に巻き込まれてしまったらしい。

「滑稽だな。……ってすまんすまん! 俺が悪かったから執拗に首を狙おうとするんじゃねえ‼」

 首を絞められるどころか爪まで立ててこようとしたソフィアを強引に引きはがす。

 どちらかだけが悪いということもないが、戦闘へ赴く前に無駄な消耗は押さえたい。

 からかいはしたがソフィアも俺に悪気があったわけじゃないのは察したようでそれ以上の攻撃はしてこないようだ。

「さあ行きますよ! この頃姑息な作戦ばかりで体が鈍ってしまうところだったのです!」

 戦場を駆けることに生き甲斐を感じているマキにはここ数日はフラストレーションが溜まっていたのだろう。就寝前ののんびりした時間を奪われたのは不快極まりないが、当家が誇るじゃじゃ馬ことマキを暴れさせるにはもってこいの機会だ。

 期待に満ちた目で俺を見るマキの肩に手を置いて俺は口を開く。

「気合が入っているようでなによりだ。そんなマキに二つ命ずる」

 黙って言葉の続きを待つマキに指示を出す。

「一つは戦場についたら思う存分暴れて来い。もう一つは、絶対に生きて帰ってこい。以上だ」

「了解なのです!」

 今にも駆けていきそうなマキに続いて街の防壁へと歩いた。


 ──街の門をくぐって外へ出ると、そこには街中の騎士や冒険者が魔物の軍勢と睨み合っていた。

 敵の前線まで数百メートルだろうか。平地なので肉眼でもしっかり見えるが、魔法は届かないだろう。

 数に関しても警報通りで、索敵スキルに映るだけで七千を超えるくらい。警報や索敵スキルに漏れがあることや敵の援軍まで考慮すれば八千の敵と戦うつもりで挑むべきだろう。対してこちらは騎士団と冒険者を合わせて二千二百人ほどだと聞いている。

 俺は隣に立つ仲間たちへと目を向けて。

「数が多いな。城に戻って荷物まとめるべきか?」

「最低! 最低なのです!」

 王都への帰宅も考慮に入れた発言をしたら、仲間のマキに怒られた。

 確かにクズ発言なのは認めるが、攻城戦の目安とされる三倍の兵力差があるのだ。このまま戦いに参加してもリスクがあるし、そのリスクに大貴族であるソフィアをつき合わせるというのはさすがによろしくない。俺が許してもお国が許さない。

 というわけで、それとなく撤退するべきかとソフィアに視線で意見を仰ぐ。

 すると、こちらの意図に気づいたソフィアは人差し指を立てて自信ありげに言った。

「旧氷国は魔法使いの国。厳しい寒さの中、魔力豊富な雪の大地を生き抜く私たちは一人ひとりが粒ものぞろいなの。騎士団や前衛の冒険者たちが守ってくれてる間に魔法使いたちで返り討ちにできるはずよ」

 当然の知識のようにそんなことを言うソフィアに訝しげな目を向ける俺だったが。

『一番槍はウチがもらったァッ! はあああああっ‼』

 人混みの奥、魔法使いたちが後衛職が並んでいるあたりからひと際大きい声が聞こえてきたかと思うと、敵陣ど真ん中に大爆発が起きた。

「おいおいマジかよ。索敵スキルでカウントされている敵の数が一瞬にして五百近く減ったぞ」

 ドヤ顔を浮かべるソフィアに反論できないのは癪だが、この分なら悲惨な結果にはならないだろう。

 というか、だったらなおさら俺とマキはいらないのでは?

 魔法のエキスパートであるソフィアが参戦するのはわかるとして、俺たちは耐久できるわけでもないのでいるだけで足手まといとまで言える。

 正直寒いので帰って寝たいというのもあって思ったことを伝えてみると。

「アンタたちにもできることはあるじゃない。ケンジローは広範囲に攻撃敏捷デバフを撒いて、マキは駆け足でお互いの攻撃を避けながら敵の防御を下げる攻撃をするの」

 そんな風に返された。

 無理やり参加させるつもりまではないようだが、俺たちに任せたいことはあるのか。

 しかしまあ、なんと言えばいいやら。

「無茶苦茶なのです!」

 マキの言う通りである。

 だが、マキの表情に決してネガティブな様子はなく、そんな彼女にソフィアは一言問いかける。

「マキならできるでしょ?」

「楽勝なのです!」

 ソフィアの問いかけに即答するマキは、まるでベテランの職人のようなオーラを放っていた。

 これまでもこれからも敏捷ステータスだけに特化し続けると豪語するマキのことだ。先日、乱戦の中で駆けまわるのが生き甲斐だと言っていたのも真実だろう。

 さて、そんな流れて二人から視線を向けられた俺はなんと答えればいいのやら。

「で、アンタはどうするの? 出先だっていうのに事務仕事も任せきりだから帰って休んでもいいけど」

 なんだそれは。まるで俺なんぞいてもいなくてもいいとでも言っているようだし、こちらの逆張り精神をうまく釣ろうとしているみたいで腹立たしい。

 素直にソフィアの想定通りに動くのは癪だ。これでご褒美があるなら少しはやる気になるのだがな。

「そうか。なら帰らせてもらおうかな」

「わかった。『盗北団』がらみの調査もまだ続くから、今日くらい早寝しなさいよ。毎晩遅くまで書類と睨み合ってるの、気づいてるんだからね」

 おや、意外に殊勝な態度じゃないか。

 普段からこれくらい柔和な態度でいればいいのだが。

 多分だがソフィアも今回の襲撃は大して脅威に感じていないのだろう。そういうことならおとなしく城へ帰ろう。

 マキからは何か言いたげな視線を向けられたが、言い訳は明日考えるとしよう。

「夜食くらいは用意しておく。帰ったら食べるといい」

 そう言い残して、俺は来た道を引き返した。


 ──十数分後。

 城へ帰った俺は、城で最も高い位置にあるテラスから門の周辺を眺めていた。

 戦闘は今が一番激しいようで、魔法使いたちが強力な範囲魔法で魔物たちを襲いながら、聖職者たちが前線から運ばれてきた負傷者たちを癒しているのが見える。とりわけ、本陣のように人が固まっているソフィアの周辺ではひと際前線の層が厚く、放たれる魔法の規模も負傷者の回復速度も段違いだ。

 視線を少し動かすと、敵陣のど真ん中で駆けまわる小さい影が見えた。あれはマキだろう。アイツが攻撃した近くの敵は心なしか弱っているような気がする。

「はぁ、このまま寝れるかよ」

 城へ逃げてきた分際でこんなことを言うのはダサいが、そんなため息交じりの独り言にさえ突っ込みそうな同郷の騎士は城にいない。今頃前線で街を守っているはずだ。

「もう布団に入ろう」

 ソフィアたちの夜食づくりもやらないで、明日謝って代わりのお菓子でも作ればいい。

 そう頭では思っているのに体が言うことを聞かない。

 気づけば装備していた魔法銃をテラスの柵を使い固定し、いつもの伏せ撃ちの構えをとっていた。


 ……ここで逃げたら、俺の存在価値を否定されているみたいだろうが。


 脳裏を一瞬よぎっただけの一文なのに、頭から消そうとしても消えない。

 これが俺の本音なのだろうか。

 ここへ来る前は高校生で学業以外に取柄がなく、その学業さえ志が高いわけじゃない。

 日本には五歳年上の兄がいて、アイツの方がずっと賢いし真面目で誠実な人間だ。

 ここで逃げたら、日本にいた時と何も変わらない。

 いてもいなくてもいい人間。

 それでも俺くらいの年になれば否定したくても気づくものだ。いてもいなくてもいい人間が大量に集まって形作るのが社会なのだと。

 当たり前のことなのだろうと受け入れてしまうかもしれない自分が怖くて、法に抵触しない範囲での人への嫌がらせというものに生き甲斐を見出したのも今に思えば逃避の一種だろう。そんな最中、俺はこの世界へ召喚された。

 正直に言えば一瞬くらいは自分は特別な存在かもしれないと期待した。

 だけどやっぱりそんなことはなく、でも誰かの特別になりたいと思ってやれることは何でもやろうと心を入れ替えたりもした。


 ……ここで逃げたら、そんな努力も無駄になるだろうが。


「さて、やるか」

 自問自答を繰り返した末に、俺は引き金に指を置いてあとは引くだけという状態になっていた。

 帰ってきたソフィアたちには性格が歪んでいるとか誉め言葉を言われるんだろうな。

 もしかしたら、ゴリ押したらご褒美としてソフィアやマキから好感度が上がったフリくらいはしてもらえるだろうか。

 あんな手を出しづらい子供みたいな体型の二人でも、女の子にちやほやされれば流石に俺でも少しは自己肯定感が上がる。

 まあ、そんなことはないだろうがな。

 俺には何もない。だが、何もなくても何かを為すことはできるんだ。

 先日の戦いで習得したスキルを使って、敵陣奥に鎮座するひと際強そうな魔物を狙って引き金を引いた。




 ──翌日。

 冒険者ギルドは朝から賑わっていた。これには基本的にマイペースな人が多い冒険者たちを整列する職員さんも大変だ。

 さて、いったい何故こんなにも朝からギルド内が賑わっているかというと。

「昨夜の防衛戦参加者への報酬についてはこちらの列へお並びください!」

 入口付近まで伸びた列の最後尾で職員さんがしきりに声を上げている。

 そう、冒険者たちは昨夜の報酬を受け取りにきていたようだ。

 かくいう俺たちも、貴族とその従者という身分ではあるものの騎士団のように国防費から報酬を受けておらず、市民のために体を張った報酬は冒険者ギルドからもらうことになっているのだ。

 と、一緒に来ていた仲間から脇を突かれる。

 何事かと思えば、ここにきて昨日のことについて不満を言いたいのか、いかにも怒ってますとでも言いたげに頬を膨らませていた。

「ケンジローのことだから手を貸すとは思ってたけど、ホント捻くれてるわよね。一人だけ違うことしてる自分に酔いしてるの? はっきりいってダサいから素直に私たちと行動しなさい」

「そうです、そうなのです、その通りなのです。本当にケンジローのツンデレもどうにかしてほしいものなのです。別に受けませんよ?」

 昨夜帰って来た時も朝食時に食堂で居合わせた時も非難してこなかったのに、今になって悪口を言い始めた。

「やかましい。ツンデレでもウケ狙いでもない。ソフィアもマキも後で覚えてろ。今度俺が料理当番になったときには漬物のオンパレードになるからな」

 漬物の酸味が苦手な二人に地味な嫌がらせをしてやると宣言していると、いつの間にか並んでいた列が進んで今度は俺たちが受付の対応を受ける番になった。

「おはようございます、ソフィア様とそのご一行の皆様。お待ちしておりました」

 挨拶を掛けてくれた受付のお姉さんは今日も美人だとギルド内の男性冒険者たちに人気のようだ。

 冒険者という生き物は日本でいうところのフリーターみたいな気質があり、なんというか自由気ままな人間が多いのだ。ソフィアたちからは「あんな態度で私たちに接したら首が繋がってる保証はできないわ」と脅されたことがあるので真似しないが。

 そんなことを考えつつも、防衛戦に参加する際の手続きでも使う冒険証を改めて照会してもらうと。

「はい、確認ができました。ソフィア様とマキ様については報酬をご用意できるのですが……」

 受付のお姉さんは、困った様子で俺を見る。

 あ、そういえば。

「アッハハ! ケンジローは昨日参戦手続きしてないから報酬受け取れないわよね! ちょっと待って、本格的にダサすぎて笑いが止められないわ! アンタやめなさいよ!」

 ……どうしよう。公衆の面前にも関わらずソフィアの顔をグーで殴りたい。

 マキもマキでここまでくると哀れみでも抱いているのか目を合わせようとしてくれない。

「……ふっ」

「おい今笑っただろ」

「ええっ⁉、そ、そそ、そんなことはない! ……と思うのです。というかそのつもりなので……」

 笑いをこらえきれなかったマキの頬を俺は思いっきり抓った。

「ちくしょう、お前ら笑うな! 俺は道化じゃねえ! あとソフィア、次はお前だからな! 首を洗って待っていろ‼」

 ちょくしょう! この世界はやっぱろくでもねえ!

 事の次第が広まって笑い出す冒険者たちには後で報復を加えてやる。絶対にだ。

 恥ずかしさでそろそろいてもたってもいられなくなってきたと思っていたその瞬間。

 ギルドの扉が勢いよく開かれた。

「緊急! 冒険者たちに至急、支援要請を出す!」

 相手が誰かも確認する間もなくギルド内にそんな声が鳴り響いた。

 あぁ、これは霧の都でもあったパターンだ。

 しかし、今の俺にとっては向かい風。

「さあ野郎ども! 今こそ俺らの底力を示す時だ! あわよくば、俺が冒険者の最低賃金保証法案を通してやるから、お前ら冒険者の価値というものを議会の椅子にふんぞり返ってるクソ貴族どもに叩きつけてやれィッ!」

 俺がそう叫ぶと笑い者を見つけたギルド内の雰囲気は静まり返り、次の瞬間には冒険者たちが轟音の如く快哉を叫んだ!

【作者のコメント】

今までは平日夜に執筆していましたが、土曜日も使わないと間に合わない……。

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