逢魔の朝靄の激戦(後編)
「本性を現したな、下賤な魔物ども。この世に生きとし生きる生命の風上にも置けない騎士道精神の対極を行く下等で唾棄すべき者どもに正義の鉄槌を下してやろう」
急に正門を固める守衛たちへと切り込んできた妖魔教団の幹部たちに驚きを隠せない。
……隣から冷めた視線を向けるマキはいったん見なかったことにして、魔力の再充填ことリロードが終わったジェネリックレールガンを構える。
「二度目はないよ!」
今まさに引き金を引こうとした瞬間、どういうことか上空からそんな声が聞こえた。
一瞬、脳の理解を越えられたが、どう見ても『操魔』が飛んでいるようにしか映らない。
アイツ飛べるのかよ。
翼もなければ魔法を唱えた様子もないのに飛翔している。
そんな『操魔』は不敵に笑うと、いったいどこにしまっていたのかわからない弓矢を取り出して矢をつがえた。
「おいマキ、お前は飛べるか? アイツを野放しにするとマズいぞ」
「飛べるわけないでしょうが! というか、ケンジローこそ撃ち落としてくださいよ!」
そんなこと言われてもアイツら速くて狙いづらいんだよな、なんて考えていると、地上の制圧をあらかた終えたらしい『操魔』が地上戦を『旗槍』一人に任せて弓でこちらを狙い始めた。
逃げ場のない物見櫓を高高度から狙撃されるのは非常にマズい。
「なあマキ」
「いやです」
即答された。
「打開策を考えたんだが」
「いやです」
「……」
話しかけようとしたのだが、何かを察したマキに意外な抵抗をされた。
「ええい、話を聞け! お前、ソフィアから障壁魔法をかけてもらってるだろ。だったら、少しの間でいいからアイツの攻撃を受けきってくれ。攻撃後の隙を狙って撃ち抜いてやる」
「嫌です嫌ですいーやーでーすー! だって危険すぎるじゃないですか! 高火力で障壁魔法ごと撃ち抜かれたら一巻の終わりじゃないですか!」
言いながら駄々をこねるマキ。
せっかく合理的な作戦を思いついたのだから泣き止んでほしい。でないと、近くの守衛さんの視線が痛い。
「敵を前にして仲間割れかい? 実に滑稽だね。そのまま死なせてやろう!」
そんな言葉を口にした『操魔』は、こちらに複数の矢を同時に放つ。そう気づいた瞬間には、体中を無数の刺すような痛みに襲われていた。
激痛に怯む思考をすぐさま強引に切り替えて辺りを確認すると、一緒に物見櫓へ上ってきていた守衛さんやマキも被弾しているようだ。
「倒し損ねているではないか『操魔』! やはり貴様も両手剣を極めるべきだろう!」
「黙れ。……いいだろう、トドメを刺してやるさ」
『旗槍』に煽られた『操魔』が再度矢を射った。
「させるものか!」
そんな守衛さんの野太い声に視線を向けると、一斉に放たれた複数の矢が守衛さんの体のいたるところに突き刺さっていた。
仁王立ちして荒い息を吐き耐えているが、素人目で見ても放っておくと助からないだろう被弾箇所もある。
絶望的な状況にどうしていいのかわからない様子のマキの手を掴むと、落下による多少の怪我を覚悟して飛び降りた。
「逃げるぞマキ! 守衛隊長の覚悟を無駄にするな!」
「で、でもっ!」
掴んだ腕を振って抵抗を見せるマキだがその力は弱い。
「体張って場所を移すだけの猶予をくれたんだ。街から遠ざかりつつソフィアと合流するぞ」
妖魔教団幹部に注意を割きすぎてソフィアの安否が不明だが、さすがに魔物に食われているなんてことはないだろう。
「今のソフィアは魔力切れですよ! アタシにかかった魔法だって、ソフィアが残った魔力全部費やして託してくれたものです!」
「その託されたもの、さっき一瞬で割られたけどな! というかソフィアの奴また魔力使い切ったんか!」
街から遠ざかる中、マキとのやり取りで頭を悩まされる。
「状況が状況だったから仕方なかったんですよ! そんなことより、いつもの姑息で残忍な策で足止めしてください!」
「誰が姑息で残忍だよ! 『旗槍』は硬いし『操魔』は飛んでるから有効打はない! とにかく逃げるぞ!」
背後から飛んでくる矢を避けながら走り続けていると、やがて街の明かりがぼんやりとしか見えなくなっていた。
【一言コメント】
プロットから外れに外れまくって難航したので、本来一話分に収まる話を三分割するハメになった。
でも、それもここまでなので、次回から頑張ります。




