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『けん者』  作者: レオナルド今井
凍らぬ氷の都編
21/99

カネのなる木に魅せられて

 翌朝。

 宿屋の客室から出ようとしたところ、ソフィアにつかまった。

 朝っぱらから急になんなのか。

「……ねえ、話があるんだけど。昨日の翼竜を見ていてアンタは違和感とか覚えなかった?」

 おっと、これは確信めいた問いかけだな。

 曖昧な言葉とは裏腹に考えに自信のある表情を浮かべるソフィア。街が慌ただしい原因に心当たりがあるのは俺だけではなかったというわけだ。もはや隠す必要もあるまい。

「そういえば、ソフィアは昨日ギルドの職員と話したときにいなかったな」

 昨日、この街の冒険者ギルドに初めて入った際、ホール内の職員から聞いた話をそのままソフィアに伝えた。

 すると、やはりというかなんというか、予想通りだったらしく納得がいったように頷いた。

「――ということで、特徴も一致するから『旗槍』がこの辺を通ったのが原因だと踏んでいるんだ」

「困ったわね。霧の都から撤退した『旗槍』と鉢合わせるなんて。今の私たちで勝てるかしら」

 無理だろう。少なくとも、現状のままでは全滅する。

 ソフィアの自問自答に近いニュアンスな言葉を聞いて、ありえそうな可能性を模索し断念。

「……メンタルに訴えかけるか?」

「バカなこと言わないで。レベル上げと物資調達を兼ねて、何日かこの街に滞在しましょう」




 ――昼食時。

 アイテム補充のため人で賑わう商店街を歩いていると、ワンランク身分が高そうなスーツを着たチョビ髭のおっさんに声をかけられた。

「お初にお目にかかりますわ、ソフィア様とお仲間の皆様。ワシは商店街で会長をやっちょるもんですわ」

 ……なんかキャラの濃い輩がでてきたな。

 ゴマすりチョビ髭おじさん改め商店街会長さんは、ソフィアの前までくると頭を下げて彼女の手をもみ始めた。

 やめてやってほしい。ソフィアが嫌がるどころか絶望して目の光を失っているから。

「アンタも昨日の件で来たんだろう。しかし、彼女は疲れが抜けきってないみたいでな。無理させないでやってほしい」

 そう声をかけると、ハッと我に返ったように会長さんは一歩離れた。

 安堵のため息をつくソフィアを尻目に、今度はマキが一歩前へ出る。

「昨日は倒し損ねた弱い魔物が数匹街に入り込んだと聞いていたのですが、ご無事なようでなによりなのです」

 その言葉は、声色こそ普段と変わらないが、ソフィアに手出しさせないという強い意志を感じる。

 普段から姉妹のように仲がいいからだろう。ソフィアのこととなると行動力が増すし、逆もまた然り。……俺いらないのでは?

 百合の波動に目を眩ませている傍らで、会長さんはというと懐から一つの麻袋を取り出した。

 誰もが興奮するであろう特徴ある金属音から推測するに、お金の気配を強く感じ取れる。

「魔物はすぐひっ捕らえられちょるけん、心配ご無用でっせ。そないことより、商店街が無事で済んだことの感謝の気持ち、受け取ってくれはりますか?」

 会長さんはそう言いながら麻袋の口を少し開く。

 予想通り中身はお金で、しかも百シルバー金貨がびっしり詰まっていた。

「え、えぇ。ありがたく――」

 流れで手を伸ばしかけたソフィアは、しかし何を考えたんかその手をひっこめた。

 そして、代わりに神妙な面持ちで言葉を発する。

「気持ちだけで結構よ。私は貴族である以前に、庶民を守る賢者だもの。当然の義務だわ」

 外面に違わぬ清らかな発言である。

 そんなソフィアを見て、感極まった会長さんが泣き出してしまった。

「ああ、神よ! ワシはなんと心の清らかな貴族様の庇護下にあるんやろうか! 幸せや!」

 なんかよくわからないことを言い始めた会長をよそに、バツが悪そうに明後日の方向を向くソフィアに耳打ちする。

「……ソフィア、お前」

「言わないで。私だって不本意なの」

 この女、義務がどうとか関係なく、翼竜がなだれ込んだ原因が自分にあると思っている故の罪悪感を抱いているだけだろう。

「言わなきゃバレないんだ。受け取ればいいだろう、マッチポンプ貴族」

 会長さんから麻袋をひったくったソフィアに、側頭部を強打された。




 数時間後。

 昼食を済ませた俺たちは、その足で冒険者ギルドまでやってきていた。

「さあ、アンタたち! 今日も街のみんなのために頑張るわよ!」

 意気揚々と、というには些か声が乾いているソフィアに、俺たちは何も言わずついていく。

 先ほど、断り切れずにお金を押し付けられてしまったソフィアとしてはもう後がないのだろう。

 マキも察しがよくて、この街が慌ただしくしている原因について薄々感づいていたそうだ。

 それゆえに、マッチポンプでお金をもらったソフィアの、まるで出涸らしから絞り出したようなハイテンションに文句を言えないのだろう。

 一足先に依頼書が貼りだされた掲示板へとたどり着いたソフィアは、やがて一枚の貼り紙を手に取った。そして、ちょうど追いついた俺たちに貼り紙を見せつける。

「どれどれ。……メタルグリフォン二頭の討伐依頼。朝靄鉱山周辺の湖の畔でメタルグリフォンのオス二頭が縄張り争いをしている。炭鉱夫への被害が予想されるため速やかに討伐ないし撃退してほしい。報酬三百シルバー」

 ソフィアから貼り紙を奪い取ると、叩きつけるように掲示板に戻した。

「お前はバカか。メタルグリフォンって確かグリフォン種の最上位種族なんだろ。それを二頭とか自殺行為だし、ましてや報酬がこれっぽっちとか割に合わねえ」

 最上位種族の魔物はいずれも単独で街一つ滅ぼせる強力な魔物だ。

 そのうえ、もらえる報酬が日本円換算で三十万円ほどでは割に合わない。

「補足すると、メタル性質を持つ魔物は魔法と遠隔攻撃に強固な耐性を持つのでアタシ達との相性も悪いのです」

 編成相性極悪じゃねえか。

 やっぱりこんなのはダメだ。

 再度貼り紙を取ろうとするソフィアを小競り合いをしていると、今度はマキが別の貼り紙を手に取った。

「今度はなんだ。……ゴブリン・マトリクス一頭の討伐依頼。我が家の農地からそう遠くない森にゴブリンを無尽蔵に生み出す魔物が現れた。弱い魔物ではあるので一対一であれば負けることはないが、今後数が増えると思うと不安だ。ゴブリンの討伐数が多いほどギルドが別枠報酬を出すそうなので、腕の立つ冒険者諸君には張り切ってほしい。報酬百二十シルバー」

 ゴブリンは指定魔物に制定されているので、討伐すると一体あたり十シルバーの報酬が別途もらえるらしい。

 対して強くないが、やつらは衛生的によろしくないので、民間人が疫病をもらうことのないようにという思惑があると聞いたことがある。

「こっちはそこまで難しくなさそうに聞こえるが。……ゴブリン・マトリクスって強いのか?」

 マキからひったくった依頼書を持て余すように振っていると、さきほど俺がしたようにソフィアに取り上げられる。

 そして彼女は掲示板に依頼書を戻すと、ゴミを見る目を向けて口を開いた。

「……ゴブリン・マトリクスは汚染されたゴブリンの成れの果てよ。劣悪な環境に晒されたメスのゴブリンは、自らの意志と関係なく体細胞が変質し、単独で変異前の自身のクローンを生成しだすわ。それを見ようだなんて、無知って罪ね。死んだほうがいいんじゃないかしら」

「そこまで言うほどかよ」

 あまりにもあんまりな彼女の言い草に、怒りよりも驚きを禁じ得ないのだが。

 だが、口にするのを憚る内容なのは雰囲気から察した。なぜなら、普段から温厚なマキですら、罵詈雑言を浴びせてこないまでも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているからだ。

「ケンジロー。悪いことは言わないので、たまには公共の図書館に足を運ぶといいですよ」

「遠回しに無知って言ったな。まあいい。お前らがそんなに嫌がるならこの依頼はやめておこう」

 手にしていた依頼書を掲示板に戻すと、自分でも貼り出されている依頼書に目を通してみる。

 『旗槍』の影響だろうか。中級の魔物が錯乱し下級の魔物は姿を隠すようになったようで、依頼内容も危険度の高いものが多いみたいだ。

 指をさしながら文字を目で追っていると、やがて一枚の面白そうな貼り紙に目が留まった。

「金のなる木の討伐依頼。金のなる木の群れを見かけた。進行方向に私の故郷があり心配だ。……飼育したら金持ちになれるのか?」

 だとしたら、自律型農産物の野生化問題だろうか。

 わざわざ冒険者を雇うくらいだから危険な種なのだろうが、異世界とはいえ植物如きに後れを取る気はない。

「行きましょう! アタシ、俄然やる気が出てきました!」

 なんか急に張り切りだしたな。

 マキにとって、この依頼はそれほど魅力的なのだろうか。

 異世界人で魔物の知識がない俺がしゃしゃり出るより、報酬面がおいしい魔物にも詳しいであろうマキについていくべきだ。

「それはわからないけど、勝てなくはない相手なんじゃないかしら。これにするなら途中でマキの装備を見繕いましょう」

 ソフィアも乗り気なので、今日はこの依頼を受けるとしよう。

 このとき、俺は軽い気持ちで決断した。――依頼書の注意書きをよく読まず。

【一言……ではなく、感謝のコメント】

日頃からご愛顧賜りまして誠にありがとうございます。

気づいたらユニーク数が450人を超えており、連載当初の作者の予想を大きく上回ってしまいました。PV数も1000に届きそうな勢いで、読者の皆様には感謝を伝えても伝えきれません。

ほどほどのところでエタろうかと考えていたら、いつの間にか逃げ道がなくなっていたというわけですね。喜びながらプレッシャーに潰されて、まるで夏場のカエルみたいな気分です。秋なのに。

さて、突然ですが皆様にお願いをしたいことがあります。


そう! ……ブックマークと評価、それから感想をもらいたい!


クリエイターたるもの、他人に作品を評価されるというのは心が躍るものです。それがたとえ酷評を極めたものであったとしても。

なので、少しでも本作を面白いと思っていただけたのでしたら、それらの評価システムで応援していただけますと幸いです。

それともう一つ。次話も鋭意執筆中ですので、楽しみに待っていてもらいたいです。

それではまた次回もお会いしましょう。さよなら、さよなら~!

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