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『けん者』  作者: レオナルド今井
水と花の都の疾風姫
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ただいま戻ったのです!

 ──突然姿を消したマキを、俺たちは寄ってたかって詰めている。

 いや、正確には──

「マキにとって私たちはそんなに頼りなく見えるの!?」

「誤解なのです! そういうつもりじゃなくてですねっ!」

「僕たちはこの程度のことで別れてしまうような関係だったのかい?」

「そういうことでもないのですっ! ああ、あああっ! ケンジロー! ジョージさん! 助けてほしいのですっ!」

 特にマキの安否を気にしていたソフィアと『月夜見』に激詰めされていたのだ。

 助け舟を欲するマキがしきりにこちらを見るが、俺の意見は変わらない。

「俺やジョージさんも、あえて多くを言葉にしないが心配していたんだ」

「私も同意見ですな。良い薬になったでしょう」

 この場にマキを甘やかすものはいない。

 気を遣って応接間から出てくれたせせらぎ騎士ため、彼女はこの後もしばらく説教を聞き続ける他ないだろう。




 ──昼下がり。

 マキへの説教がひと段落した俺たちは、せせらぎ騎士たちに騒がしくした謝罪をして、昼食を済ませて戻ってきていた。

 街の雰囲気が以前と違う理由について、あの鉄仮面の騎士から聞けそうだからだ。

 段取り翼詰所の応接間に再び通された俺たちは、さっそく鉄仮面の騎士に問いかけてみる。すると。

「貴殿らの察する通り、この街の大半の騎士は国境付近へ出兵している。雰囲気が緊迫しているのは、少ない人員で街を守るため警戒しているからである」

 そういうことだったのか。

 平時より少ない兵力で妖魔教団の侵攻を食い止めているとなると、その肉体的・精神的負担は察して余りあるな。

 しかし、こういった話になると手が付けられなくなるのが──

「私たちに任せなさい! 妖魔教団は私たちにとっても因縁の相手だもの。必ず撃退してみせるわ」

 うちのお嬢様である。

 またいつもの流れか、と内心うなだれていると。

「いえ、アタシ一人で大丈夫なのです」

 まさかの助け舟に思わず顔を向ける。

 マキ、お前やれるのか!?

 いったいどういった風の吹き回しかと疑問に思っているのを察したのか、こちらを一瞥したマキが言葉を続ける。

「アタシの勘が正しければ、今回の黒幕はアタシの知る人物かもしれないのです。いわば、因縁の相手なのです。ですから、皆が戦っているなかアタシだけ街の中でコソコソなんてできるはずがないのですよ」

 マキのそんな言葉を聞いて、合点がいったかのように手を打つ『月夜見』が手を挙げて話に加わる。

「つまり、僕たちを置いてせせらぎの街を訪れたのは、マキ一人で決着をつけたかったからなんだね」

 ふむふむ、アツいドラマの予感だね、などと一人勝手に盛り上がる『月夜見』にマキがとびかかるのを尻目に、今後の方針について提案してみる。

「まだ相手方を手引きしているのが誰であるか不明なままだ。マキの勘などあてにならないし、ソフィアが希望する通り数日はこの街に滞在して防衛に協力するのはかまわない」

 それに家出娘同然ではあるが、マキは俺たちの仲間でもある。ここで見捨てる理由はない。

 気恥ずかしいので口にはしないが。

「それはありがたいな。こちらとしても、信頼の置ける人間ならば傭兵だろうと冒険者だろうと頼りたい状況だ。是非とも協力してくれたまえ。この街での衣食住はこちらで保証するのでな」

「決まりね! じゃあ、早速宿へいきましょう! 船旅で疲れたもの!」

 話が思うように進んで満足したらしいソフィアが我先にと応接間を出ていく。

 その様子をみて呆れていると、ジョージさんがこちらへアイコンタクトを取ろうとしているのに気づく。

(報酬面の話は私にお任せください。ケンジロー殿はどうか、お嬢様のお傍に控えておくように)

(了解した)

 不審がられないようジョージさんとは手短に意思疎通を図った俺は、マキと『月夜見』に声をかける。

「うちのお嬢が何もないところで躓かないか心底不安だから、俺はマキと『月夜見』を連れてソフィアを追いかける。せせらぎ騎士団の方で俺たちについてほしい配置があったら手紙で伝えてほしい」

 それでは失礼する、と伝えて詰め所をあとにした。




 ──その日の晩。

 宿の大浴場で身と心の疲れを洗い流した俺たちは、各々寝る準備をしていた頃合い。

 改めてマキを問い詰める気も起きなかった俺は備え付けのソファーを占領していると、街の櫓の鐘が突如鳴り響いてきた!



 ──街の外を見渡せる見張り櫓の上。

 詰め所に立ち寄った際に鉄仮面の騎士の要望を聞いてここへ来たのだったが。

「あの……アタシに出番とかありますかね、これ」

 妖魔教団の雑兵どもであろう大小様々な魔物の大群まで、目測だが二百メートル弱くらい。

 このくらいなら俺やマキは指をくわえて見ていてもソフィアが魔法で一掃してくれるだろう。

 そのことをマキに伝えると、残念そうに体育座りで膝に顔を埋めるマキ。

「ケンジローは働きなさいよ。魔法に強いのがいたり撃ち漏らしが出たらアンタが倒しなさい」

「はいはい」

 そんなことを言っているうちに、魔物の軍勢とせせらぎ騎士団の前線部隊が衝突する。

 鉄仮面の騎士の要望では、この状態から魔物の前線を少しずつ近づけるから、魔物の後衛側から魔法で一網打尽にしてほしいらしい。

「さて、ソフィア。やってやれ」

「任せなさい! それっ!」

 ソフィアが意気揚々と掛け声をあげると、魔物の軍勢の後方を魔法弾の雨が襲いかかる。

 これは勝っただろう。前線にいる連中を含めて、少なくない数の者がそう思ったことだろう。

 しかし、攻撃魔法を放ったソフィア本人の眼差しは険しい。

「……耐性がついているわ」

 そんなソフィアの呟きを肯定するように、魔法弾により立ち昇った土煙が晴れた先にはほとんどの魔物が立っていた。

 さて、どうしたものか。

 かくなる上は、反動覚悟で弾をスキルで爆弾化させて射撃する他ないかと考えていると、ついさっきまで小さくなっていたマキが見張り櫓を飛び降りて、超人的な速さで屋根を伝い駆けていく。

 ものの数秒で駆け抜けた先では、魔物の兵士に体勢を崩されて今まさにトドメを刺されそうな最前線の騎士の姿と。

「おお! 僕らの一番槍担当にふさわしい活躍だね!」

 脅威となる魔物の兵士へ目にも止まらぬ連撃を加えて退けるマキの姿があった。

 たまらず飛び退いた魔物の兵士だったが、逃がしはしない。すかさず魔物の頭部を狙って引き金を引く。

 銃口から硝煙を昇らせながら、改めて前線の状況を見ているが。

「このままだと押し負けるな」

 額から冷や汗を流しながら回復魔法の詠唱を始めるソフィアを見るに焦っているのがわかる。

 このまま回復し続けたって疲労は蓄積するし、身体構造上先に飢えるのは人間であるせせらぎ騎士団の団員たちだ。

「魔法バリアと落下耐性を付与したうえで、最前線を爆心地にした爆撃魔法を行使しろ。最前線の騎士たちと魔物たちの間に隙間ができたら、隔離するように土魔法で壁を立てるんだ」

 とにかく、不利な戦いをさせない方向にもっていく。

 そもそも、前線にいる騎士団とて今は数が少数。ならば、戦いを避けることができただけでも表彰ものだろう。

「方法は手荒だけど、やってみるわ!」

 とりあえず、ソフィアはこれでいい。

 次は、心配そうに成り行きを見守る『月夜見』の対応だ。

「あの、僕に何かできることはあるかい?」

「魔力を消費したソフィアへの魔力補給と、味方を爆撃することへの謝罪参りへの同行だ。なにせ、ソフィアは宿に帰ってもマキに責め立てられるだろうしな」

 こちらに気づいた彼女にそう伝えると、不満そうに頬を膨らませる。

 仕方ないだろう、これが適材適所というものだ。この場ではたまたま役割がなかっただけなんだ。

 大した役割がなかったのは俺も同じなので、偉そうなことは言わない。

「前線はやや混乱気味だが壁で阻んでやったことで戦況は安定したな。さすがだ」

「ケンジローは前線にいる騎士団たちに撤退勧告をしてきて。私は追い打ちを駆けようとする魔物がいたら魔法で追い返すから」

「了解した」

 少しは落ち着いた様子のソフィアにこの場を任せて、俺は『月夜見』を連れて前線へ駆けだした。




 ──宿への帰還後。

 結果だけ見れば作戦成功だったが、やっぱりというか前線にいた騎士団員の一部から猛バッシングを受けたソフィアはシャワーも入らずふて寝──正確には、ふて寝したフリをして構ってアピールをしているだけだが──するなか。

 そんな彼女を呆れた様子で眺めるのは、昨日今日と人様に心配をかけたマキだった。

「まあ、誰しも味方から爆撃されるだなんて夢にも思わなかったでしょうからね。かくいうアタシもまさか本当にやるとは、と思ったのです」

 理由が理由だけに、怒っているような態度を示しているのは表面上だけだろう。

 頬を膨らませてプリプリと怒っていますアピールをするマキは、数秒経つうちに表情を戻す。

 そして、仲間全員を見渡したかと思うと、わざとらしく咳き込むフリをして口を開く。

「ただいま戻ったのです!」

 おかえり、マキ。

 ふて寝したフリをやめたソフィアを含め、全員でマキの帰還を歓迎した。

【作者のコメント】

ここまでお付き合いいただきありがとうございます!

そして、前回以前からお付き合いいただいている読者の皆様。大変長らくお待たせしました!

リアル多忙につき約五ヶ月更新が滞りましたが、ついに更新再開です!

音沙汰なく更新が止まって申し訳ない!


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